東葛スポーツ「ツール・ド・フランス」
それまでにもどんどん上げ続けるDJというのはいたと思うのだけれど、それでも2 many DJ'sの登場というのは個人的には衝撃だった。例えば、今youtubeで観ることが出来るReading Festivalの2011年の動画では、Chemical Brothers 'Hey Boy, Hey Girl (2ManyDJs Edit)'とMotörhead 'Ace Of Spades' とBlur'Girls & Boys'とNew Order'Blue Monday'が一つのミックスの中でかかるのだ。
それぞれ音楽のジャンルは全て異なる。エレクトロ、メタル、ブリットポップ、ニューウェーブ。ジャンルが違うからこそ、それぞれの曲でそのジャンル特有の盛り上がりがあり、それらを巧みに繋いでいくことで波を作っていくのだ。テクノやハウスのミックスの考え方とはおそらく全く違う世界観であるように思う。テクノやハウスのミックスがひとつのジャンルのちょっとした変化させていくのに対して、彼らは全てのジャンルの最もよい部分を抽出しそれを混ぜあわせることで生まれる何かを表現している。ただ、広い意味で音楽に合わせて踊るという「ダンス」をさせるために煽っており、彼らが人を踊らすためのDJであるということには間違いはない。
さて、東葛スポーツである。今回のタイトルは「ツール・ド・フランス」。スポーツ好きであれば、当たり前のように知られているあの世界最大の自転車レースを思い浮かべるだろうし、音楽好きであればその自転車レースを元にして作られたクラフトワークのアルバムが思い浮かべるだろう。どっちなんだ?と思う必要はない。なぜなら、どちらも出てくるからだ。そして、それらを下地にこれでもかというほどの作品が載せられていく。
タイトルは「ツール・ド・フランス」であるにも関わらず、最もフィーチャーされている作品はクエンティン・タランティーノ「パルプ・フィクション」。「パルプ・フィクション」の映像がステージの壁に流され、その映像に合わせて、俳優たちが動いたり、声をあてたりして話が進んでいくというシーンが多い。特に、映画前半部分のビンセントとジュールスの裏切った青年をあーだこーだ話した後で銃殺するシーンなどが使われている。
その「パルプ・フィクション」をネタとして使ったことによって、クリアしたことが一つある。演劇という限られた空間の中で行うジャンルの中で、「車の運転」というシーンは、演じるのはとても難しいように思うが、その運転に関するちょっとした発明があった。「パルプ・フィクション」の中にある、ジュールスの運転シーンに合わせて、俳優が車を運転している手の動きをすることで、あたかも車を運転しているように見えないこともないという演出を行っている。それにより、作品の舞台である、日比谷の街を移動しているように感じられなくもないという効果を発揮している。当然、車を運転しているわけではないので、この運転しているように見えないこともないことや、移動しているように感じられなくもないということそのことが面白く見えて仕方がないという効果もある。
「パルプ・フィクション」の他にも、たけしやオールナイトニッポン、立川談志といった毎回登場するネタを始め、ニコラス・ウィンディング・レフン「ドライヴ」やゴダール「女は女である」(ツール・ド・フランスだからね!)といった映画作品から、ふぞろいの林檎たちや日比谷の野音で行われたさんぴんキャンプの映像などこれでもかというほどの作品が使われている。そして、当然ライミングもある。
これだけの作品が次から次へと出てくれば、当然独特の空間が生まれていく。それが東葛スポーツ最大の魅力ではないかと思っている。ということで、僕は東葛スポーツが演劇界の2 many DJ'sであると思うし、これからもあってほしいと思う。