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日中の軍事バランスは核兵器を含めて1対100!? 「真珠湾攻撃の時と同様、戦争にはなり得ない」岩上安身のインタビューで孫崎享氏が「日米開戦の正体」を暴く! ―第2弾 岩上安身によるインタビュー 第566回 ゲスト 元外務省国際情報局長・孫崎享氏 2015.8.3

記事公開日:2015.8.6取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

※8月12日テキストを追加しました!
※2021年5月4日 フル公開としました。

 「集団的自衛権、原発、TPP。今なぜ、こんなバカなことが起こっているのか。このひどい状況は、真珠湾攻撃の前夜と類似している。そこで、なぜ、日本が真珠湾攻撃に至ったかを調べたのです」――。

 このように語る孫崎亨氏に、岩上安身は、「指導者が嘘や詭弁の説明で国民の望まない政策に誘導し、マスコミはそれを検証せず、国民は信じるふりをして容認する。反対する者は弾圧。また、自分より大きな相手に『今なら勝てる』と思っていることや、戦争の規模を小さく見積もっている点も、真珠湾攻撃の時代とよく似ています」と応じた。

 2015年8月3日、東京都内のIWJ事務所に、元外務省国際情報局長・孫崎享氏を迎えて、岩上安身がインタビューを行った。孫崎氏の最新刊『日米開戦の正体―なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか』(祥伝社)を引用しながら、日露戦争から真珠湾攻撃までの日本の歴史を振り返り、現在の日本の姿と重ね合わせた。また、森島守人、伊藤博文、石橋湛山、若槻礼次郎など、時代の圧力に屈せず闘った人たちの名を挙げ、だまされない、あきらめない、黙らないことの重要性を確認していった。

 孫崎氏は、「真珠湾攻撃の時、日本は1対10の差がある米国に、なぜ勝てると思ったのか、明確な答えがない。同様に今、日中の軍事バランスは、核兵器も含めて1対100の差がある。戦争にはなり得ないのに、(保守派は)それを認めようとしない」と語り、客観的データを排除して、自分に都合のよい情報を集めて納得する「認知的不協和」について説明。「役人の場合なら、安倍首相に反する考えは不都合になる。保身のために、原発、TPP、集団的自衛権を認めてしまう。残念ながら、上の地位に行けば行くほど客観的ではなくなる」と指摘した。

<会員向け動画 特別公開中>

■イントロ

■全編動画

  • 日時 2015年8月3日(月) 17:00 ~
  • 場所 IWJ事務所(東京・六本木)

今の戦争法案は、2005年から布石を打っていた

岩上安身(以下、岩上)「孫崎さんの最新刊『日米開戦の正体』は、IWJ書店では、あっという間に20冊売れてしまいました。追加販売分にサインをお願いしたところ、『より強く、より正しかるべきであったと自責の念に堪えない。森島守人。軍と斗った人物』と書かれました。この人は、どういう方だったんですか」

孫崎享氏(以下、孫崎・敬称略)「外務省は、1931年頃から軍に牛耳られて、外交がほとんどできなくなった。だが、外務省の役人の森島は、満州事変の発端となる柳条湖事件の時、軍と対峙した。そんな彼が、戦後、自責の念にかられて述べた言葉がこれです」

岩上「なるほど。それぞれの時代に、がんばっていた人はいたんですね。ところで、孫崎さんとは、2009年3月に『日米同盟の正体』を読んで、すぐ取材に行って以来のご縁です」

孫崎「その本は、まさに集団的自衛権のことを書いています。2005年10月、日本とアメリカは『日米同盟:未来のための変革と再編』に合意しました。米国の戦略のために自衛隊を使う路線が決まった。そのために日本の法整備をする、という内容が含まれています」

岩上「本来なら条約改定に等しい話を、2プラス2(外相・防衛相同士)で決めてしまった。ガイドラインだから、国会も通りません」

孫崎「このガイドラインには、自衛隊を海外で使うことも、秘密保護法、機雷除去、後方支援も全部含まれていたが、どの新聞も解説をしなかった。だから、私は『日米同盟の正体』を書いたんです」

岩上「自衛隊が米国の2軍になって使われる、憲法改正に及ぶと、いち早く警鐘を鳴らした。中国の台頭で、日本は米国の楯や鉄砲玉になること、オフショアバランシング、核武装の話もされていましたね」

保守派が野党にやらせる手口

孫崎「多くの人は、米国が日本の核装備を危惧していると思っているが、ジョン・マケインなどは日本に核装備をさせたがっていますよ。米国は1970年代までは日本を信用せず、核武装に反対だった。ところが、今や日本は完全に米国の奴隷になり下がってしまった。だから、今は日本に核を持たせて、中国や北朝鮮を攻撃させようとしています。

 当然、日本も中国も北朝鮮も戦場になるが、米国だけは無傷です。同じ構図がヨーロッパでもありました。1980年代に、NATOが中距離ミサイル・パーシング2の配備を決めたが、有事の際はソ連と共倒れになることに、ドイツが気づいたんです」

岩上「ところが、こういう問題は多くの人になかなか理解されない。民主党政権になっても変わらず、むしろ、尖閣諸島での漁船衝突事件、石原都知事のヘリテージ財団での尖閣購入発言、野田政権での尖閣国有化と(中国との関係悪化が)続いた」

孫崎「これは、保守派が野党にやらせる手口です。TPPも、尖閣も、原発再稼働も、民主党の時に着手させている。政権が変わってからが本番になる」

岩上「大飯原発の再稼働の時は抗議デモがすごかったが、民主党政権の脱原発の閣議決定が、米国の横やりで消えるなど、いろんな圧力がありました。アーミテージ、ジョセフ・ナイ、キッシンジャーまで来日して、野田首相に釘を刺して行った。こんなことが繰り返されて、2014年7月、安倍政権で集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、今年(2015年)、安保法案の成立まで来てしまいました」

孫崎「オバマは軍事化のブレーキにはなるが、次の政権が共和党になったら確実に加速します。ジェフ・ブッシュは、『次の政権では同盟国をいかに使うかが重要』とツイッターに書いています。野田政権にしたように、比較的警戒されないオバマ政権で枠組みを作らせるのです」

イデオロギーにとらわれ、経済的利益を逃す日本

岩上「米国に、安倍政権のようなのが台頭して、世界は猛烈な戦火にまみれるかもしれない。また、ロシア、中国がどんどん外交的な手を打っており、AIIBにはイスラエルまで参加してしまった。ところが、日本だけがわかっていない。自滅の道です。AIIBを否定していた米国は、参加締め切り後に態度をコロっと変えて、儲かるなら中国と組もうとしています」

孫崎「IMFと世銀がAIIBと組んでしまう。結局、日本だけが外されて、その危険を国民も気づかず、有識者も指摘しない。昔、通産省OBが商人国家論を説いた。イデオロギーにとらわれずに、経済的利益で判断して行動すればいい、と。ところが今、日本ほどイデオロギーに絡まって、経済的利益の判断ができなくなった国はありませんよ」

岩上「そのイデオロギーも、安倍内閣の閣僚は、ほとんど日本会議のメンバーなので復古主義そのもの。今、問題視されている自民党の武藤貴也衆議院議員の発言などはメチャクチャです。基本的人権の完全否定と、日本の核武装を主張している。

 米国の専門家たち、ミアシャイマー、ケネス・ウォルツ、クリストファー・レインなどは、米国はオフショアバランシングで、日本を核武装させて核戦争をやらせろと言っている。その一方で、日本脅威論も堂々と述べている。つまり、米中で話し合ってうまくやっていけるなら、日本のケーキを分け合って食べちゃおうぜ、と。そうできなければ、米国は日本を鉄砲玉に使って中国を攻撃させる。挙げ句、復興事業で自分たちが儲かるという話でしょう」

日本の知的水準もメディアのレベルも低下

孫崎「インド系のザカリアという米国人は『日本はヘッジだ』と言っている。基本的に、米国と中国は戦争をしない。金融、貿易で手を取り合う。ただ、中国がおかしな動きをしたら、日本を対峙させてヘッジ(危険回避)しようということです。米国も、昔は警戒して変な発言は控えたが、今は遠慮がない。日本は言いなりだと思っているから」

岩上「米国はすべて盗聴して、使い勝手のいい人間を日本の首相に選ぶ。とにかく、今の日本の知的レベルも、メディアもひどいものです」

孫崎「NYタイムズのマーティン・ファクラー元支局長は、『日本のメディアは、安倍政権が、官庁、検察、警察が、何をしたかだけ伝える。国民が何を考えているかは、一切報道しない』と言っていました。それは、NHKを見れば明らかですね」

岩上「今、これだけ大きな話題になっているSEALDsや、学者の会など、安保法案に反対する国民の動きは完全に無視して、情報操作をするNHKは本当にひどい。先日のNHKへの抗議デモも、もちろん伝えていません。

 ファクラー氏は、ペンタゴンと人民解放軍は西太平洋で(覇権を)分けようと話しているよ、と言っていました。米国は金がないので、アジアから去る時は日本に核武装をさせて、監視下において限定戦争をさせるつもりだ、と」

「戦いは尖閣諸島周辺だけ」と言うネトウヨのおかしさ

岩上「先日、国会で山本太郎議員が、弾道ミサイルが原発に落ちた場合の対応を質問したら、安倍総理は、何も考えていないと答えた。安倍政権は、安保法制の根拠に中国や北朝鮮の脅威を強調しているのに、原発への攻撃には、避難策も何もないと言う」

孫崎「ミサイル防衛なんて、できないんです。そういう議論は米ソの時代からあった。秒速数キロのミサイルに当てるなんて無理だから、発射する場所をピンポイントで攻撃する。また、政治や社会の中心地域への攻撃は範囲が広すぎて防げない。北朝鮮には300発くらい日本向けのノドンがある。日本は、米国へ向かう前のテポドンを撃ち落とす役目だというが、そうなれば北朝鮮はノドンで日本に反撃する。日本の安全保障関係者は、その不合理性を誰も言わない。ひどい国です」

岩上「鋭い質問をした山本議員に、ホリエモンが、池田信夫の話を持ち出して、『ミサイルを市街地に撃ち込めば数万人を殺して済むので、原発を攻撃するはずがない』と中傷した。アホですね。なぜ、原発or市街地なのか。同時攻撃はいくらでもできるのに」

孫崎「私は『日米開戦の正体』で、日本は1対10の差がある米国に、なぜ勝てると思ったのか、明確な答えがないと書いた。今、日中の軍事バランスは、核兵器も含めて1対100の差があります。戦争にはなり得ないのに、それを認めようとしない」

岩上「ネトウヨは、戦争は尖閣諸島の周辺だけになる、と言う。その上、原発への攻撃は国際法違反だから、相手はしてこないと信じている。あれだけ、中国や北朝鮮を非人道的な国家だと非難しながら、都合の良いことです。原発を絶対に狙わないでいてくれるなら、そんな良い国はないから、仲良くできるだろうに。米国の戦略家たちは、現実に中国本土まで攻めることは無理だから、エアシーバトルで日本列島を戦場にする、と明言しています。皆さん、日本が戦場になることを踏まえておいてください」

今は真珠湾攻撃の前夜と似ている

岩上「それでは、なぜ、日米開戦は避けられなかったか、という本題に入ります。真珠湾攻撃の前から、張作霖爆殺、柳条湖事件、5.15事件など、いろいろな事件が続いていました。

 今の安倍政権のやり方は、真珠湾攻撃を決定した時と同じです。指導者が嘘や詭弁の説明で国民の望まない政策に誘導し、マスコミはそれを検証せず、国民は信じるふりをして容認。反対する者は弾圧する。集団的自衛権、原発、TPPにも共通しています」

孫崎「今のひどい状況は、真珠湾攻撃の前夜と類似しています。そこで、なぜ、日本が真珠湾攻撃に至ったかを調べたのです」

岩上「自分より大きな相手に『今なら勝てる』と思っていること、戦争の規模を小さく見積もっている点も、真珠湾攻撃の時代とよく似ています」

現代の「君側の奸(くんそくのかん)=悪い家臣」

<ここから特別公開中>

孫崎「今上天皇は、今年(2015年)の年頭所感で、『満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだ』と言われた。これはすごいことですよ」

岩上「日本人全員が考えるべきことですね」

孫崎「天皇陛下は、満州事変から真珠湾攻撃に続いた歴史と同じ流れが、今、起きているのではないか、と懸念されているのだと思います。安倍さんを中心とした右派は、天皇制を重要視すると言いつつ、天皇陛下の考えを尊重していません。鈴木邦男さんに、右派の人たちの考えと、天皇の意見が合わない場合はどうするのかと聞いたら、『右翼の中には、あるべき天皇像があり、現実の天皇がそれと違ったら排除してもいいと考える者もいる』と言われました」

岩上「護憲天皇を苦々しく思う保守派はたくさんいます。安倍首相ブレーンの八木秀次氏は『正論』誌で、『両陛下のご発言が、安倍内閣が進める改憲への懸念のように国民に受け止められかねない』と批判した。君側の奸(主君の側で操る悪い家臣)だ。

 『正論』に至っては『皇太子はさらにリベラルだから廃嫡せよ』とまで言う。許しがたい。なぜ、右翼はそれを批判しないのか。NHKも、今上天皇の『平和と民主主義を守るべき大切な日本国憲法~』との言葉をカットして放送した。安保法制について、NHKの政治部記者は『総理が夏までに決めると米議会で公言した国際公約だから』と発言しています。つまり、国民の意志は関係ないということです」

孫崎「天皇の考えを尊重せず、場合によっては抹殺、というのは戦前の軍部と同じです」

安倍首相の代理でトンデモ発言、目をかけてもらう議員たち

岩上「安保法制に抗議するSEALDsの学生に対して、『デモに参加すると就職や結婚に影響する』という組織的な中傷が相次いでいる。学生を萎縮させようという姑息なやり方だ。そんな中、自民党の武藤貴也という若手議員が出てきた。

 武藤議員は学生たちを、『戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考え、と批判した。つまり、滅私で命を国に捧げろ、と。彼は基本的人権を否定し、自分は戦場に行かずに、人を送り込むことを考えている」

孫崎「非常に危険なのは、党内に安倍政権に反対する声がないことです。大西英男氏や武藤貴也氏は、こういう発言が安倍首相に喜ばれるとわかっている。正直にものが言えない首相の代わりを務めれば、目をかけてもらえるという計算が透けて見える。憲法は国民主権を中心にしており、公務員は憲法を守ることを義務づけられている。それを覆している彼らは、今の日本国憲法の中にいるべき者ではない」

岩上「憲法に基づいて議員になったのだから、すぐにバッジを返すべきです」

安倍政権の背後の日本会議、神道政治連盟、統一教会

岩上「武藤議員は『基本的人権が日本精神を破壊した主犯だ』などと書いています。元から復古思想の持ち主というより、自民党に入ってから、靖国議連や日本会議の影響を受けたんでしょう」

孫崎「今、日本会議の人は区議会議員にもいる。一部ではなく、裾野を広げつつありますね」

岩上「安倍政権の閣僚のほとんどは日本会議メンバーです。神道政治連盟、統一教会も。これでは日本が滅びますよ。彼らは、いざとなったら米国が日本を守らないことはわかっている。だから、核武装を主張し、安上がりな兵器だと言う。武藤議員はミアシャイマーらを勉強している。渡米して上院議員らに会ってくる、と言っています」

孫崎「危険なのは、米国で勉強して、米国の思想やネオコンの考え方を受け継いだ日本人たちが、民主党や公明党の安全保障分野の中核にいることです」

岩上「武藤議員も単なるバカではないので、次の選挙で徹底的に落とすべきですね。若い人たちは、武藤議員のSEALDs批判を、ふざけるなと跳ね返しています。高校生デモに参加した女子中学生は、『安倍総理はおかしい。人の話を聞かないところはクラスの男子と同じ』と話していたり。ちゃんと見ている。NHKへの抗議デモも、1人の女性がツイッターで言ったら500人くらい集まった。参加者は『NHKは公共放送なのに、政府のプロパガンダを垂れ流すばかりの大本営発表のメディアになって、すごく怖い』と語っています」

孫崎「NHKでは、スポーツや芸能の情報と、政治報道は違うということです。政治に対しては客観性がなくなります。報道の種類によって、真実度が違うことを知らなければなりません」

岩上「バイアスのかかり方がひどい。NHKは憲法学者に安保法制の調査をしておきながら、違憲派多数の結果を隠蔽した。番組では違憲と合憲の憲法学者各2名+アーミテージを出し、彼に日本のあり方を語らせた。これは情報操作にほかならない」

孫崎「最近は、視聴率に影響するから民放の方がしっかり報道をしている。今の流れでは安保法制は成立する。重要なことは、安倍政権の支持率をどれだけ下げるかです」

岩上「でも、安倍さんが退陣しても、表紙の取り替えだけではダメではありませんか?」

孫崎「表紙の取り替えは重要です。操作する側にとって、安倍さんは正直そうで、いいタマなんです。石破さんだと、皆がおかしいと思う。高村さん、麻生さんもダメ。それで一気に支持率は落ちるので、表紙のすげ替えはやってほしい」

だまされない、あきらめない、黙らないこと

岩上「伊丹万作氏はエッセイ『戦争責任者の問題』の中で、『日本人全体がだましたりだまされたりしていた。新聞報道の愚劣さ。専横と圧政を許した国民の奴隷根性。それを自ら反省しないなら、今後も何度でもだまされるだろう』と書いています」

孫崎「この発言は昭和21年。伊丹万作氏は同年に亡くなったので、遺言のようなものです。ちなみに、認知的不協和という言葉がある。喫煙者がタバコを続けたい気持ちと、健康に害があるという相矛盾を持ち続けることができず、害はないとする情報を一生懸命に集め、客観的データを排除して大丈夫だと納得するというもの。

 たとえば、役人の場合なら、安倍首相に反する考えは不都合になる。保身のために、原発、TPP、集団的自衛権を認める考え方をしてしまう。残念ながら、上の地位に行けば行くほど、客観的ではなくなるのです。一方、DeNAオーナーの南場智子氏は、慶応大学で講演した時、『日本は沈没する。あなたたちは沈没する日本と一緒になるな。独自に生きる道を考えろ』と言いました」

岩上「まず、沈没させるな、と思います。二者択一ではなくて。絶対に生き抜ける道がある。だまされない、あきらめない、黙らないことが肝要です。安倍政権はジョージ・オーウェルの『1984』と同じ、ニュースピーク・ダブルシンキングを展開しています。『戦争は平和』『自由は屈従』『無知は力』だと。

 日本は米国には従順で、今回も米国の盗聴に抗議ひとつできない。内向きには居丈高で弾圧を行なうのに。米国の報道官は、日本から抗議はないと言う。同様に盗聴されたドイツのメルケル首相は、大いに怒って抗議したんです。

 積極的平和主義は『戦争は平和』そのものだ。今、日本は『1984』の世界に突入している。ネトウヨは、米国が盗聴するのは日本の中枢にアカがいるから調べてくれている、と反論する。冗談じゃない。日本は独立主権国家です」

孫崎「フォーブス誌の2014年・世界でもっとも強い人ランキングで安倍さんは63位。1位はプーチン。以下、オバマ、習近平、メルケル、ローマ法王の順。日本はドイツより経済力は上だが、世界は安倍首相の気概のなさをわかっている」

日露戦争は薄氷の勝利、夏目漱石は「滅びるね」と予見

岩上「日米開戦は本当に愚行だったという孫崎さんは、『それは日露戦争の勝利から始まった』と書いています。日露戦争は、裏でユダヤ人富豪のジェイコブ・シフが戦費を調達した。その背景にはロシアのポグロム(ユダヤ人虐殺)への恨みがあった。

 ロシアは余力があって、戦争を続けるつもりだった。続けていたら、日本は勝てなかった。結局、ポーツマス条約でも賠償金を取れず、そんな政府に怒って日比谷焼討事件が発生する。日露戦争で、かろうじて南満州鉄道の権益を得た日本は、さらに満州進出を企てる。

 シーレーン覇権を考えたアルフレッド・マハンは、海軍軍人・秋山真之の師匠だが、日米の対立は避けられないと予見しています。中国が今、マハンの理論を取り入れているそうです。

 また、夏目漱石は『三四郎』で、日露戦争後を『滅びるね』と描写した。漱石は『それから』では、『日本は西洋から借金でもしなければ、到底立ち行かない国だ。(略)一等国だけの間口を張っちまった。なまじい張れるから、なお悲惨なものだ。牛と競争をする蛙と同じ事で』と。漱石は、ちゃんと見ていた。日本は薄氷の勝利なんです」

ヘリテージ財団が描く「安倍の右思考+中国脅威論」の青写真

岩上「さらに続けます。GNPでは、1900年時点で10対1以上で米国が圧倒的優位。ロシアも少し劣るが資源がある。1925年、日本のGNPは67億ドル。米国は931億ドル。軍事支出は1921年、ロシアと日本は4億ドルで一緒だが、経済力がまったく違います。

 戦後のGDPの比較でも、日本は中国にも米国にもかなわない。でも、日本ではそれを語らない。こんなに差があるのに、なぜ、あえてケンカをするのか。だいたい、日本よりたくさんある小国が、なぜ、侵略されていないのか」

孫崎「日本人のメンタリティは『ドラえもん』のスネ夫です。いつもジャイアンがいると思っている。でも、ジャイアンは、もういないんです」

岩上「小林節さんのたとえがわかりやすい。米国は山口組。中国は稲川会。それに頼ると両方に食われる。民暴のケースと同じです。

 ルーズベルト大統領は『日本のアジア征服の陰謀は真珠湾攻撃の半世紀前から始まっていた』と述懐した。日露戦争の軍事費は国家予算の8倍で80%が外債。日露戦争後、国の予算の30%が国債費、30%が軍事費。国民はとても苦しい。

 安倍政権では2016年の防衛費が初の5兆円台に。増大の理由は米国の軍事費の肩代わりです。安保法制の衆院強行採決を受けて、米フォーリン・ポリシー誌は『ペンタゴンが長年望んでいた非常に良いニュース』だと報じた。安倍首相は2014~2019年にF22、F35、グローバル・ホーク、ドローンなど24.7兆円の支出を約束、との記述もあります」

孫崎「ヘリテージ財団のクリングナー氏は、『安倍さんの右と、中国の脅威。この2つを合わせれば、われわれがやりたいことができる、と言った。米国のために、集団的自衛権で自衛隊を海外に行かせ、防衛費を増大させ、辺野古移転を推進させる。こういう仕組みをヘリテージ財団が書いているにもかかわらず、それを指摘しても、誰も反応しない」

岩上「IWJではクリングナー論文の全訳をアップしています」

伊藤博文の暗殺は、軍部にとって渡りに船

岩上「さて、日露戦争は米英の支持で勝ったが、日本は遼東半島と南満州鉄道の権益だけのはずが、満州の独占を図って約束を破った。米英が激怒し、日英同盟は解消された。日本の教科書には、『日露戦争のあと、日本は列強の仲間入りをして5大国になった』とあるが、実情は違う。

 満州は属国ではない、と伊藤博文は正論を言った。ロシア南下の際には、米英を満鉄経営に仲間入りさせて牽制する案も持っていた。1905年10月の桂太郎首相・ハリマン協定は、満鉄の日米共同管理の予備協定だった。しかし、面子を重視した小村寿太郎外相が白紙にする」

孫崎「伊藤博文が殺されていなかったら、ハリマン協定が結ばれていたら、日米の対立はなかったでしょう」

岩上「もし、満鉄の共同管理が実現していたら、その後、米国との対立も小さく、財政負担も軽くなったと思います。でも、日本軍部は満州事変を起こしたかったのでしょう。当時の新聞も、軍部の意向で市場独占、と賛美しています。

 1907年4月4日、軍部は対米戦争を想定した帝国国防方針を策定。仮想敵国を露米独仏とし、満州・朝鮮進出を前提に、米国に対しては東洋における海上兵力の掃討とした。真珠湾攻撃の基本方針と同じ。当然、米国も知ることになります。米国も対日作戦『オレンジ計画』を策定。1904年、米国は世界の主要国と戦うカラープランを策定していた。ドイツはブラック、フランスはゴールド。日本は米海軍の最たる仮想敵国で、対日戦争は不可避と見ていた」

孫崎「バランス感覚のあった伊藤博文は、児玉源太郎参謀長が満州に残ると主張した時、約束が違うと批判した。伊藤が生きていたら、日本は間違った方向には行かなかった」

岩上「そんな伊藤博文は安重根に暗殺されたが、あまりに出来すぎではないでしょうか。なぜ、安重根はハルピンに行けたのか。伊藤博文を邪魔に思っていたのは、むしろ日本軍部の側ではないか」

孫崎「伊藤博文は日露戦争にも反対しており、一部の勢力にとっては邪魔な存在でした。1902年、外務省政務局長の山座円次郎が右翼団体玄洋社と結託、伊藤の暗殺を計画したことも。それを察した伊藤は、山座を私邸に呼び、日本刀を渡して自分を斬れと言った。山座は逃げ帰った。

 テロはアルカイダの仕業、とされた9.11と似ている。日本人は伊藤博文を殺せない。韓国人を絡ませると好都合。今、韓国では安重根は英雄だが、伊藤博文は朝鮮独立には前向きだったのだ。政治的には、そのあとの展開を考慮しないといけない。その後、山縣有朋がトップになり、軍部と一緒になって動いていく」

岩上「その山縣は、対露協商をしようとしたが死んでしまい、残ったのはバカばかりになった。領土拡大に進み、敵を増やしていく。今と同じじゃないですか。ここがポイントですね」

独立国は相応のリーダーを選ぶ。今の日本は?

岩上「そして、日本は領土拡大で敵を増やしていきます。日英同盟で第一次大戦に参戦、ドイツに勝利したが、『留守を狙った空き巣』だと英国の怒りを買った。結果的に、山東省と旧ドイツ領南洋諸島委任統治権を得る。中国も旧ドイツ権益の直接返還を求め、ベルサイユ条約の調印を拒否します」

孫崎「日英同盟で参戦と言うが、英国は領土を奪われることを知り、反対だった。ポーツマス条約も圧力があって理想的にはいかない。だが、その場を収めるために約束し、あとで、何の影響もないことにするのが日本のやり方だった。欧米では契約を重視する。ところが、契約に疎い日本人は気にしない。ポツダム宣言でも、日本の領土は本州、九州、四国、北海道だけ。その他の島々は連合国が決めると書いてあるのだが。今、それを(国内で)言うと国賊扱いされてしまう」

岩上「安倍総理は、満州は侵略して取ったのではない、などと言っていますよ」

孫崎「日本を運営する立場の人は、ある程度の知識は持つべきですね。習近平、プーチン、オバマ、メルケルはバカではない。情勢判断には、それ相当の知性が必要なのです」

スケールの大きい石橋湛山

岩上「続いて、欧州大戦の影で覇権を拡大しようとする動きを見ます。1915年、大隈重信は、元老や軍部有力者や山縣有朋の指導に基づき、中華民国の袁世凱に、満州、ドイツ利権を確保する対華21カ条の要求をつきつける。

 石橋湛山は『世界から孤立し叩かれる』と大隈に猛反発、要求の撤回を迫った。当時の早稲田は東京専門学校という小さな学校で、石橋は生徒、大隈は恩師だったが、こういう気概のある人がいて、のちに自民党を作った。今の自民党はなんですか。石橋湛山は自由主義者で弾圧されたが、スケールが大きい。終戦直後、皆が意気消沈している時に『日本の未来は明るい。靖国神社は解体しよう』と言った」

孫崎「戦後、国の予算の3割が米軍経費であることを批判して、大蔵大臣をクビになりましたね」

岩上「田中角栄が日中国交回復をやり遂げるが、訪中する前、石橋湛山を訪れて挨拶している。2人とも自民党ですよ」

孫崎「読売新聞の戦後の社長は馬場(恒吾)という、軍と闘ったリベラルな人。ところが、今、読売の社史からは消えています。先ほどの、『より強く、より正しかるべきであったと自責の念に堪えない』の森島守人。結局、人間はそこに行き着くと思う。定年した人が『あの時、もう少しがんばっておけばよかった』とこぼす。後悔しないように、ということです」

満州だけで止めておけばよかった

岩上「米国は日本の中国利権を認めたのですか。1917年、石井菊次郎特派大使とランシング米国務長官の間で、中国での日本の特殊利益を承認する『石井・ランシング協定』を締結。しかし、1923年に廃止。米国との間に火種が残った」

孫崎「これは、石井の外交の勝利でした。当時、米国が第一次大戦に参加する際、批判がすごくあった。石井は、米国に大戦参加への感謝の意を表した。それにルーズベルト大統領が心を動かされ、協定を認めさせたのです。

 米国にも満鉄ぐらいで収まっていれば、との妥協もあった。満州に日本が留まっていれば、米国もそれほど反発しなかった。真珠湾攻撃前の日米交渉で、日本は中国から出て行けという時、満州を含まなくていい、との意見もあったんです」

岩上「これもオフショアバランシング。米国はうしろにいて、日本に満州を抑えさせてロシアを牽制できる。ドイツが再び来ても、日本を抑え役のバランサーに使えるということでしょう」

孫崎「だが、日本は満州を超えて中国に入った。これが米国との決定的な対立を生む」

岩上「中国では袁世凱の死後、(軍閥が)直隷派の呉佩孚と、日本と協力関係にある奉天派の張作霖とで対立、第一次奉直戦争(1922年)が勃発。2年後、第二次奉直戦争。張作霖は幣原外相に軍事支援を要求するが、幣原は出兵不要とした。

 そして1925年11月、郭松齢事件。(郭松齢優位から)張作霖の失脚を恐れた吉田茂奉天総領事と、安広伴一郎満鉄社長らが軍と連携、幣原外相の反対を押し切り、統帥権を全面に出し出兵した。ここから軍独裁が始まる。吉田は中国派兵の先頭を切った」

軍に取り入り、出世を果たした吉田茂奉天総領事

孫崎「日露戦争で敵側だった張作霖は田中義一に捕まるが、日本の傀儡となり生かされる。傍流だった吉田茂は郭松齢事件で軍と結びつき、外務次官に上り詰め、人事を握り、外務省の国際協調派をはじき出して、軍と一緒になっていく。

 吉田茂は裏のキーパーソンです。吉田茂が『反軍の代表』と言われたのは、日本が負けるとわかった終戦間際のこと。なぜなら、軍にやっつけられたとなれば、次のチャンスが訪れると考えたからです」

岩上「吉田茂は、機を見るに敏ですね。次に、幣原外交の失脚について。山縣有朋に重用された、中国積極介入派の伊東巳代治枢密院顧問が、先頭に立って幣原を批判した。1927年、台湾銀行救済案は枢密院で否決され、第一次若槻礼次郎内閣が総辞職。背景には幣原外交への批判があった」

孫崎「この若槻礼次郎は、第二次世界大戦直前の天皇御前会議で、戦争へ行くべきではない、と主張した人です。日本政府にも、軍の独走や真珠湾攻撃を批判する人たちはいた。しかし、だんだんと主流から外されていったのです」

岩上「日本は、パリ不戦条約(1928年8月27日)を締結しているにもかかわらず、戦争へ突入した。今また、こういうことを繰り返してはならない。そのためにも、われわれは黙っていてはいけないし、事実を見て、批判を続けなくてはなりません」

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  1. あのねあのね より:

     パーシング2配備によるソ連とドイツ滅亡計画に気づいたドイツの若者たちがミサイル配備反対デモをやっていたのを当時のニュース映像で覚えている。但し、当時の私は滅亡計画まで理解できなかった。この当時流行ったネーナの『ロックバルーンは99』という曲は、パーシング2配備によるソ連とドイツ滅亡計画に気づいたドイツの若者たちからヒットし世界中でヒットした曲だった。

  2. 西遠寺 透 より:

    孫崎さんと岩上さんの対談を2度3度、拝聴しました。

    そのなかで,孫崎が,安倍さんが演説するから自民党を支持するものがいるのであって,
    それが他の閣僚であればそうはいかないというお話をされていました。

    確かに安倍総理は時代を映す鏡でもあります。ただし全てでなく。
    なぜ安倍総理が支持されるのかを、少し考えて見ます。
    安倍総理の姿をみていると大都市の企業の役員をどこか思わせます。
    多忙でニュースを短時間しか見ない人には、すらりとして、いつも服装に気を使い、断定的に自己主張するのは、頼もしく感じられても不思議ありません。
    原発を世界各地に「積極的平和主義」のもとセールスに飛び回る。
    そういう姿に、主に都市に住む自民党支持者は、ねたみの裏返しで「憧れ」、幻想的な「寄らば大樹の陰」を期待し、今ある生活は現政権の見返りだとさえ思い込む。
    アベノミクスは、ないよりまし。
    ふだん読む新聞は、岩上さんがよく名前を挙げる2紙、 ないしそのデジタル版
    食べ物ガイドで高くて行けない場所でも会社なら会食はしている、組織の伝達は上位下達で徹底し、仲間で固めたとはいえ「外部」の意見も聞く。
    海外それもアメリカにも行くが、交渉なぞほどとおく,ほとんど事前にきまっていてよりも顔つなぎ
    広告代理店が考えつきそうな、覚えやすく分かりやすい政策実行の勢いのある言葉がどんどんと出る。
    東シナ海や南シナ海の「脅威」は上海など海岸沿岸にある中国企業を普段意識している人には、油田や島開発の話は理屈より感情面で揺さぶられるのではないでしょう。こうした姿は、「会社人間」の固い支持を受けやすいのではないか、自分の労働の延長に政治を見てしまう。それも多忙ゆえに。
    アメリカに本社がある米国籍の役員が何人もいて、会社は日本本社であり米国企業の子会社でもある。たえず企業の損益と自分の事業の進捗と成果、上司の評価、自社株の動向に気が張っている。
    中国、それに韓国国籍の人は会社にはほとんどいない、企業も自分も中国・韓国には競合していてむき出しの対抗心もある。
    一方、対米従属的でみずからを「社畜」と自己蔑称するほど会社従属的である。仕事で自分の意見など滅相も無い、仕事に忠誠を誓い、どこかの部署で一緒だった仲間が過労で倒れた話は、「美しく散っていくことへの幻想」を置き換える
    大学や学生時代は遠い昔のこと。会社には、「左翼」どころか「批判勢力」もいない。
    「白を黒と言う」のは当たり前。
    社会を政治的に批判した経験もなく、そのような本も読んだことはない。
    忙しいので、お金の使い道は海外旅行、高級外車、高級住宅。
    そういう「会社人間」、独身ないし少人数の家族で経済最優先の人々が安倍さん支持、それも熱烈な支持者であり、少なからぬネット右翼がそのなかにいると思います。
    それでも、自民党、いくらなんでもそれはまずいよ、という人が少しづつ「不支持」にまわってきているのが現状でしょうか。

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