虚空の巻 第六章 黒龍の挑戦

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魔龍ニホントカゲ
【1】黒龍見参
 阿修羅王と四天王が亜空間ゲートから去り、弥勒菩薩一行は再び閻浮提(えんぶだい)への下向を開始しました。すると一人の人影が一行の前に現れました。「こちらは閻浮提に下向する弥勒菩薩様の一行である。汝は何者だ!」と秀二は誰何(すいか)しました。秀二の前に現れたその男「これは秀二殿、久しぶりです。弥勒菩薩様一行の下向を妨げるつもりは毛頭ありません。願いの儀があって参上いたしました。」とその男。「あなたは小龍の兄黒龍殿、して弥勒菩薩様への願いの儀とは?」と秀二。嘗て南海龍王が自身の持つ宝珠を小龍に授けようとしたところ、後継者であった黒龍が反対し小龍と南海龍王の前で戦いました。その時、秀二も孫悟空達と共に立ち会っていたのです。結局、黒龍は小龍に惨敗し南海龍宮から姿を消しました。その黒龍が何故ここに現れたのか?そしてまた顔見知りとはいえ秀二の名を知らぬ黒龍が何故自分の名前を知っているのか?疑問に感じましたが敢えて問わず秀二は尋ねました。「我が弟、小龍傘下(さんか)に八大神龍ありと聞き及びます。私も八大魔龍を従えております。ついてはいずれが龍の真の長たるに相応しいか、勝負させていただきたく参上いたしました。」と黒龍は言いました。「小龍はどう思いますか?」と弥勒菩薩。「空海配下の四天将が四天王の挑戦を受けて立ちました。我々としましてもここで逃げるわけには参りません。是非戦わせてください。」と小龍は答えました。そう空海や四天将は阿修羅王や四天王の挑戦を受けて立ちました。ここで小龍が戦いを拒めば怯懦(きょうだ)の誹(そし)りは免れません。弥勒菩薩は「では決まりですね。」と嬉しそうに言いました。「ひょっとしたら格闘技フアンなのか?」空海は弥勒菩薩を見てぼやくように呟きました。秀二は昔、波梨采女が言っていた「北海龍王の宝珠が盗まれた。」と言う話を思い出しました。あれは黒龍が盗み出し魔龍を生み出したのだと悟りました。弥勒菩薩は秀二に引き続き審判を務めるように言いました。
【2】神龍VS魔龍
①ナンダ龍王VS魔龍一号
 ナンダ龍王は剣を持ち相対します。相手は謎の甲殻類、大きな鎌のような手を持っています。「あれは古生代カンブリア紀最強生物アノマロカリス・カナデンシス!」菅原道真が言いました。博識通の持ち主、道真は暇さえあれば各地の博物館を訪れ知識を蓄えていました。「ふ~ん、強いのかい?」こちらは稽古一筋脳筋の早良。「カンブリア紀はそれほど強い生物がまだ誕生していませんでしたから……。」と道真。カンブリア紀最強と言っても体長は一メートルにもなりません。アノマロカリス・カナデンシスはナンダ龍王に襲い掛かって行きましたが、難なくナンダ龍王に剣で殴られて退散しました。「この勝負、ナンダ龍王の勝ち!」秀二の声が響きます。
②ウパナンダ龍王VS魔龍二号
 ウパナンダ龍王槍を持って対峙します。対する魔龍二号は巨大魚類でした。道真が叫びます「あれは古生代デボン紀最強魚類、板皮類ダンクルオステウス。」「おお、今度のは強そうだ!」と早良。「確かにあいつの歯は骨で出来ていますし顎の力も相当なものです。嚙まれたら一撃でしょうが……。」と道真。「弱点があるんだ。」と早良。「顔がでかくて何分頭が悪いものですから小回りが利かないのです。」と道真。ウパナンダ龍王逃げ回ります。しかし遂に壁に追い込まれてしまいました。大きな口を開けて襲い掛かるダンクルオステウス。ウパナンダ龍王横っ飛びに逃げます。広い海だったらこのようなことにはならないのでしょうが、ドーンと壁に激突してダンクルオステウスは気絶してしまいました。秀二が宣言します。「この勝負ウパナンダ龍王の勝ち!」
③シャガラ龍王V魔龍三号
 シャガラ龍王は三叉の戟を構えます。対する魔龍三号は七メートルはあろうかという肉食恐竜です。「あれは少しも軽くないカルカロドントサウルス。」と道真。「駄洒落(だじゃれ)かい。で強いの?」と早良。「中生代、ジュラ紀後期から白亜紀前期の並ぶもののない覇者です。」と道真。カルカロドントサウルス、シャガラ龍王めがけて突進します。横に逃げても平気で向きを変えます。狩り慣れているのでしょう。遂に追い詰められたシャガラ龍王。大きな口で噛みつこうとするカルカロドントサウルス。秀二は巨大化の呪文を唱え巨人となってカルカロドントサウルスの尻尾を掴み引き戻しました。秀二が宣言します。「この勝負、カルカロドントサウルスの勝ち!」
④ワシュキツ龍王VS魔龍四号
 ワシュキツ龍王は素手で相対します。一方魔龍四号は頭の大きな巨大翼竜です。道真が叫びます。「あれは中生代白亜紀、最大翼竜ケツアルコアツルス!」「で、強いの?」早良が尋ねます。「さあ?分かりません。」と首を捻る道真。ケツアルコアツルス大きな羽をバタバタさせて風を巻き起こしワシュキツ龍王を吹き飛ばそうとします。しかしワシュキツ龍王素早く移動しケツアルコアツルスの背後に回り込みます。俊敏な動作が苦手なのかケツアルコアツルス直ぐには対応できません。ワシュキツ龍王、ケツアルコアツルスの後頭部に回し蹴り。頭の重いケツアルコアツルス顔面から地面に激突。すかさずワシュキツ龍王殴る蹴るの暴行。秀二が止めに入ります。「この勝負ワシュキツ龍王の勝ち!」秀二が宣言しました。
⑤トクサカ龍王VS魔龍五号
 トクサカ龍王は槍を持って相対します。相手はデコレーション豊かな草食恐竜です。「あれは中生代白亜紀、草食恐竜最強のトリケラトプス。」道真が叫びました。「強いんだ。」と早良。トリケラトプス、トクサカ龍王なぞ眼中に無くどこかに草は無いかと辺りを探し回ります。ムカッとしたトクサカ龍王トリケラトプスの首の回りのフリルを槍でつつきます。フリルは求愛の為の大事な道具、トリケラトプス怒り狂ってトクサカ龍王に突進していきます。トクサカ龍王逃げきれません。秀二が巨大化してトリケラトプスの尻尾を掴み止めに入りました。「この勝負トリケラトプスの勝ち!」秀二が宣言します。
⑥アナバダッタ龍王VS魔龍六号
 アナバダッタ龍王、長刀を持って相対します。対する魔龍六号は口中牙だらけの肉食恐竜でした。道真が絶叫します。「出たーあ!史上最強の肉食恐竜!中生代白亜紀の覇者!暴君チラノザウルス・アレックス!」「こ、これは……無茶苦茶強そうだ!こいつとは戦いたくないな。」と早良。アナバダッタ龍王きょろきょろと辺りを見回しています。どうやらどこか隠れる所がないか探しているようです。ないと分かって「ぎゃおー。」という意味不明の言葉を発しながら突進していくアナバダッタ龍王。どうやら錯乱状態に陥ったようです。チラノザウルス・アレックス気が付いて大きな口を開けてかぶり付こうとします。秀二が巨大化して割って入ります。チラノザウルス・アレックスの口をがっしと押えながら宣言します。「この勝負、チラノザウルス・アレックスの勝ち!」
⑦マナス龍王VS魔龍七号
 マナス龍王槍を持って相対します。対する魔龍七号は巨大草食恐竜です。「あれは中生代白亜紀、地上最大生物アルゼンチノサウルス!」道真がガラガラ声で叫びます。今迄叫びすぎて声が枯れてしまったのでしょう。アルゼンチノサウルス、マナス龍王には目もくれず餌(えさ)を求めて動き回ります。マナス龍王背後に回り込み尻尾に槍を刺すは蹴りを入れるはの総攻撃!アルゼンチノサウルス皮が厚いのか、まるで意に介しませんでしたが、向きを変えようとして尻尾でマナス龍王を弾き飛ばしてしまいました。秀二が宣言します。「この勝負、アルゼンチノサウルスの勝ち!」
⑧ウパリ龍王VS魔龍八号
 ウパリ龍王、神将のある人物から武術を特別に習い手に鎖鎌を持って相対します。対する魔龍八号は大きな二本の牙を持つ肉食獣です。「あれは新生代第四期北米大陸の覇者サーベルタイガー、スミロドン!」叫びすぎて息も絶え絶えの道真。早良は水筒を取り出し道真に飲ませてやりました。ウパリ龍王、鎖鎌をぶんぶん振り回し分銅をスミロドンめがけて投げつけました。さっと躱(かわ)すスミロドン。慌てて分銅を引き戻そうとするウパリ龍王。それがスミロドンのネコ科動物の本能を呼び覚ましました。ドドドドッと分銅を猫じゃらし宜しく追い回すスミロドン。ウパリ龍王分銅を右に左に投げまわします。夢中になって分銅を追い回すスミロドン、突然ドッと横に倒れ伏しました。エネルギーが尽きたのです。肉食動物は瞬発力はありますが持久力はありません。持久力が尽きるとしばらく動けなくなるのです。すかさずウパリ龍王パンチ、キックの連打、スミロドン反撃できません。」秀二が宣言します。「この勝負、ウパリ龍王の勝ち。よって神龍対魔龍の勝負四対四の引き分け!」
【3】小龍VS黒龍
 秀二の声に「引き分けとは残念でなりません。この上はこの私と小龍で決着を付けさせてください。」と黒龍は弥勒菩薩に願い出ました。「小龍はどう思いますか?」と弥勒菩薩。「望むところです、受けて立ちます。」と小龍。「そうですか、ただあなた方の武器には私の通力も効きません。寸止めで行うということで良ければ対戦を認めましょう。」と弥勒菩薩。「分かりました。それで結構です。」両者は口をそろえて答えました。
 引き続き秀二が審判を務めます。両者とも双竜剣を抜き放ち相対しました。黒龍は北斗七星剣の構え、小龍は南斗鳳凰剣の構えです。黒龍の攻撃、受ける小龍。そして攻守所を変え小龍の攻撃、黒龍の受け。戦いは続きます。秀二は内心驚きました。昔両者が対戦した時、秀二が見た黒龍の腕前は形だけのものであり到底小龍に及ぶものではありませんでした。しかし今見る黒龍は当時とは比べものにならないほどの腕前でした。「これだけの腕を磨ける相手が閻浮提にいたというのか?」疑問が秀二の頭をかすめましたが両者の闘いの激しさにそれを考えている余裕はありませんでした。勝負は一瞬で決まりました。黒龍に疲れが見えたと思われた瞬間、小龍の南斗鳳凰剣により黒龍の剣が僅かに流れ、それを躱した小龍の剣は黒龍の胸元でピタリと止まりました。「勝負あった、この勝負小龍の勝ち!」秀二が叫びます。しかし次の瞬間誰もが予想しなかったことが起きました。黒龍が体ごと小龍の剣にぶつかって行ったのです。深々と胸を刺し貫かれる黒龍。「兄上、なぜ!」驚きに顔を歪める小龍。黒龍フッと笑顔を見せ「済まなかったな、我が弟小龍。」というと倒れ伏し消えていきました。亜空間で死んだ者は通常空間に消えていきます。黒龍の消滅と共に魔龍達も消えていきました。「秀二、秀二。兄上は、兄上はどこに転生したの?今度は幸せに生まれ変わったの?」目に涙を浮かべ小龍が尋ねました。秀二は死にゆく者の転生した姿を見通すことの出来る神通力を持っています。しかし秀二は「分からない……。」と静かに首を振りました。三世の因縁を見通す神通力を持つ秀二にも黒龍の転生先は分かりませんでした。「無余涅槃(むよねはん)に消えたか?或いは……。」秀二の小さな呟きは小龍の耳には届きませんでした。

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遥かな古代、小部村にあらわれた恐怖の大魔神!伝説はここから始まる!

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