Netflixアニメ映画No.1!2023年末にすべりこんだ掘り出し物の傑作Netflixアニメ映画『レオ』

ネジムラ89

 2023年、ダークホースならぬダーク“イグアナ”。2023年11月22日よりNetflixにて配信をスタートしたNetflixオリジナルのアニメーション映画『レオ』。シリーズ物でもなければ、有名キャラクターでもないこの映画がNetflixアニメ映画でも初めてというほどに多くの人に観られている事態となりました。

Netflixのアニメーション映画随一の視聴記録を達成!

 11月末に発表されたNetflixの全世界ランキングにて『サイコーで、最高のクリスマス』や『クリスマス・クロニクル』などホリデーシーズン作品がランクインする中、見事首位を獲得したのは、Netflixオリジナルの新作アニメーション映画『レオ』でした。
 配信開始から初週に置ける総視聴回数は3400万再生にも及び、2位の『サイコーで、最高のクリスマス』の1300万にダブルスコア以上の圧倒的な数字を記録。この数字はザック・スナイダー監督の新作『レベル・ムーン』の2300万に勝る成績で、Netflixのアニメーション映画史上最大のオープニング記録を保持する『ジェイコブと海の怪物』を超えてNo.1の成績となりました。

アニメ映画『レオ』とはどんな映画?

『レオ』のあらすじ

 タイトルの『レオ』とはとある学校の5年生の教室で飼われている主人公のイグアナの名前。すでに74歳の高齢のレオは、イグアナの寿命が75歳であることを知るや否や人生でやり残したことを憂い、ガラスケージから脱出し野生の世界へと逃れようとします。
 そんな矢先にレオのクラスでは担任の教師が変わったことをきっかけに、週末に生徒のだれかがレオを自宅に持ち帰り世話をするという取り組みが動き出します。
 レオは生徒の家へ預けられる間に逃げ出そうと考えるのですが、うまく逃げられず生徒に見つかってしまうどころか、実は人間の言葉を喋れることが発覚。それをきっかけにレオは生徒の相談を受けるようになり次々と悩みを解決。次第にレオはクラスの生徒たちへの愛着が増していきます……。野生に帰りたいというレオの目標と、クラスの生徒たちへの親心で揺れる中、さらにレオに事件が起こるというお話です

「クラスのペットが自分だけに喋ってくれた!?」という見せ方の面白さ

 『レオ』の物語の仕掛けの肝は、もし、動物の言葉が人間に通じたら……という仕掛けにあります。
 ディズニー映画などを代表とするアニメーション作品では動物たちが人間のような挙動をする“嘘”が描かれているように、レオも同じような“嘘”として人間たちのように考えたり、喋ることができるという、それ自体は別に新しいわけではない設定です。 
 ただ、今作の上手いところはその仕掛けの見せ方です。
 もし学校で飼育していたペットが人間のように話すことができたら何が起こるんだろう?ましてや、何年もいろんな生徒たちの様子を見てきた長生きの生き物だったら?そんなもしもの世界を描いた作品となっています。何年もいろんな生徒の様子を見てきたレオにとっては、生徒たちの悩みやそれに対する解決法はもはやパターン化されていて、すぐにわかってしまいます。そんな年の功で導いてくれる存在が、家に持ち帰ったしゃべるはずのないイグアナで自分だけに喋りかけてくれると分かれば、そりゃあ子どもたちの人気者になるわけで。こうしてレオはクラスのみんなの悩みを次々に解決していき、“自分だけの友達”として親交を深めていくので、観ているこちらも爽快感があります。
 もちろんそれぞれの生徒が“自分だけ”だと思っていたレオは、実はクラスのみんなに平等に助言をしていた、という実は騙していたという見方もあるのですが、それについても物語の展開でしっかりと言及されていくことになります。

実はどうかしているキャラクターデザイン

 『レオ』が輪をかけて楽しいところが、ストーリーとは全然関係のないところでは、これでもかとふざけ倒しているところにあります。
 例えばキャラクターデザイン。レオをはじめとした動物たちやクラスの生徒たちなどの主要キャラクターは、言ってしまえば特に目立った見た目の面白さを持っていない明快なキャラクターデザインになっています。
 しかし、一方で、冒頭のレオたちの学校の様子を描いたシーンで早々に登場する未就学児クラスの生徒たちの様子にびっくり。そこで描かれる子供たちは、顔はみんな丸顔で瞳孔は開ききっており、目にも止まらぬ速さで動き回るという動物、というかもはやクリーチャーという表現が似合うほどです。よくぞまぁ、こんなデザインで通したというほどの“誇張しすぎた幼稚園児の描写”には、この映画の制作陣のセンスが詰まっています。

無数に散りばめられた小ネタの数々

 分かる人にこそ分かる細かい小ネタに溢れているところもまた楽しいです。本作の各所で子供には伝わらないようなネタも作中の各所に隠されています。
 中でもレオがクラスを訪れてから今までを振り返るシーンでは、各年代を代表する実在の人物や作品がこれでもかと凝縮。2003年の場面では、カレンダーに活動休止前のイン・シンク時代のジャスティン・ティンバーレイクの写真や『パワーレンジャー』のランチボックスが登場。続く1987年の場面ではドラマ『アルフ』(1986)のサンタ姿のアルフや、『ロッキー3』(1982)、『特攻野郎Aチーム』(1983)などに出演していたミスター・Tの写真。さらに続く1976年の場面では、カレンダーにはミュンヘンオリンピックで当時の最多金メダル獲得数を誇ったマーク・スピッツが居たり、ドラマ『600万ドルの男』(1978)のランチボックス。そして1969年の場面ではビートルズのアルバム「アビイ・ロード」を思わせる横断歩道をピンクパンサーが歩いているビジュアルなどなど、わずかなシークエンスに無数のネタが配置されています。

実はリッチな制作陣!あの俳優も参加している

 どうも攻めた内容だと思いきや、監督陣には深夜に放送されている長寿バラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のパロディ作品を放送するコーナー“TVファンハウス”で作品制作をしていた人たちが監督に名を連ねます。
まずは“もしかして同性愛者”という今の時代では考えられないタイトルの短編ヒーローアニメ『The Ambiguously Gay Duo』の製作や、『モンスター・ホテル』で脚本や製作総指揮に名を連ねていたロバート・スミゲル氏が参加。

 さらに2004年のオタワ国際アニメーション映画祭にて、ベストTVスペシャル賞と一風変わった作品に送られるMike Gribble Peel of Laughter賞を受賞したアニメ『Saddam and Osama』を製作したコンビ、ロバート・マリアネッティ氏とデビッド・ワクテンハイム氏のW/Mアニメーションの二人が監督に名を連ねます。

 『Saddam and Osama』はタイトルの通り、オサマ・ビンラディンとサダム・フセインを主人公に据えるというかなり尖ったブラックジョークアニメーション。
 これらの作品の製作陣が名を連ねていると考えると『レオ』の内容はかなりキャッチーな内容に抑えられていると感じる一方、大人を笑わせようというスタンスがしっかり『レオ』にも活きていると思える部分です。
 さらにプロデュース、そしてレオ役のキャストとして参加しているのが同じく「サタデー・ナイト・ライブ」で活躍して人気を博し、『パンチドランク・ラブ』(2003)や『ピクセル』(2015)など多くの映画にも出演しているアダム・サンドラー氏が名を連ねています。コメディ作品としてはかなり手堅く、「見たい」と思わせる強いフックも持った布陣の映画だとわかります。

嬉しい吹き替え版の魅力

 輪をかけて嬉しいのがそのコミカルなテンションをしっかり日本語吹替にも継承してくれているところです。レオ役を『名探偵コナン』の高木刑事役や元太役であったり、近年では実写ドラマでの活躍も顕著な高木渉氏が担当。相棒のカメのスクワートル役には、タレントや執筆業などマルチな活躍をする松尾貴史氏が務めます。憎まれ口を叩きながらも仲の良い二人の掛け合いがまた楽しく、そのセリフ回しにも笑わせられます。しれっと先生役では女優の貫地谷しほり氏が参加しているのにも驚かされます。

『レオ』のヒットはNetflixの今後にも影響あり?

 しっかり日本人でも楽しめるポップな作品として仕上がった『レオ』の成功はNetflixの今後にも大きな影響を与えそうです。
 そもそもあまりアニメーションのヒットタイトルが登場しないことから、アニメーション分野の縮小も報じられていたNetflix。しかし今秋、これまでAppleTV+での製作を進めていたスカイダンスアニメーションとNetflixが新たにパートナーシップ契約を締結し、当初はAppleTV+で配信予定だった『スペルバウンド(原題)』をNetflixで2024年に配信することが発表されました。『レオ』の成功はこういったアニメーション分野への注力をさらに促進させることになりそうです。
 『クロース』や『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』など賞レースでも活躍する名作を生んできたNetflix。『レオ』をきっかけに今度はしっかり再生回数でも結果が残せる作品のリリースのコツを掴んでいくステージを迎えているのかもしれません。

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