kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「『STAP細胞』の捏造」は理研の「成果主義」の問題を露呈したもの

ニュースを知って大いに溜飲を下げた。珍しく、「朝日新聞デジタル」とやらが、無登録者でもそれなりに長い記事が読める出血大サービス(?)をしている。

http://www.asahi.com/articles/ASG6D5RD5G6DULBJ013.html

「成果主義、STAP問題の一因」理研再生研の解体提言

編集委員・浅井文和


 STAP細胞論文をめぐる問題で、理化学研究所の改革委員会は12日、発生・再生科学総合研究センター(CDB)の成果主義やずさんな管理体制が高じ、不正につながったと厳しく断じた。真実の解明をおろそかにしたと指摘された組織は、生まれ変われるのか。


■検証阻んだ秘密主義

 「一回更地になって、考えて下さいということです」。改革委の岸輝雄委員長は記者会見で、現在のCDBの組織では、研究不正の防止は難しいと明言した。

 提言書は、成果を求めるCDB側が、小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーの採用や論文作成、発表方法をめぐり、異例の対応を重ねてきたことを明らかにした。

 小保方氏のCDBへの就職は、研究内容を知っていた西川伸一副センター長(当時)側から打診された。小保方氏は重要書類の提出が締め切り日に間に合わず、選考にあたる人事委員会は過去の論文や応募書類を精査しないまま、推薦書も確認せずに面接した。また応募者全員に行っている英語の公開セミナーを省略しただけでなく、非公開セミナーも行わずに採用した。

 改革委は「iPS細胞研究を凌駕(りょうが)する画期的な成果を獲得したいとの強い動機に導かれ、小保方氏の採用は最初からほぼ決まっていたものと評価せざるを得ない。こうした理研CDBの成果主義が有する負の側面が、STAP問題を生み出す一つの原因となった」と指摘した。

 笹井芳樹副センター長の方針で、秘密保持は採用後も続いた。提言書は、笹井氏が共著者との連絡を十分に行わなかったため、共著者が十分にデータを検証できなかったと指摘。また笹井氏だけでなく、CDBのトップ層が論文発表まで秘密とすることを容認したため、通常行われている研究者間の討論会などでも情報が共有されず、チェック機能が働かなかったとした。

 論文の報道発表の際も、割烹着(かっぽうぎ)姿で研究する小保方氏を公開するなど派手な広報が展開され、「必要以上に社会の注目を集めることになった」と指摘した。

 笹井氏は、論文をめぐる疑惑が指摘された後は、不正の発覚を避けるような行動をした。小保方氏からSTAP論文の画像に博士論文の画像を使ったことを聞いた後も、調査委員会にはこれを伝えず、小保方氏に画像の撮り直しを命じ、「STAP現象は有力な仮説である」と繰り返した。

 こうした行為について改革委は「一般国民、特に再生医療への応用を期待した難病患者に大きな期待を抱かせた」と指摘。「笹井氏の行動は、理研CDBの成果主義の負の側面を端的に表している」と強く批判した。

(朝日新聞デジタル 2014年6月13日05時29分)

いやあ、よくぞ言ってくれた。思わず赤字・青字・ボールド・大型フォント多用の下品な引用をしてしまって、朝日新聞の浅井文和記者にはまことに申し訳ないが、記事もよく書けていると思う。2面に「不正 成果主義の果て」との大見出しをつけているのも、最近の朝日には珍しいクリーンヒットだ。同じ2面に掲載された「改革 直ちに実行を」との見出しがついた、浅井記者の署名入りの解説記事にも共感した。

最近、この件に関して、小保方晴子個人やその周辺の問題に矮小化して面白おかしく書かれた、某有名ブログの陰謀論まみれのヨタ記事を読みながら、その程度の認識で良いのかとずっと思っていたところだったが、改革委は問題の本質を抉ってくれたし、朝日も正鵠を射た記事を書いてくれた。マスコミ報道の質の低下が言われて久しいが、やはり市井の有名ブロガーなんかより大新聞の専門記者の方がずっとまともな記事を書く。公明党の集団的自衛権行使容認やプロ野球・読売球団の独走など不愉快なニュースばかり報じられてイライラを募らせていた昨夜だったが、この報道で一気に溜飲を下げた。

いうまでもなく、自然科学の研究は、企業における研究開発(R&D)など比較にならないほど、「金になる」成果を出すことが難しい分野である。昨日、「残業代がもらえない」ことよりも「長時間労働」の方がはるかに深刻な問題 - kojitakenの日記 に書いたように、企業における「成果主義」も弊害が多いけれども、それを理研などの研究機関にまで適用しようとした新自由主義の政治の貧困が、「『STAP細胞』捏造」事件を引き起こしたのである。

もちろん小保方晴子は問題だらけの研究者失格者だが、それ以上に「一流の科学者」であること自体には疑いない笹井芳樹の責任が重い。しかし、問題を小保方晴子の滑稽なキャラクターや、笹井芳樹の山中伸弥に対する嫉妬心などのみに帰して、彼らを笑いものにするだけで終わらせるのは、この事件を「娯楽として消費する」態度にほかならない。本丸はそんなところにはない。小保方晴子や笹井芳樹の研究不正を生み出したのは、「研究の価値は金になるかどうかで決まる(=金にならない研究には価値がない)」という思想であり、元をたどれば無修正の資本主義への回帰を志向する新自由主義の政治と経済であることを正しく認識すべきである。「成果主義」は何も理研が自発的に定めた方針ではなく、国策を受け入れて成果主義に走ってしまったのである。

理研再生研(CDB)はもちろん解体されるべきであり、小保方晴子はもちろん、笹井芳樹も理研を懲戒解雇されるべきであると私は思うが、小保方晴子や笹井芳樹らをスケープゴートにして問題を一件落着させ、75日ほど経った頃に改めて、理研を特定なんちゃらに指定するなどという茶番を安倍晋三や下村博文がたくらんでいないか、それにも警戒の目を光らせるべきであろう。