在原業平生誕1200年記念特別展「伊勢物語 ―美術が映す王朝の恋とうた―」展示風景 《伊勢物語図色紙》南北朝~室町時代 14~15世紀 香雪美術館蔵

(ライター、構成作家:川岸 徹)

在原業平の生誕1200年を記念し、『伊勢物語』が生み出した書、絵画、工芸を一堂に集めて紹介する展覧会、在原業平生誕1200年記念特別展「伊勢物語 ―美術が映す王朝の恋とうた―」が東京・根津美術館で開幕した。

平安を代表する美男子・在原業平

 平安時代初期の貴族・歌人として知られる在原業平。825年(天長2)、父方の祖父は平城天皇、母方の祖父は桓武天皇という高貴な家に生まれるが、父・阿保親王が政権争い「薬子の変」で左遷されると、業平もまた朝廷役人としては長く不遇の時期を過ごしてしまう。

 そうした境遇によって、業平の情熱は朝廷の仕事よりも歌へと向かった。業平は和歌の名手として名を馳せ、平安時代に編纂された『古今和歌集』の序文では6名の代表的歌人、すなわち“六歌仙”のひとりに数えられている。現代でも業平の歌は人々に愛され、とくに小倉百人一首に収められた「ちはやぶる神代も聞かず竜田川 から紅(くれなゐ)に水くくるとは」は名歌として名高い。

 さらに業平は類まれなる美男子であった。平安時代の歴史書『三代実録』には、業平について「体貌閑麗」との記述がある。体貌閑麗とは、容姿が雅やかで美しいとの意味。業平の和歌には数多くの女性との情熱的な恋愛体験を題材にしたものが多く、実際、相当なプレイボーイであったらしい。

『伊勢物語』を絵画化した作品がずらり

在原業平生誕1200年記念特別展「伊勢物語 ―美術が映す王朝の恋とうた―」展示風景。在原業平像 室町時代 16世紀 根津美術館蔵

 その在原業平をモデルにしたといわれる文学作品が、平安時代中期に書かれた歌物語『伊勢物語』だ。『源氏物語』と双璧を成すともいわれる平安文学の名作だが、『源氏物語』とはスタイルが大きく異なる。『源氏物語』が全体を通して一貫したストーリーをもつ長編小説であるのに対し、『伊勢物語』は125の章段(物語)から成るいわば短編集。もともとは125段よりも少なかったとされるが、のちに章段が増え、最終的に125段の形で定着した。

『伊勢物語』には全209首の和歌が登場。和歌に歌われた内容や情景をベースに、業平と思われる「男」の人生を追うようにストーリーが展開されていく。文中に主人公の名の記載はないが、章段の冒頭が「むかし、男、」で始まることが多いため、研究者やファンのあいだでは、主人公はしばしば“昔男”と呼ばれている。

 そんな在原業平が2025年に生誕1200年を迎えたことを記念して企画されたのが、在原業平生誕1200年記念特別展「伊勢物語 ―美術が映す王朝の恋とうた―」。『伊勢物語』から生まれた写本、書、絵画、絵巻、工芸を一堂に集めて紹介している。展覧会の冒頭に、業平が右手に筆を、左手に紙を持って和歌を案じている姿をとらえた《在原業平像》が展示されているので、まずは「どれほどの美男子なのか」をチェックしたい。