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「デジタルの社会実装」が日本の国際競争力復活に、宮川氏が「SoftBank World 2022」で基調講演

 ソフトバンクの法人向けイベント「SoftBank World 2022」が開幕した。28日~29日の2日間にわたって、さまざまな公演や展示が行われる。

 初日となった28日、ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏が「ニッポン、変えテク。~デジタルの社会実装で変わる、日本の未来~」と題して基調講演を行った。

デジタル化進むも欧米にはいまだ差

 2021年のSoftBank Worldで、世界のデジタル化に日本が取り残されており、国力低下につながっていると危機感を示した宮川氏。日本復活には、産学官が連携したデジタルトランスフォーメーションが必要と訴えていた。

 2022年に入り、日本のDXはどうなったのか。宮川氏は、硬貨の製造減少やテレワークの普及、電子印鑑などを例に挙げて「ほかでもデジタル化が進んだことを感じることはたくさんあるが、特に中小企業のデジタル化はまだ始まったばかり」と語る。

 同氏は、日本では大企業でも効率をあげるためのデジタル化がようやく始まった段階と評価。一方ヨーロッパなどでは、ITを軸に企業が成長しており日本とのデジタル格差が広がっていると指摘する。

 日本と同様に石油資源に乏しいスウェーデン。首都ストックホルムでは、冬が長く太陽光発電も難しい。しかし、その一方でIT利用を積極的に採用。146カ国、700都市を対象とした「World Smart City Award」(2019年)でストックホルムは1位を獲得している。

 2045年までの脱炭素を目指す同国では、デジタル技術を駆使してスマートシティ化を進めている。AI制御の地域熱供給システムにより、効率的なエネルギー供給を実現していることなどが紹介された。

 以上はスウェーデンでの一例だが、日本でのスマートシティの進め方について 宮川氏は「地域ごとに異なる課題を抱えていて、その解決方法も異なることが重要」と説明する。

 地方では過疎化が深刻さを増す一方で、都市部においては人口集中による感染症や災害リスクが増大している。2021年、G7の中で東京がもっとも混雑レベルが高い都市とも評価されており、宮川氏は「都市と地方のそれぞれが持つ課題に寄り添って(スマートシティ化の)取り組みを進める必要がある」と語った。

都市と地方でデジタル化推進

 ソフトバンクが進める地方でデジタル化の取り組みはさまざま。

 たとえば、長野県伊那市では高齢化による訪問診療の需要増加を受けて、医療機器を搭載した車両で自宅を訪問しての遠隔診療の取り組みが進められている。

 さらに、鉄路のない茨城県境町では、自動運転バスを用いる次世代交通インフラが整備されつつある。運行開始から1年半が経過しており、町民からの評判も高い。累計乗車人数は1万人を超えているという。

 さらに福島県会津若松市では、スマートフォンを活用したデジタル防災に力を注いでいる。災害発生時にはスマートフォンの位置情報を利用して、近くの避難所までのルートを確認したり危険エリアを地図に表示したりすることで、危機を未然に回避する。

 こちらの取り組みは現在、本格運用に向けて住民への説明や訓練が行われているという。

 データの連携により、個人に合わせた防災サービスの提供も見込め、会津若松市は「誰一人取り残さないデジタル地域防災」になるとしている。

 一方で、都市部では「日本流のスマートシティ」とする取り組みも合わせて行っている。ソフトバンクが入居する本社ビルにおいても、センサーやカメラによるセンシングを実施。入館者数や性別・年齢を自動で判別しており、天気・イベント情報などと組み合わせて来館者数の予測などの取り組みにつなげる考えもある。

 ビル内では、顔認証入館や掃除ロボット、配膳ロボットが稼働しており、特定エリアへの侵入検知といった取り組みも行われている。

 さらにデジタルツイン化による、災害発生時の避難シミュレーションなども行い、より安全な避難を事前に検討できるといった万が一への対策も備えられている。

 同社では、スマートシティ化にデジタルツインは必須のものとしており、こうしたシミュレーションで社会全体で最適化が見込めると説明している。

小売業界にもデジタル化の波

 スマートシティと並び、小売業界の課題解決に臨む「スマートリテール」も紹介された。

 小売業界では、慢性的な人手不足が課題とされており、およそ半数の企業が人手不足を訴えているという。物価上昇などにも触れ「こうした厳しい環境を勝ち抜くにはデジタルの力が欠かせない」と宮川氏。

 店舗運営や店舗開発に有効な「人流データ」。人がどう移動するのかを示すものだが、従来のデータでは予測が難しいとされる中、携帯電話やGPSなどから取得できる人流データは、特定の小さなエリアを調べたり、時系列での動きも把握できたりと使い勝手の良さをアピールする。

 また、このほかにもAIカメラによる商品の欠品検知、購入者が財布やスマートフォンを取り出す必要のない、顔認証決済などオペレーション改善、顧客体験の向上が進められている。

日本復活のカギはデジタルの社会実装

 こうした取り組みに欠かせないのが5Gという宮川氏。現在はNSA(ノンスタンドアローン)での展開が進んでいるが今後、SA(スタンドアローン)での整備が進むことで、現在実現している高速通信以外の5Gの特長も実現する。

 工場の自動化、店舗の無人化、遠隔手術など低遅延で実現できるものや同時多接続による自動運転など、スマートシティ化の目処もつけられるようになる。建設業界では、遠隔地からオペレーターが現場の建機を操作できるようになることから、人手不足の解消が期待されている。

 さらに、交通分野では車両のセンサーと連携して歩行者のスマートフォンに自動車の接近を警告する取り組みなどがホンダとの間で進められているという。

 一方で、ソフトバンクが設置し、ユーザー企業が利用できる「プライベート5G」も2022年度内に提供される予定。「パブリック5Gとローカル5Gのいいとこ取り」というもので宮川氏はこれをもって「産業のDXを加速させる」と熱意を示す。

 さらにソフトバンクは、デジタルの社会実装によりさまざまな産業の変革に寄与できるとした上で「通信インフラの枠を超えて次の時代の社会インフラとして、企業のデジタル化をサポートする」とも語った。

 「日本の国際競争力を取り戻すカギはデジタルの社会実装。暮らす人、働く人、社会全体をより良くするために誰1人取り残されないデジタルの社会実装をスローガンにこれからも邁進していく」とした。