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クルーズ客船

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カーニバルクルーズの「カーニバル・ビスタ」
世界最大のクルーズ会社、カーニバルクルーズのマルディグラ。洋上初のジェットコースターを搭載している。
世界最大の客船「アイコン・オブ・ザ・シーズ」。ロイヤル・カリビアン・インターナショナルが運航。

クルーズ客船(クルーズきゃくせん、英語: cruise ship)とは、乗客に船旅(クルーズ)を提供するための旅客船である。巡航客船とも言う。

宿泊設備を持つことは勿論、レストランバーフィットネスクラブプールなどの設備を備え、 サービス要員や医師看護師なども乗船しており、長期間の船旅を楽しめるようになっている。

なお海洋を航行するクルーズ客船が人気だが、クルーズ客船による河川クルーズ(リバークルーズ)のドナウ川クルーズ長江クルーズなども人気である。

歴史など

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元々は荒天が多く旅客需要が低下する冬期旅客船が定期航路における運航を休止しがちな事から、これを活用して温暖地域への巡航サービスが企画されるようになったのが始まりである。その最初は、イギリスP&O創立者の一人であるアーサー・アンダーソン(Arthur_Anderson_(businessman))が、1836年シェトランドの地方新聞の創刊号に、シェトランド発着でフェロー諸島アイスランドといった北大西洋方面を周遊する航海のアイデアを架空広告という形で掲載したことに始まり、その後P&Oが1844年にイギリスからアレクサンドリアへの航路と地中海方面への支線航路の定期船を用いる周遊券の形式で地中海クルーズ商品を開始した事例に遡る[1]1867年にはアメリカ合衆国ニューヨークキリスト教会が中心となり、ニューヨーク発着でヨーロッパを経由し、中近東のキリスト教聖地巡礼を行う165日間の航海を実施して観光クルーズの先駆けとなり、航海の様子はマーク・トウェインにより「地中海遊覧記」として著された[1]

ハパックが1900年に建造・就航したプリッツェリン・ヴィクトリア・ルイーズ(4,500t級)
河川で運航するクルーズ客船の例。ドナウ川でクルーズを行うAmadeus Brilliant。

1891年にはドイツ国ドイツ帝国)のハンブルク・アメリカ・ライン英語版社(ハパック/ハパグ 現ハパックロイド)が同社中興の祖であるアルベルト・バリーン英語版の企画で、400名以上の船客を乗せての地中海クルーズを成功させ、大衆クルーズの先駆となった。ハパックではバリーンの企画によって1900年には4,500トンクラスのクルーズ専用船「プリッツェリン・ヴィクトリア・ルイーズ」(Prinzessin Victoria Luise)も建造、就航させている。

クルーズ運航は、このように大手海運会社の閑散期経営対策として19世紀から20世紀前半にかけて定着し、また一方では、中・小型の旧式客船をクルーズ向けに改装した客船により、アメリカ東海岸からのカリブ海方面クルーズの普及などで大衆化も進んでいった。

第二次世界大戦後、大西洋横断航路に代表される大型長距離客船が、1950年代に起きた急激な航空機の発達(ジェット旅客機実用化と普及)でその本来の役割を終えると、大手海運会社貨物輸送に経営比重を移す一方で、既存の大型客船を通年にわたりクルーズ船として運航し、新たな収益手段として活用するようになった。その過程では当初、かつて主要航路で運航された有名客船が多く改装・転用される事例が見られたが、大陸間を高速巡航で結ぶ往年のオーシャン・ライナーと、速度を重要としない「浮かぶ豪華ホテル、リゾート」としてのクルーズ船の性格は相違することから、新たに建造されるクルーズ船は速度よりも快適性や収容能力を追求する目的で、オーシャン・ライナーよりも経済性重視の、低速、かつ大型な、古典的客船とは異質な船形に変貌していった(クルーズ船のデザインも参照)。

20世紀末期からは、カーニバル・コーポレーション1972年創立)などを代表とする、大規模資本を投入したクルーズ船専業海運会社が、10万トンを超える巨大クルーズ船を複数建造・運航するようになり、そのバリエーションも多彩なものとなっている。

2020年2019新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、クルーズ客船は軒並み運航停止に追い込まれた。2020年5月時点でアメリカ合衆国領海内で投錨しているのは23隻、港に停泊中のものは24隻、領海内を移動しているものは44隻となっている[2]

区分

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クルーズ客船は、そのサービス内容と価格帯により、次の3クラスに区分される。クラス分けは、一つ一つの船についてではなく、「クルーズ会社」について判定される。これは、その会社が運航する船は、どれも同等のサービスを提供することが通常だからである。

しかしながら実際問題として、同じ運航会社でも船毎により差は生じるわけであり、個別船のランク付けについては、ダグラス・ワードによるベルリッツ・クルーズガイドも参考となる。

なお日本で(かつて)クルーズ客船の利用が一般的でなかった時代には、「豪華客船」などと呼ばれ、旅行代金も高額商品の典型のようにイメージされることが多かったが、実際には、日本のリゾートホテルと比べても割安な泊単価設定の船から一泊あたりかなり高価な船まで、サービス内容も比較的簡素な内容の船から、富裕層をターゲットとしたラグジュアリーなサービスの船まで、様々なクルーズ客船が存在する。

マス(Mass)

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カーニバルクルーズの「カーニバル・パノラマ」

その名の通り、マス(大衆)層を対象とした船。「Casual Class カジュアル・クラス」や「Contemporary Class コンテンポラリー・クラス」とも呼ばれる。

US$100からUS$350/泊。(二人部屋を二人で使用した場合の一人当り単価の目安。以下同様)

船型を大型化することによるスケールメリットで単価を下げている。

また、値段は低いが、その分、船内での飲食の有料部分を多くしたり、カジノのスペースを大きく取り、それらを収益源とするビジネスモデルを採っている。

主な運航会社は以下の通り

プレミアム(Premium)

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US$150からUS$400/泊。

付帯するサービス(全食事付き、付帯イベント類)を加味すれば、このクラスの下・中級船室であれば、なお日本のリゾートホテルと同等ないしは割安と考えられる。

主な運航会社は以下の通り

ラグジュアリー(Luxury)

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クルーズ客船の中でも上級なサービスを提供する船。

US$400からUS$1,000/泊。

主な運航会社は以下の通り

※キュナードはプレミアムに区分されることがある。 これは同社が客室により差を付けるサービスをしているため。(下級船室のサービスはラグジュアリーとは言い難い、という判断)

ブティック(Boutique)

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ラグジュアリーの中でも、船型を比較的小規模に抑え、乗客に対する乗組員比率を更に高くし、一人一人によりきめ細かいサービスを提供する船をこう呼ぶことがある。

価格帯は US$600/泊以上。

主な運航会社は以下の通り

  • リージェント・セブンシーズ
  • シルバーシー
  • シーボーン
  • ハパグロイド

船内設備

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基本的に備えられているのは宿泊設備、複数のレストラン及びバー、ラウンジプールフィットネスクラブスパ美容室、ショップ、劇場カジノ医務室などで、船の規模や各クルーズ会社のカラーによって設備が異なる。

まずカーニバルやコスタといった大衆向けのクルーズ客船では託児施設が充実していて、料金の安さを補うため大規模なカジノが設置されているが、シルバーシーなどの高級船では託児施設はなく、カジノも小規模である。ただし、日本の領海内では賭博行為を禁じた刑法185条および186条(賭博及び富くじに関する罪)に抵触する為、カジノが許可されている国の船籍であっても日本の領海内での営業は禁止されている。日本船の場合にはカジノに類似して換金や商品交換を伴わないゲームスポットを設けるのみでカジノ収益による価格低減が図れないため運賃単価が高止まりしており[3]、このほか独自の設備として大浴場が設けられている。近年では2014年に日本発着クルーズを開始したダイヤモンド・プリンセスが日本人向けに大浴場や寿司バーなどを新設したほか、ボイジャー・オブ・ザ・シーズも日本料理店を設けるなど、外国船でも日本人向けの施設を整えつつある。

レストランは、メインのダイニングとビュッフェ形式のものの二種が設置されるのが基本であるが、最近はそれとは別に有料のレストランを設ける傾向にある。

また、カーニバルの場合にはファンタジー級からウォータースライダーを装備。ロイヤルカリビアンの場合は煙突ファンネル)周辺にラウンジを設置。HAL の場合は船内の至るところに美術品を飾っているなどの、会社によっては特徴となる設備を設けている。

最近では内側客室にスクリーンを設置し、船外の景色や音を楽しめる「バーチャル・バルコニー客室」や、船内でサーフィンやスカイダイビングを疑似体験できる施設を新設した客船が登場するなど、様々に趣向を凝らして乗客を飽きさせない試みが行われている。[4][5]

客室

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種類

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客室は主にStandardスタンダード / Mini Suit ミニスイート/ Suit スイートの三つに大別される。基本的にこの3種類の客室で構成されているといってもいいが、船のグレードによってはミニスイートまでしかない船や、ミニスイートから始まる船というのも存在する。

ここで、「Suite スイート」とは「一組、ひと揃い(英語: Suite)」という意味であり「続き部屋」のことを指す。

レストランなどのパブリックスペースは比較的、機関部や煙路に近い配置とすることで、上級客室ほど、これらの騒音振動から離れた上階、かつ船首寄りの配置となっている。

スタンダード

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スタンダードとはいっても内側・窓側・ベランダ付きの三つに分かれるが、設備としては15 - 18平方メートル前後のスペースに窓があるかないか、ベランダがついているかどうか程度の違いでしかない。ただし、眺望を得るための窓、ベランダの有無は客室のランク付けでは重要視される部分となる。

基本的な設備はベッドテーブル椅子TV電話タンス洗面所トイレシャワーといった設備で部屋のスペースが広ければソファが、船によっては金庫が設置されている場合もある。バスタブはこのクラスでは基本的についていない。

定員は2名であるが、場合によっては4名の場合もある。4名の場合は天井や壁にベッドが格納されている。

部屋の電話は衛星を通じての国際電話も可能だが、陸上よりも高額のチャージ(電話料金)がかかる。

ミニスイート

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ミニスイートは30平方メートル前後の部屋で寝室と居間が分かれており、スタンダードの設備に加えて冷蔵庫、バスタブ、ビデオなどがつく。船によってはウォーク・イン・クローゼットがついていたり、シャワーブースが設けられていることもある。また、ベランダ付きの船であるのならほとんどの確率でついている。

スイート

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スイートは、概ね50平方メートル以上で、最大なものになると1,000平方メートルを超える。広々とした居間に複数の寝室というのが基本である。

浴室も大理石で、船によっては窓がついていたり、ベランダにジャグジーがついていたりすることもある。ただし、眺望を考えてのことから高層階の角(つまり前方と後方)に設けられていることも多いが、船で一番揺れるのは高層階の端である。また、執事がつく等の特別なサービスを得られることもある。

ギャラリー

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クルーズ船のデザイン

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1950年代までの外国航路時代の大型客船、例えば現在、横浜港に展示してある「氷川丸」のような船は、スラリとした船型が特徴であった。これは大洋を横断する定期航路に就航する客船は、荒天時の耐候性を考慮しなければならないからである。

海外旅行の主役を旅客機に譲り、目的地へ早く移動するためではなく、目的地まで行く過程を楽しむのが目的となった。クルーズ客船には高速性の要求は低くなり、一層居住性が重視されるようになった。クルーズ観光の対象となる主な海域(カリブ海地中海・アラスカ沿岸など)は、海象が穏やかである事も影響している。

こういった船は、船というよりはホテルに舳先をくっつけたように、多数の客室を高くそびえる壁面に並べ、船体ぎりぎりまで上部構造物が乗っている特徴的なシルエットになっている。また、昔に比べてベランダの数が増えているのが特徴で、ベランダを設けていない船でも改造工事によって増設している。

ただし、水線下の形状や機関形式は経済性を追求するため徹底的に研究・改善されており、同じトン数・同じ速力ならば現在のクルーズ客船の方がかつての大型定期航路客船より必要な機関出力は小さいと言える。

現代のクルーズ客船と、かつての定期航路客船の航洋性の差を示すものとして、キュナードのクイーン・ヴィクトリアがその処女航海で北大西洋上をクイーン・エリザベス2と同速力で並走した際の動画が、YouTubeなどで参照可能である。明らかにクイーン・エリザベス2の方が船首波が小さく凌波性が良好である。

真っ白でファンネルで個性をつけているのが標準的なクルーズ客船だが、キュナードやHALのように下半分を濃紺に塗り分けていたり、ノルウェージャン・クルーズラインのハワイ路線のように特別なペイントを施している場合もある。

また、ロイヤルカリビアンのような煙突周辺に巨大な構造物があったり、カーニバルのようにT字型のファンネルをつけているものもある。

大きな船体では、波浪による揺れの影響が小さくなり快適な旅が提供できて、共同で使う施設も大規模で豪華なものが搭載できる。また乗客数を増やせば利益の向上も見込めるため、カーニバルのファンタジー級の成功から船体規模は増大の一途をたどり、最大級のオアシス・オブ・ザ・シーズにいたっては20万総トンを突破している。

ただし、現在のパナマ運河の通航が可能な最大船型は全長294m・全幅32.2m・最大高57.91mであるため、安定性の限度までキャビンを積み上げた場合でも、9万総tをやや超える程度が通航可能上限の大きさとなる。

しかし、パナマ運河を通航できるという事は配船上の利点となるため、超10万総トン級と平行して、現在でもパナマ運河を通過できるパナマックスタイプの船も合わせて作られている。一昔前までは7万トンが総トン数の限界とされていたが、これは建造技術というよりは客船の建造設備や港湾設備の整備状況によるものであった。双方の拡張が進んだ2009年現在、22万総トン(満載排水量約10万t)のクルーズ客船が就航している。

従来では、それほど問題とならなかった風圧による操船への影響が、上部構造物の拡大によって顕著となり、同じく巨大化した自動車運搬船のように前後を丸くすることで、風の抵抗を最小限にするよう考慮されている。風浪による影響が最も大きくなるのが岸壁への着岸時であるが、近年のクルーズ客船の多くは、推進軸を90度以上変更できるポッド型電動推進器を装備しており、これとサイドスラスターとの併用により、離着岸時の操船性を高めている。

カーニバルクルーズが、7万総トン級のファンタジー級を8隻揃建造して運用し経営上大きな成功を収めたことから、同型船を大量に配備することが普通になって、船ごとの個性というものが薄れている。

また、クルーズ会社の合併吸収によって、同じタイプの船を傘下の各ブランドで運用することも行われている。例えばカーニバルクルーズのカーニバル・スピリット級、コスタクルーズのコスタ・アトランティカ級、HALのザイデルダム級はすべて同じ基本設計の船である。こういったことから、クルーズ会社ごとの独自色も失われつつあるがMSCクルーズは設計を独自に行っていることから他クルーズ船社とは一線を画している。

船内組織

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客船は「に浮かぶホテル」とか、「ホテルにエンジンプロペラを付けたもの」とは良く使われる表現であるが、船内組織もその通りに、「船を動かす者」と「ホテルとしてのサービスに携わる者」に大別される。

外国船・日本船を問わず、組織自体はどの船も大差はないが、役職名(肩書き)は運航会社により異なることに留意願いたい。以下は「飛鳥」及び「飛鳥II」の船内組織を例として編集されている。

船長

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キャプテン船長) - Captain。船の最高責任者。

出自は甲板部(航海士)であり、貨物船と同様、機関部も管掌するが、客船においては更にホテル部門も統轄し、乗客とのソーシャライジング(社交)も重要な職務となる。

運航責任者である船長としての役割の他に、ホテルサービスにも精通する必要があり、スピーチの機会も多く、ユーモアのセンスも求められ、また乗客とダンスのパートナーを務めたり、夕食時にはホストとしてテーブルで豊富な話題を提供する役目を負うなど、マルチな才能が求められる役職である。

このため、外国船の船長は、場合によってはその運航会社の社長以上の俸給を得ている例もある。 ただ日本船の船長は、いわゆる「サラリーマン船員」であるため、そのようなことはない。

このように多忙な役職であるため、副船長(スタッフ・キャプテン - Staff Captain)を置き、運航部門の業務を大幅に委譲することがある。

運航部門

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甲板部
副船長 (Staff Captain) を筆頭に、1等航海士 (Chief Officer)、2等航海士 (2nd Officer)、3等航海士 (3rd Officer)、甲板長 (Boat-swain)、操舵手 (Quarter Master)、甲板員 (Sailor) など。
船橋(ブリッジ)に立ち、操船に携わる。
船体のペンキ塗り(客船では美観を保つため、高い頻度で行われる)やデッキの清掃も実施する。
また、船内の安全管理(セキュリティ)も甲板部の職務である。
機関部
機関長 (Chief Engineer) を筆頭に、1等機関士 (1st Engineer)、2等機関士 (2nd Engineer)、3等機関士 (3rd Engineer)、操機長 (No.1 Oiler)、操機手 (Oiler)、操機員 (Wiper) など。
その名の通り、エンジン関連に携わるが、客船においては電気関係、空調関係、冷熱機器類も守備範囲である。
客室の「電気が切れた」、「空調の具合が…」と言うと、操機員が修理にやって来る。
無線部
日本のクルーズ客船の場合、「にっぽん丸」には通信長 (Chief Radio Officer) が乗船しているが、「飛鳥II」ではGMDSSにより航海士がこれを兼務しており、専任の通信長・通信士 (Radio Officer) はいない[注釈 1]。客船に限らず船舶での通信業務は、機器類の信頼性向上や小型化による多数の通信手段の搭載により、従来よりも簡便化の傾向が強い。

ホテル部門

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ホテルマネージャー(Hotel Manager)
いわゆる「総支配人」に当たる。ホテルサービスの責任者。
パーサー部門
チーフ・パーサー (Cheif Purser) が長。配下に 1st、2ndなどのアシスタント・パーサー(Assistant Purser,「AP」と呼ばれる)。
ホテルのレセプション及びバックオフィスの業務を行う。また、外航クルーズにおいては出入国手続きの業務も行う。
エンターテイメント部門
クルーズ・ディレクター (Cruise Director) が長。配下にアシスタント・クルーズ・ディレクター (Assistant Cruise Director) やクルーズ・スタッフ (Cruise Staff)。
船内の娯楽(イベント)に関する業務を行う。
クルーズスタッフはショーの司会や各種イベントの進行役を務める。時には仮装したり、着ぐるみをまとったり、率先して踊ったり、と船内の雰囲気盛り上げに務める役職でもある。
また、ショーのキャストやバンドのメンバーも本部門に属する。
ショップ部門
ショップ・マネージャー (Shop Manager) が長。配下にアシスタント・ショップ・マネージャー (Assistant Shop Manager)、ショップ・クラーク (Shop Clerk)。
船内のギフトショップブランドショップ等の販売管理を行う。
調理(ギャレー)部門
総料理長(エグゼクティブ・シェフ (Executive Chef) が長。配下にシェフ (Chef)、コック。
日本船の場合、和洋それぞれのシェフ (Section Chef) がいる
外部から著名な料理人を「ゲスト・シェフ」として招き、そのクルーズの目玉に据えることもある。
レストラン部門
レストラン・マネージャー (Restaurant Manager) が長。配下に給仕長 (Maitre d'hotel)、ヘッド・ウェイター (Head Waiter)、ウェイター (Waiter)、ワイン・スチュワード (Wine Steward) がいる。
バー(ビバレッジ)部門
ビバレッジ・マネージャー (Beverage Manager) が長。配下にチーフ・バーテンダー (Cheif Bartender)、バーテンダー (Bartender)、ウェイトレス (Waitress)。
プロビジョン部門
プロビジョン・マスター (Provision Master) が長。配下にストア・キーパー (Store Keeper)。
船内の食材、資材や消耗品類の在庫管理、発注、納入業務を行う。
ハウス・キーピング部門
ハウス・キーピング・マネージャー (House Keeping Manager) が長。配下にアシスタント・ハウス・キーピング・マネージャー (Assistant House Keeping Manager)、キャビン・スチュワーデス (Cabin Stewardess)。
ホテルでいうところの客室係。船室や廊下の清掃、シーツ類の取替え、冷蔵庫飲み物の補充等々を行う。
システム部門
システム・オフィサー (System Officer) が長。
その名の通り、船内システムの維持管理を行う。
アカウンタント (Accountant)
船内の経理・出納担当。パーサー部門による当直者であるナイトオーディター (Night Auditer) はこの部門に引き継ぐ。

なお、出航時に銅鑼を叩いているのは、「飛鳥II」ではシステム・オフィサーないしはアカウンタントである。

バトラー
日本人の文化・特性から、日本船ではバトラー (Butler) を配していない。
ソーシャル・オフィサー (Social Officer)
乗客とのソーシャライジング(社交)を果たす役職であるが、もっぱら上級船室の乗客に対するコンシェルジュや各種パーティーの手配などを行っている。
医務室
どの客船にも医師船医 Doctor)と看護師 (Nurse) が乗船し、乗客の健康管理を行っている。
船医によると、「簡単な手術虫垂炎帝王切開など)ができる程度の設備は整っている」とのことだが、船という限られた空間の制約から、重篤の患者が発生した場合は対応し切れない。
その場合、次の寄港地で下船(入院)させるか、更に緊急を要する場合は、最寄の港に臨時寄港したり、沿岸航行中はタグボートやパイロットボートを横付けしての移送、更にはヘリコプターによる移送も実施される。
また、近年のクルーズ客船の巨大化は運航中船内での胃腸疾患ノロウイルス感染など)の発生を助長しやすい環境になっていて早急の対策・対応が望まれている[6]
この場合は必要に応じて旅程を短縮して帰港したり、帰港後感染拡大防止・防疫措置のため隔離、消毒の措置が執られる場合もある。
クルーズ・コーディネーター (Cruise Coordinator)
船上の営業・販売担当者。
ツアー部門
ツアー・マネージャー (Tour Manager) が長。
寄港地でのオプショナルツアーの受付、手配、進行を務める。

なお、「飛鳥II」では「クルーズ・コーディネーター」と「ツアー部門」は船上組織には属しておらず、本社(陸上)の直轄である。そのため、これらのスタッフは海員としての制服を着用していない。

クルーズ市場

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世界概観

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2018年の世界全体を見ると、2,600万人がクルーズ客船を乗客として利用した[7]。総売上高は466億ドル[7]

乗客の国籍

2018年のクルーズ客船の乗客の国籍(元の居住地)を「欧州 /北米 / 南米 / オーストラリア&ニュージーランド / アジア / 中東・アフリカ」という区分の統計では、乗客のうち、54.5%が北米の人々であり、26.0%が欧州の人々であり、9.2%がアジアの人々、5.2%がオーストラリアニュージーランド地域の人々、3.5%が南米の人々である[7]

上記のカテゴリ分けではトップに位置する「北米」というカテゴリの内訳を見てみると、米国カリブ諸国の人々の人数が13,130,500人と圧倒的な割合である。カナダ人は824,700人であり、米国&カリブとは桁違いに小さく、メキシコ人は213,700人にすぎない[7]。欧州ではドイツ人が2,080,100人で、イギリス人が1,969,800人[7]

アジア人の利用者は2,392,100人である[7]

目的地

2018年にCruise Criticが発表した World’s Most Popular Cruise Destinations (世界で人気の高いクルーズ目的地)によると、 世界全体で人気の目的地トップ10は以下の通り[8]

日本

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1968年に総理府が開催した第1回世界青年の船をきっかけとして企業・団体により数多く企画されたチャータークルーズを中心にクルーズ市場が勃興、1980年代には最大7隻の外航客船が運航され1989年時点で約15万人のクルーズ人口を数え、その後チャータークルーズとレジャークルーズを両立させた小型客船「ふじ丸」が1989年に建造され小規模展開による高コストを補うべく高額な価格設定で売り込みバブル景気も相まって好評だったことからこれにならい高年齢層を主対象とした高級志向が中心のクルーズ市場が形成された。1990年代にはバブル崩壊とともにチャータークルーズの需要が減少し、レジャークルーズが主となっていった[1]

国土交通省海事局の発表によると、2012年(平成24年)の日本国内のクルーズ人口(外航クルーズと国内クルーズを合わせた日本人乗客数)は、10年ぶりに20万人を超えた。ただし、メコン川クルーズやフェリーといったクルーズとは言えない乗客数も入っている。また、港湾への寄港回数も初めて1000回を超えた[9]

2016年(平成28年)には国内クルーズ人口は24.8万人、寄港数は中国方面からの寄港が増加し2000回を突破[10]

2017年には日本人クルーズ人口は31万5千人となり、過去最多を更新した。また、日本の港湾へのクルーズ船の寄港回数は2764回、クルーズ船で日本に入国した外国人旅客数も約252万9千人となり、いずれも過去最多を記録している[11][12]。特に外航船社による日本発着外航クルーズ数の増加などが要因となっている。


中国

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2006年、イタリアのクルーズ船運航会社であるコスタ・クルーズが、中国を拠点としたクルーズ船の運航を開始。以後、2009年にはロイヤル・カリビアンが参入、2014年にはプリンセス・クルーズが中国大手旅行会社と共同で運航会社を設立するなどクルーズ船市場が拡大。2015年には約248万人の乗船客を数え急成長を遂げた。一方で、次第に価格競争は激化して採算性は悪化。2018年秋には、プリンセス・クルーズが中国市場向けに投入した船を中国の港から発着するルートから撤退させるなど、参入各社はシンガポールなど他の地域へ比重を移す傾向が見られるようになった[13]

リスク

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集団感染のリスク

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順天堂大学の教授で感染制御学を専門とする堀賢は、クルーズ船は「乗客は同じような時間帯に同じような行動を取る。特に食堂劇場といった社交場は人口密度が高く、人と人との距離が短い」と述べた[14]。こうした場所では患者のせきやくしゃみのしぶきに含まれるウイルスによる飛沫感染が起きやすくなり、行動範囲が重なると、設備の表面に付着したウイルスを触ったを介した接触感染も起きやすい、と指摘した。また、船では同じメンバーが長期間一緒に過ごし、感染者が船内にとどまるため、他人への感染を起こしやすい、とも指摘した[14]

入港拒否されるリスクと国連海洋法条約の不備

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2020年に1月以降発生のクルーズ客船での新型コロナウイルスの集団感染の判明、たとえばダイヤモンド・プリンセス号で感染者が出て乗客が東京・横浜で長期の検疫状態になり下船できなくなり他にも感染者だと判明した人数が増え続けたことや、ウエステルダム号が各国で入港拒否され 海洋をさまよう事態になり、その後も他のクルーズ船でも入港拒否される事態の続出を受けて) 神戸大教授の若林伸和(航海システム学)は「豪華客船は数千人の乗客乗員がいる。食料は1週間か10日間でなくなり、燃料も補給しないといけない。通常は寄港先で調達するのだが」と述べた[15]。外国からの船の入港には検疫出入国港湾の管理で、3つの役所が関わる[15]。入港拒否は港湾を所管する国土交通省。国交省に制度上の入港拒否権はなく、海事局外航課の長井総和課長は「船に入港しないように要請するとともに、実際に港湾を管理している自治体に入港を認めないよう頼んでる」と語った[15]厚生労働省結核感染症課の加藤拓馬課長補佐は、ダイヤモンド・プリンセス号の扱いは「検疫法に基づく検疫が続いているという整理で乗客を留め置いている」と述べた[15]。若林伸和は「海上のさまざまな権益を取り決める国連海洋法条約では、今回のような(入港拒否による)寄港先が決まらないという事態は想定されていなかった。どの国が船に対して責任を持つのか、早急に議論して国際ルールを作るべきだ」と警鐘を鳴らした[15]

運航会社とクルーズ客船の具体例

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クイーン・エリザベス
コスタ・クラシカ
  • コンパニ・デュ・ポナン(フランス)
    ル・ボレアル級 <同型船2隻> (総トン数10,944t 2010年就航<第1船>)
セレブリティ・エクスペディション(総トン数2824トン 2001年就航)
ノルウェージャン・スカイ
サファイア・プリンセス
アムステルダム
セブンシーズマリナー
ボイジャー・オブ・ザ・シーズ
ヴェンチューラ
ザ・ワールド

日本客船

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過去の客船

引退・沈没・解体された客船

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リバークルーズのためのクルーズ客船

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脚注

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注釈

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  1. ^ 両船とも航行区域によっては通信長の乗務を要するが(船舶職員及び小型船舶操縦者法施行令(昭和五十八年政令第十三号)別表第一(第五条関係):配乗表の適用に関する通則第4項”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2018年7月25日). 2020年1月9日閲覧。 “2018年8月1日施行分”総務省無線局等情報検索によれば、にっぽん丸飛鳥ⅡA1A(モールス通信)の免許は受けておらず、航海士など他部の職員が通信長を兼任できる(通信士#GMDSSへの移行)。ただし、長期航海を行なう超大型船においては、無線と共に電子機器全般を担当する専任者が乗り組む場合もある。

出典

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  1. ^ a b c 山田廸夫「クルーズの歴史」 - 日本クルーズ&フェリー学会
  2. ^ 米領海や港で立ち往生の客船は91隻、乗員6万人超”. CNN (2020年5月17日). 2020年5月22日閲覧。
  3. ^ 人と環境にやさしい神戸・瀬戸内クルーズのあり方に関する調査研究報告書 - 関西交通経済研究センター 2009年3月
  4. ^ 「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」、今秋改装で船上サーフィン登場Webクルーズ2014年8月13日
  5. ^ ロイヤル・カリビアン新造船クァンタム・オブ・ザ・シーズお披露目Webクルーズ2014年11月21日
  6. ^ クルーズ船で胃腸炎600人、対策は?
  7. ^ a b c d e f [1]
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  9. ^ 報道発表資料:2012年の我が国のクルーズ等の動向について - 国土交通省
  10. ^ 報道発表資料:2016年の我が国のクルーズ等の動向(調査結果) - 国土交通省
  11. ^ クルーズ人口2017年実績、日本人は27%増31万人、インバウンドは252万人で、いずれも過去最多トラベルボイス2018年7月6日
  12. ^ 2017年の我が国のクルーズ等の動向(調査結果)について ~日本人のクルーズ人口、クルーズ船の寄港回数及び訪日クルーズ旅客数が過去最多~
  13. ^ 中国人満載の豪華クルーズ客船はどこに消えたのか?”. JB PRESS (2019年4月16日). 2019年4月21日閲覧。
  14. ^ a b “高い人口密度、同じ行動範囲 新型肺炎、クルーズ船で集団感染”. 時事ドットコム. (2020年2月10日). https://web.archive.org/web/20200303133706/https://www.jiji.com/jc/article?k=2020020900263&g=soc 2020年8月29日閲覧。 
  15. ^ a b c d e 2020年2月13日中日新聞朝刊26面

関連項目

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