poem

Un moment pour se sentir

古いレコードに針を落とし窓を猛烈に叩き続ける台風を溶け合うコンチェルトとしてアレンジし直す ローズダマセナを惜しげもなく使用した グランパルファムの相乗効果ボオドレエルが示した色彩で真新しい記憶を完成させる 上擦った気分をドライダウンさせた …

別れのことば

「楽しかったよ」どうしてそんな笑顔で言えるの? 「やっぱりあなたのほうが多く愛してくれた」涙顔のぼくにそれはこたえられない 「もう会えないんだね」なんて悲しいシノニムだろう 「覚悟はしてたけどね」強がりこそは至上の後ろ髪 喪失と再生その隙間を…

起爆剤

元来、世界で文学といえば、詩であった。 現代のような小説が主流になったのは、まだほんの百年にも満たない。 西洋では詩も絵画も音楽も貴族のためのもので、 市井の臣に芸術は存在しえなかった。娯楽としての芸術としては舞台が中心で、のちに今の映画やド…

不毛な澱のカタルシス

その心に独善と偽善が満ちている限り 自省と自戒に至ることはない 説得は届かず納得することはない 公平かつ公正であれと要求するが その矛盾に気付くことは永劫ない 区別と差別との違いを解せず 応対と対応との違いを解せず 会話と対話との違いを解せず 機…

ただひとつ

いまわの際に思い浮かべる恋は 唯一なのがよい 誰にも話せず叶わないのがよい はかなく散った幻のがよい 足掻き苦しんだ夜が多いほどよい 美しくなくてもよい 忘れられないほどなら それがよい 最期まで秘密にしておくのがよい 思いは届かないのがよい 死後…

瞳の奥に

あなたを見つめるこの瞳の奥に 録画装置を内蔵しよう 保存されたあなたをいつでも再生できる 幻灯機も内蔵しよう 曖昧で壊れやすい ぼくの記憶の精度を補正しよう 完全で完成されたその美を 精細に余すことなく ぼくの瞳に繰り返し映し出そう 時と共に残酷な…

ずっとずっと後

この一瞬を冷凍保存して、永久保存できたなら。 幸せの最中には不思議とそう感じていない。 いつだって、心の底で暗躍する深い感情は、 想念として結実する手前で意識化に潜み、 その場に相応しい言葉を奪い去る。 ずっとずっと後になって、思い返し、 そう…

世界恋愛名詩集

昨年のクリスマスは恋愛詩の金字塔 黒田三郎「ひとりの女に」を書いたので今年も恋愛詩を紹介しようかと思う。 今回は訳詩集で、1967年発行の名アンソロジー、角川書店「世界の詩集」シリーズ第11巻「世界恋愛名詩集」(宗左近編)。 この巻では、既に他の巻で…

20世紀のフランス詩

前回の記事「フランス文学史」では、小説の時代である20世紀は、詩集のみを掲載した。代表的なものについては漏れなく網羅したつもりであるが、前世紀当時に国内で発行された詩集から、リアルタイムではどのような詩が重要視されているかを見直してみた。 今…

私家版・十大フランス文学・十大フランス詩・十大フランス演劇・十大フランス短編集・十大フランス哲学

かつて、id:idiotapeさんが書いた「私家版世界十大小説」を皮切りに好きな小説の記事を書くのが流行したことを、今でも時折思い出しては、当時の記事を読み返す。 あれからちょうど2年。振り返るのにはそろそろよい時期かと思い、この1年間で研究してきたフ…

思ひ潜めよ、わが魂《こころ》、この荘重の瞬間《たまゆら》を 斎藤磯雄によるフランス翻訳詩

「ボードレール全詩集」「ヴィリエ・ド・リラダン全集」「七宝とカメオ」(ゴーティエの詩集)の翻訳で知られるフランス文学者、斎藤磯雄。日夏耿之介に私淑し、漢詩漢文の素養がある彼の絢爛として雄勁な翻訳に対する評価は、漢語雅言を駆使した彫心鏤骨の名…

恋愛詩の金字塔 黒田三郎「ひとりの女に」

昭和29年に発表され、H氏賞受賞をした詩集「ひとりの女に」。 この一冊を超える恋愛詩集は国内では未だ出ていない。 終戦後の極貧の時代に書かれたものとは思えない、瑞々しさと喜びを湛えている。 この戦後詩だけでなく恋愛詩を代表する詩集のオリジナル版…

ヘルマン・ヘッセの訳詩8選

ノーベル賞作家であるヘルマン・ヘッセ(1877-1962)の小説を子供の頃に読んだことがある人は多かれど、彼の詩を好んで読んだ人はそれほど多くはないだろう。 しかし、彼の作った抒情詩の数は夥しく、また重要である。 とりわけ印象に残る――内省的な魂の遍歴…

日本の近代詩に影響を与えた訳詩集傑作選その2

前回の記事で採り上げた『日本の詩歌28 訳詩集』(1969年)から25年後に発行された、 『近代の詩人 別巻 訳詩集』(編:加藤周一 1996年潮出版社刊)に 新たに収録された訳詩集は、加藤周一が選定で大いに教示を受けた 谷川俊太郎編『愛の詩集』をはじめ、 『中…

日本の近代詩の夜明けと訳詩傑作選

■ 日本の近代詩の歴史 (新体詩の誕生から現代詩以前の時代) 日本に於いて、こんにちの「詩」という言葉は元来、漢詩を意味していた。1882年に官学者の外山正一、矢田部良吉、井上哲次郎が『新体詩抄』を啓蒙の一端として出版したものが、近代詩のはじまりで…

近代フランス象徴詩に影響を与えた詩人と日本でのフランス象徴詩の訳詩の現代訳について

12/31〜1/2の3日間WEBにログインせず、フランス象徴詩を読み返していた。*1といっても、以前時代を一新した仏蘭西近代詩の翻訳詩集3冊に書いた4冊(1905年上田敏「海潮音」、1913年永井荷風「珊瑚集」、1925年堀口大学「月下の一群」、窪田般彌「フランス…

時代を一新した仏蘭西近代詩の翻訳詩集3冊

優れた一冊の本には、時代に清新の気を吹き込む力が備わっている。フランスの近代抒情詩や象徴詩をオムニバスした名翻訳書3冊は正に時代を一新した。アポリネール、ランボオ、ボードレール、コクトー、ラフォルグがあれほどまでに優美で雅趣に富んでいるの…

雨が降る日は

雨が降る日は家であなたを思い出す 「私、究極の雨女なの。雨は好きよ」 と告げたときのあなたの眼差しを思い出す 雨が降る日は家で忘れじの曲を聴く あなたの好きだった曲は 孤独な現実を残酷なまでに知らせてくれる 雨が降る日は家で読みかけの本を読む あ…

月影に濡れ

きっと忘れない あの夜に射した優しい影向かうべき胸などなくても 同じ朝が来なくても秋の冷たい空気に お似合いな ひんやりとした記憶