Tr.1「Intro」は三味線と打ち込みドラムが地響きのようにドロドロと響くインスト曲。いかにも打ち込み然としたサウンドにシンプルな構成であるにもかかわらず、たった1分聴いただけで”鬱”の打ち込みスキルが高いレベルにある事が伺える。ノンストップで続くTr.2「野暮用ガール」は実質トップを飾るに相応しい疾走感のあるトラック。初っ端からパワー全開のギターとベースの分厚い波、クリーンボイス中心のボーカルに意外とトリッキーなドラムと随所に聴きどころがある。続くTr.3「MIMIZU IN THE DANCEFLOOR」は、バンドサウンドにEDMテイストの打ち込みが複雑に絡み合ったトラック。ハードコアでありながら骨格はダンスミュージックに近いという、鬱のサウンドの嗜好が存分に発揮された快作だ。ボーカルは一転してデスヴォイス中心となるが、しっかりと耳に残るキャッチーなサビを用意していたりと抜け目がないところも流石。Tr.4「すごい」はバンドとして初めて発表されたトラック。ストレートなロックテイストにひたすら”すごい”を繰り出し、人間の命のすごさを称える謎の歌詞が印象に残る。キネティック・タイポグラフィを活用したMVがYouTubeに投稿されている。
Tr.5「慇懃無礼」はわずか56秒のハードコア一直線なトラック。それでもちゃんとサビはクリーンという徹底ぶりに脱帽させられる。Tr.6「家 VS. 泥棒」は、もう何だかタイトルの時点でオチているのだが、一見バラエティタッチと思わせておいて後半に悲痛なメッセージを込めてくる辺り、作詞のスキルの高さをビンビンに匂わせてくる。Tr.7「猥褻」はこういうタイトルだが曲は特にエロくない。6/8拍子というハードコアとしては異例な構成をしており、”都会人の孤独”というテーマや感傷的なメロディと相まってバラードのような哀愁を感じさせる。最後のTr.8「終わらない娯楽」は、ラストトラックに相応しくこれまでの要素を全て詰め込みきっちりとまとめた曲だ。しかしそれ以上に、最後の最後のラスサビで最も破壊力の高いメロディをぶっ込んで来たのは予想外だった。完全に油断していた。こうして最後に特大の爆弾を投下したところでこのアルバムはぶっつりと終わる。