研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

混合診療メモ:権丈善一(2005)「医療保険の課題と将来」

「医療保険の課題と将来」〔週刊社会保障 社会保障読本2005年版〕『週刊社会保障』No.2344 [2005. 8. 8-15]
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/File0206.PDF

5年前の文章だが、保険者機能論に対する権丈氏らしい批判の他に、面白い逸話が紹介されていたのでメモ。しかし、「もっともしばしば保険者が保険者機能の大切さを言うこともあるが、その言葉の過半は、『したがって財政調整を止めて欲しい』という話に続くためのものである。」というのは思わず笑ってしまったが、保険者はもちろんのこと、経済学および経済学者が保険者機能と財政調整の関係をどう捉えて、どういう研究をしてきたかということは個人的にもきちんと勉強し直す必要がある。

話を戻すと、興味深かったのは以下の逸話。


この図は、孫引きでしか利用できない状態となっていることを、わたくしは、二木(2005)で知った。引用すれば、「規制改革・民間開放推進会議が2003年7月11日に公表した「規制改革推進のためのアクションプラン」の参考資料「『混合診療』の解禁の意義」では、混合診療解禁後保険診療(費用)が削減されることが明示されていました。なお、この図は少なくとも昨年12月上旬まで1年半、同会議のホームページに掲載されていましたが、12月10日前後に突如削除されました。私の勤務先(日本福祉大学) の大学院生が同会議事務局にその理由を尋ねたところ、「記載に誤りがあったため」とのことです。実は、この削除直前に発行された『週刊社会保障』12月6日号で、植松治雄日本医師会長が、混合診療解禁で公的医療保険が縮小する「動かぬ証拠」として、この図を引用しました。私は、同会議事務局はこの批判に反論不能なため、この図を削除したのだと推定しています」

上記記事より抜粋。

ついでに、権丈氏がよく言及する図についても抜粋。


図4は、所得と医療サービス支出の日米比較である。「家計と所得の医療サービス支出の関係をみると、わが国では所得と支出額はほぼ無相関であり、低所得者世帝も高所得者世帝も医療サービス支出額はほぼ同じであることはわかる」[鈴木(2004)、P.286]。これをみて、「このことから、高所得者の医療ニーズが満たされていない可能性が大きい。 一方、アメリカでは所得と医療サービスの相関は高い。所得に応じて国民は多様な医療サービスを購入していることを示唆する」〔鈴木(2004)、P.286]〕と読む者もいれば、わたくしのように、図から読み取れる最も重要な事実として、「このことから、皆保険下の日本では医療の平等消費が実現されているのに、国民全般を対象とした医療保障制度を持たないアメリカでは、医療が階層消費化している」をあげる者もいる。いずれの方が、自分の価値観に合う事実の読み取りであるのかを、読者は各自で考えて欲しい。

上記記事より抜粋

この鈴木玲子氏の論文のグラフを初めて見たときに思い出したのは、昔ベッカーが来日して大学で講演したときに、(たしか)縦軸に寿命、横軸に学歴階層(就学年数だったかな?)をとったアメリカ人データの撒布図かなんかを紹介して、その正の相関を示しながら、「だから人的資本は重要」的な話をしていて「人的資本の重要性の証左というよりも、アメリカの健康格差の制度的問題として見るべきではないのか?」と心の中で思ったことである。もちろん今では、この二つの見方が別にガチに対立するものではないことは分かっているのだが、価値規範や分析枠組みが現実の解釈の仕方を既定しているという、単純で分かりやすい例だと思う。

混合診療は今も議論が進行中なので、民主党は「スウェーデン」派の山井和則氏も含めて「医療は成長産業」とよく言うけれでも、それが意味するところを見極めていく必要がある。

追記:ちょうどこんなニュースが。
混合診療、先進医療制度と異なる仕組みを
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/27974.html

政府の行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会(分科会長=大塚耕平・内閣府副大臣)は6月7日、医療や介護などの規制改革の対処方針を示した第一次報告書案を大筋で了承した。焦点となっていた保険外併用療養(混合診療)の範囲拡大については、現在の先進医療制度より手続きが迅速な新たな仕組みを検討し、年度内に結論を出すとしている。分科会終了後の記者会見で大塚副大臣は、「規制・制度改革について不断の取り組みが行えるような法律をつくることも必要かもしれない」と述べ、継続的に規制を見直す法整備の必要性を示した。同分科会では、菅新内閣発足後、新たな行政刷新担当相の下で最終調整を行い、月内の閣議決定を目指す方針だ。
(中略)
混合診療に関しては、海外で一般的に使用されている未承認薬や、代替の治療法が存在しない患者に対する治験中の療法の一部について、一定の施設要件を満たす医療機関が実施する場合は、安全性などの評価を厚生労働省以外の第三者機関が行うことも検討課題とした。対処方針の当初案では、混合診療の一部を届け出制とすることが盛り込まれていたが、厚労省側が難色を示したため、最終案への明記は見送られた。会見で大塚副大臣は、「例えば届け出制による混合診療の活用等も、成長戦略や特区の政策課題、あるいはチャレンジとして、今後さらに議論していく余地があると思っている」と述べた。