tale

遠距離

「あなたも猫を飼えばいいのよ。 寂しくなくなるよ。」 何を言っているんだ。 一体誰のせいで寂しがり屋になったのか まるで分かっていない。 そんな本音は心に仕舞い込み、答える。 「そうだなあ。ぼくは・・・ あなたの飼い猫になりたい」 「えー。あなたが猫…

辛さに耐えたその先に

季節を人生に例えるなら、冬の凋落と枯渇の眺めは、やがて迎える死を喚起させる。 3月も終盤となった最近は、ようやく寒さも和らぎ、日が長くなってきた。札幌でも、道路の両脇に積み上げられていた雪の壁も融けた頃だろうか?寒い日は反射的に札幌に住んで…

甘い淡い記憶

慌てて乗り込んだエレベータにその彼女がいた。 重量制限ぎりぎりの乗客を乗せたエレベータはゆっくりと上昇し、 各階に停止するたびに、乗客は無言のまま足早に我先に降りていった。 彼女は5階で何人かの同僚の女性と降りた。 それまでの間のおよそ30秒、斜…

失ったようでいて、失わない

「清志郎のいない世界で生きていかねばならないことに、心底途方に暮れている。」と角田光代が書いていた。でも、私は知っている。大好きな音楽家が死んでしまっても――そしてそのときにある意味では、あるひとつの世界は確かに終わりを迎えたのだけど――それ…

Spiritual Love

ロウソクの灯りはいつだって僕の視線を奪い続ける。 いつのことは具体的に思い出すことはないが、 在りし日の淡い幸福感を回想させた。 灯りが消えた後も、目を閉じればその残像が心を捉え続けた。 アーバン・スピーシーズの「スピリチュアル・ラブ」は、 僕…