法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

遍路道に「気持ち悪いシール」がはられていたという差別問題

先日から共同通信をはじめとした各紙が伝えている。
http://www.47news.jp/47topics/e/252441.php

 貼り紙は「日本の遍路道を守ろう会」の名で、「最近、礼儀しらずな朝鮮人達が、気持ち悪いシールを、四国中に貼り回っています。『日本の遍路道』を守る為、見つけ次第、はがしましょう」と記載されていた。

 霊場会は昨年12月、お遍路の魅力を伝える「 先達 (せんだつ) 」に外国人女性として初めて韓国人の 崔象喜 (チェ・サンヒ) さん(38)を公認。崔さんは外国人が迷わないようステッカーを貼る活動をしており、貼り紙はこうした行為を踏まえて中傷しているとみられる。

  ∧_∧ ペリリ_____
 (,,・ω・) |ハングルはがせ|
⊂/   ノつ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 し―-J    おう気持ち悪いシールは剥がさんとな

  ∧_∧
⊂(,,・ω・)  じゃあ隗より始めたるわ!
 /   ノ∪
 し―-J |l| |
         人 ペシッ!!
       _______
       \ハングルはがせ\
          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


続報で、この「日本の遍路道を守ろう会」シールが複数県にわたってはられていたこともわかった*1。
しかし今回の差別問題は不幸中の幸いなことに、公式にも差別と認識され、きちんと報道記事にも批判が紹介されている。

札所の寺院で組織する四国八十八ケ所霊場会は「差別は許されない。ほかにも貼っているようであれば、やめさせていきたい」と批判した。

また、お遍路さんの文化とは何なのかという観点からの批判もある。

遍路道の道標などを管理している住民ボランティアの 岡田晋 (おかだ・すすむ) さん(59)がほかの休憩所にも貼り紙がないか確認すると、隣の阿波市にある2階建て休憩所でも1階と2階に1カ所ずつ貼り紙があるのを見つけた。

 岡田さんは「空海は中国大陸とのつながりがあった国際人で、貼り紙は空海を 冒瀆 (ぼうとく) している。見つければ、はがす」と話している。

たしかに四国遍路のもととなった弘法大師空海も、仏教をはじめとした当時の先端的な学問を中国で修め、日本に戻って広めた僧侶だった。
ハングル版シールをはっていた崔氏は四度も結願し、韓国出身者としても外国人女性としても初めて公認先達に選ばれた。そして韓国人向けのサイトをたちあげ、お遍路さんの文化を国外へ広めている。
仏教や漢字が中国や朝鮮半島から伝わった歴史を思えば、「日本の遍路道を守ろう会」といいながら「朝鮮人達」を特定的に排除することは最初から矛盾しているわけだ。


公式には批判されているとはいえ、やはり残念ながらインターネットでは差別シールに加担する意見も複数ある。
たとえばハングル版シールに対する批判として、英語版が必要ではないかという意見がある。しかし道案内シールをはっているNPO法人では、外国人のお遍路さんが増えたことをうけて2008年から英語版シールを作っていた。
「遍路とおもてなし」通信:英語版ミチアンナイ!

外国人のお遍路さんも毎年増えています。
(とくに歩き遍路さんの数はこの3年間で約5倍UP!)
そこで、世界中の人が無事に巡礼できるようにと英語版を作成いたしました。

このNPO法人は、世界遺産にもなっているスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼」と交流したり*2、スペイン出身のお遍路さんに「100km完歩認定書」を贈ったりもしているそうだ。
NPO法人遍路とおもてなしのネットワーク NPO活動内容 四国遍路の活性化に関する取り組み


↑↑↑
100km完歩認定第一号 IVANさんとMARIAさん
(スペインからのお遍路さん)

こうした道案内シールは、もともとハングル版に限らず電柱にはられている事例もわかっている。
http://furunet.ddo.jp/blog/index.php?e=26840


 この標識のおかげで道を迷わず助かったこと多し、と、お遍路で歩いた時期を思い起こしながらの点検作業。

 中には新しいデザインのシールもあった。

 折りしも今日は不法広告撤去キャンペーンの日で、不法な電柱広告を撤去のニュースも流れる中、四国ではこういう案内シールを守るキャンペーンもやってもらいたいものだ、と思う。

たしかに電柱にはられている案内シールが違法な可能性はある。あくまで条例に抵触するおそれがあるという段階だが、香川県都市計画課が崔氏へ通知したこともあるそうだ*3。
しかし違法性の疑いがあるとしても、お遍路さんをもてなす文化に長い歴史があるため、後から生まれた法律と衝突した事例なのだろう。シール全般への批判ならばともかく、「朝鮮人達」と特定して名指しすることは明らかな差別だ。


ここまでくれば、崔氏を批判する下記の記事は、やはりデマと断言してさしつかえない。
お遍路に韓国人が貼りまくる謎のシールを四国八十八カ所霊場会が許す理由 | こくまろトレンディ

崔象喜氏が遍路道の至るところに貼りまくった4000枚のシールは、「景観を損ねる」「お遍路を穢す気満々」として地元民や観光客から大不評だ。

もともと、このシールは韓国人しか分からないため、他の国の人が役立つようには制作されていない。
地元民によると、歩き遍路をしているアメリカ人とイギリス人の男性は英語の標識が無くても全然不自由せず礼儀正しくていい人だったという声もあり、お遍路をする人たちにはそもそも標識は必要がないのだ。

もともと日本語版シールがはられていたところにハングル版シールが加わったという経緯をふまえておらず、あたかも崔氏だけが道案内シールをはっているかのように誤解している。むろん、写真の引用元をはじめとした情報源がまったく示されていない段階で、そもそも信頼しがたい記事と明らかだったが。
ちなみに下記ブログでは、崔氏の道案内が間違っているというインターネットの匿名意見に対して、遍路道を歩いた体験から反論している。
お遍路の話(その1・遍路道) : やた管ブログ

遍路道は一種の古道なので、かならずしも札所に最も近く、歩きやすい道とは限らないのである。現在、国道になっていてビュンビュン車が走っているところもあれば、一般的な地図にはない山道もある。人の家の庭先(たぶん本当に庭)のようなところもある。

お遍路の話(その2・お接待) : やた管ブログ
さらに、先述したサンティアゴ・デ・コンポステーラでは、より自由度の高い道案内がされているという。文化というものは実に面白い。
「遍路とおもてなし」通信:スペインご報告!!

スペインの道案内は本当にざっくばらんで、
道路上でも民家の壁でも、どこでも記されており、
それは看板だったりペンキだったり、ときには石の矢印だったり!
巡礼者は安心して歩くことができます。