聖なる緑の丘の覇者 かまおちゃん 【1】聖なる緑の丘
火星からマース連合の惑星間宇宙船がエウロパ宇宙空港に到達した頃、先にエウロパを出発した惑星間宇宙船が太陽系外縁星域からそれぞれの地域の住民を乗せて木星公転軌道上に戻って来ました。それに呼応する形でエウロパ空港で木星衛星連合の人々を乗せたマース連合の惑星間宇宙船もテラを目指して出発しました。二隻の宇宙船が火星軌道上に接近した頃、火星アステロイドベルト地帯の人々を乗せたマース連合の惑星間宇宙船が火星から出発しました。こうして人類最後の残された三十万の人々はテラへと進んで行きました。三隻の宇宙船が目指すは「テラの聖なる緑の丘」です。
テラからの通信が途絶えその地を禁断の地と定めた百年前、太陽系連合の人々は火星惑星軌道上にテラを観測する衛星ハップル宇宙望遠XX7を打ち上げました。ハップル宇宙望遠鏡XX7によってテラの観測を続けた科学者達は奇妙なことに気付きました。禁断の地と定めた後、テラの緑は急速に失われ赤茶けた色に変わっていきましたが、嘗(かつ)て極東と呼ばれたその地域の一角に緑の地が何時までも残されていたからです。人々はいつからかその地を「テラの聖なる緑の丘」と呼ぶようになりました。
【2】不思議な棒
三隻の宇宙船は相次いで聖なる緑の丘の周辺地域に当たる、嘗て市ヶ原と呼ばれた地域に着陸しました。宇宙船を降りた三十万の人々はそこから徒歩で聖なる緑の丘を目指します。大人達は列の最前列を進み子供達はその後に続きました。当然ながらタロウとジンはエウロパ市民を引率するため列の先頭に立ちました。ショウコとアケミは子供達の先頭に立っていました。列がしばらく進んで行ったところでシュウサクが指をさして「キヨマル見てごらん。あそこに綺麗な棒が地面に突き刺さっているよ。行ってみよう。」と言いました。確かにそこにはキラキラと輝く棒が地面に突き刺さっていましたが、大人達も子供達も気にすることも無く前へ進んで行っていました。二人は棒の側までやって来ました。
【3】キヨマルと如意棒
棒に触れ、おもいっきり力を入れて地面から引き抜こうとするシュウサク。棒はびくともしません。「駄目だ。とても深く刺さっているのか、ちっとも動かないよ。」とシュウサク。「どれ、俺がやってみよう。」とキヨマル。キヨマルが棒に触れました。その瞬間キヨマルの口から「オン、バンバクソワカ」と言う言葉が自然に流れて来ました。するとさして力を入れるでもなくキラキラした棒はすっと地面から抜けました。そしてなぜかその棒が如意棒だということがキヨマルには分かりました。あっさりと棒を引き抜いたキヨマルに「な、なんで?」とぽかんとするシュウサク。試しに棒を振り回してみるキヨマル。まるで重さを感じません「これは如意棒と言うらしい。どうやら俺の体と同調して体の一部になったみたいだな。」と不思議に思いながらキヨマルはシュウサクを促し子供達の列に戻りました。何か嫌な予感がしたのです。
【4】魔軍覚醒
人々の先端が聖なる緑の丘に到達し、それぞれが草原に落ち着こうとした時、異変が起こりました。数人の大人達が狂気に満ちた血走った目をしながら子供達の中に進んで来たのです。そう、魔物達が大人に取り憑(つ)いたのです。そしてこの魔物達こそ百年前地球上にいた人類を滅ぼした存在でした。もともと彼等は地球の大地が生み出した精霊でした。しかしそれが人類により理不尽に滅ぼされて行った数多(あまた)の生命の怨念(おんねん)を身に纏(まと)うようになり、魔物と化していったのです。しかし人類の力が強く旺盛なうちは魔物の力は弱く散発的に人を狂わせることしかできませんでした。しかし百年前、魔物と人類の力が逆転しました。魔物達は一斉に人類に襲い掛かり狂わせ互いに同士討ちをさせたのです。それによって地球上の人類が滅びると魔者達は眠りにつきました。そして今、人類が再び地球にやって来たのを察知した魔物達が目を覚ましたのです。ただ魔物達の主力は大都会で眠っておりこの聖なる緑の丘周辺ではまばらにしか存在していませんでした。その為少数の大人達にしか取り憑くことが出来ず、彼等にとって最も危険な存在であるシュウサクめがけてやって来たのです。キヨマルは近づいてくる大人達の狂気がシュウサクに向けられていることを察知し「シュウサク、俺の側を離れるな。」と言いました。青ざめながらも頷くシュウサク。【5】あの丘だ!
シュウサクに襲い掛かろうとする大人達。キヨマルが如意棒で急所を的確についていきます。「凄い、キヨマル。」感嘆するシュウサク。キヨマルにも何故か分かりませんでしたが急所が分かったのです、あたかも昔幾度も経験していたように。急所を突かれた大人達はしばらくすると目を覚まし「はてなんでこんなところにいるんだろう?」と首を傾げながら草原へと帰って行きました。キヨマルは知りませんでしたが如意棒には降魔(ごうま)の力が付与されていました。その為、取り憑いた魔物が浄化されてしまったのです。それでもこの丘に散発的に次々とやって来る魔物達は大人達に取り憑きシュウサクを目指してやってきました。それを倒しながら進むキヨマルとシュウサク。やがて緑の平原に二人は到着しました。「あの丘だ、僕が行かなければならないのは。」シュウサクの指さす先には小さな丘がそびえていました。その丘の近くに行くと段のようなものが付いていました。その時二人の耳にシュッと言う微かな音が聞こえてきました。それは聖なる緑の丘の端に出来たほんの小さな時空の穴に一匹の魔物が吸い込まれ、遥かな過去へと旅立った音でしたが、それに気が付いた者は誰もいませんでした。
【6】シュウサクの目覚め
段の下までたどり着いた二人。「シュウサク、上に行け。俺はここを守る。」とキヨマル。頷いたシュウサクは丘を登って行きました。丘の上に立ったシュウサク。「僕は以前にここに来たことがある。」何故かそう思った時、シュウサクの口から言葉が出て来ました。「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」そしてシュウサクは無意識のうちに嘗て大角木山と呼ばれていた南の丘に向かい「青の聖石よ、その力を示せ。」と呼びかけました。すると南の小高い丘から青い光が立ち昇りました。続いてシュウサクは嘗て高原山と呼ばれた西北の丘に向かい「赤の聖石よ、その力を示せ。」と呼びかけました。すると西北の小高い丘から赤い光が立ち昇りました。更に嘗て摩尼山と呼ばれた東北の丘に向かい「緑の聖石よ、その力を示せ。」と呼びかけますと、東北の丘から緑の光が立ち昇りました。三つの光はそれぞれ干渉しあい聖なる緑の丘は白色の光に包まれました。すると緑の丘に侵入していた邪悪な魔物達はその白い光の外へと弾き飛ばされました。最後にシュウサクが自分の立つ丘の中心部に向かい「真の聖石よ、我にその力を示せ。」と言うと黄金の光が立ち昇りました。そしてその光は遥かな虚空へと伸びて行きました。それと同時にシュウサクは気を失いその場に崩れ落ちました。魔物達が聖なる緑の丘から弾き飛ばされた為、狂気に侵された人々も正気を取り戻し草原へと帰って行きました。それを見てキヨマルは段を上がり小高い丘の上に行きました。倒れているシュウサクに駆け寄るキヨマル。「す~す~……。」と言う穏やかな寝息が聞こえてきます。「やれやれ、俺も疲れたよ。」そう言うとキヨマルはシュウサクの傍らに横になりました。
【7】亜空間ゲート構築
こちらは兜率天、全天空間監視システム室。「部長!閻浮提からの亜空間パルスを受信しました。」慧海が興奮しながら清海に報告しました。「そうか、私は秀二室長に報告してくる。引き続き亜空間ゲート構築作業にはいってくれ。」と清海は言って秀二の部屋に向かいました。清海からの報告を受けた秀二は「分かった。亜空間ゲート構築状況は随時連絡を入れてくれ。私は弥勒菩薩様に報告してくる。」と秀二は言うと弥勒菩薩のおわす摩尼宝殿に向かいました。「秀策、清丸本当によくやってくれた。」歩きながら秀二の目に涙が浮かびました。
一方その頃、忉利天では毘沙門天が王宮に駆け込んでいました。「阿修羅王陛下、閻浮提から亜空間パルスが発せられましたぞ!いよいよですぞ。他の四天王にも直ちに準備に入るよう連絡しておきました。」と興奮しながら毘沙門天は言いました。「うむ。」と顔を引き締め頷く阿修羅王。
翌日、兜率天で重臣たちが集まり会議が行われました。秀二の報告の後「では内宮の守りは孫悟空殿にお願いします。外宮の守りは引き続き牛頭天王殿、お願いします。本日午後四時を持って私は三童子と共に閻浮提に下向します。」弥勒菩薩は静かに言いました。
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