リリース: 2010/11/14
分類: VOCALOID
ジャンル: ロック(エモ、スクリーモ)


前回の記事に続いて、uzさんの2ndフルアルバム『嘘吐きの隣で』を紹介させて頂きます。
(前回の記事: 「uz『可能性と未来の狭間に沈む』を聴いて【ボカロアルバム紹介】」)
初頒布は2010年11月14日、THE VOC@LOID M@STER 14(ボーマス14)でした。
ジャケットイラスト・アートデザインは、Draw The Emotionalのmeolaさんが手がけています。

使用しているVOCALOIDは、GUMIと初音ミク。
uzさんとしては初のプレスCDとなり、また初めて委託販売が行われた盤となります。
『君と世界をつなぐもの』『心の音』で、GUMIによるスクリーモを確立、多くのフォロアーを生み出した
タイミングでのリリースとなりました。

現在、とらのあなで委託販売が行われています。

クロスフェード動画はこちらです。



それでは、以下1曲ずつ紹介させていただきます。



1)嘘吐きの隣で
……ボーカルは初音ミクAppend。
しょっぱなからロック好き、エモ好きの琴線を鷲掴みにして、容赦なくかき鳴らすイントロ。
冒頭の荒々しいアルペジオに、力づくで畳み掛けるギター。
ギターの勢いに負けないくらい暴れ回るドラムに、それら全てを下から束ねるベース。
はっきり言って卑怯です。最強です。まさに、何の障害も経ず、感情を直接揺さぶってきます。
このイントロに心動かされないなら、このアルバムそのものに縁がなかったと思っていい、それくらいとんでもないフックを持ったイントロです。

曲中の展開も見事で、緩急を付けた静と動のメリハリがしっかり効いています。
そして、消え入りそうなか細いボーカルと、今にも血が吹き出しそうな、荒々しいサウンドの対比。
このアルバム全体にも言えることですが、これらが互いに干渉しすぎることなく、ギリギリの線で共存している様は、
まさに圧巻の一言です。

2)心の音
……ボーカルはGUMI。
このアルバムのキーとなる曲です。
uzさんが得意とする、6拍子のエモ・サウンド。
聴きどころは、何と言っても間奏で解き放たれる、壮絶なスクリームでしょう。
ただ歌と歌の間を繋ぐだけの甘っちょろい叫びではなく、叫びたい、ただ叫ひ続けないと壊れてしまう、
自分が自分でなくなってしまう。叫ぶしか、救いの道は残されていない。
そんな極限の感情が込められているようなスクリームに、リスナーは囚えられ、身動きも取れなくなり、
ただ耳を傾けるしかなくなるのです。

3)Empty for us.
……ボーカルは初音ミク。作詞はLedaさんです。
前2曲と比べ、明るく開放的な曲です。
イントロ・サビのストレートさと、Aメロ・Bメロのうねるベースラインの対比に唸らされます。
曲自体は3分にも満たず、エモの良さがコンパクトに詰まった一曲、と言えるでしょう。

4)ユメとカゲロウ
……ボーカルは初音ミク。ベース演奏で「←P」が参加しています。
ギターが主役を奪いがちなuz曲ですが、この曲は歌の運び、歌詞の言葉選びが、全体の流れを形作っています。

5)君の花と雨、僕の声
……ボーカルはGUMI。
最初と最後の雨の音でざわつく、6拍子のエモいバラードです。
個人的な聴きどころは、間奏で「深い雨を」と歌い出す前の、静かに歌うようなギターサウンドです。
重厚な響きが支配する中で、束の間の安息を与えてくれるような、ほっとさせてくれる音が、不意に琴線に触れます。

6)その色彩を
……ボーカルはGUMI。
ボーカルの旋律と並行して、ギターのパートが実にメロディアスに響いているところが、ロマンチックに感じられます。
個人的には、この曲の歌うようなアウトロが、全収録曲のアウトロで一番好きです。

7)月明かり
……ボーカルは初音ミク。
深く反響させた単音のギターが、冷ややかで孤独な美しさを演出しています。
 
8)君と世界をつなぐもの
……ボーカルはGUMI。
uzさんが初めてGUMIを起用した曲でもあります。
重量のあるイントロから、得意の6拍子で朗々と紡がれる、叫びにならぬ叫び。
きわめてストレートな歌詞が、そこに込められた強いメッセージを発信しています。 

9)終わる世界と繋がる僕ら
……ボーカルは初音ミク。
ですが、強いエフェクトがかかったくぐもった声であり、聴いただけではすぐにそれと分からないようになっています。

サウンド面では、ピコピコなシンセ音が新境地でしょうか。淡々とした曲展開は、まるで詩を朗読しているかのようです。
そして、この曲で着目すべき点は歌詞。この曲の歌詞は、大部分が歌詞カードに書かれていません。
では、ここで歌われている詞は、あるいは歌詞カードに書かれている詞は、いったい何を指し示しているのでしょうか。
「世界」をキーワードに発表してきた一連の楽曲との関わりも含め、様々な方面で解釈することが出来そうです。

10)青い花
……ボーカルは初音ミクAppend。
アルバムの終盤を飾る、6拍子のバラードです。
言葉少なく語られる歌に、泣き叫ぶようなギターが涙腺を刺激します。
少し展開を残した印象のあるアウトロから、次のラストトラックへと繋がっていきます。

11)ウソ
……ボーカルは初音ミク。
ラストをスカッと締めるに相応しい、きわめてストレートで爽快なエモです。
弾けるようなバンドサウンドに絡む、きらびやかなシンセの音色が、
救いのないこのアルバムに、一筋の光を与えてくれるような気がします。





……

………………総評。

Tr.1 『嘘吐きの隣で』のきわめてハイレベルなイントロは、このアルバムの勢いやキャッチーさへの導入の役割を果たしており、
続くTr.2 『心の音』の突き抜けたシャウトは、スクリーモのアルバムとしての完成度、作り込みの違いを突きつけ、
とにかく只者ではない、この先どんな展開が待ち受けているのか、とワクワクさせられます。

このアルバム全体に言えることは、とにかくキャッチー。
ニコニコ動画で単体で公開してる曲が、大部分を占めていることも理由のひとつでしょう。
どれも独自のストーリーを持ち、それがアルバム全体でひとつなぎになっている。
疾走感あふれたハイな一曲から、リフの一音に全身全霊の力を込めたバラードまで、
実に粒ぞろいなエモ、スクリーモを堪能することが出来るのです。 

では、ここで次作『可能性と未来の狭間に沈む』との比較に移ります。
大きな違いは、先ほども述べた「キャッチーさ」。
そして、音の荒々しさにも、違いを見て取ることが出来ます。
『可能性』では、整然とした轟音が一体となって音を奏でていることに対し、
『嘘吐きの隣で』では、ギター、ベース、ドラム、シンセ、そしてボーカルの各パートが、
せめぎ合うように、ぶつかり合うように暴れた結果、きわめて荒削りで迫力のあるサウンドが形成され、
リスナーの精神を容赦なくボコボコにしてしまい、結果いつの間にか頭を縦に振っているのです。

技術の面では3rd『可能性と未来の狭間に沈む』で目を見張る進歩が見られましたが、
2nd『嘘吐きの隣で』に込められた、あふれんばかりのパワー、勢いが、アルバムという枠を今にも
突き破ってしまいそうな、そんな危うい期待を抱かせてくれます。 
例えて言うなら、『可能性』が、よく研ぎ澄まされた刀で、渾身の一振りで斬るのに対し、
『嘘吐きの隣で』は、手数と勢いで攻めて詰め寄る作品、と言えるでしょう。

剣道の腕前ならともかく、こと音楽に関してはどちらの作品も甲乙付けがたく、
それぞれのアルバムに詰まっている「性格」「味」は、それぞれ割と違う方向性を付けられているように感じられました。
なので、どちらの方が優れている、ということを断言することは全くもって出来ないため、
”比較”というある意味ナイーブな考察を挟んでは見たものの、結局その結論は「どっちもいいのでどっちも買え!」という、
一体なんのためにここまで長文を書いてきたんだ、と思われるような形で記事を締めさせていただこうと思います。

でも本当にどっちも大好きなんだから仕方ない。。。

※参考: uz『可能性と未来の狭間に沈む』を聴いて【ボカロアルバム紹介】