米国では1月の第3月曜日は祝日です。この日を含めた3連休は毎年、パレードが行われます。公民権運動で非暴力による抵抗を訴えたキング牧師の誕生日(1929年1月15日)を祝うものですが、今年はパレスチナ自治区ガザ地区で続く戦闘の「停戦」を訴えるデモも各地で起きました。
これ自体は不思議なことではありません。米国の黒人たちの権利運動とパレスチナ人には、半世紀を超える連帯の歴史があるからです。ルーツは違っても同じ「抑圧」「抵抗」の歴史を持つ者が国を超えてつながり、共闘する──。権利運動の常道でもありますが、この意味では黒人とユダヤ系米国人の間にも、100年にわたる連帯の歴史があります。
しかし現在の中東情勢が、それぞれの共闘に微妙な変化を与えています。順番に見ていきます。
「抑圧」の歴史を共有
奴隷解放を経てもなお、構造的な差別に苦しんできた黒人たちは、1950年代からイスラエルの占領下にあったパレスチナ人に共感し、抗議の声を上げてきました。その声はイスラエルの最大支援者である米国政府にも向けられ、80年代にキング牧師の側近らが政界に進出すると、ハイレベルの外交議論の中にもパレスチナ問題が組み込まれていきました。
近年で象徴的なのはブラック・ライブズ・マター(BLM)運動との連帯です。BLM運動は2020年5月、黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官から不当な暴力を受け、殺害された事件をきっかけに世界的な運動となりましたが、このころ、エルサレムでも同様の事件が起きていました。無抵抗のパレスチナ人男性がイスラエルの警官にテロリストと誤解され、射殺されたのです。
パレスチナではBLM運動に呼応し、警察を糾弾するデモが起こりました。米国内と同様、イスラエル占領下でも警察からの人種差別的な暴力、人権侵害が日常茶飯事だったからです。
昨年10月7日以降も
イスラム組織ハマスがイスラエルへの攻撃を開始した昨年10月7日以降、いち早く「パレスチナ支持」を明確にしたのも黒人たちでした。米国内が「イスラエル支持一色」だった中でのことです。
このうち、ロサンゼルスやシカゴなどのBLM運動の支部は、ハマスの攻撃自体も擁護する声明を出しました。この内容がユダヤ人の虐殺を容認するものと非難を浴び、BLM運動の支持者からも反発が起こりました。後日、虐殺を擁護するような扇動的な内容は撤回しましたが、パレスチナ支持は貫いています。
また、イスラエルが報復攻撃に転じる中、連邦議会で初めて「即停戦」の決議案を上げたのも、BLM運動の活動家から下院議員になったコリー・ブッシュ氏らでした。
黒人とユダヤ系米国人も同胞関係
今も米国でパレスチナ支持を先導する黒人たちですが、彼らも難しい立場に置かれながらの選択でした。というのは、米国内のユダヤ系も長年にわたり、黒人への差別や不正義を訴え、その運動を支援してきたからです。
ユダヤ人も世界中のさまざまな国で差別に苦しみ、第二次世界大戦では600万人が大量虐殺された歴史を持ちます。今は米国社会で成功しているグループとみなされていますが、いまだ黒人たちと同じく、白人至上主義者らからヘイトクライムのターゲットにされる存在でもあります。
だからこそ、20年には約600のユダヤ系団体がBLM運動を支持するために名前を連ねました。そんな国内のユダヤ系は、パレスチナ支持を訴えるBLM運動に今、何を感じるのでしょうか。
若者と高齢層で違い
昨年10月7日以降、米国の若者の間でパレスチナ支持が広がっていますが、その中にはユダヤ系もいます。そのユダヤ系の親パレスチナ運動を先導しているのが、黒人の…
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