脳出血、くも膜下出血 なりやすいのはどんな人? 破裂を防ぐには
第3回 脳出血は「血圧が乱高下するタイミング」と「朝」に注意
田中美香=医療ジャーナリスト
脳の血管が破れると、出血が広がって脳の神経細胞が死滅していく。「脳出血」では、言葉がうまく出てこない、手足が麻痺して動かないといった症状が典型例だ。一方、脳の動脈にできたコブが破裂する「くも膜下出血」は、バットで殴られたような強烈な頭痛で始まり、そのまま帰らぬ人となることが多い。脳出血とくも膜下出血、それぞれの特徴やリスク要因、予防策について、東京女子医科大学附属足立医療センター 脳神経外科教授・診療部長の久保田有一氏に聞いていこう。
『「脳の血管」の守り方』 特集の内容
- 第1回生きるか死ぬか…脳卒中の「分かれ道」を決める3つの重大サイン
- 第2回脳細胞が死ぬ脳梗塞 リスクを上げる習慣、予防につながる行動
- 第3回脳出血、くも膜下出血 なりやすいのはどんな人? 破裂を防ぐには←今回
- 第4回出口治明「僕は3秒で病気を受け入れた」 脳出血からの復活の道のり
脳の血管が破れる「脳出血」と「くも膜下出血」とは?
年を重ねるごとに、誰でも血管が衰えていく。弱くてもろい血管は、万病を招く災いのもととなってしまう。だが、健康な血管を維持できれば、さまざまな病気を遠ざけることが可能だ。血管が丈夫なら、健康寿命が延び、要介護となる期間の短縮化にもつながっていく。
そう考えると、全身の中で特に大事にすべき血管の1つは「脳の血管」と言っても過言ではないだろう。なぜなら、脳の血管が壊れて起こる「脳卒中」は、日本人の死因の第4位と多いだけでなく、介護が必要になる原因としては最多だからだ(第1回参照)。
脳卒中とは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血(厳密には脳内出血という)」、血管にできたコブが破裂する「くも膜下出血」などの総称。脳の血管を守って脳卒中を未然に防ぐことは、寝たきりを防ぐための最重要課題の1つとなっている。
脳の血管が詰まる「脳梗塞」について解説した前回に続き、今回は脳血管が破れ、そこから「出血」する病気を取り上げる。代表的な2つの病気、脳出血とくも膜下出血について、原因や予防策を見ていこう。
脳の血管が破れる、「脳出血」と「くも膜下出血」
脳出血の一番のリスクファクターは、「高血圧」
日本における脳卒中の勢力図は、ここ数十年で一変している。脳梗塞が増えたのと引き換えに、最も多かった脳出血は減少に転じた。そこに関わっているのが、食習慣の変化だ。
脳出血は、脳の中を走る細い動脈がもろくなって破れ、出血が広がって脳にダメージが生じる病気のこと。その背景にあるのが、塩分の過剰摂取だ。かつての日本の食事は、漬物や干物などの保存食、醤油や味噌のような調味料しかり、塩分含有量が多いために脳出血が多かった。しかし、食生活の欧米化が進むにつれて、脂肪やコレステロール、炭水化物などの摂取量が増加。こうして、以前はそれほど多くなかった脳梗塞になる人が増え、同時に脳出血は減少傾向にある。
だが、東京女子医科大学附属足立医療センター 脳神経外科教授・診療部長の久保田有一氏によると、脳出血が怖い病気であることに変わりはないという。脳出血の最大のリスクファクターは高血圧であり、高血圧を持つ人は今も少なくないからだ。
高血圧によって血管に強い圧力がかかり続けると、脳の血管は次第にもろくなり、破れてしまう。こうして出血が広がっていくのが脳出血だ。麻痺が生じて顔の表情が歪んだり、体の片側だけ力が入らなくなったり、言葉が出てこなくなったりするのが典型的な症状だ。脳出血が起こってそのまま亡くなることもあるが、命が助かっても、脳の神経細胞は再生しないため後遺症が残りやすい。
「脳出血といえば、昔は上の血圧が200mmHg、300mmHgもある人が起こし、あっという間に亡くなるような病気でした。近年は適度に血圧が管理されるようになり、そんなケースは減っています。また、高齢になるほど、重度の脳出血を起こしにくい傾向があります。つまり、軽度の脳出血を起こして後遺症が残り、寝たきりになるケースが少なくないのです」(久保田氏)
では、どんな人が脳出血を起こしやすいのか、何らかの傾向はあるのだろうか?
前述した通り、一番の特徴は高血圧だ。脳卒中全体の中でも、特に高血圧との関係が深いのが脳出血で、脳出血の8割以上が高血圧を原因としているという。
「血圧が高めの人のほかに、赤ら顔で汗っかきの人、肥満気味の人、濃い味を好む人も脳出血を起こしやすい傾向があります。お酒を大量に飲む人も危険です」と久保田氏は話す。
コンパクトにまとめると、脳出血リスクが高いのは下図のようなイメージの人だ。