法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『鴉-KARAS-』雑多な感想

タツノコプロ40周年記念作品として制作された、全く新しいヒーローを描く全6巻のOVA。ただし2005年から前半3巻まで発売されたところで中断し、後半3巻分は2007年に発売された。


さとうけいいち監督に羽山賢二キャラクターデザインというスタッフワーク、人と超常が共存する都市を守るヒーローという構図、3DCGでヒーローと都市を描画する映像手法……等々の共通点から同監督のTVアニメ『TIGER&BUNNY』の原型といっていいだろう。
色彩設計などのビジュアル面では『The Soul Taker 〜魂狩〜』で同監督が担当したOPを思い出させ、退廃的な群像劇は吉田伸シリーズ構成の『SPEED GRAPHER』を思い出させる。ヒーローが戦闘機や自動車のような形態に変形する設定から、古き良きタツノコプロ作品らしさも感じた。
また、ヒーローは単に3DCGで制作しただけでなく、あえて影の部分を黒く塗りつぶしたり、手描きでハイライトを加えたりと、アニメとしてなじむよう念入りに工夫されている。戦闘が高速すぎて周囲の事象がスローモーションのように見える演出はすでに古典的だが*1、人間と妖怪の生きている時間の速度が異なる表現として効果をあげていた。人間の芝居やアクションでは手描きならではのデフォルメの効いたアクションも楽しめた。


設定や物語は難解そうでいて、終わってみればシンプルではあった。
都市のひとつひとつに「鴉」というヒーローが一人いて、妖怪と人間の共存する社会を守っている。その鴉が代替わりする時に、先代が都市の独裁管理を目指そうとして、それを倒す新たな鴉として主人公が選ばれた。そこに、かつて先代の鴉を信奉していた妖怪兄弟や、先代の鴉を信奉しつづけている妖怪集団、ちょっかいをかけてくる別都市の鴉、そして妖怪事件を追う刑事がかかわっていく。痛みと恐れを感じない主人公が、いったん力を失いながら圧倒的な敵に立ち向かう姿は、いかにもヒーローらしい高潔さを感じた。
しかし、ひとつの長編アニメとしては充分に楽しめたものの、前半の語り口がわかりにくすぎた。鵺の目的や主人公の来歴などの全てが明かされたのは第4巻になってから。物語の目的や落としどころは第1巻の結末までには明かしたほうが、映像の良さを素直に楽しめただろう。隠してたことで衝撃を増したような真相も特になかったのだし。

*1:この3DCGヒーローのアクションをスローモーションで見せる演出は、第1巻のコンテ演出を担当した中村健治監督の『ガッチャマン クラウズ』にも通じる。