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「現在は、幕末・維新期に次ぐ第2の国難に見舞われた状態」ハワイでのTPP閣僚会合をどう見るか ~現地入りした山田正彦元農水相、内田聖子PARC事務局長に岩上安身が聞く~岩上安身によるインタビュー 第568回 ゲスト 山田正彦元農水相、内田聖子氏 2015.8.11

記事公開日:2015.8.12取材地: テキスト動画独自
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(記事構成:IWJ・平山茂樹)

特集 TPP問題
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 ハワイ・マウイ島で開かれたTPP閣僚会合は、最終日となった2015年7月31日、大筋合意に至らないまま閉幕した。焦点だった新薬のデータ保護期間と乳製品の関税の扱いをめぐり、参加国の対立が解けなかった。

 今回の閣僚会合に対し、日本政府は交渉を最終妥結させる意気込みで臨んだ。日本からは、多くの財界関係者がハワイに詰めかけ、交渉の行方を見守った。交渉の合意が先送りされた報告を受けた安倍総理は、「えっ、そうなの」と驚きの声をあげたという。

 しかし、現地入りした山田正彦元農水相と内田聖子PARC事務局長によれば、「そもそも、閣僚会合での大筋合意は無理だった」と述べる。米国は、連邦議会が有する貿易交渉権限を大統領に移譲するTPA法案が、マレーシアの人権問題などから未完成な状態にある。他にも、知的財産だけでなく、政府調達やISD条項など、多くの分野で交渉が難航していたという。

 山田氏は、現在、参議院で審議が行われている安全保障関連法案について、「TPPの一環だ」と述べる。米国は、東アジア諸国に対してはTPP、EUに対してはTTIPを結び、中国やロシアといったユーラシア大陸の強国に対抗するブロック経済圏を構築しようとしている。TPPは、経済のみならず、安全保障の問題でもある、というわけである。

 山田氏と内田氏は、8月11日に岩上安身のインタビューに応え、閉幕したばかりのTPP閣僚会合の裏側から、今後のTPP交渉の見通しまで、忌憚なく語った。

<会員向け動画 特別公開中>

■イントロ

■全編動画

  • 日時 2015年8月11日(火) 14:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

交渉不成立に終わったハワイでのTPP閣僚会合、「USTRのフロマン代表が苦々しい表情をしていた」

岩上安身(以下、岩上)「TPP関係閣僚会合がハワイで行われ、最終妥結には至りませんでした。今日は、ハワイ現地入りしていた元農水大臣の山田正彦さん、それからPARC事務局長の内田聖子さんにお話をうかがいます」

内田聖子氏(以下、内田・敬称略)「今回の会合はまったくうまくいきませんでした。最終日の会見では、USTRのフロマン代表が非常に苦々しい表情をしていましたね」

山田正彦氏(以下、山田・敬称略)「内田さんに紹介していただいてカナダの酪農代表団体と会う機会がありましたが、夜遅くなってくたくたになるまで政府の交渉官と協議していたのです。それくらい、各国は各利害関係団体と絶えず調整して協議して交渉に臨んでいました。

 今回、ハワイにまで来た業界団体に対する日本政府側からの説明は、たった30分しかありませんでした。ですから僕はその時、渋谷審議官に、『日本政府はなんで進行状況を報告し、説明しないんだ。なんで協議もせず皆さんの意向を訊こうとしないんだ』と問い詰めました。そうしたら全部が終わったらゆっくり時間を取って皆さんに説明すると言い放ったんです。終わってしまったら何の足しにもならないのに。

 渋谷審議官に、農業団体にはちゃんと話していると言い返されましたが、実際には一方的な話だけで、具体的な数値等の説明はしていませんでした。アメリカや各国の議員は来てロビーに陣取っていましたが、西川公也元農水相ら自民党の議員も来ていましたが、ヒアリングなどに参加することなく、ハワイの農家を見て回っていました」

岩上「私も先日、名古屋でJAの人々の前で講演したのですが、自民党がどんどん進むものだから、弛緩してしまっていますね」

内田「7月27日、米国商工会議所の主催で、知的財産権に特化した会合とレセプションが開かれました。今回の会合の争点は知財分野でして、米国の企業はこれに関してとても力を入れています。取りたいものがはっきりしている、ということです」

山田「日本はそれに比べて、日本の利益のために何を要求しているのか、何も出てこないんですよ」

岩上「甘利大臣は8月4日、TPP対策委員会と自民党議員連盟『TPP交渉における国益を守り抜く会』の合同会議で、『譲歩しないのでは、何のために交渉に入ってきたのかという話になる』と述べ、聖域でも譲歩を容認する意向を示しました。しかし自民党からは、TPPを反対して党を割るような人は出てきません。また、JAは自民党ならなんとかしてくれる、と思っているようです」

山田「昨日(8月10日)、秋田で講演したのですが、ある農民の方が、自民党から『TPPを妥結しても10年は発効しない』と言われた、とおっしゃっていました。自民党はとんでもない嘘を言っています」

ウィキリークスが暴露した驚くべきTPPの中身

岩上「ウィキリークスがTPPの国有企業分野に関する文書をリークしました」

山田「米国では、この文書は非公開公式文書と位置づけられています。ジェーン・ケルシー教授などは、この国有企業に関して注意を促し続けてきました」

岩上「山田さんは、このリーク文書に関して分析をされていますね。この国有企業とは、国民健保、共済健保、県立病院、畜産振興事業団エーリックなどの野菜、砂糖、畜産物の価格安定資金の事業もすべて含まれる、ということですが」

内田「実際にTPP交渉で議論されている『国有企業』は、途上国のものだけでなく、純粋に50%以上の出資比率で見ているので、私達にとって関係のない話ではありません」

山田「株式会社は50%以上、法人も国がやっている事業は国有とみなされます」

岩上「また、山田さんは国民が安心して利用可能な安価で公平な医療制度が壊されることになるのではないか、と指摘されていますね」

山田「韓国では独立機関をつくって、アメリカなどの製薬会社も入って薬価を決めるようになっていますから、日本でも医薬品が米国と同様にとてつもなく高くなってしまうでしょう。タミフル1本で7万円という世界に突入する可能性があります」

岩上「TPP最大のターゲットが何かということは、米国におけるTPP推進のロビー活動費を見れば一目瞭然です。医療・製薬の分野で5300億円のロビー費が投入されています。米国にとって医療は超巨大な産業であり、将来の成長産業です。日本への輸出総額は医薬品で3974億円(世界第4位)、医療機器4351億円(世界第2位)です。これがTPPが妥結して歯止めが効かなくなれば大変な貿易赤字になります」

内田「さらに保険の金融商品も入ってきます」

岩上「ウィキリークス文書によると、中小企業などの政策金融公庫、住宅金融公庫などの公的な金融機関、労働組合、生協、農協などの共済保険にも適用されて、政府による税制上の優遇措置などもすべて当てはまるとあります」

山田「農協や生協は10%の税制上の優遇措置があります。カーギルやモンサントも同じ食料品を扱っていますから、まずはこれを撤廃させようとするでしょう。中小企業は普通の銀行がなかなかお金を貸さないため、ほとんど政策金融公庫に頼っています。金利が安かったり特別な配慮もあるため、アメリカの金融会社との公平な競争にならない。日本の銀行や保険会社も結構アメリカから買収されているじゃないですか。長い目で見れば住宅金融公庫にも影響してきますよ」

内田「マレーシアやベトナムは、国有企業がターゲットにされる怖さをわかっていますから、これまで数多くの除外リストを出しています。しかし、日本には自分たちに何が起こるかという認識と想像力が欠如しています」

山田「各国は分かってきているのです。分かっていないのは日本だけです」

岩上「地方自治体の公共事業も国有事業に準じ、工事の限度額がTPP協定で明記されない限り、日本の中小企業と米国のゼネコンによる英語と自国語の競争入札になる、ということですが」

山田「設計と工事が分離され、設計の段階から競争入札が入ります。設計金額700万以上は全部競争入札だと政府が漏らしましたから、地方自治体の公共事業は、ほとんど英語と自国語で行われるようになります。平成23年(2011年)に政府に出させたペーパーの中では、こういう地方自治体の公共事業について、自治体に英語と自国語で書かさせる負担を新たに生じさせる危惧があると書いてますね」

岩上「だからこそ文科省は、突然、英語の授業を半分にすると、日本人の公用語が英語になっていく、文化系なんて育てていられないから、国立大学から文化系をなくしてしまう。もうエンジニアとビジネスマンしか育てず、あとは理系の人間だけ自国の文化とか伝統とかそんなものはどうでもいいと、大学の授業を英語で行うとか、国公立大学の人文社会系の学問を排除するとか言っているわけですね。

 農業、医療、国立大学に出される補助金も、日本政府は自由に決めることができなくなる、と」

山田「米国の企業の都合で決められていくことになります。企業に不都合な内容だと、ISD条項で訴えられることになります」

岩上「『今回リークされた国有企業の章は2013年12月7日から10日までに』出されたので『リークでの疑問部分はすべて解決済みと考えられる』。今、話した内容はすでに合意済みの可能性があるということですね」

山田「憲法13条と25条に明らかに反しています。ですから、まずは司法に問うていくことが必要だと感じています」

国を売る自民党 ~「現在は、幕末に次ぐ第2の国難」

<ここから特別公開中>

岩上「自民党が聖域とした農産品の分野でも日本は譲歩し続けています」

山田「地方の養豚業者の方と話す機会がありましたが、TPPに入ったら廃業するしかない、とおっしゃっていました。今、国会で審議されている安保法制は、政権が変わって法律を変えればなんとかなりますけれど、TPPは国内法の上位に来るものですから、どうしようもなくなってしまいます」

岩上「自民党は、『ウソつかない。TPP断固反対。ブレない』というポスターを掲げて2012年末の衆院選を戦いました。それが、わずか3ヶ月で手のひら返しですよ」

山田「これは、国を売る行為ですよ。幕末に次ぐ、第2の国難であると思っています」

岩上「自民党の大西英男議員は、2013年5月に私のインタビューに応えて、TPPについて『すぐではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の議員の多くも同じ考えだ』と暴露しました」

山田「私も、自民党の他の議員から聞いたことがあります」

国益を売り渡した日本には、国益を守ろうとしているニュージランドを責める資格はない

内田「この2年間はTPP交渉の漂流プロセスでした。TPPを妥結しようと言いながら、一方で日米並行協議が進んでいます。米国は、TPPという晴れ舞台を用意しつつ、実利が取れる並行協議をしっかりと仕掛けておいたのだと思います。

 知的財産については、医薬品データの保存期間をめぐり対立が続いています。米国とオーストラリアが激しく対立しています。米国は12年、マレーシア・ベトナム・オーストラリアは5年を主張しています。日本は8年です。

 TPP交渉はすでに、二国間協議の集合体に過ぎません。4日間の閣僚会合のうち、2日間は二国間協議でした。報道で、ニュージーランドがこれほど悪玉にされていることに驚きました。

 ニュージーランドは最初から加盟国だったから、プライドがあります。いつもながらの米国のダブルスタンダードに怒っているのです。しかしよくよく考えれば、フリートレードを幅広く推進しつつ国益をしっかり守ろうとしているニュージーランドを、国益を売り渡した日本が責める資格はない。

 自動車に関して、メキシコによる原産地規則問題というものがありました。メキシコは3日目の全体会合で、NAFTAと同じ62.5%を主張しました。メキシコとしては、国益に関わることを日米で勝手に決めていることを批判したいのです」

岩上「TPPというのは、勃興するユーラシアの経済協力体に対して、日本を入らせないようにするブロック化ではないでしょうか」

内田「今回の閣僚会合が表したのは、米国の勝手な戦略上に集められたことの矛盾が吹き出した、というものです。

 そもそも、閣僚会合での大筋合意は無理でした。未完成なTPA法など、米国内は課題が山積状態でした。他にも、マレーシアの人権問題というものがあります。マレーシアと交渉できるように、マレーシアの評価を引き上げました」

山田「今回は最終合意と政府は言ってきましたが、そんな段階には全然来ていませんでした。中国やASEANと交渉したほうがいいじゃないか、ということをよく言われます。しかし日本政府は、中国の脅威があるから、安全保障上の問題で米国と一緒にやるんだ、と」

岩上「日本は今、チャイナ・フォビアに陥っているのではないでしょうか。明日にでも尖閣を取られてしまうのではないか、という恐怖心にとらわれてしまっている。しかし、日本が頼りにする米国は、日本を守ってはくれませんよ」

内田「米国は4つの失敗を犯しました。まず、自由貿易では人々は豊かになれないし、雇用も生み出されません。また、TPPのような秘密交渉は国際市民社会からの批判に答えられません。EUはTTIPに対して厳しく批判しています」

山田「米国の多国籍企業600社に、米国の議会も引きずられてしまっています。米国の国民は正常で、TPPに真剣に反対しています。市民社会は非常に健全です。しかし日本は、メディアがNGOや市民の声を報じていません」

安保法制はTPPの一環として位置づけられる

岩上「ジェーン・ケルシー教授は『TPPは、米国の軍事力の再強化を意図している』と指摘しています。安倍総理も、米国議会演説で、『TPPは安全保障上の問題だ』と明言しています」

山田「今回の安保法制は、TPPの一環です」

岩上「私は、日本農業新聞にコラムを掲載拒否されてしまいました。モンサント社のラウンドアップやネオニコチノイド系農薬の危険性を指摘したのですが、農薬の安全性や環境評価のテーマが『センシティブな問題』だとして拒否されたのです」

岩上「日本農業新聞は、『弊社の経営基盤を揺るがしかねない』と商売の話をしている」

山田「日本農業新聞は、JAの機関紙みたいなところがありますからね」

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