ナイロビの蜂

監督:フェルナンド・メイレレス
ichinics2006-05-20
『シティ・オブ・ゴッド』を見てすごい、と思ってからずっと待っていたフェルナンド・メイレレス監督の新作。これは、すごい。原作者であるジョン・ル・カレの作品はひとつも読んだことがないのですけど、この作品と監督を結び付けた人はすごいと思う。
世界の手に負えないくらいの広さを感じて背筋がぞっとするような気持ちと、もっとここで見ていたいという気持ちがないまぜになる。
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主人公は英国外務省一等書記官のジャスティン(レイフ・ファインズ)。物語は、彼の妻が旅先で亡くなったという知らせを受けるところからはじまる。植物を愛する、穏やかで控えめな男性だったジャスティンは妻の死の真相解明に乗り出す……というあらすじはまるでミステリなのだけれど、この物語の主題は「謎」にあるのではないと思う。ナイロビの風景、ジャスティンそしてその妻テッサの人生。それらの要素が複雑に、しかし明確な物語の筋に絡み合って、言葉だけでなく、映像でも繋がっていくことで、ひとつの映画としてすばらしいものになっている。
例えばサンディの表情、「二日後に」と念を押すような台詞、それらのちょっとした違和感、ひっかかりに全て意味がある。特にあの冒頭のショットはすばらしかった。静と動のコントラストが残像のように焼き付くメイレレス監督ならではのカメラワークが、この脚本を「ラブロマンスもの」とか「サスペンスもの」などというジャンルから解放していたように感じた。
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この原作と関連があるのかは分からないけど、主題はグレッグ・イーガン『祈りの海』*1に集録されていた「イェユーカ」にとてもよく似ている。設定は違うけど、あれ、これ読んだことあった、と思うくらい似ていた。「知らないでいる」ことよりも、知ることを選ぶ。知ることは、最終的には、とてもシンプルな核のようなものにたどり着くための作業なのかもしれない。
それからまた伊坂幸太郎さんの『砂漠』*2に登場する西嶋の台詞を思い返していた。

「目の前で、子供が泣いてるとしますよね。銃で誰かに撃たれそうだとしますよね。その時に、正義とは何だろう、とか考えててどうするんですか? 助けちゃえばいいんですよ」p205

それは「自分のために」だ。

レイフ・ファインズさんについて

好きな俳優さんなのですけど、特にこの役柄はとても良かったです。テッサに告白(?)されて、照れて誤魔化したりお礼言ったりするところがたまらなかったです。テッサ役のレイチェル・ワイズさんもすばらしかった。たくましく凛々しく美しくチャーミング。ジャスティンが彼女を好きになるのはとてもよく分かる、と思った。
が、しかしあのポスターがよくない、というか内容とあってない気がする。

*1:『祈りの海』感想 → id:ichinics:20060322:p1

*2:『砂漠』感想 → id:ichinics:20060107:p1