将棋「次の一手」読本

『将棋「次の一手」読本』を読んでみました。

この本が入手しにくいという話があるようですね。私の場合、発売日に大きめの書店(「近代将棋」が置いてあるくらい)に行ったら、「将棋世界」と同じ棚に2冊だけ置いてありました。単行本の棚にはなかったので、見つからない場合は店員に尋ねてみた方が良いだろうと思います。

個々の記事に順にレビューを。どの部分が表題だかわからないので、タイトルは適当です。(ページ数は、全面写真の頁を除いて算出。)

各項目の最後に、印象に残った一文を抜き出しておきました(単独では意味不明ですし、記事の本質とは離れた部分が多いですが)。

渡辺明竜王 自宅押しかけインタビュー(取材・文:後藤元気)(12頁)

渡辺明ブログと同じようにフランクなトークのインタビュー。どんな質問も直球で投げ返してくれるのが渡辺明竜王の特質ですね。将棋そのものというよりも、将棋界とかそこでの人生(というとちょっと大げさですが)に関する姿勢が見えてくる内容になっています。

「いや、むかつかないって。」

森内俊之名人インタビュー(取材・文:柳瀬徹)(8頁)

先の名人戦七番勝負を振り返り、その後他の棋士についての評価を話すという流れ。インタビュアーは森内の羽生観を引き出したかったようですが、そのあたりはうまく噛み合わなかった感じです。

「名人戦の前に『羽生の頭脳』を見たんです。

羽生善治四冠 その強さを探る(文:山岸浩史)(4頁)

羽生四冠の日程に余裕がなかったため、インタビューはなし。そのかわりに「盤上のトリビア」の山岸氏の筆で、羽生の読みは他の棋士とはある部分が異なるのではないかという仮説や、羽生にまつわるいくつかのエピソードを通しての羽生観が語られています。

「私たちは羽生善治という天才と、同じ時代を生きているからだ。」

佐藤康光棋聖インタビュー(取材・文:山岸浩史)(9頁)

近年ネタキャラ化が進行しつつあるような気がする佐藤康光棋聖のインタビュー。一番面白い記事でした。

6年前の「2005年には三冠王になるのが目標です」という発言について。佐藤の将棋が変わったと言われることについて。負けると泣くと言われていることについて。結婚生活について。5年後の目標について

「どうせ、「まえがき」なんて誰も読まないと思ったんですけど(笑)。」

先崎学八段インタビュー(取材・文:大川愼太郎)(9頁)

王位戦挑戦者決定戦など重要な対局を落とした状況でのインタビュー。負けたときどのような心境になるのか、それは若い頃と比べて違うのかといった話題が中心となっています。

「だいたい自信ないです、ええ。」

ザ・アンケート 現役棋士100人に聞きました!(解説:北野海人、飛び入り棋界雀:大川愼太郎、聞き手:池畑成功)(12頁)

恒例の企画。今回は46名の棋士から回答があったそうです。編集サイドの手違いにより谷川浩司九段は含まれていませんが、羽生善治四冠や、謎回答の高橋道雄九段など見どころ盛りだくさんです。個人的には佐藤紳哉五段の頑張りが目立っているように思うのですが、ネタなのか本当なのか伝わっていない点で失敗だったかもしれません。

「かばんとやかんを間違えて」

片上大輔四段インタビュー(取材・文:上地隆蔵)(7頁)

奨励会と受験生活の話が中心。プロになってからの話をもう少し聞きたかったです。

「東大に行かなければ、もっと将棋が強くなったとは思いません。」

若手有力棋士たち 山崎隆之六段(文:上地隆蔵)(2頁)

簡単な人となりの紹介と、先の朝日オープン五番勝負の感想。

「そのことに気付かされた。」

若手有力棋士たち 阿久津主税五段(文:内田晶)(2頁)

紹介と、高橋道雄九段の感想戦拒否事件*1の顛末。阿久津五段はまだメディアへの露出が少ないので、インタビューして掘り下げたら面白い記事になっていたのではないかと感じました。

「そうだったんですか。うれしいっすね」

若手有力棋士たち 橋本崇載五段(文:内田晶)(2頁)

紹介と、最近のファッションの変化についてなど。

「今期は気を引き締めていきます」

若手有力棋士たち 宮田敦史五段&松尾歩五段(文:後藤元気)(2頁)

宮田五段の最近の様子と松尾五段の結婚についてなど。

「やっぱりというか宮田は照れ臭そうに笑っていた。」

棋士が書く!(1) 大平武洋四段(3頁)

日記形式で生活を振り返る。大平の本音。と合わせて読むのがいいでしょう。

「だからこそ、ZONEのインタビューを見た時の衝撃、感動は忘れられません。」

瀬川晶司アマ インタビュー(取材・文:古作登)(7頁)

プロ編入試験第1局よりも前に収録されたインタビュー(6月上旬と下旬の2度)。プロ編入試験が実現する過程を、瀬川氏の証言を中心にしてまとめています。

「これで、僕が落ちたとしても将棋界全体は悪い方向には進まない。」

千葉涼子女流王将インタビュー(取材・文:比江嶋麻衣子)(9頁)

タイトル戦を振り返り、棋士同士の結婚生活とか、NHK杯戦の司会についてなど語っています。どこがというわけではないのですが、独特の個性が端々に感じられる構成です。

「対局中にちょっと計ってみたんですよ。」

モノローグ 石橋幸緒女流四段(文:後藤元気)(2頁)

千葉女流王将への見方。清水・中井との差。どういう将棋を指したいのか。

「将棋もそうなってくれればね。」

モノローグ 矢内理絵子女流四段(文:後藤元気)(2頁)

対局に負けた後のこと。同グループと言われる千葉・石橋について。

「根本的には将棋が好きだから……。」

棋士が書く!(2) 大庭美夏女流2級(4頁)

野球やプロレスのファンサービス。将棋界における女流棋士の立場は。

「親の目で見るとちょっと生き方がむずかしすぎる世界だと思うからだ。」

棋士の結婚相手は棋士です!(取材・文:鈴木宏彦)(6頁)

将棋棋士同士のカップルや、将棋棋士と囲碁棋士のカップルのまとめ。総じて「分かってもらえる」というメリットを感じているようです。夫婦で指すかどうかは人それぞれみたいですね。

「これぞ棋士同士の結婚が増えた理由に違いない。」

棋士と将棋記者の奇妙な生活(文:遊駒スカ太郎)(8頁)

遊駒スカ太郎氏がフリーになってからの生活を、いつものユーモアあふれるタッチで描いています。

「我々の間では「激辛森内の国士」として今でも語り継がれている」

バランス的に、ベテラン棋士の話も読みたかったです。

個々の記事は面白いのですが、全体としてどういう本にしたいのかが伝わってきませんでした。本作りにかけられる時間が少なくて、各ライターに仕事を割り振って突貫工事をするみたいなことになったのでしょうか。