アイ・オー・データ機器はERP(企業資源計画)やCRM(顧客関係管理)、PLM(製品ライフサイクル管理)などの社内業務アプリケーション基盤に「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を採用し、100を超えるVMware環境上の仮想マシンを、OCI上の「Oracle Cloud VMware Solution(OCVS)」に移行した。2025年8月には移行を完了する予定だ。
従来は、オンプレミス環境で社内業務アプリケーションを稼働させていたが、クラウドリフトによって、ハードウェアの運用負荷を大幅に軽減することが可能になり、今後数年間にわたるTCO(総保有コスト)は、60%もの削減が可能になると見込んでいる。
OCIの導入により、これまで制約されたリソースで行っていた業務システム設計やサーバ管理から解放され、情報システム部門では、新しい取り組みに充てる時間を生み出すことができるとともに、事業競争力の強化に貢献するシステム環境を構築していく考えだ。VMware製品のライセンスおよびサポート体制の変化へとの対応策の1つとしても注目される取り組みだ。
事業を支えるサーバ環境として限界を迎えていた
アイ・オー・データ機器は、液晶モニターやストレージ、メモリ、無線LANルータなどのPC向け周辺機器のメーカーとして知られる。
同社では、2000年以前からOracle Databaseを採用。2004年には基幹システムにx86サーバを導入する一方で、この時期を前後して部門ごとのシステム導入を推進。その結果、社内でのサーバの設置台数が大幅に増加した経緯がある。
2012年からは、VMwareの導入をきっかけに社内サーバの増加抑制に取り組み、2018年にはERPをはじめとする重要システムをデータセンター内に構築し、仮想基盤をベースにしたオンプレミス環境でのシステム運用を進めてきた。
だが、数年前から、保守期限を迎える社内のオンプレミスサーバへの対応が求められるとともに、仮想環境やOracle Databaseを含むサーバ群の管理負荷の増大、障害対応および脆弱性への対策といった点での負荷が課題となっており、その解決が迫られていた。
アイ・オー・データ機器 DX推進部副部長兼情報システム課課長の小倉隆司氏は「業務アプリケーションの大半をVMware環境上で稼働させていたが、事業を支えるサーバ環境としては限界を迎えていた。また、仮想環境には、サポート終了予定のOSやソフトウェアを用いたアプリケーションが多く、セキュリティ対策も含めた全体的な対策が必要だった。将来を見据えて、容易にリソースを拡張できる環境への移行と、運用管理におけるトータルコストの削減を目指す必要があった」と語る。
ハードウェアの異常発生時の対応や、環境のアップデート、脆弱性対策など、オンプレミス環境におけるサーバ群の管理は、情報システム部門にとって大きな負荷となっており、現状を維持するだけで精一杯だったこと、VMwareが新たなライセンス体系に移行したことによるコストの上昇が課題となっていた。
加えて、オンプレミスではリソースを拡張する際に、見積、発注、納入、設置、構築、テストといった多くの工程を踏む必要があり、必要な時に必要な分だけを、すぐに追加するわけにはいかず、リソースの拡張には柔軟性がないことも課題となっていた。
さらに、オンプレミス環境で稼働していたOracle Databaseは、ライセンスにかかるコストの関係から、仮想基盤に実装していなかったため、障害に対するリスクがあり、可用性が低いことも課題だった。その一方で、大手SIerが提示したオンプレミス環境に刷新した際の見積もりが、従来環境の数倍の価格になっていたことも、クラウド移行を決断させる要因となった。
アイ・オー・データ機器が選定で重視したこと
小倉氏は「オンプレミス環境を維持する形では、課題の解決が難しく、導入コストおよび運用コストの面でも現実的ではないと診断し、クラウドサービスを中心に新たな環境の検討を開始した」という。クラウドサービスの選定において重視したのが、以下の条件だ。
-VMwareによる仮想基盤のシステム運用管理ノウハウを活かせること -アプリケーションに対する変更を最小限とし、移行コストを抑制すること -ランニングコストの抑制が可能なこと」、「システム管理業務の統合を図れること
また、小倉氏は「情報システム課の現状の体制では、VMware以外の環境を新たに学習しなおす工数やコストが無視できない状態にあった」とも語る。
同社では、コストの優位性や「Oracle Base Database Service」との親和性、仮想マシンとデータベースを統合した管理が可能である点などのメリットを捉え、当初から「Oracle Cloud VMware Solution(OCVS)」をメインに検討を進めてきたという背景がある。
VMwareのスキル転用がそのまま可能であるだけでなく、コアあたり、メモリあたり、ストレージあたりの価格が安く、エントリー価格が最安であったこと、スペックの選択肢が広いこと、3台のオンプレミスサーバで稼働していたOracle Databaseを、OCI上のOracle Base Database Serviceへの移行でライセンスコストを抑えられるといったメリットがある。そして、仮想マシンとOracle Databaseを統合管理できるのはOCIだけであることも決め手となった。
OCVSは、OCI上でVMwareの管理機能をそのまま使えるサービスであり、既存のVMwareのスキルを最大限に活かしながら、アプリケーションや運用体制への影響を最小限に抑え、クラウド移行できる点を評価。さらに、Oracle Base Database Serviceは、オンプレミスで使ってきたOracle Databaseと同等機能のサービスを利用できる点も評価した。
100超の仮想マシンと、Oracle Databaseを統合的に管理できる点は、少人数での運用体制にとって、大きな利点であることも示した。なお、仮想環境の移行にはVeeamを使用している。
なぜ、OCIを採用したのか?
アイ・オー・データ機器ではOCIの採用により、Oracle Databaseを活かしたデータ分析基盤をクラウド上に構築し、大規模データのリアルタイム処理を取り扱うなど、各部門におけるDX推進の足がかりを構築することで、データ分析基盤の再整備とデータ利活用の運用強化を図ることを目指したほか、OCIに統合する多くの業務システムと外部のクラウドサービスとの連携を強化。
業務システムごとに閉じられている業務プロセスとデータをつなぎ、全社横断的なプロセスを可視化し、構築することで、業務システムとクラウドサービス間の連携強化による業務プロセスの最適化を実現することを目指した。
導入の検討にあたって、アイ・オー・データ機器では、日本オラクルに打診。OCIで実績を持つキューブシステムによる提案を受けて、OCVSの検討を正式に開始した。小倉氏は「OCIに関する専門的な知見を持ったSIerの支援を受けられたことは大きなメリットであった」と振り返る。
また、OCIへの移行については、無償サービスである「Oracle Cloud Lift Services(OCLS)」で提供されるフィジビリティスタディ支援などを利用した点も見逃せないポイントだ。日本オラクルでは、移行対象システムのヒアリングをもとに、次期システムの構成の検討や移行実現性を評価するなど、OCIの基本構成や移行方式などを取りまとめたという。
アイ・オー・データ機器 DX推進部情報システム課課長代理の松元一樹氏は「OCIに関しての知見がなかったが、OCLSを利用することで、日本オラクル側からさまざまな情報を提供してもらい、評価などをスムーズに行うことができた。社内への提案においても、これらの情報を活用できるというメリットがあった。確信を持ちながらプロジェクトを進めることができた。かなり厳しく攻めて、集約したシステム構成としている。OCLSで算定した結果が、本稼働で生かされることになる」と期待を口にしている。
そのうえで、同氏は「OCLSによる対応は、レスポンスが速く、能動的な提案を行ってもらえた点を高く評価している。スピード感を持って、検討を進めることができた。大手SIerの提案では、なかなか動かなかったプロジェクトが一気に動き出し、いまにつながっている」とも語る。
小倉氏も「日本オラクルからプランが提示され、それに則って進めることができたことが、今回の迅速な移行につながっている」とのことだ。なお、今回のシステム要件ではOracle Base Database Serviceで十分であったことから、コストパフォーマンスの観点でAutonomous Databaseは選択していない。
VMwareのライセンス制度変更に対する回答の1つ
今回の移行検討を開始した時期は、VMwareのライセンス制度の変更の動きが始まっていた時期とも重なる。だが、ハードウェア保守契約が終了するといった問題もあり、全体的な見直しが迫られていたため、VMwareのライセンス問題がなくても、OCVSへの移行検討は進めていたことになるだろう。しかし、同社が取り組んだOCVSの活用は、ライセンス制度変更の課題に対する有効な回答の1つと捉えることもできる。
アイ・オー・データ機器では、2025年7月にデータセンターのオンプレミスサーバ上で稼働していた100以上の仮想マシンを、大阪リージョンで稼働するOracle Cloud VMware Solutionに移行を完了。2025年8月には、サーバルーム内の仮想マシンの移行完了を予定している。
OCIの導入により、これまでリソースの制約のなかで行っていた業務システム設計や、サーバ管理から解放され、システムのモダナイゼーションと、データの利活用を本格化していく。今後は、クラウドのOracle Databaseを活用したデータ分析基盤を整備するとともに、OCI上のさまざmなサービスを利用した効率的なアプリケーション開発を進めていく考えも示している。
同社では「具体的な計画ではないが」と前置きしながらも「OCI DevOps」や「Container Engine for Kubernetes」「Autonomous Database」「OCI Generative AI」などを活用する意向もあるようだ。
OCIによるクラウドネイティブ対応により、DX施策の加速と業務プロセス全体の可視化および最適化を図っていくという。柔軟性を持った新たな環境への移行によって、アイ・オー・データ機器におけるDXの推進が、より本格化することになる。