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ソフトバンク孫会長は何を語った? 法人向け「SoftBank World 2022」開幕

 ソフトバンクとSB C&Sは、法人向けイベント「SoftBank World 2022」を開幕した。7月28日~29日の2日間にわたってオンライン形式で開催される。

 今回で11回目を迎える「SoftBank World」。今回のテーマは、「ニッポン、変えテク。テクノロジーで、この国のビジネスに革新を。」となっている。

 開幕に際し、ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏による特別講演が実施された。本稿では、その内容をお届けする。

孫氏

幼少期のエピソードと「DX」

 孫氏は冒頭で、(昆虫の)チョウが大好きだという自らの幼少期の体験を話した。「たまたま幼虫を見つけて大事に育てていたら、それがさなぎになって、チョウが生まれた。最初の姿とはまったく別の美しいものに変身したことに感動した」と同氏。

 続いて今回のテーマとして「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を紹介した孫氏は、「FAXをメールに変えるくらいでは、幼虫がさなぎに変わった程度。本当の意味でのDXは、単にデジタル化するだけではなく、AI化によってデータをフル活用し、未来を予測したり変革をもたらしたりすること」と力説する。

日本の状況を変えるために

 孫氏は日本の状況についても言及。「最近は円安になった。日本の競争力があったころは円高で、その競争力は世界でもトップクラスだった。しかし、今では日本の競争力は34位まで低下している」と同氏は語る。

 この状況を変えるために、孫氏はDXが必要だと語る。そして、“美しいチョウ”としてDXの行き着く先が、“AI革命”だという。

 「たとえば未来を予測できる水晶玉を持っているとする。僕は競馬をやらないが、もし水晶玉があれば、レースの勝敗を予測できて大金持ちになれる。もちろんそれは競馬だけに役立つものではなく、天気予報や為替などあらゆるものを予測でき、さまざまな問題の解決につながる」と孫氏。

 孫氏は続けて、「AI化によってコストが半分ほど削減できたり、イノベーションが40倍のスピードで創出できたりするといった調査結果もある」と語った。

諸外国と比べて低いAI導入率

 しかし、日本の企業におけるAI(人工知能)の導入率は、海外諸国と比べて遅れているようだ。孫氏は「日本のAI導入率は、スリランカやチリ、ロシアよりも低いというデータもある」と紹介した。

 日米間での比較データも披露した孫氏は、「AIが必要かどうかといった議論をしている間に、諸外国はどんどん導入を進める」と警鐘を鳴らす。

「デジタル」と「アナログ」の違いは?

 「そもそもDXとは何か?」と切り出した孫氏は、温度計にたとえてDXを紹介した。「アナログの温度計は目で見て温度がわかるが、それを人に伝えるためには、温度をメモする必要がある。デジタル温度計であれば、そこからいろいろな命令セットに伝達できて、データを取れる」(孫氏)。

 では、アナログとデジタルの大きな違いはいったい何か? 孫氏は「デジタルのものにはデータを処理できるCPUが入っていて、アナログには入っていない」と紹介。

 続けて、「CPUによってデジタル化ができて、そのデータを大量に集めるとディープラーニングができて、AIとしてさまざまな処理ができる。それをまたデバイスに戻して、デバイスがほかのデバイスをコントロールする」と語った。

1兆個のCPUがあふれる世界はすぐそこに

 デバイスそのものの進化も必要、とした孫氏は、CPUの進化を振り返り、「この50年近く、CPUの能力は進化を続けてきた。『ムーアの法則(編集部注:半導体の集積率が18カ月で2倍になるとされる法則)』に限界も来ているのではという人もいるが、私はそうは思わない」とコメントした。

 孫氏は、ソフトバンク傘下のArm(アーム)について、「Armの累積のCPU出荷数が2500億個を超えた」と紹介。累積の出荷数は、4~5年ごとに倍になっているという。

 「2500億の倍は5000億。5000億の倍は1兆。つまり、1兆個のCPUが世界中にあふれているという状況がもう目の前に来ている」と同氏は強調する。

 そういった社会では、人間同士のコミュニケーションだけでなく、物同士のデータのやり取りも増える。「たとえば工場も、ロボットのようなかたちになる」と紹介した孫氏は、米テスラのイーロン・マスク氏とのエピソードを披露した。

 「ちょうど3~4年前に、彼(マスク氏)が直接テスラの工場を案内してくれたことがある。まあ驚いた。自動車の工場といえば多くの人が働いているイメージがあったが、その工場にはほとんど人がいなくて、ロボットが連携しながら車を組み立てていた」と、同氏はそのときの驚きを語った。

 データのやり取りや量が増えるとともに、そのデータを処理するデータセンターでの計算量なども増えていく。「データの利活用はどんどん進んでいく」とした孫氏は、ディープラーニングの進化に話題を変えた。

 「ディープラーニングは人間の目よりも識別率が高くなってきているし、AIは人間の耳の聞く力を超えてきている」と孫氏。「AIは、人間の運転手よりも事故を起こさず走れるようになってきた」として、自動運転が一般的に使われる時代の到来を見すえる。

 孫氏は、同氏の親しい友人でもあるというジェンスン・ファン氏が率いるNVIDIAの名前を出し、「NVIDIAがGPUの世界ナンバーワン。GPUの性能は5年で13倍になった」と紹介。AIやディープラーニングも進化を続けている、として今後への期待感をのぞかせた。

グループ全体でAI化を推進するソフトバンク

 ソフトバンクも、グループ全体でAIの活用を推し進める。孫氏は、「ただの研究ではなく、日常の業務で最もAIを活用しているのが我々ではないかと思う」と自信を見せる。

 たとえばヤフーでは広告の審査やユーザーへの商品レコメンドにAIが活用され、PayPayでは不正防止などにAIが用いられている。

 ヤフーなどを傘下に置くZホールディングスでは、AI関連の人材を5000人増員する計画を立てているほか、AI関連で5000億円の投資を行う予定もあるという。

 AI活用の具体的な事例などをビデオで紹介した孫氏は、成長企業への投資として「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の活動も紹介。

 「AI関連のユニコーン企業が世界でだいたい1500社くらいあるが、ソフトバンクグループはその3分の1にあたる475社の株主になっている。そのほとんどが筆頭株主かそれに近いポジションで、僕は毎日のようにいろいろな経営者からプレゼンを受け取っている。それは驚くような話の連続」と同氏は語る。

日本のDNAは“ハイテク国家”

 孫氏は再び冒頭の話に戻り、「FAXをメールに変えた程度では、幼虫がさなぎになったようなもの。もともと日本のDNAは“ハイテク国家”で、日本のビジネスマンやエンジニアは素晴らしいテクノロジーのDNAを持っているはず」とコメント。

 続けて、「日本のすべてのビジネスマンやエンジニアがDXに目覚め、AIに目覚めることで、幼虫やさなぎのままではなく、美しいチョウになって大空を羽ばたくようになってほしい。『いつからやるんですか? 今でしょう』と誰かが言っていましたね。やりましょう。今からよろしくお願いします」と熱を込めて語り、講演を締めくくった。