やな上司は全部シュレッダーにかけちゃえ。Netflixドラマ『マインドフルに殺して』で学ぶ、幸せへの近道。

ツナ缶食べたい

 半年ほど前、会社でストレスチェックを受けた。が、予め用意された質問にいくつか答えただけで、その人個人が抱える問題が表層化して上司や責任者に伝わるわけでもないし、結果をもらったとて「上司や家族、友人に相談しましょう」などのアドバイスが返ってくるだけで、職場環境や人間関係が劇的に変わるわけでもないことは、改めて言わずとも誰もが知っている。

 大事なのは、周囲が変わるのを「待つ」ことではなく、自分が変わるために「考えて」「行動する」ことである。そのことを、とある配信ドラマが私に気づかせてくれた。今回、この記事に辿り着いた迷える子羊の皆様には、あなたの人生を変えるかもしれないソリューションこと「マインドフルネス」について、とある男の数奇な運命と共にご紹介したい。そのドラマの名前は、『マインドフルに殺して』だ。

 ちなみに、本稿には人体欠損、殺人、偽証などのインモラルな要素が含まれるので、予めご留意の上、読み進めていただくことをお願い申し上げます。

 大物マフィアの顧問弁護士として働くビョルンは、マフィアのボス・ドラガンやその手下が起こすトラブルを穏便に解決する仕事を請け負っていた。呼び出しの電話にはすぐに対応しなければ脅され、汚れ仕事を一手に担わされている彼は所属する弁護士事務所での出世の道は絶たれ、仕事を優先する姿勢を妻から責められ、愛娘を悲しませてばかりいた。妻はビョルンにマインドフルネスのセミナーを紹介し、効果があるはずないとそれを一蹴するビョルンだが、家族の絆を取り戻す最後の手段として、セミナーに参加する。

 そこでの12週間のトレーニングは、ビョルンを劇的に変えていく。仕事とプライベートを切り分け、家族との時間を捻出することに成功したビョルンは、次第に妻と娘の信頼を取り戻し良き父に返り咲く。しかし、娘を別荘に連れて行く道中、ドラガンから緊急召集の電話がかかってきた。ドラガンは敵対マフィアの幹部と揉め事を起こし、その現場を動画に撮られ拡散されてしまったのだ。ほとぼりが冷めるまで、身を隠すしかない。警察の追っ手から逃げるため、ビョルンはドラガンを車のトランクにかくまい、窮地を脱する。

 娘とマフィアのボスを乗せた車は、無事に別荘に辿り着いた。美しい湖が一望できる別荘では、娘が一緒に泳ごうとしきりに誘っている。娘との楽しい時間か、ボスの命令を実行するか。その時、マインドフルの教えがビョルンの頭をよぎった。したくないことは、しなくていい―。ビョルンは娘と共に最高の休暇を過ごした。ドラガンを灼熱の車内に閉じ込めたまま

 その結果ドラガンがどうなったかは上の画像の通りだが、かくしてビョルンは死体の処理とドラガンが生きているように見せかけること、警察や敵対マフィアからの疑いの目をかわしながら、自分の人生を充実させることに邁進していく。全ては、マインドフルネスの教えがあってこそだ。

 ドイツ発のこのブラックコメディは、一人のストレスフルな社会人が人生を前向きに変えていく教えと出会い、目の前の問題を自分の努力で解決し、家族との時間を豊かにするというヒューマンドラマである。ただしその手段とは、殺人であったり、文書偽造だったり、悪質な地上げだったりするのだが、まぁそれは個人の幸せの前には些事でしかないだろう。人間は幸せになるために生まれてきたのだから、ある意味でビョルンの姿勢が最も人間らしい、とも言える。

 このドラマの素晴らしい点は、作中で紹介される「マインドフルネス」とは特別な器具やお金などを必要とせず、我々の日常でも今すぐに取り入れられる、ということである。代表的な例は、ストレスやプレッシャーを感じた際には「深呼吸」をしろ、というもの。怒りや焦りにかられ衝動的に行動するのではなく、呼吸を整え自分をリラックスさせ、目の前の問題を整理する時間を作る、という効果がある。簡単そうに思えて、忙しくなるとつい忘れがちなことを、マインドフルネスは重視する。

 とくに現代人は時間に追われており、様々な仕事ややるべきこと、やりたいことなどを複数抱えているものだ。そんな時は、「集中」せよと教えが入る。目の前のタスクを細分化し、「一つ」を片付けることに意識をフォーカスする。その際、他のことはシャットダウンし、遊ぶ時は遊び、働く時は働く。それだけで、人生に少しずつ余裕が生まれてくる。

 そろそろ読者諸兄はこの文章を怪しいセミナーの勧誘か何かと思い始めた頃だろうが、このドラマを観ている最中はこれらの振る舞いや意識で人生が良い方向に向かっていくことを信じられるし、自身の生活に持ち帰るものはとても多いと感じるはずだ。どうせ月額料金を支払うのなら、配信作品をただ楽しむだけでなく、毎日を輝かせた方がいいに違いない。その手助けをしてくれるのが、『マインドフルに殺して』なのである。

 ただ一つ問題があるとすれば、ビョルンという男は思い切りが良すぎたことである。先述の通り余暇の充実を優先した結果、ボスであるドラガンは死亡。初めて人を殺したビョルンの次のミッションは遺体の隠蔽だが、マインドフルネスを活かし、死体をバラバラに切り裂きシュレッダーで細切れにして湖に遺棄するという『冷たい熱帯魚』よりも乱暴な後片付けを実行。その地獄絵図な死体クッキングの様子は、ぜひNetflixのアプリを立ち上げ、本作のサムネイルを探してみてほしい。全てを察せると思う。

 さらに、ビョルンは切り取ったドラガンの親指を用いて部下への指示書を偽装し、彼が生きていることを信じ込ませながら、自分が連絡係として組織内での立場を強めていくよう画策。それと並行して、娘の幼稚園への入園を認めさせたり、組織の裏切り者を炙り出して敵対マフィアに差し出したり、娘がうっかり警察官に何か話さないかとハラハラしたりと、常人ならキャパオーバー間違いなしの日々を送るのだが、もちろんそれにも、マインドフルネスが役に立つ。

 ビョルンは、持ち前の冴えわたる頭脳と法知識、そこにさらにマインドフルネスが授ける大いなる自信と緊張の緩和が合わさったことで、実質マフィアの頂点に立ちつつ、良き夫であり父の役割を担っていくことになるのだ。その過程でどんどん死者が増えたり、関係ない人間の部屋に手榴弾が投げ込まれたりするのだが、まぁ誤差みたいなものだろう。その覇道がいったいどのような結末を迎えるのかは、ぜひ皆様の目でお確かめいただきたい。

 最後に、本ドラマのもう一つの良い点が見やすさである。本作は全話が35分以内で計8話とコンパクトなシリーズであり、寝る前のスキマ時間に観るのも一気観にも易しい作品に仕上がっている。日本語吹き替え音声も対応しており、ビョルンが「第四の壁」を超えてこちらに話しかけてくる演出は、字幕を読むよりも日本語の声として受け止める方がより面白かった、という筆者の体感も併せてお伝えしたい。

 死者多数、マフィアが睨み合う一触触発の状態にありながら、主人公ビョルンだけが異常にハキハキと、快活としている。その充実感を支えるのがマインドフルネスであり、その効果がてきめんすぎることは彼の成り上がりストーリーが証明している。後は、このドラマを観た読者の皆様が、この教えをどう人生に取り入れていくかにかかっている。ムービーナーズの常識ある読者各位は人を殺すことはあり得ないだろうが、あなたの悩みを吹き飛ばしてくれるかもしれない答えを、ぜひ実践してみてほしい。

『マインドフルに殺して』はNetflixにて配信中。
https://www.netflix.com/title/81554969

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