研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

子ども手当と外国人

(以下、何回か書き直したり追記したりしています。)

いろいろ話題になっているようだが。

子ども手当ての窓口に ネパール人、韓国人、中国人…
http://www.j-cast.com/tv/2010/04/02063679.html?p=all

「子ども手当を。母国に子供4人」→年間62万4千円(母国の年収15年分)支給 …小倉智昭「詳細詰めずにスタート?」
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1449593.html

原則的にいうならば、子ども手当は本来、日本に住む親に対する給付というより日本に住む子どもに対する給付と捉えるべきだと思うので、そういう観点からすれば、保護者がいるとかいないとか、保護者が日本人か外国人とかは関係なく、日本に住む子どもを給付対象にするのがよいのではないか。

国籍条項は必要ないと思う。日本に住む外国人も、消費税や所得税を払っているわけだし、そうでなくても日本に住む子供の福祉を向上するという観点からは、一定期間以上の間日本に住み、育っている外国人の子どもたちに支給されないのは公平性を欠く。

従って、日本に子どもがいる外国人の親に支給されて海外に子どもがいる日本人の親に支給されないのはおかしくはないが、親が外国にいて子どもだけ日本にいるのに支給されないことや、親が日本にいて子どもが日本にいないのに支給されるというのは整合的ではないと思う。

子ども手当が「外国に住む外国人の子ども」に行われることだけを問題視するのではなく(それを問題にするならば「外国に住む日本人の子ども」はどうするのかという問題もでてきてしまうし)、日本人か外国人かを問わず、日本で(一定期間以上)生活している全ての子供に対する給付になっているかどうか、そこが給付対象についての主要論点だと思う。

Wikiによると(ソースが安易ですみません)今回の給付資格は児童手当の受給資格を徴収しているらしいので、今後きちんと検討されて再整理されることを望む。これ以上、日本人の公的支出や租税負担に対する不信感が高まるのはなんとしても避けたいところ。子ども手当はその不信感の緩和に役立つと思っていたのだが、今回の騒ぎを見ると、これは短期的には逆効果かも。。。

またもちろん、所得や国籍関係なく一定期間日本に住む「全ての」子供を給付対象にすべしというのは私の普遍主義志向バイアスでもあるし、子ども手当てが最も効果的な財政支出かどうかという論点も残ってはいることも一応書いておく。個人的には細かい制度設計のよしあしや少子化対策としての効果はともあれ、子ども手当ては基本的に良い政策だと思っている。

ちなみにスウェーデンではどうなっているか見てみたら、

For families with children
http://www.forsakringskassan.se/nav/5b2a0fd19297a529864dad531a4d3414

の

Child allowance and large family supplement
http://www.forsakringskassan.se/irj/go/km/docs/fk_publishing/Dokument/Publikationer/Faktablad/Andra%20spr%C3%A5k/Engelska/barnbidrag_flerbarnstillagg_eng.pdf

によれば、

Children who live in Sweden are entitled to child allowance. It is paid from and including the month after the birth of the child, or later, if, for example, the child moves to Sweden. Child allowance is tax free and is paid until and including the quarter that the child attains the age of 16.

なので、支給されるかどうかに国籍は関係なく、スウェーデンに住む子どもが受け取る権利を持つ(後注:ただしビザや居住許可の種類などによって一定の制限がある)。しかし

You must notify Försäkringskassan if your child is going to live abroad for longer than six months. Entitlement to child allowance then ceases already when the child leaves Sweden. Development assistance workers, government employees, those studying abroad and their family members can, however, receive child allowance in certain cases even if the stay abroad exceeds six months.

なので、一部の例外を除いて、海外に住む子どもには支給されない。

ちなみにこのFörsäkringskassanはスウェーデンの社会保険の組織で、年金給付、疾病給付、障害給付、子ども手当て、住宅手当などの現金給付を担当している。また、社会保険といっても、税財源のものも含まれている。例えば下記URLの「スウェーデン」の箇所を参照。

2007〜2008年 海外情勢報告(厚生労働省)
http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpyi200801/body.html

ついでに蛇足だが、現物給付である医療は県(ランスティング)の担当で、同じく現物給付である介護・保育・教育サービス、そして社会扶助などは市(コミューン)が担当しており、これらは税金(と一部の自己負担)から賄われている。従ってこれらは上述したFörsäkringskassanの担当ではない。

このような北欧モデルにおける「社会保険」と医療・介護・保育等の「社会サービス」の住み分けは、日本が発達させてきた年金・医療・介護における「社会保険」(実際には社会保険料と租税を財源としている)と租税負担による「社会福祉」(生活保護や障害者福祉など)の住み分けとは異なる。

さらに蛇足だが、スウェーデンでは、移民福祉・移民統合はかなりの程度、市が責任を持っているらしい(例えば私のような大学院生も受けられる移民向けの無料のスウェーデン語教室は市の補助金で運営されている)。これは社会扶助や教育など移民統合と密接に関係する分野の責任主体が市であることを考えると政策・施策的には整合的だが、いろいろと問題や軋轢もあるらしい。

話を日本の外国人に戻すと、そっち系の仕事をしている知り合いから聞く話や最近のツイッターでの宮台真司の議論などを見ても思うのだが、日本の移民難民政策・外国人政策は右翼にとっても左翼にとっても中道にとってもいろいろ問題がありすぎのようだ。研究ネタの宝庫でもあると思うのだが、日本の経済学者の関心はまだあまり高くない印象がある。実証分析のネタになるような統計の未整理のせいもあるだろうが、今後、日本の経済学でも政策研究や実証研究が徐々にでてくるのではないか。

関連エントリ:
[社会]ハママツは移民社会日本を占う最先端都市(by石井政之)+外国人研修制度
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20091119#p1