有機エレクトロニクスバレー構想の本質
先週11月6日の朝日新聞山形版で「有機ELバレー〜明日への岐路〜」というタイトルで連載が始まった。
毎週木曜日、四回の連載なんだけど初回からツッコミが鋭い。
現場を預かり状況を知り尽くす実施者としては、少々訂正させていただきたいことがあったり、県民の方々の中にもこのバレー構想を誤解しておられたり、理解しておられない方も結構多いと見受けられるので、ここにそのエッセンスを紹介したい。
まず、有機エレクトロニクス研究所ホームページから:
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所長メッセージ
有機エレクトロニクス研究所へようこそ。所長の城戸です。有機ELは、すでに携帯電話の表示部などに使用され、有機半導体技術の代表格として知られていますが、他にもトランジスタや太陽電池、メモリーなど、多くの有機デバイスが研究されています。大面積化が容易で、高性能、低コスト、などシリコンに代表される無機半導体とは、まったく異なる技術を提供するのが有機デバイスです。
山形県では、城戸の提案により今後大きな規模になると期待される有機半導体産業の集積を目指して、有機エレクトロニクスバレー構想を打ち上げ、中核研究開発拠点として平成15年に有機エレクトロニクス研究所を設立しました。
山形大学工学部と連携しながら、バレー形成に向けて、研究開発と産業の集積をフェーズ2,3と段階的に進める構想を提案しています。
最初の7年間のフェーズ1では、有機ELパネルの実用化技術の開発に主に取り組み、有機白色照明の実現を目指します。次の5年間、フェーズ2では、有機EL白色パネルの普及とともに他の有機デバイスの実用化技術の開発を推進し、企業誘致、ベンチャーの創出、と産業を集積し、さらにフェーズ3での5年間で、他の有機デバイスの実用化も実現し、山形を有機半導体デバイスの研究開発拠点だけではなく産業の集積地へと導きます。フェーズ3終了時には、100社の有機半導体関連企業を集積したいと思います。
有機の山形をよろしく。
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この様に本バレー構想は、有機半導体産業の集積を「研究開発で行う」という、これまでの補助金などの「インセンティブをメインにした企業誘致」とはまったく異なるのが特徴。
お手本はアメリカのシリコンバレー。
具体的には米沢には山形大学工学部という有機ELを始めとする有機半導体材料やデバイスの研究で世界のトップを突っ走る研究教育機関が存在するので、これを基礎研究の核にする。そして実用化研究を行うために県が予算を付けて有機エレクトロニクス研究所を設置した。
だから、県は大学の基礎研究成果を地元企業に還元、産業活性化のために予算を付けたのである。
ということで、
訂正その1。
「有機ELバレー」ではなくて「有機エレクトロニクスバレー」であり、研究所では有機ELの実用化研究のみを行うのではなく、太陽電池やトランジスタなど他の有機半導体の研究開発も行う。
訂正その2。
「補助金」という呼び方。
補助金というのは本来、特定の事務または事業を補助するために交付する金銭をいう、はずなのでバレー構想のように新規に事業を立ち上げる場合は県の「予算」じゃないのかなあと思うのである。
補助金と呼ばれるとちょっと違和感があって、山形大学工学部の我々の研究成果の実用化のための「補助金」的なニュアンスがあるので、実際にはそうじゃないということを知っていただきたい。
あくまでも主体は山形県であり、私はそれをお手伝いしているだけなのである。
立ち上げ当時の高橋知事や野村商工労働観光部長から「予算」を付けるので有機ELを使って県内産業を活性化して欲しいと依頼されてスタートしたのであって、私から有機ELの実用化のために「補助金」を付けて欲しいと頼んだわけではないのだからね。
訂正その3。
シリコンバレーのような産業集積地を作るのには20年はかかる。だから、当初から開発期間もフェーズ1(7年)、フェーズ2(5年)、フェーズ3(5年)あわせて17年間を予定しており、それぞれのフェーズの終了時には成果を評価する、ことになっている。
だから、我々実施者としては「17年続くことを前提」に研究者や技術員などの人材を集め、研究開発を進めてきた。
しかし、ご存知のとおり、高橋知事から齋藤知事へ替わり、商工労働観光部および担当の工業振興課の職員も替わり、県庁には当初のビジョンを共有する人達は誰もいなくなってしまった。
今回の朝日新聞の記事でも「補助の継続、県は慎重」と大きな文字で紹介されてるとおり、今になってフェーズ2の予算をどうするのか、まだ正式決定していない状況なのである。
もちろん、フェーズ1で終わればバレー構想は中途半端に終わる。
これまで蓄積したノウハウ、技術、知財、人材、すべての努力は水泡に帰す。
ようやく実をつけ出した木を切り倒すようなものである。
でも県民として安心していいのは、知事が積極的なこと。
忘れもしない2006年2月21日、私が初めて齋藤知事と知事室にてお目にかかった際、これまでの成果を報告してこれからの予定もお話した。そして最後にフェーズ2の件を確認したところ、「成果がでていればもちろん続けます。」と明言されたのである。
ご存知のとおり、今回の選挙のマニフェストでも「有機ELの支援」を掲げておられる。ここでいう有機ELとは有機ELバレー、すなわち有機エレクトロニクスバレーのことであろう。
また、今年2月26日に研究所で開催された外部評価委員会においてオブザーバーとして出席しておられた高橋商工労働観光部長にフェーズ2の予算について尋ねたところ、ここでも「成果がでていれば続ける。」との返事を得たのである。
さらに、議会に関しても今年の5月13日に後藤源議員を始めとする商工労働観光常任委員会のメンバーが研究所に視察に見えられ、その時にこれまでの成果やフェーズ2を含む今後の予定についてお話し、議論させていただいた。
継続に関してもご理解いただけたようである。
だから、記者さんが「補助の継続、県は慎重」と書かれるのは、いまだフェーズ2の予算化の話が県庁から正式に発表されないからであろう。
お役人というのはトップダウンでしか動かないし、そのトップすなわち知事は年明けの1月に選挙があるので動きづらいのだと思う。
齋藤知事はオバマ大統領と同じく「変革(Change)」には前向きで、県庁の体質を変えようとされている。
次の選挙で、どなたが対抗馬なのか存じ上げないけど、バレー構想を支持されることを一県民として期待したい。
だから、県民の皆さんにも有機エレクトロニクスバレー構想の本質と、山形県民120万人にとってのプロジェクトの重要性をご理解いただきたいと思うのである。
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