研究メモ ver.2

安藤道人(立教大学経済学部准教授)のブログ。旧はてなダイアリーより移行しました。たまに更新予定。

[社会][途上国]世界がもし100人の村だったら

『世界がもし100人の村だったら』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4838713614/250-9349194-3231403
をモチーフにしたフジテレビのドキュメンタリー
『世界がもし100人の村だったら3』
http://www.fujitv.co.jp/ichioshi05/050514sekai3/index2.html
を見た。

こういうものを見るたびに、私の中のサヨク魂がむらむらと沸き立つ。ドキュメンタリーの対象となっている子供たちの現状と、それをあのような形でしか放送できないマスコミ。どっちも、やるせない。
そして、そういう気分になるたびに思い出すのが、社会主義者のジャーナリスト高岩仁氏の
『戦争案内 映画制作現場 アジアからの報告』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4764501422/qid=1116213501/sr=1-5/ref=sr_1_8_5/250-9349194-3231403
である。彼のスタンスは、いわば鶴見良行のような視点を、さらにキツくキワどくした感じだ。彼の取材内容については、自分で確かめようがないので私はなんともいえない。ただ、高岩氏の映画作品の紹介をめぐる、彼と日本の大手マスコミとのやりとりは印象的である。

彼の取材や言説は、アカデミズムにおける「日本企業のアジア進出が現地にどういうインパクトを与えたか」という議論の文脈に位置づけて考えることも重要だが、マスコミの問題として考えることも重要である。ナイーブな社会主義者が直面した大手マスコミの壁、とでもいおうか。プラクティカルな左翼運動に関心がある人たちならば、大手マスコミを通じた反資本主義運動の困難と宮台真司的「戦略的言説」の意味(と同時に限界?)を考えるいい材料にもなろう。少し長めに引用しよう。

実はこのアジア太平洋戦争に関して作品を作るときに、戦争は悲惨だ残虐なことが起こるということだけに止めておくと、その作品は文部省の推薦や特選が取れて、学校や図書館で大いに買ってもらえて、制作費がすぐに回収できるし、金儲けができます。しかし、戦争をだれが必要として何のために起こすのか。戦争の起こる根本原因を追究したり、戦争を必要とする社会構造を追及して、現在同じ構造によって第二の侵略が進行してるなどを作品で追求したら、これは絶対に文部省は受け付けないし、マスコミでも紹介されなくなってしまって、作品を作っても制作費が回収できない仕組みになっています。ですから、大変残念なことですが、我々の仲間が、自主制作で自分たちのお金で作品を作る場合でも、なかなかこの壁を乗り越えることができなくて、世の中で起こる悲惨なこと、困ったことの根本原因を追究できないでおわっています。監督は気が付いているのにそれを作品に盛り込むと、制作費が回収できなくなる、自分自身がマスコミに出れなくなる、マスコミで仕事ができなくなる、と言う心配が常に付きまとっています。

上の写真はフィリピン、マニラのごみ捨て場で生活している人々を撮影するスタッフです。この現象を撮影して、「ここで生活している人々は悲惨な状況の中でも、人間らしく生きている。そして、その中で暮らしている子供達の目が輝いている」というような捕らえ方で作品をまとめると、日本のマスコミは安心してこの映画を大きく報道します。そして、それがうまく出来ていれば、国内外の数々の賞をとって有名になって、制作費の回収も簡単になります。しかし、「このように貧しい人が存在するのは、日本や、アメリカの企業が環境を破壊し、土地を取り上げ、人権を無視して安い賃金で仕事をさせ、莫大な利益を上げ、しかもその状態を維持するために、暴力を使っている。(これこそが真実です)」と作品で描くと、マスコミはその作品を正確には紹介できなくなります。これに加えて「この悲惨さを解決するためには、このごみ捨て場で生活している人々と、日本で過労死するほどこき使われている人々や、安い農産物が外国から”自由”に入ってくるので、大変な困難を強いられている人達が、国を越えて連帯して、このような社会の構造を変える闘いをするべきだ」と作品で訴えると、たちまち”マルクス主義者だ””赤”だとレッテルを貼られて、すべてのマスコミから排除され、仕事ができなくなり、収入の道が絶たれてしまうのが、今の日本です。しかしこれこそが今最も重要な真実だと、私は確信しています。

戦争案内(2000)pp.78−79

こんな文章紹介して、サヨクぶりぶりっぷりを見せてたら、私も大手マスコミに就職できなくなっちゃうのかしら笑

関連項目:
・『イデオロギーをイデオロギー的に解釈しただけではないのか』+その後の一連の議論
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050223
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050310
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050311
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050313
・『インドのメイドの話』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050301
・『メモ:稲葉氏の反搾取論と伊勢崎氏のスラム論』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050224
・『伊勢崎賢治氏インタビュー』
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20050225