研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

宮台真司の「小さな政府、大きな社会」と神野直彦の「財政が支える社会システム」の関係についてのつぶやき

ツイッターで2つ3つつぶやこうと思ったら、10つぶやきくらいになって、その後、フローレンスの駒崎さんとのやりとりにもなったので、こちらに記録。今後は、長くなりそうならば、以前のように、最初からブログに書くように努めよう。

以下のつぶやきは、基本的にマル激での宮台真司氏、神保哲夫氏、そしてゲストである財政学者の神野直彦氏のやりとり(http://t.co/CcV2Uv7W 自分はメルマガよりテクストを読んだ)をネタにした、「財政と社会の関係について考えたり解釈するための枠組み」についての「空中戦」である。

本当は、理想をいえば、こんな空中戦ではなく、どのような「社会」観に立つとしても、

1.マクロ経済・財政状況・労働市場・少子高齢化・家族の変遷などを動態的に把握しながら、
2.それらに対応して、どういう哲学の下でどう財政の仕組みを変更しなければならないか、
3.変更した場合に具体的にどう「社会」に変化が生じ得るのか

ということを、これまでの研究の蓄積や現場の経験に基づいて考察しなくてはならないと自分は考えている。とくに、3あるいは2と3の間のフィードバックなどについての実証的検証(に基づいた考察と政策提言)が決定的に不足していると感じている。それを今の自分ができていないのは本当に残念。

様々な過去の研究の蓄積や現場の声をかき集め整理しながら、そういう作業を行うこと自体は不可能ではないと思っている。ただ残念ながら、そういう作業は自分の研究業績にはならないため、メシの種にはならない。他にも重要な作業はたくさんあるので、そのこと自体に不満はないが、力不足とフラストレーションを感しながらツイッターでぼやくことになる。

前置きが長くなったけど、以下つぶやき。読みやすいように修正はしている。

マル激の神野氏と萱野氏の回読む http://t.co/m2t52wGo 尊敬する神野氏、スウェは医療無料ではないし(自己負担上限は高額療養費制度よりかなり低い)、「家具はパーツでしか売られていない」てIKEAのこと?w管野・宮台氏の話ではオールマイティ言説の功罪について考えた

大竹氏が指摘する日本人の「市場を嫌い、政府を嫌う」という市場観・政府観 http://t.co/3IrNpmk1 は、宮台的な「小さな政府、大きな社会」という(ほぼ)あり得ない理想郷を待望する感覚と通じるものがあるかも。市場も政府もダメだから、「なんとなく社会」でいこう。

神野氏の回 http://t.co/CcV2Uv7W 神保氏が宮台氏のような発言をしてる。「社会システムが小さくなってしまうと、自分たちの生活も守れなくなるから、政治に対して要求が肥大するばかりです。日本では共同体自治の機能がなくなり...」。神保氏ってこういう人だったっけ...

13年前の神野直彦氏の「システム改革の政治経済学」 http://t.co/Z8viGeZN の導入部p11でも書いてるように神野氏の「社会システム」は、「政治システム」からの「財政」というチャネルを通じて共同体的諸関係が維持される関係にある。神保氏とは「社会」認識がだいぶ異なる

マル激ファンなので批判はこれくらいにして、神野氏がゲストなのに議論されなかったポイントを。宮台氏はフローレンスの病児保育を「市場と社会がうまく接続」した例として取り上げてた。ただし、こういう領域に政治と財政を介在させることこそが神野氏的な「社会システム」論と共同体維持の考え方。

つまり神野氏の「政治と財政により支えられる社会」と宮台氏の「小さな政府、大きな社会」は、政治イデオロギーとしても政策的帰結としても相当の違いが生じる可能性がある。そしてそれは古典的な「大きな政府か小さな政府か」の論争と実質そんなに変わらない。続

ただ、宮台氏の「小さな政府、大きな社会」論では財政がどういう位置づけにあるか不明なので実は神野氏の社会論と対立的でない可能性もある。それはウォッチャーとして今後に期待。いずれにせよ、これらは日本的準市場型社会サービスをどこまで維持・拡張するかという話と密接に関連するので大切な話。

日本には特に医療・介護(と保育)の分野で、かなり細かい領域に渡る、公的・民間組織の試行錯誤の蓄積と報酬制度に代表される財政の枠組みがある。神野タームで言えば、財政を媒介とした社会システム維持の歴史は決して浅くない。NPOや社会的企業によるそこから漏れた領域での試行錯誤もある 

なので、その社会領域をこれからも政治システムが財政を通じて支えていくという意思表示と財政的裏づけと、その枠組みの腐った部分・機能しなくなった部分を改革していくという、2つの作業を、低成長と高齢化の制約下でやらなければならない。低成長は制約でなくなるといいなー。

だが前段ツイートの各パーツを違う形で組み合わせると、低成長と高齢化の制約(あと忘れたけど借金という財政的制約)があるので、今の枠組みの腐った部分は抜本改革=財政による社会システム維持機能を弱めなければならない、という認識に。つまり前者が左派。後者が右派。間にグラデーション。

ここで、政府=財政、社会=共同体の生活保持機能と定義すれば、どこにも、「小さな政府、大きな社会」なんていう選択肢はない。政府(財政)を小さくすれば、社会は小さくなるし、政府(財政)を大きくすれば、社会は大きくなる。ただし市場を活用できる人には逃げ場はある。

ここからはフローレンス駒崎氏とのやりとり。時系列上やりとりが錯綜しているところは適当に整理した。

駒崎氏:
「小さな政府、大きな社会」って、そういう意味なのかな。準市場化は大きな社会化になるのでは?政府=財政っていう前提は違うかもよ。コムスンが政府じゃなかったように。小さな政府、大きなプラットフォーム、それを利用する社会セクター、というような関係性は?

自分:
よくある「政府の大きさ」の定義は財政規模なので準市場拡大は「大きな政府大きな社会」路線です。ミヤディが「政府」を違う定義で考えてて準市場化の拡大を「小さな政府大きな社会」と位置づけるならそれは実現可能ですがそのあたりがイマイチわからないですね。

駒崎氏:
「大きな政府」の定義かな。公務員数の増加を大きな政府と考えるならば、準市場化の切り口は小さな政府になるよね。だから僕は「小さな政府・大きな社会」派かなぁ。

自分:
政府財源を用いた公的サービスや準市場の拡充なしに今以上に「大きな社会」「安定した地域コミュニティ」を実現することは特に医療・介護・教育・保育ではかなり困難と思います。財源減らせば穴だらけの小さな社会とそこで踏ん張る私的事業者という構図になるかと

自分:
国際比較の研究では「政府の大きさ」はまず「財政規模の対GDP比」なので準市場か公的供給かは問われませんが改革の文脈だといろんな意味で使われますからね。ただ準市場化も財政規模拡大なのでミヤディのようにそこをふわっとした感じにすると議論が混乱します

駒崎氏:
準市場の拡充なしに、大きな社会実現はきつい、というのは賛成。その財源のためにも増税は賛成。ただし医療や福祉もザルな部分はかなりあるから支出削減もセット。そんなパッケージでOK?

自分:
改革で予算配分の仕方が問われるのは必須でしょうね。問題は今も議論してるんでしょうが「どこが削減可能か」の見極め難さとそれと引き換えの「拡充規模・拡充の仕方」の見通し難さがあって、それぞれの政治的思惑もあって、中々先が見えにくいということでしょうか

自分:
自分もフォロー甘いので自信もって言えないですが、今後こういう財源でこういう規模でこう改革をしてこうなりますという政治的たたき台なしで(まぁいちおうポンチ絵っぽいのはありますが)、その場その場で厚労省や有識者や利害関係者が議論している状況にみえます

自分:
なので「小さな政府、大きな社会」というスローガンを認めるにしても、その先の「『大きな社会』実現には、こういう財源、こういう準市場、こういうルール、こういう民間企業やNPOで、こういうふうにやっていきましょう」くらいの青写真を掲げてほしいなぁと。

自分:
ぶっちゃければ、「小さな政府、大きな社会」という議論をするのならば、そういう人たちはみんな駒崎さんの論をそのままパクってくれるだけで、議論のステージが一つ上がると思います。メタ的な「社会」論や「共同体」論はもうそろそろいらないんじゃないかなと。

自分:
次のステージとは公定価格の是非の議論や民間規制の議論など「準市場のあり方」の議論。そこで財政規模の議論ももっとクリアに出てくるし「社会」像の議論も具体性でてきます。既存の制度前提とした審議会レベルの細い議論はまた少し次元が違うけどだいぶ近くなる。

自分:
ミヤディがそういう議論をできないはずはないしミヤディの議論についていける賢い人たちならみんなついていけるでしょう。もう余裕ないんだからそろそろ「社会」の現実や既存の制度との接続可能性も含めた現実的な議論をしてほしいと1ファンとして思ったまでですw

駒崎氏:
なるほど。勉強になります。とりあえず僕は保育分野で準市場化改革を推進して、それを皮切りに社会保障改革に繋げていきますね。どこかでこういう話をガチでできる場があると良いのだけれど。

その後のおまけ。

シノドス芹沢一也氏:
ご協力しますよ♪ @Hiroki_Komazaki @dojin_tw どこかでこういう話をガチでできる場があると良いのだけれど。
13 hours ago

駒崎弘樹氏:
@synodos @dojin_tw おぉ、芹沢さん!w ありがとうございます!

シノドス|芹沢一也氏:
年末に座談会でもして、来年頭にシノドス・ジャーナルにアップするとか。たとえば、飯田さんと湯浅さんの続編への期待も高いし、湯浅さんと駒崎さんとの絡みもみたいし。+社会保障の専門家とか。そのラインでどうでしょう? @Hiroki_Komazaki @dojin_tw
13 hours ago

駒崎弘樹氏:
@synodos @dojin_tw それで大丈夫ですー!ありがとうございます!

自分:
ツイッターから渾身のガヤをいれさせて頂きますwRT @synodos: 年末に座談会でもして、来年頭にシノドス・ジャーナルにアップするとか。たとえば、飯田さんと湯浅さんの続編への期待も高いし、湯浅さんと駒崎さんとの絡みもみたいし@Hiroki_Komazaki @dojin_tw

シノドス|芹沢一也氏:
@dojin_tw さんの「渾身」てすごそうですね!RT @dojin_tw @Hiroki_Komazaki ツイッターから渾身のガヤをいれさせて頂きますwRT @synodos: 年末に座談会でもして、来年頭にシノドス・ジャーナルにアップするとか。たとえば、飯田さんと湯浅さん

駒崎氏:
@synodos @dojin_tw それで大丈夫ですー!ありがとうございます

シノドス|芹沢一也氏:
@Hiroki_Komazaki @dojin_tw 了解!企画立てますね。

関連のありそうな過去のエントリ

『日本の難点』:「大きい社会」を支える政府のあり方についてメモ
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20090425#p1
病児保育を巡る市議と病児保育NPO経営者のやりとり
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20100708#p1
公的保育サービスに関する2つの論点:価格自由化と一般財源化
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20101101/p1