2025/01/09
太平洋戦争関係人肉食関係目録 ― 針谷和男『ウエワク 補給杜絶二年間、東部ニューギニア第二十七野戦貨物廠かく戦えり』
2023年の8月19日に一度使っただけだった【太平洋戦争人肉食関係本】のカテゴリを1年半ぶりに用いる。
なお、グロテスクな内容を伴うので、苦手な方はブラウザバックを推奨する。
今回ご紹介するのはこちらの、
個人の戦記にしては珍しい(?)大判で、本文は上下二段組み、ページ数は330頁(※2)と相当な力作と言えるだろう。
こちらの本における人肉食に関わる描写は「ラインボ山荘」の章、本文p160~162にある。
補給路が断たれ、サゴ椰子の澱粉でなんとか食いつなぎ食糧自活の道を探っていた中、「奇怪な噂が軍内に流れた」。
うちつづく東奔西走の作戦、なかんずくアイタペの戦で悲惨な敗退を余儀なくされ疲労困憊のあげく、転進して行った所属部隊への追及もできずに遂に遅留兵化した将兵のうち、極度の食糧欠乏と疾病の為、言語に絶する肉体的精神的負担に堪え切れず思考力も失われ、遂には発狂した小数の者たちが、何人かづつで奥深いジャングル中に隠れ住み、時々転進路のあたりに出没して強盗殺人を行っているというのである。
(…)甚だしきは、その戦友の人肉すら切りとって、それを食っている、という噂さえ拡がっていた。
(…)軍憲兵隊の某下士官から聞いた処によると、そのような事件は各兵団地域ばかりでなく、猛錦山軍司令部お膝元であるカラワップ地区や、わが廠の一部が入植したバロン附近においても数件発生しているという。
ある日のこと、筆者が猛錦山に行った際、後方を歩いていた筆者の当番の兵長が四、五人の兵に声を掛けられた。少ししてから血相変えて走ってきたので、何があったのかと問うたところ、兵長は額の汗を拭い、
「あすこにいた兵隊の一人が、私の姿を上から下までじろじろ見てから、声をかけてきて、『兵長、あんた大分元気そうだな。飯盒十四、五杯』などというんであります。(後略)」
と話した。
その時は「笑い話で済んだ」とした上で、以下のように続く。
会話の中に出てきた“飯盒十四、五杯”については、一寸注釈を要する。その頃、兵隊たち同志の一種の流行語になっていたこの言葉は、(…)仮りに人一人の身に付いている肉の分量を戦場での食器である飯盒で計ってみると、普通程度の体格の男子の場合で十二、三杯分位の分量があるという。(…)現地自活生活に全面移行して、将兵一人々々が夫々自分自身の体位低下を気にしていた時だけに、(…)「貴様の飯盒十四、五杯は変らず、元気そうだな」などという表現で冗談口をたたき合っていたものだが、さすがに時、処及び相手の如何によっては、心胆を冷やさせられる言葉にもなろうというものである。
戦記物を読むと同じような話が出てくることは多い。
例えば、「靴が壊れたので死人から失敬しようと脱がせにかかったら、『まだ生きてるぞ』と言われた」とかはよく見かけ、記憶力乏しい私の頭にも残っている。
ただ、今回読んだ「飯盒十四、五杯」のやり取りに関しては他で読んだ記憶がとんとない。今後、人肉食との絡みからも頭の片隅に置いておこう。
なお本書の人肉食に関しては、
狂人たちによる人肉事件の噂は、一時尾鰭がついて色々な話題を提供し取り沙汰されたが、さすがに軍当局の断固たる取締りもあってか、徐々に下火になった。
と〆られている。
以前にこちらの記事にのせた人肉食の項目に沿って書くなら、本書は「戦中に人肉食の噂を聞いた話」となるか。
人肉食関連書籍は今後も入手したら引用していきつつ紹介したい。
余談ながら、久方ぶりに「豊谷秀光」で検索を掛けたらAmazonのマケプラに『破倫 吾れ戦友を食う―東部ニューギニア敗残兵の告白』が5,999円、『ニューギニア鈍兵録 地獄行脚』が4,500円で出ているではないか。特に『破倫』の方は底値に近いと思うし出されているのは古書組合所属のお店なので、未入手の方はこの機会にいかがだろうか?
※1 「序にかえて」より。
※2 ノンブルのカウント開始が本文からなので、実際のページ数はこれより多い。