リリース: 2011/6/12 分類: VOCALOID ジャンル: ロック(エモ、スクリーモ) |
この記事では、uz(ユージ、uzPとも表記)さんの3rdフルアルバムを紹介させて頂きます。
初お披露目は、2011年6月開催の「THE VOC@LOID M@STER 16(ボーマス16)」。
使用しているVOCALOIDは「GUMI」「初音ミク(初音ミクAppend)」です。
花の美しいジャケットイラスト(アートデザインも)は、meolaさんが手がけたものです。
ジャンルはエモ、スクリーモ。荒々しくも美しいバッキングの音と、今にも消えてしまいそうなか細いボーカル。
この相性は意外にも良く、これらが合わさって、アルバム全体に儚い雰囲気を演出しています。
時々繰り出されるシャウト(スクリーム)は、とてもVOCALOIDの声とは思えない、気迫のあるものとなっており、
楽曲の緊張感を一気に高めます。
現在、とらのあなで委託販売が行われています。
クロスフェード動画はこちらです。
以下、1曲ずつ紹介させて頂きます。
1)可能性と未来の狭間に浮かぶ
……ボーカルはGUMI。この曲は、ニコニコ動画でフルで視聴できます。
アルバムタイトルは「沈む」ですが、この曲のタイトルは「浮かぶ」となっています。
シンセも絡めた、整然とした轟音は一切の隙もなく、むしろ「静寂」と呼ぶにもふさわしく、あまりにも美しい。
そして間奏で弦楽四重奏を持ってくる辺り、聴き手に息を付く暇をまったく与えてくれないつもりなのは確定的に明らか。
終始とても堅実な曲構成であり、アルバムのトップバッターとしてこれ以上引き込める曲は無いのでは、
とまで思わせてくれる、きわめて完成度の高い(よく使われるこの言葉が、まさに相応しいような)楽曲です。
2)Sweet Sweet Cendrillon Drug
……ボーカルはGUMI。作詞はLedaさん。
2009年9月に発表し、uzさんの知名度を一気に押し上げた作品を、2年の歳月を経てリメイクしたトラックです。
リメイク前の音が、ニコニコ動画でフルで聴けます(ボーカルは初音ミク)。
このアルバムでは「歌もの」としての性格が最も強く、重厚なリズム隊をバックにして、
シンデラレになれなかった少女が、絶望を軽やかに唄います。
3)その青の意味を僕は知らない
……ボーカルは初音ミク Append。
この曲の聴きどころは、ミクのおどろおどろしいシャウト。
ピアノ・打ち込みの幻想的な歌い出しから、エモい音に入り、バッキバキに刻むギター、ベース、ドラム。
それを包むように、耳をつんざくように響き渡る叫び。
この声がずっと耳に残り、何時まで経っても手を離してくれないのです。
4)Ifの世界
……ボーカルはGUMI。
まるで複数の並行世界に代わる代わるスポットライトを当てているように、目まぐるしく展開する曲です。
イントロから切り裂くようなシャウトがいきなり入り、6拍子の重厚なオケ。
そして、聞こえるか聞こえないかギリギリで囁かれる、神々しいサビのメロディ。
……実は、曲の後半でこのメロディから更に覆い被さるように、大サビの歌が紡がれるのです。
正直、この曲展開は予測できなかった。終始、不思議な曲です。
5)奈落と唄
……ボーカルは初音ミク Append。作詞はmeolaさん。
2曲続けてゆったりめの曲が流れたところで、アグレッシブな曲がひとつ入ります。
曲が続けば続くほど、激しさを増してゆくバックサウンド。
サビの唄を完全に隠してしまうような、荒々しくも凛々しいギター、ベース、ドラム。
隅々まで計算しつくされたようでも、終始”勢い”が支配する曲展開。
そして述べておかなければならないことは、この曲の主役はボーカルではなく、ギターなのです。
ギターがボーカルを差し置いて、終始美味しいところを持っていきます。
ボーカルとバックサウンドの落差が最も激しいのもこの曲。
ともすれば一気にバランスを崩してしまいそうな、そんな不安定さがこの曲の醍醐味なのです。
そして、この曲は、是非meolaさんの手がけたアニメーションPVとともに、動画で鑑賞してみてください。
→ 『【初音ミク】 奈落と唄 【オリジナル】』
6)Songs
……このアルバムで唯一のインスト曲です。
打ち込みとしてはクオリティの高い、弦楽四重奏、ピアノ、そしてフルオーケストラ。
歌も歌詞も一切ないのに、曲名は「Songs」。
しかも、歌詞カードにはこの曲の分の詞が記されているのです。
この「歌」は、私たちには見えないどこかで、誰かの歌声で歌われているのでしょうか。
7)faker in my room
……ボーカルはGUMI。
前曲の静けさを突き破るような、猛々しいギターリフは、このアルバムを通して見ても異色の雄々しさを孕んでいます。
サビが終わった直後からリズム隊が一気に加速し、あの心臓をえぐるようなシャウトが炸裂。
この展開には、何度聴いても心踊らされます。
ちなみに、この「faker in my room」という名前、uzさんのボーマス16出展時のサークル名であり、
ボーマス13(2010年7月)にリリースしたミニアルバムのタイトルであるとともに(こちらは冒頭に「a」が付きますが)、
uzさんが中心となって組んだバンドの名前でもあるのです。
仙台で一度か二度、ライブをしたのかな。機会があれば是非一度、見に行きたいものです。
8)此処に在る左手と
……ボーカルは初音ミク Append。
少しずつ、アルバムのエンディングへ向けて収束していくような展開になっています。
「止まない雨」。これは、これまでのuzさんの作品に幾度ともなく現れるワードで、彼の作風・スタンスを探る
キーワードとなりうるものなのでしょう。
9)透明な右手と
……ボーカルはGUMI。
突き刺すようなシャウトに始まり、容赦なく浴びせられる音の雨。
終始アグレッシブなこのアルバムの中でも、最も勢いのある曲と言っても過言ではないでしょう。
この曲も、ニコニコ動画でフルで視聴できます。
→ 『【GUMI】 透明な右手を 【オリジナル】』
10)青い花を
……ボーカルはGUMI。
アルバムのラストを締めくくる、壮大なエモ・バラードです。
イントロの弦楽器から、整然とした轟音を響かせるギター。ベース、ドラム。
リフのひとつひとつが、あたかも光を放っているようで、本当に美しい曲です。
ニコニコ動画では『【初音ミク】 花を 【オリジナル】』のタイトルで、フルで公開されています。
つまり、CD収録のトラックは、動画バージョンからのリメイクということになります。
……
………………総評。
前作『嘘吐きの隣で』からは、技術面でかなりの進歩が見られ、Tr.1 『可能性と未来の狭間に浮かぶ』や
Tr.10 『青い花を』は、前作の音では完成させることは叶わなかったでしょう。
その一方で、今回はメロディのキャッチーさより音を整える方に力を注いだのか、
キャラの立った曲が少なかったような印象を受けました。特に、アルバム前半の書き下ろし新曲が。
とはいえ、アルバム後半では音が一気に猛々しさを増し、Tr.7 『faker in my room』やTr.8 『此処に在る左手と』からは、
「御託はいいからとにかく聴け!!」といった”押しの強さ”に助けられ、
その勢いのままアルバムのラストまで突っ走ることが出来ました。
そして、このラスト。この『青い花を』があまりに美しい。この曲をこの位置に持って来たことで、
技術面でのハードルがぐんと上がったこのアルバムを、この上なく綺麗な形で締めることに成功しています。
アルバムトップの『可能性と未来の狭間に浮かぶ』を含め、最初と最後をがっつり固めることに
成功したアルバムに、基本的にハズレはありませんね。
技術を更に磨きつつ、曲の開放感を意識して制作したら、きっと私たちの想像を越える恐るべき作品が出来上がるに違いありません。
最後になりましたが、このアルバムで特に好きな曲は、Tr.1 『可能性と未来の狭間に浮かぶ』、Tr.5 『奈落と唄』、Tr.8 『此処に在る左手と』、Tr. 10『青い花を』です。
……続けて、2010年11月リリースの2nd『嘘吐きの隣で』の紹介記事を執筆させていただきます。
→ 書きました!!『uz『嘘吐きの隣で』を聴いて【ボカロアルバム紹介】』
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