法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

今さらだけど『連ちゃんパパ』って漫画の基礎的な技術力が高いよね

ベテラン漫画家のありま猛がパチンコ漫画誌に連載していた、全43話の漫画作品。単行本にまとめられず、1話を1巻という表記で電子配信されている。
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話題になった発端は、新型コロナ蔓延下で自粛しないパチンコを叩こうとして、匿名掲示板で紹介されたという経緯らしい。
ありま猛『連ちゃんパパ』がなぜか突然ネットで流行 「スナック菓子感覚で摂取できる地獄」など悪夢のような感想が集まる - ねとらぼ
それが在宅者が増えていることと、各漫画サイトで無料公開している手軽さもあって、一気に注目をあびていったようだ。


パチンコをきっかけとして人道をふみはずしていきながら、周囲を利用して悪びれることなく生きのこる主人公。それがほがらかで迷いのない描線で描かれている。
たとえば大人向けの藤子F短編にも、エログロをあっけらかんと描いて、シリアスなドラマを展開する作品群がある。『中年スーパーマン左江内氏』は美人局などの地味な犯罪が多い。

しかしそうした作品はちゃんと描線の荒さや頭身などが調節され、普段の絵柄もドラマとのギャップを調教する演出に活用されていた。
そうした絵で雰囲気を出そうとせず、徹底的に日常の延長で悪夢を描いているところが『連ちゃんパパ』独特の空気を作っている。
もちろん技術不足ゆえの意図せぬ結果ではないだろう。背景などを見れば、緻密に描きこみつつ漫画絵に落としこんでいる*1。

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パースやサイズ比も的確だ。安易な写真トレスやアシスタント丸投げでリアルな背景からマンガ絵の人物が浮いてしまうミスがない。
人物の配置もわかりやすく視線誘導が的確で、異様に読みやすい。おかげで物語がどれほど苦しくても流れるように読めてしまう。


短いエピソードに起承転結がつめこまれ、きちんと完結しているので、中だるみしない良さもある。
予想外にトリッキーな展開も多い。特に21話から23話までの弁当屋エピソードは構成のうまさにうなった。一見すると他のエピソードに比べて無駄ゴマが多いが、読み返すと違った味わいが出る*2。

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しかし納得感のカタルシスはあっても、物語にピリオドを打つような局面はない。それが地獄のような日々の終わりのなさを実感させる。
上昇と転落の波はあっても、そこで一念発起するような信念の強さはない。だらだらと生活の好転を求めつつ先のばしにする自堕落さは他に類をみない。

*1:3話7頁。

*2:22話16頁。「の」の欠落は元頁ママ。