終わらないで、2024年9月

初めて髙橋優斗くんを認識したのはいつだっただろうか。実はあまりはっきりと覚えていない。優斗くんが入所したのは2015年で、その頃の私はキスマイをメインに見ていたと思うのだけれど、気がついたら優斗くんはジュニアの中心的存在として輝いていた。「君とJETなDOするLIFEなう」が2016年2月に地上波で流れて当時のTwitterがお祭り騒ぎだったことはとてもよく覚えている。
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そんな優斗くんがデビューせずに退所するのだという。最近の週刊誌はよく色んな大切な情報を公式よりも先に世に引っ張り出してきてファンを戦々恐々とさせるが、この件においてはどこにも漏れることなくちゃんと水面下で話が進んでいたようで、公式からファンへ正しい順序で発表された。10月1日0時をもって退所するということが、9月19日に発表されて、ファンはあと10日でこの事態を受け止めなければならないという、何ともハイスピードな心の整理スキルが求められてしまった。そんなスキル、20年オタクをやっても鍛えられている訳がない。仕事だって引き継ぎの関係などで近い人の退職や異動は一ヶ月前くらいには教えてもらえる。10日前に退職を知るなんて一回話したことあったかなレベルのあまり心の整理を必要としない他部署の人の退職みたいだ。優斗くんの退所はそれと同等ではない。

発表があった日私は仕事で忙しくしていて、隙間時間でランチを食べるためにデスクに座り自分のスマホでXを開いた。情報アカウントが38秒前に速報的に優斗くんの退所について投稿しているポストが一番上に出てきて一気に血の気が引いた。そして急いで社内の優斗担の姿をフロアで探したが見つけられず、慌てて彼女にチャットした。結局その日はその後も仕事が忙しかったので誰かとそのことについてじっくり話したり一人で考えたりする余裕はなかった。当日がそれくらい忙しかったことはかえって良かった。本人たちが話をしている動画は、仕事からの帰り道で見た。最初こそ緊張した雰囲気で話していたが、途中から和気藹々としたHiHi Jetsらしい空気に変わり、それを見て彼らの中ではもうこの件は「じっくり話し合いが行われ全員が納得した結論」なのだと悟った。オタクは今心の整理をするために走り出したばかりのスタート地点にいるのに、本人たちは見えないくらい先にいるような気持ちになった。急速に心の整理をするスキルは身についていないオタクだけれど、駄々をこねたところで何ともならないことは知っているオタクなので、自分のペースで彼らの納得した結論に向かって走るしかないということを認識した。

それでも数日間は発売されたばかりのBOOOOOST!!のライブBlu-rayを見る度に「優斗くん何で辞めてしまうのだろう…」とセンチメンタルな気分が続いた。私がHiHi Jetsを好きになったのは今年の3月に初めて彼らのライブを見に行ったのがきっかけで、過去のライブに比べて優斗くんの様子がどうだったか、HiHiの纏っている雰囲気がどうだったか、などの比較対象になる過去データを自分は持っていなかった。デビューをすることがゴールじゃなくてその先に5人でスターになる未来を見据えているHiHi Jetsを好きになったつもりだったが、どうやら私が好きになったタイミングは既に優斗くんの終わりが見えていたかもしれないタイミングだったのだ。自分のタイミングの悪さ、と思ったが、それより前にHiHi Jetsのライブを見に行っていたとしてもそのタイミングで自分がHiHi Jetsにハマり込めたかは分からないし、たった半年間でも5人のHiHi Jetsを追いかけられたことはただただ幸せなことで何も後悔はない。

ライムスターの宇多丸さんがアイドルを「魅力が実力を凌駕する存在」と定義づけていたけれど、優斗くんはまさにその言葉が当てはまる人だなと思っていた。歌が上手いとかダンスが上手いとか、そういうスキルの軸で語られるよりも、「ジュニアの0番」だとか「絶対的センター」だとか優斗くん自身が持っているオーラや華の軸で語られることが多いアイドルだった。前者はスキルだから磨いて向上させることができるけれども、後者は生まれ持ったものであることが多く後天的に向上させることは結構難しい。だからこそ替えの利かない存在として、HiHi Jetsのセンターに立っていたし、ジュニアの顔のような存在を担っていたのだと思う。そんな人がデビューをせずに退所する。あまりにアンマッチな運命にくらくらする。

去っていく人はあまり多く語らない。色々な事情で語れないという場合もあれば、立つ鳥跡を濁さずの信念で語らない人もいる。私たちはあくまでこちら側からの世界しか見ていないので、アイドル側からはどんな世界が広がっていたのか、何がきっかけになったか、どんなことを思いながら過ごしていたのか、これからどこに向かおうとしているのか、知る術もないままに納得の向こう側へ向かわなければならない。せめて語れない理由の一つに、次の未来があまりに楽しみ過ぎるから、という理由があって欲しい。こちらには絶対に語れないだろうけれど、それくらいのわくわく感を持って未来の方向を向いていて欲しい。諦めの悪い私たちを圧倒的に諦めさせて欲しい。

きっと9月30日はしれっと10月1日に変わってしまう。退所に伴う大きなセレモニーがある訳ではないので、我々から見えている景色が急に大きく変わる訳ではないと思う。10月になって徐々に徐々に受け取る情報の中に優斗くんがいなくなって(まだ10月以降に優斗くんも出ている写真集が発売されたり、冠番組もあと一回は優斗くんが出る予定)、退所したことを段階的に実感するのではないかと思っている。フィジカルに何かが確認できる訳ではないけれど、確実に優斗くんの籍のある9月がどうか終わらないで欲しい。何だったら今から9月31日をつくっても良いくらい。暦のバグを期待してしまうくらい10月の到来に抗っている。