Ricardo Santos and His Orchestra
POLYDOR/UICY-1548 別に新譜でも何でもないのですが、思いがけなく入手することが出来たアイテムということで。個人的な思い出になるのですが、かつて我が家にはこんなLPがありました。
もう現物は紛失しているので、これはネットで同じジャケットのものを探した画像ですが、タイトルは「Cherry Blossom Time in Japan」だったような気がします。父親が外国に行っていたので、その時に買ってきたPOLYDORのドイツ盤だったのでしょう。それは、「Holiday in Japan」というタイトルで、国内盤も出ていて、当時はかなりヒットしていたようですね。もちろんモノーラルでしたが、それを安物のレコードプレーヤー(SPレコードと切り替えができる回転式の圧電型カートリッジ・・・なんのことだか分からないでしょうね)で聴いていましたね。それは「リカルド・サントス楽団」という「ラテン・バンド」が、日本の曲を様々なダンス音楽にアレンジして演奏しているものでした。恐ろしいアレンジではありません(それは「
オカルト・サントス」)。よくあるパターンで、日本と中国の区別が全くついていないために、いかにもな中国風の5度平行のフレーズが頻繁に出てくるのにはものすごい違和感を持ちつつも、けっこうなヘビーローテンションで聴いていましたね。結局、好き嫌いにかかわらず、そのアレンジの細かいところまで体の中に刷り込まれてしまっていたのです。
最近、これを無性に聴きたくなって検索してみたら、ちゃんとCDになっているものがAmazonで販売されていたではありませんか。さっそく取り寄せてみたら、それは2001年にリリースされていたものでした。正確には、1985年にCD化されたもののリイシューのようでした。あの懐かしい音楽を、今度はちゃんとした音で聴くことができるようになりました。
そうなんですよ。まさかと思ったのですが、おそらく1960年台に作られたこのアルバムは、しっかりステレオで録音されていたのですよ。そして、音のクォリティも、昔サファイア針で聴いていたころには想像もできなかったような素晴らしいものでした。
リカルド・サントスというのは、ドイツの放送局のビッグ・バンドの指揮者とアレンジャーを長年続けていたウェルナー・ミューラーの「芸名」でした。1954年にはラテン色の強いバンドとしての特徴を示すためにこの芸名で自分のバンドを結成して、これが世界中で大ヒット、後に本名でのバンドでもやはりヒットを放ちます。
今回のCDは、もう、どれを聴いても涙が出てくるような素晴らしい(もちろん、かつて聴いていた音に比べたら、という意味で)音とアレンジのセンスが感じられます。基本的に「ラテン・バンド」の体裁をとっていますが、そんなジャンルにこだわらずに、ありとあらゆる当時のダンス音楽の手法が盛り込まれているんですね。「花」や「浜辺の歌」などは、ほとんどマントヴァーニか、と思えるほどの「ムード・ミュージック」の王道の甘ったるいストリングスで迫りますし。そのストリングスも、「お江戸日本橋」でフレーズの最後を埋めている華麗なスケールの応酬は、まるでチャイコフスキーのようですから。もろコンチネンタル・タンゴとして編曲されている「五木の子守唄」も、そのストリングスとタンゴのリズムが見事にかみ合って、まるで最初からあったタンゴの曲のように聴こえてしまいます。もちろん、「春が来た」などではストレートなスウィングが堪能できます。面白いのは「夕やけ小やけ」。最初はのんびりしたスウィングで始まったものが、途中でいきなりロックンロールのリズムに変わって、ノリノリのサックス・ソロが登場したりしますからね。
さっきのストリングスや、ソロ楽器が、例えばピッコロとバス・クラリネットのユニゾンというように、ここではクラシカルなオーケストレーションの素養も感じられます。そういえば、
こんなアルバムでは、ミューラーはベルリン・フィルのメンバーへのアレンジまで提供していましたね。
CD Artwork © Universal International