今年フィリピンから突如襲来した『ボルテスVレガシー』。日本のコンテンツがリメイクされる事はよくあるが、その圧倒的な迫力に感動した人も多いはず。『ボルテスVレガシー』より以前にも日本のコンテンツがフィリピンで映像化された例もあるのをご存知の方も多いはずだ。『宇宙刑事ザイド』がそれだ。
日本の宇宙刑事シリーズの版権を正式に取得し、制作されたフィリピン版の宇宙刑事シリーズの続編だ。3人の宇宙刑事が活躍するテレビシリーズだ。フィリピンでは日本コンテンツの人気が高い事が理解できる。それだけではなく『ボルテスVレガシー』では原作となったアニメの再現度が、ずば抜けていたため多くの日本の観客の印象に残ることになった。これだけのレベルの作品が制作出来るなら、フィリピンには他にも特撮ものがあるのではないか? そう考えた人も多いはず。
その通り。フィリピンの特撮はそれだけではない。紹介していきたい。
今回はフィリピンの特撮では多く制作されているオリジナルヒーロー・ヒロインを取り上げる。軸となるのはマース・ラベロである。
彼はまだアメリカにより統治されていた1916年生まれの漫画家・編集者。彼のフィリピンの漫画原作作品が多く映像化されている。フィリピン国内では「フィリピンのコミックの王」と呼ばれているそうだ。彼自身の生涯もドラマ化しているくらい有名人だ。
もちろんマース・ラベロ原作以外のヒーロー・ヒロイン作品も多く存在するが、フィリピンのこうした作品を取り上げるには避けて通れない作家だ。そんな彼の一番有名な作品は『ダルナ』だろう。
フィリピンではスタンダードなスーパーヒロインだ。マース・ラベロのコミックが原作だ。1950年代には早くも映画化もされ、それから何度も(彼女が出演している映画は15作品にも上るのだそうだ)映画化し、テレビ番組も放送されている(テレビ化は4回あるとのこと)。
また『ヒーロー・シティ・キッズ・フォース』(2022年)というアニメーションにも登場しており、後述の同じくマース・ラベロ原作の、ラスティックマンやキャプテン・バーベルとともに活躍するのである。映像化作品では石を飲み込んで少女が変身するという設定だ(この設定は原作からは少々変更されているようだ)。ゲームにもなっている人気作だ。
彼女が身に着けている衣装の金の星のマークはフィリピンの国旗に由来するのだという。そして腰の衣装はフィリピンの先住民族のものからインスピレーションを受けているという。日本でもフィリピンのスーパーヒロインと言えばダルナを思い浮かべる人も多いだろう。
次に紹介するのは『キャプテン・バーベル』。マース・ラベロによって作られたフィリピンのスーパーヒーローだ。魔法のバーベルで変身するというユニークさ。バーベルをつかんで空を飛ぶ(これは作品によって違う)。この作品も何度も映画化やテレビシリーズ化、アニメ化もされている。ネーミングにキャプテン・マーベルっぽさがある。
そして『ラスティックマン』。これもマース・ラベロの原作のスーパーヒーローだ。身体を自由に伸ばしたり、変形させたりする力を持つ。身体を道具の様に変形させて戦ったりもする。幾何学的な模様もユニークだ。元ネタはアメコミのプラスティックマンだろうか。
しかし、フィリピン国内では人気で複数回映画化され、テレビシリーズ化もしている人気ヒーローだ。なおテレビシリーズの敵の一人にモスラという敵女性怪人がいてラスティックマンと死闘を繰り広げるのだが、モスラはおそらく東宝怪獣の名前から取られており日本特撮へのリスペクトがあるのが嬉しい。
他にもマース・ラベロの原作では『キャプテン・ブーム』という超音波をあやつり、ソニック・ロア(咆哮)やソニック・シールドといった技を使うヒーローもいて、これもテレビ番組になっている。また『ドラゴナ』という作品はドラゴンの血を引いている女性が戦うという内容で、これもテレビシリーズ化されている。『フラッシュボンバ』もマース・ラベロの創造したスーパーヒーローだ。彼は手が非常に大きいのが特徴だ。テレビ番組になっている。ドラゴナの最終回では次の番組となったフラッシュボンバと共演する場面もあったのだという。
ヒーローものではないが『ダイセベル』という恋に悩む人魚を主人公とした作品もある。これもなんと5回も映画化され、さらにテレビ番組にもなっている。
このようにマース・ラベロ原作作品といっても様々なヒーロー・ヒロインを描いた特撮作品があり、こうした基礎があったからこそ、『ボルテスVレガシー』のような作品が出来上がったのだと言える。突然、そういった作品が登場したわけではない事が理解してもらえたかと思う。長い歴史の積み重ねがあったのである(とはいえ、こう書くと『ボルテスVレガシー』や『宇宙刑事ザイド』、『ダルナ』(一部)、キャプテンバーベルはGMA、他のマース・ラベロのヒーロー・ヒロインはABS-CBN中心で放送局が違うだろッ! とフィリピンスーパーヒーロー・ヒロインのマニアの皆様からツッコミが入りそうであるが……)