IRSN「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響・改訂版」2011年 7月11日付け全訳


福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響についての現状認識の総括

2011711
出典:http://www.irsn.fr/FR/Actualites_presse/Actualites/Documents/IRSN-NI-Impact_accident_Fukushima_sur_milieu_marin_11072011.pdf 

この報告は、513に「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」改訂版を発表した以降IRSNが得たたな情報について、紹介、コメントするものである。

福島第一原発事故後、おびただしい放射能汚染が海洋環境を襲った。原発から汚染水が直接放出され、4月8日まで続いたことが主な原因である。また、それより影響は少ないが、3月12日から22日までの間に大気中へ放出された放射性核種の一部が海に降下したことも原因として挙げられる。原発の近辺において、3月末から4月初旬の海水の汚染濃度は、セシウム134とセシウム137で1リッター当たり数万ベクレル(Bq/L)となり、ヨウ素131では十万Bq/Lを超えた。ヨウ素131は半減期が8日であるのために急速に減少し、5月末には検出限界値以下となった。この地域では、セシウム濃度は4月11日から減少しはじめ、4月末には100Bq/L、6月には数十Bq/Lとなった。海水に溶けた放射線核種は海の流れにのって、徐々に濃度を下げながら、太平洋の広い範囲で広がり続けている。放射性セシウムは北太平洋において、数年にわたり検出され続けるであろうが、その濃度はかなり低いものとなるであろう(海水に常時存在する自然放射性核種であるカリウム40の濃度の5000分の1)。

放射性核種は、海中を漂う粒子に固着して沈降し、海底表層に堆積して海底を汚染する。この海底汚染は特に原発の沿岸部において顕著であり、4月末に検出された後、5月と6月にも検出された。

原発周辺沿岸域の海水汚染は明白であり、汚染された土壌から流出する表面水(陸水)によって海に放射性物質が流入し続けるため、汚染はしばらく続くであろう。

海水の放射能汚染により、そこに生育する植物や動物も汚染される。福島第一原発南側の沿岸で4月末まで獲れたコウナゴから検出された放射性核種の濃度は1キログラム当たり数百から数千ベクレルであり、最大許容濃度の25倍に達するまでになっていた。福島県で採取されたそのほかの魚介類でも、1キログラム当たり数十から数百ベクレルの著しい汚染が検出され続けており、海水による分散によって海水中の放射性核種の濃度は減少するとはいえ、引き続き監視が必要である。

1. 海洋における放射能汚染の起源

1.1. 原発周辺で321日以降観測された高濃度放射能汚染

福島第一原発周辺の海域では、3月21日以降、数日にわたって、放射能による著しい汚染が観測された。

海水中で検出された主な放射性核種は下の通りである。

検出された主な放射線核種

放射線核種                                   半減期

ヨウ素131(131I)                       8日
セシウム137(137Cs)                     30.15年
セシウム134(134Cs)                         2.1年
セシウム136(136Cs)                       13.1日
テルル132/ヨウ素132(132Te-132I)     78時間

その他の人工放射性核種も時折検出されたが、そのほとんどは半減期の短いもので、濃度も低かった。

その後、海洋での監視の対象となった主な放射性核種は、ヨウ素131(131I)とセシウム137(137Cs)である。ヨウ素131は事故発生時には主要核種であったが、半減期が短いため、その後の数週間で急速に減少し、5月下旬以降には不検出に至った。

放射能汚染には3つの源がある。原発からの放射性物質を含む液体の流出、大気へ放出された放射性物質の海面への沈着、そして汚染された土壌から溶出した放射性物質の移動である。海洋に流れ込んだ放射性物質の量は近似的にしかわかっていないが、時間とともに試料数が増えており、そのデータを解析することで、徐々に推定量の確度が増している(後出の2.2参照)

1.2.事故のあった原子炉への直接放出

福島第一原子力発電所のすぐそばで測定された海水中の高濃度は、放射性物質を含む液体が漏出した結果であり、この液体は複数の源から漏出したと考えられる。これには、損傷した原子炉を冷却するために用いられた水の一部が、大気放出によって高濃度汚染された資材と接触した後に海に流れ出たものが含まれている。その他には、2号機と3号機の原子炉建屋から漏出した水がある。特に、2号原子炉のタービン建屋に隣接した排水溝の割れ目が、高濃度汚染水の海洋への直接の漏出を引き起こした。東電はケイ酸ナトリウムを注入して割れ目をふさぐことにより、現地時間4月6日6時頃、この漏れを止めた。

他方、4月4日から10日にかけ、東電は“低レベル汚染水”を海に意図的に放流した。これはタンクに貯蔵されていた10,000トンの廃液である。

4月10日以降も、海への直接排出はあったかもしれないが、敷地近くでの計測では、濃度が下がっており、それ以前の排出よりも明らかに少ないものであったことをうかがわせる(後出2.1参照)。

下の表1に、東電が6月に発表した、海洋への直接放出の算定量を示す。

1 東電発表 事故原子炉近海への直接放出算定量 (原子力安全に関するIAEA閣僚会議に日本政府が提出したリポート  東京電力福島原子力発電所事故、20116月)

この推定によると、主な放出は4月1日から6日の間にあり、総量は4.7×1015 Bq(4.7 ペタベクレル、1ペタベクレルは千兆ベクレル)とされる。

1.3.海への大気からの沈着

主に3月12日から22日にかけて、福島第一原発の原子炉建屋の爆発とベント(圧力開放)により大気中に放射性物質が放出され、特に海上方面へ向けて拡散していった。この大気プリューム(訳注:プリュームとは、煙突から立ち上る煙のような広がる流体中の一群の塊)に含まれる放射性核種の一部は海面に落下し、表層水の汚染は原子力発電所から数10 km にまで拡散した(図1)。海上での測定値からIRSNが計算した大気由来の負荷量はセシウム137で6,4×1014Bq(0.64ペタベクレル)であるが、これは暫定値であり、現在もIRSNで調査中である。このうち95%は雨によるものである。

1 323大気から海に沈着したセシウム137推定結果IRSNの大気中の拡散予測をにし算出。

1.4.汚染された土壌から溶出した放射汚染物質の移動

福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の一部は、大気中を分散する間に、雨水とともに地上に落下し、さらに、地表を流れて海洋へ移動した可能性がある。この放射性物質を含む雨水によって汚染された陸域の面積は数千平方キロメートルとなる可能性がある。現時点で利用可能な測定結果からは、これらの拡散による加入経路と他の放射能汚染経路を区別することはできない。この加入経路の区別は、おそらく、事故の数ヶ月後に、原発からの直接放出と大気からの降下による沿岸域の放射能汚染濃度が十分に減少した後に可能となるであろう。

2. 放射性汚染物質の海洋における分散

2.1.海洋汚染の時間経過

海水中の人工放射性核種の中でも最も量が多かったヨウ素131は、半減期が8日と短いために急激に減少した。事故のあった原発周辺でのヨウ素131の濃度は、5月末には検出限界値以下になっている(図2)。それ以降には、セシウム137及びセシウム134が、原発事故で海洋に広がった放射能汚染の主な核種となっている。

現在、原発近隣における海水中のセシウム137の濃度は、4月初旬の1000分の一になっており、その値は3 Bq/L付近で安定している。これは今でも汚染は続いているが、4月上旬よりも低いことを示している。この放射能汚染には、以下に示す複数の源があると考えられる。

  • 原発に残留している汚染水の漏出の継続
  • 汚染された土壌から溶出した放射汚染物質の雨水による移動
  • 海底堆積物に付着したセシウムの部分的な溶出

しかし、未だに、それぞれの源の割合を決めることはできていない。

2 放出地点からの距離が500m以下の測点におけるヨウ素131及びセシウム137の濃度の時間変化

図3から6に、海水中のセシウム137の空間分布を示す。これは、研究対象となる海域で、4月20日から27日、4月28日から5月18日、5月19日から6月7日、6月8日から25日の4つの連続した期間中に計測された濃度データを解析し、その各々の期間別に算出した平均値から作成したものである。これらの期間の各々は、対象となる各海域で、データ数に大きな差がなく、数も十分に多くて、偏りのない解析結果を得ることができるように選定された。これらの図から、汚染の広がりが原発周辺にとどまっており、その濃度が時間の経過とともに急激に減少していくことを見て取ることができる。なお、これらの図で色付けされている部分は、検出限界値(約5Bq/L)以上の値が検出された海域である。

2.2. 海洋におけるセシウム137の影響評価

IRSNでは、連続した各期間別に作成した海水面におけるセシウム137濃度の分布図をもとに、明らかに高濃度な海域(図3から6の色付き部分)における海中のセシウム137総量の時間変化の算定を試みた。この算出では、海面で測定された濃度を海面下にも拡張した。その拡張には、文科省が入手した塩分及び温度の鉛直分布の観測結果を基に計算した混合層厚を用いた。

このようにして算出した総量の時間変化を図7に示す(黒い点はそれぞれの期間の中日に当たる)。この図は濃度が指数関数的に減少し、11日間で半減する(点線部)ことを示している(図7)。この図は、平均して、対象となる海域の海水の半分が11日ごとに汚染されていない水と交換していると考えても良いことを示している。

7 4月上旬放出後の、異なった期間における海水のセシウム137の推定総量
(訳注:IRSN原文では対数尺度と線形尺度のグラフが左右逆になっていたため訂正した)

定常的な希釈が確認されたことにより、

  • 新たな著しい汚染水の流入(原発からの残留汚染水の漏水、汚染した土壌から溶出した放射汚染物質の雨水による移動、海底堆積物に付着したセシウムの部分的な溶出)がないと仮定すると、向こう数カ月の海水の濃度の時間変化を予測することができる。
  • この定常的な希釈を拡張して適用することにより、汚染水の大量放出が停止したとされる2011年4月8日時点での量を推測できる。

その結果、4月8日には、対象海域には9 × 1015 Bq(9ペタベクレル)のセシウム137があったことが推定された。4月8日以前にこの海域から流出した汚染物質量を計算に入れていないので、この値は実際の放出量を下回っている可能性がある。東電が示したセシウム137の放出量(4.7ペタベクレル。1.2を参照)は、わずかにこの算定値を下回っている(訳注:原文の1ペタベクレルは誤り)。混合層厚の推定値の不正確さのため、この推定値の推定誤差は50%であると言えよう。IRSNが算出した海へ放出されたセシウムの量は、原発から直接放出した137汚染水と大気から海面への沈着した量の和に相当する。このうち大気からの沈着量は全体量の10 % 以下とIRSNでは見積もっている(1.3参照)。

また、

  • 原発周辺海域で測定された濃度は放出量と比例している。
  • 3月23日から4月8日までに測定された濃度は、直接放出の主要な部分に相当している。
  • 3月23日から4月8日までは、水が入れ替わることによる放射性物質の減少を考慮しない(実際、測定濃度が変動しているため、この減少を算定するのは難しい)。

とすると、4月8日のセシウム137量が9 × 1015 Bq(9ペタベクレル)であるという算定結果と、3月23日から4月8日までに原発周辺で測定されたセシウム137の平均濃度が14 × 103 Bq/L(訳注:原文の1013は誤り)であるという結果から1つの関係式を経験的に求めることができる。このようにして得られた一日当たりの放出量は、海水1Bq/L当たり、4 × 1010 Bqとなる(訳注:(900/14)×1010/(16日)=4×1010)。原発の排水口近くで測定された一時的な高濃度にこれを応用することにより、観測期間中に、毎日放出されていたセシウム量を、目安としてではあるが、見積もることができる(図8)。

8 福島第一原発の5号機と6号機の口の30mで測定した海水のセシウム137濃度と日々の放出量の推定値の時間変化

3. 堆積物中の放射核種

水に溶けた放射性核種の粒子の一部は、周辺の水の運動の度合いに依存しながら、海中懸濁物に吸着される。放射性核種が吸着した懸濁物は最終的には、海底に沈殿し、海底表層堆積物の汚染を招く。

4月下旬から行われている採取によって、福島第一原発沖合の海底堆積物の汚染の測定結果が得られている。福島第一原発の北と南の、それぞれ30km以上離れた測点(図9のS1、A、10、S4地点)で採取された表層堆積物のサンプルには、非常に高い濃度レベルのセシウム137が検出され、海水のデータから得られた予測と一致していた。

5月と6月については、5月9日から14日まで、5月23日から27日までと、6月6日から10日までで3回の採取が、女川から銚子にかけての異なる地点でおこなわれた。コアリング(訳注:堆積物試料を採取する方法の一つで、細長い丸棒状の試料(コア)を得る方法)によって採取した海底堆積物の上部5cmの部分を分析した。おそらく、このために、放射性物質の含有量が比較的低く計測されたと思われる。実際、汚染が海底堆積物の上層5cmまで広がるとは考えにくいからである。IRSNでは、堆積物の粒度についての情報を持っていないため、結果を比較するのは難しい。

この要因を除外すれば、一回目の調査で最も高い数値だったのが、排水口より北に位置する仙台湾口地点ということになる。しかし、度重なる採取活動を通して、南と北の地点では、これとは反対の傾向がみられた。実際、福島第一原発の北でのレベルは減少傾向にあるのに対し、南では増加傾向がみられる。堆積物から水中で何が起こったのかを推定することはできるが、B1、C1、D1地点で観察された濃度減少と水中の濃度減少とを直接結び付けることはできない。これらの地点で観察された変動は、(訳注:汚染物質が)水中に再懸濁したとか、または単に局地的に堆積物の汚染が大きく変動したということが原因かもしれない。

南では、濃度の局地的変動が原因である可能性もあるが、海底の上方の水塊では汚染が遅れて始まっており、このために、堆積物の汚染も増加したのかもしれない。確かに、4月と5月には、放射性物質は北側の仙台湾口のほうへ流されたが、5月下旬から6月初旬には、南へ南へと流されていた(SIROCCOのシュミレーションを参考。http://sirocco.omp.obs-mip.fr/outils/Symphonie/Produits/Japan/SymphoniePreviJapan.htm

全体としては、堆積物中の汚染レベルは、それほど高くはない。D1地点、深さ126mの場所での測定によれば、5月初旬にはセシウム137の濃度は、最も高いもので320 Bq/kgであった。

採取された堆積物全体では、濃度比(134Cs/137Cs)は、0,6と1の間で変動しており、これら二つの核種の濃度比について現在知られていること(訳注:セシウム134の半減期がセシウム137の半減期より短いため、同時に生成した直後には約1であるが、時間の経過とともに小さくなる)と一致する。

今後数週間で、堆積物に関してのデータ数は増えるであろう。おそらく、そのデータが、原発事故による放出物の拡散についての理解の大きな助けとなるであろう。

9 2011429日から610日にかけて、女川から銚子沿岸区域の様々な地点で測定された、海底表層堆積物における137Csの濃度(Bq/kg、文科省、東電のデータ) 採取全体では、134Cs/137Cs濃度比0.6から1の間変動している。

4. 生物中の放射性核種

4.1.海や河採取された魚測定結果

3月末から、主に福島第一原発の南の複数の場所(図10)で、魚介類(主として魚類)の採取がおこなわれた。

10 魚介類の採取地点図

図11に、データが比較的定期的にとられた生物種の測定結果を示す。この図には、海のみで生息する魚介類の他に、海水と淡水の双方で生息する二種類の魚類(淡水と海水の間を行き来する生物)についてのデータも示している。これらのデータは5月以降に測定されたものであり、ピンク色で示してある。


11 魚介類中の137Csと134Csの合計濃度(Bq/kg)の時系列。ピンク色の印は、主に河採取された淡水海水の双方で生息する魚類

4.2.海の魚で検出された放射能濃度

魚介類の中でも、一般的に最も汚染レベルが高いのはコウナゴである。福島県、茨城県で測定されたすべてのコウナゴ試料で、セシウム137と134が検出された。しかし、沖合で採取された2つの試料では、セシウムは検出されなかった。日本では、イカナゴまたはコウナゴ(Ammodytes personatus)は、1月から4月にかけて、深海にいる(海水中に生息している)仔魚や稚魚の時期に水揚げされ、消費される。成魚は、5月から12月まで海底堆積物の中で生息し、漁獲されることはない。このため4月下旬以降には、この魚類に関するデータはほとんど得られないであろう。

図11には、イカナゴのほかに、定期的に採取されている生物種についても、2種のセシウム同位体の合計濃度の時間変化が示されている。特に、オヒョウはこれらの試料の中でも代表的な魚種である。最高値が検出されたものはすべて、福島県で測定されたものである。魚類のほかにも、やはり福島県で採取されたウニやアサリの試料でも高いレベルが測定されており、この傾向はしばらく続いている。

たまたま採取されたいくつかの試料についても同じく高い数値(最大許容濃度を超える)が検出されている。これには、図11には示されていないが、福島県産の、小魚や地中海ムール貝(Mytilus galloprovincialis)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、カサゴ目またはタラ目の魚類などが該当する。

4.3.淡水で採取された海水・淡水の双方に生息する放射能濃度

鮎(Plecoglossus altivelis)のように海水と淡水の間を行き来する種Markや、サケ、特にマス(Onchorynchus masou)といった淡水に回帰する種である、海水・淡水の双方に生息する魚類についてのデータも入ってきている。明白な結果の出たサンプルはすべて、福島県の河川で採取されたものであり、この地域の高レベル汚染と直接関係するものである。

4.4.予測される時間変化

一般的に、魚類は、その地域のセシウム汚染の中・長期的な指標として最も適している。実際、セシウムは魚類において高い濃縮係数を示し、その魚種の占める栄養段階(訳注:生態系を餌-捕食関係で表した食物網(食物連鎖)の中で、どれぐらい上位に位置するかの基準。捕食者は餌よりも栄養段階が1段階上位とする)が上位に行くにしたがい、濃度が上昇する傾向にある。したがって、短期的に、栄養段階の下位にある生物に高濃度汚染が検出された場合には、長期的には、食物網の様々な部分への伝達が進むにつれ、栄養段階の上位にある捕食動物がより高い汚染を受けることになる。

1 海水と淡水の間を行き来するが、繁殖が目的ではない生物。

2 海水中で生息しており、淡水で繁殖する生物


 ※ このレポートの翻訳はTwitterでの呼びかけに応えて頂いた読者の方によって行われ、また海洋学の専門家にご助言を得て、当ブログ運営者が校正を行ったものです(全ての文責は当ブログ運営者にあります)。ご協力に改めて感謝いたします。また、他の読者の方からも広くご協力を受け付けています。ご興味のある方はこちらの記事をお読みください。




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IRSN「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響・改訂版」2011年 5月13日付け、日本海洋学会訳


日本海洋学会によってIRSN海洋汚染報告改訂版の全訳が行われました。4月4日版の改訂版となります。

当ブログは仏原語との照合と校正を行い協力いたしました。全訳および解説のPDFは下記からダウンロードできます。

IRSN海洋汚染報告改訂版の全訳

IRSN海洋汚染報告改訂版の解説

当ブログは今後とも日本海洋学会と協力し、市民生活に有益な情報公開に努めていきます。

以下解説文を掲出します:

IRSN 報告 「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」 改訂版(5 月 13 日付け)全訳の公開について

2011年8月23日 日本海洋学会震災対応WG

概要 本資料は、フランス放射線防護原子力安全研究所 (Institute de Radioprotection et de Sûreté Nucléaire、IRSN)が 2011 年 5 月 13 日付で公開した“Update : Impact on marine environment of radioactive releases resulting from the Fukushima-Daiichi nuclear accident”を日本語に翻訳したものである。英語版は、以下の URL で 5 月 20 日に公開され ている。

http://www.irsn.fr/EN/news/Pages/201103_seism-in-japan.aspx

なお、4 月 4 日付で公開された“Impact on marine environment of radioactive releases resulting from the Fukushima-Daiichi nuclear accident”の和訳は匿名翻訳ボランティア グループによって行われ、7 月 3 日に「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放 出の海洋への影響」4 月 4 日付 IRSN レポート全訳 ) として、公開されている。

https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/03/irsn-rapport-avril/

5 月 13 日付改訂版の内容は、4 月 4 日付報告と同じく、海洋における放射性物質の広が り方についての一般向け解説であり、本WGの活動の趣旨と重なる部分も大きい。そこで、 本WGでは、その一般向け広報活動の一環として、和文翻訳を行ない、解説記事を付けて 一般に紹介することとした。

英文からの和訳作業は、日本海洋学会震災対応WGの呼びかけに応えた日本海洋学会会 員有志によって行われ、震災対応WG担当者が校正した。なお、仏文を基にした校正は、 匿名翻訳ボランティアグループの協力を得て行なわれた。監修は、著作権を保有するIR SNより翻訳および図表使用の許可を受けた震災対応WGが行なった。

5 月 13 日付改訂版の全訳(pdf)は以下のURLで公開されている。 http://www.kaiyo-gakkai.jp/sinsai/IRSN_report_j_20110513.pdf

解説・補足説明 IRSN 報告 5 月 13 日付改訂版の和訳を公表するに当たり、文中で使われている用語の中

で日常的な用法と微妙に異なる語句の解説と、IRSN 報告の内容についての補足説明を以下 に述べる。

解説(海の流れと海流)

「海の流れ(海水流動)」とは一般的な海水の移動の総称である。海水流動のなかで、世 界各地の表層を水平方向に流れている流れで、特に、いつもほぼ同じ経路を通って、ほぼ 同じ向きに流れている成分のことを「海流」と呼ぶ。日本近海では、黒潮、親潮、黒潮続 流、対馬暖流などがこれに該当する。

他方、1 日に 2 回繰り返す干潮と満潮に伴って生じている海水流動を「潮汐流」と呼ぶ。 海水流動には、「海流」、「潮汐流」のほかに、海面の風で引き起こされる「吹送流」、河口 域などでの密度の違いによって生じる「密度流」、風波や潮汐流などの種々の要因で発生す る「乱流」、「渦流」などの各種変動成分が含まれている。

解説(分散と拡散)

海水中の物質は海水とともに移動する。この移動過程の中で、平均的な流れによって運 ばれて広がる過程を「移流」と呼ぶ。これに対し、乱流や渦流のような変動成分によって 周囲の水と混合することによって広がる過程を「拡散」と呼ぶ。平均的な流れがない場合 でも、海中の物質は高濃度域から低濃度域に向かって「拡散」によって徐々に広がる。

海水中の物質は、実際には、周囲の海水と混合しながら平均的な流れによって運ばれる。 このように、「移流」と「拡散」の双方によって物質が海中に広がる過程を「分散」と呼ぶ。 なお、高濃度の海水が周囲の低濃度の海水と混合して濃度が低くなることを希釈という。

補足説明(生物への影響)

セシウム137は半減期が約30年と長いので,環境中に長期間残留し食物連鎖を通して多 様な海洋生物に蓄積することが予想される。海水-魚介類間の濃縮係数は数十倍から百倍 程度と見られている。PCBs(注:ピーシービー)等と比べるとセシウムの濃縮は 2~3 桁 ほど低い。しかし,海洋へ大量の高濃度汚染水が放出されたことにより、海域によっては 海水中や海底土中の放射性セシウム濃度が比較的高い状態が続き、その影響が生体に及ぶ 可能性もある。海水および多様な生物種(プランクトンから海鳥・海棲哺乳動物まで)に ついて長期モニタリングを実施し,汚染の実態と動向を理解する必要がある。

補足説明(福島原子力発電所の沖合沿岸域の流れ)

IRSN 報告では「沿岸域では、流れは潮汐、風、そして太平洋海洋循環によって生成され ている」と述べている。しかし、福島原子力発電所沖の沿岸近くの流れは、基本的には、 地元では真潮と呼ばれている南へ向いている流れである(北流は逆潮とよばれている)。も っと沿岸近くでは海浜流が重要になる。なお、分散シミュレーションにおける問題点、課 題につては、以下の資料を参照されたい。

日本海洋学会震災対応WGモデリング・サブグループからの提案

http://www.kaiyo-gakkai.jp/sinsai/2011/05/post-6.html

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IRSN医療班への質問と回答


先のIRSNのQ&A集のコメントとTwitterのDMで読者から頂いた二つの質問を統合してIRSN医療班に送信したところ、下記の回答が得られましたのでご報告します。

読者の方からの質問:
(2つの質問は別の方々によるものです)

①東京での被曝に関して
私は2歳の娘の親ですが、震災前も震災後も東京に住んでいます。色々な情報が飛び交っていて、政府の被曝に関する暫定基準値が信用に足るのか、独立系メディアやブログに書いてあるようにはなから信用できないものなのか分からずにいます。

特に子供の被曝について神経質になっており、外で遊ばせないようにしていますが、ストレスが溜まってしまっているようで親としても心苦しいです。この点に関してIRSNや国際的な観点からのご意見をお願い致します。

②食品に関して
>日本政府は、国民全体を保護し、また場合によっては特殊な値もカバーするような総合的な値
とありますが、日本の放射性物質に対する「暫定基準値」は驚くほど高いもので、外国からも多数の批判が寄せられていると聞いております。
(中略)
私は子どもを持つ親ですが、チェルノブイリでの健康被害の例や食品の国際基準に照らしてもこれは子どもに適切な値とは思えません。
何を根拠に「子どもの食事を親の食事と別にする必要はありません」とお考えなのでしょうか。お聞かせ願いたいと存じます。

IRSN医療班の回答(日本語訳):

こんにちは、

独立系報道関係者や研究者の方たちによる日本の暫定基準値の批判は放射性物質放出の被害を直接被っている地域、特に福島原発の100km範囲内に居住されている方たちを問題にしています。また、そうした批判は特に20mSv/年の年間許容値に基づく住民の避難措置の決定に疑問を投げかけています。まず、日本で採用された食物に関する基準値はICRP(訳注:国際放射線防護委員会)の災害時用の基準に準拠しており、また日本政府はICRPが推奨する中でも最も低い被曝量の数値である20mSvを採用したということを知ってください。ICRPは住民が超えてはならない被曝量として100mSv/年を規定していることを考慮すれば、日本政府の基準はその5倍厳しい数字となっています。他方で、東京都では年間許容被曝量は1mSv/年であり、これはICRPと欧州委員会の勧告する値となっています。東京の住民は子供も含めてこの限界値より非常に低い被曝しか受けていません。なんおで東京に住んでいらっしゃるあなたもお子さんも心配をする必要はありません。

食料製品の流通を規制するために日本政府によって決定された、各製品が許容される最大放射性物質量は欧州委員会の基準と同等、もしくはより厳しい数値となっています。
例えば:
・ヨウ素:牛乳と水に対しては、日本では300 Bq/Lであるのに対してヨーロッパでは500 Bq/L。野菜については
・セシウム(訳注:134+137):野菜に対しては500 Bq/Kgであるのに対して、ヨーロッパでは1,250 Bq/Kg。牛乳と水に対しては日本では200Bq/Lであるのに対して、ヨーロッパでは1,000Bq/Lとなっています。

敬具
IRSN医療班

仏原文:

Bonjour,

Les normes japonaises qui font l’objet de critiques de la part de journalistes indépendants concernent les populations vivant sur les territoires directement impactés par les rejets radioactifs, notamment dans un rayon d’environ 100 km autour de Fukushima. Les critiques portent notamment sur les critères de décision sur lesquels sont fondés les mesures d’évacuation des populations (20 mSv par an). Sachez tout d’abord que ces normes sont conformes à ce qui est recommandé par la Commission Internationale de Protection Radiologique (CIPR) en situation accidentelle et que les Japonais ont choisi la limite d’exposition la plus basse recommandée par la CIPR qui retient comme critère de ne pas exposer les populations à des doses supérieures à 100 mSv (soit jusqu’à 5 fois plus par rapport aux décisions des autorités japonaises). D’autre part, ces normes ne concernent pas la ville de Tokyo pour laquelle la limite d’exposition annuelle du public est de 1 mSv par an, soit conforme à ce qui est recommandé par la CIPR et la Commission Européenne. Les doses reçues par la population vivant à Tokyo sont très en deçà de cette limite, y compris pour les enfants.D’autre part, ces normes ne concernent pas la ville de Tokyo pour laquelle la limite d’exposition annuelle du public est de 1 mSv par an, soit conforme à ce qui est recommandé par la CIPR et la Commission Européenne. Les doses reçues par la population vivant à Tokyo sont très en deçà de cette limite, y compris pour les enfants.Vous n’avez donc pas d’inquiétude à vous faire pour vous et votre fille qui vivez à Tokyo.

Les niveaux maximaux admissibles retenus (en termes de contamination par des produits radioactifs) par les autorités japonaises pour autoriser la commercialisation des denrées alimentaires sont égaux, voire plus contraignants pour certains, que ceux retenus par la Communauté Européenne.
A titre d’exemple :
Iodes : 300 Bq/l pour le lait et l’eau au Japon contre 500 en Europe ; valeur de 2000 Bq/kg pour les légumes identique au Japon et en Europe,
Césiums : 500 Bq/kg pour les légumes au Japon contre 1250 Bq/kg en Europe ; valeur de 200 Bq/l pour le lait et l’eau au Japon contre 1000 en Europe.

Cordialement,
Cellule médicale IRSN

CTC Santé <[email protected]>

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Q&A集:IRSNによる在日フランス大使館でのセミナー 2011.7.7


原文:http://afe-asie-nord.info/docs/CR_IRSN_juillet_2011.pdf

7月7日(木)に、在日フランス大使館により、『福島原発事故:現状と、環境及び住民に対する影響』と題された講演会、3つのセッションが開催され、総参加数は200名を超えた。
進行は、IRSNのオリヴィエ・イナール、ブルーノ・セサック。
本文書は、在日フランス大使館及びIRSNの協力のもとに作成された、3つのセッションの報告書である。

Q&Aまとめ

  1. 福島原発の状況
  2. 食物汚染
  3. 健康
  4. 子どもに関しての特殊リスク
  5. 環境
  6. その他

質疑応答

1.福島原発の状況

Q. 今後大きな地震がない限り、放射性物質の放出はもはやないと考えていいのでしょうか?

A. 敷地内で、風によって粒子が吹き上げられ、わずかに放射性物質が放出されることはあり得ます。再飛散は些細な規模に止まりますが、存在はします。しかし、飛散防止ゲルが散布されたことにより、粒子は地上にとめおかれ、再飛散の可能性は少なくなっています。加えて、汚染を、放射性物質ではなく質量としてとらえるならば、汚染は大変低いのです。例えば、チェルノブイリ事故によるヨウ素131の放出は、数百グラムにしかならないと考えられています。

Q. 原子炉の底にあるコリウム(訳注:メルトダウンによる原子炉内融解物)はどのような形態なのでしょうか。

A. かなりの確率で、コリウムは原子炉容器の底に移動したと思われます。その一部が容器外に流出した可能性もあります。しかし、現段階では、コリウムの形態が重要なのではありません。いずれにせよ、これらの容器近くの現場に入るには、かなりの長い間待たなければいけないでしょう。例えば、アメリカ合衆国のスリーマイル島事故では、約10年後にようやく立ち入りができたのです。

Q. 原子炉や使用済み核燃料プールに関して、未だどのようなリスクが存在するのでしょうか。

A. 3つの原子炉の燃料棒は溶解しました。使用済み燃料プールも未だ潜在的危険をはらんでいます。特にプールから水が流れ出した場合がそうです。その場合、放射性物質が環境に大量放出されると考えられます。

このようなシナリオを避けるために、支柱によるプール補強がなされました。以上から言って、使用済み燃料棒の撤去は優先課題です。

Q. 2号機の爆発は他とは違ったものだったのでしょうか。

A. 現在判明している限りでは、これも同じく水素爆発のようです。おそらく原子炉建屋の中で爆発が起こった場所が、1号機や3号機とは違ったところだったので、結果も違ったものになったのでしょう。

Q. 溶けた燃料を取り出す方法はあるのでしょうか。

A. スリーマイル島の事故では、燃料の一部が溶けたのが確認されたことで、溶解した燃料を取り出す方法が開発されました。取り出す技術は存在していますし、応用されることでしょうが、恐らく時間がかかるでしょう。

Q. 私たちの状況は、未だ事故後(ポストアクシデント)状況なのでしょうか。

A. 私たちは依然として事故後と呼べる時期にどっぷりとつかっています。詳しく言うならば、緊急段階(3月に放射性物質が大気中に放出された時期)と、今後数十年の“長期的”段階の間の過渡期にいるのです。この過渡期に、国土や住民の監視措置の実施、関連した事項の決定などがなされるでしょう。

2.食物汚染

Q. 加工食品で例えばパンですと、粉は輸入品ですが、製造工程で水、バター、牛乳などが加わります。製造者は、製品に害がないことを保証しているのでしょうか。

A. 製品の無害性については、実際には全く何とも言えません。現在、生鮮品で、販売・消費が禁止されるようなレベル以上にあるものは、非常に少ないと考えられます。このような条件からいって、これら“基本的”原材料から作られた加工品は、消費することに特に支障はありません。例えば、チーズの製造では、牛乳に比べて、放射性物質レベルが“低く”なります。これは周知の現象で、製造工程によるものです。

Q. 粉、砂糖、コーヒー、お茶、カカオ、またはマスタードのような輸入品、ケチャップ、パスタ、トマト缶などのような保存食品は、放射性物質の放出時に影響のあるところに保管されていた場合、汚染されることはあるのでしょうか。

A. 密閉された状態の食品(缶詰、超高温殺菌牛乳パック、PVCやガラス瓶)についてはリスクは皆無です。包装が汚染されることはあるかも知れませんが、中身はされません。実際、包装についた放射性物質は、中身を“変える”ことはできませんし、外側の包装と中身の間を汚染が移転するということは、無視して問題ありません。

Q. 食肉汚染の由来は何でしょうか。

A. 汚染されたわら(特に福島県において、事故時に外に置いてあった稲わら)が動物の飼料となり、汚染肉の原因となりました。

Q. 土壌では、高い放射性物質がまだ検出されているのでしょうか。

A. 現在、汚染は定着しており、かなりの程度はもはや移動はしません。純粋に原子力学の観点から言うと、ヨウ素(131)は、半減期(8日)のため、もはやほぼ測定不可です。反対に、環境中では、セシウム(134、137)や半減期の長い放射性物質は、未だかなり検出されています。われわれの知る限り、それらの健康に関する影響についての議論はまだされていません。論争の主な焦点は、微量の放射性物質についてです。医学的に言って、低線量被ばくによる明確な結果は得られていないので、この領域でははっきりとした回答がないのです。環境からの攻撃(化学的なもの、バクテリア、ウイルス、放射性物質など)に対して、全員が平等ということはないのです。同じ攻撃に対して、ある人は病気になり、ある人はなりません。各々が放射線防護やそれぞれの線量に気をつけなければならないということはありますが、技術的な観点からすると、リスク的には100mSv以下の量(の被曝)に対しては特定の指示はありません。

当初の放射性物質の堆積物に関連して、農業において植物中に放射性物質が濃縮されるケースはありえます。土壌のBq/m2と農産物のBq/kgの関係は、相対的に複雑です。いずれにせよ、堆積物による収穫物の根からの吸い上げは、時間とともに減少する傾向にあります。

Q. 最も汚染されている食品は何ですか。

A. 水や、現時点では米は大丈夫です。水道水も心配せずに飲むことができます(ただし福島周辺は例外)。リスクとしては、海産物、キノコがあり、これらの食品では、放射性物質が濃縮される傾向があります。

Q. 福島産の食品は避けるべきですか。

A. 一般的にいって、幅広く食品や原産地を選ぶことが大切です。そうすることによって、万一汚染されているかもしれない一定地域の食品を恒常的に摂取することを避けられるのです。食肉に関しては、汚染されたわらを摂取することにより肉が汚染されます。これら家畜が放射性物質を含んでいないわらを摂取することにより、自然に除染がなされます。

Q. 土壌の汚染を考慮して、ニンジンやその他根菜のような野菜は食べることができるのでしょうか。

A. 野菜の場合、放射性物質濃度の顕著な減少が確認されています。野菜に対する直接汚染の最初の段階は終了したのです(大気中への放出がもはやないのですから)。現在確認される第二段階として、根を介した汚染があります(土中から水を介して根に移転します)。この移転メカニズムは、当然直接汚染よりも影響は低いですし、大部分の農作物の汚染の減少の説明ともなります。

将来的には、土壌をカリウムを含んだ肥料で飽和させるという技術が考えられます。これは、チェルノブイリ事故の後にテストされたものです。実際、カリウムはセシウムの競合相手なのです。土をカリウムで満たすことにより、セシウムが今後実る植物に定着する能力を減少させられます。

Q. お米は危ないですか。

A. 5000Bq/m2(セシウム)以上の汚染がある土壌では、作付けが禁止されました(試験用の数区画を除いては)。しかしながら、放射性物質の転移という、フランスでもこの種の作物に関してはよくわかっていない現象を理解するためにも、米はあらゆる成長段階で調査されています。

Q. なぜ静岡の緑茶に放射性物質が存在するのでしょうか。

A. 茶葉についての研究は不足していますが、ある仮説が挙げられます。植物の組成自体をみると、沢山の葉があることにより、大気との接触面積が大きくなります。このため、植物が放射性粒子を最大限とらえてしまうのです。それに加え、製造過程で水分を蒸発させて茶葉を乾燥させることにより、放射性物質が濃縮されます。

このことを踏まえて、静岡産の汚染茶をIRSNでテストしたところ、1mSv摂取するのに、このお茶を3~4000リットル飲まなければならないという結果が出ました。

Q. 基準値を4倍超える魚を一尾食べるということは、基準値にある魚を4尾食べることと同じですか。

A. 被ばくの観点で言うと、確かにそうです。

Q. 食物の放射性物質基準は何を意味するのでしょうか。

A. 国際的には、一年間に摂取する食物の10%が基準値に達しているならば、一年後の最終的被ばく量は1mSv である、ということで基準が制定されています。

Q. 日本の食品検査は信用に足りますか。

A. リスクというのは、福島産の身元不明な食物や、より一般的に言えば、許可されている基準値以上の放射性物質汚染のレベルにある食物を食べることです。しかしこれは現段階では稀なことであり、人体の健康への深刻な危険は確認されていません。

フランスの、独立系放射性物質検査ラボACRO(*)は、日本産の食品を採取して測定を行いました。さらにIRSNでサンプルの一部を測定しました。結果は、日本の諸機関の測定結果と変わりないものでした。ですから、汚染管理の広範囲な不正行為というのは考えにくいと思いますが、エラーというのは可能性としてはあります。

(*)ACRO:Association pour le Controle de la Radioactivite de l’Ouest 西側放射性物質監視団体 http://acro.eu.org

Q. 一回で、健康に害のある量を摂取することはあり得ますか。

A. 現時点ではありません。現在測定されている汚染値は、通常の2~5倍です。このレベルに汚染された食物を、恒常的に大量に摂取しないと、健康に影響が出てくるまでにはなりません。

Q. 子どもの食事に関して特に用心するべき点はなんでしょう。

A. この領域においては、子どもたち親たちよりも放射性物質への感受性が高いということはあります。しかし、食物の販売・消費を取り巻く衛生的基準は、放射性物質による害という点では、もっとも厳しい状況を考慮して制定されたものです。このことにより、日本政府は、国民全体を保護し、また場合によっては特殊な値もカバーするような総合的な値を定めました。特に、飲料水がそうでした。水は、ミルクで育てている場合、乳児の栄養摂取において、重要な要素です。

感受性は、核種によっても違います。ヨウ素に対しては感受性は高いですが、セシウムに対しては低いです。

日本で続けて基準値越えの食物が発見されていることに関しては、食物の生産地の幅を広げること、そしてそれらが検査済みであると確認すること、という我々の勧告を改めて提唱します。この条件下では、放射線防護の点からのみいうと、子どもの食事を親の食事と別にする必要はありません。

3.健康

Q. 人間への影響から言って、mSv に対し、どのようなことが分かっているのでしょうか。

A. すべての人は一年に2~10mSvの放射を受けています。自然放射線や、いくつかの医療検査、原子力施設の日常稼働から非常にわずか(フランスでは1%弱)に受けます。しかし、これらの線量にはかなり差があり、居住地により大きく左右されます。フランスの首都圏でも、被ばく量の大きな差異があります。低線量被ばくの影響は、今日でもまだ研究途上です。住民の保護基準を定義づけるために、ある仮説(化学的には実証されていませんが、念のため適用されています)が立てられました。それは、それぞれの線量の相当の影響の確率があるということです。この確率は、1mSv近辺の量では非常に弱いものです。

Q. ヨウ素やセシウムを摂取することの危険性はどのようなものですか。

A. ヨウ素は主に甲状腺にたまります。また、同量では、ヨウ素のほうがセシウムよりも危険です。

セシウムは筋肉にたまりやすいものです。セシウムの健康への影響について、チェルノブイリ事故後、ベラルーシで行われた調査では、心血管や白内障を引き起こすことがありうる、としています。しかしこの調査は、厳密な科学的プロトコルを踏んでいないという点で、議論がなされています。現在、新しい研究(IRSNのEPICEプログラム)が、この件に関し、東欧で進行中です。こちらのリンクで、研究についての概要が見られます。

http://www.irsn.fr/FR/Larecherche/publications-documentation/aktis-lettre-dossiers-thematiques/envirhom/epice/Pages/epice2.aspx

※訳注:EPICE=Evaluation des Pathologies Induites par une contamination au CEsium 137=「セシウム137被曝による疾病の評価」

Q. 東京の放射線量は低いですが、粒子の吸入は依然として危険ではありませんか。

A. 粒子が着地すると、そこに吸着し、はがれにくくなるという傾向があります。ですから放射性物質を吸い込む可能性は、事故後大幅に減っています。潜在的リスクの順番としては、まず、いくつかの地域に存在する放射性堆積物による直接被ばくが挙げられます。次に汚染食物摂取、最後に空気中の放射性粒子の吸入があります。

Q. 壊死を引き起こすくらいの被ばく量はおおよそどのくらいなのでしょうか。

A. 器官にもよりますが、おおよそ数シーベルト、つまり1000mSv以上の被ばくレベルになります。

Q.  どのような過程を経て、ガンと低線量被ばくが関連付けられるのでしょうか。

A. いくつかのガン(たとえば前立腺ガン)は放射線被ばくでは引き起こされないということはわかっています。逆に、甲状腺がんは、被ばくに深く関係するものです。他のガンのタイプについては、原因が様々なために、関連付けはずっと難しいです。

4.子どもに関する特定のリスク

Q. 砂場で遊ばせることに、リスクはありますか。

A. IRSNでは、屋外活動後に手洗いを推奨していますが、それは放射性物質の皮膚への影響を避けるためではなく(確かに皮膚経由の被ばくもあり、我々の関心の中でもマイナーなケースなのですが)、意図せずに、手から口へ汚染が入り込むのを防ぐためなのです。

砂場で遊ぶ子供の場合も同様に、もっとも重要なのは、この汚染摂取です。

子どもにとっての汚染リスクは、セシウムやそのほかの核種を含んだ砂を繰り返し口に入れてしまうことです。東京の現在の汚染レベルでは、大量の砂を摂取しないと、健康への顕著な影響は出ません。セシウム134と137が混じった100Bq/kgの汚染砂を300kg以上摂取すると、1mSvの被ばくになります。

Q. 自転車で転んだ場合、気をつけるべき点は何でしょうか。

A. 現時点では、日本の道路に降下した放射性物質は、アスファルトにしっかりとくっついています。しかし、埃による一定の汚染も続いています。この埃に含まれる放射性物質レベルは、地上よりも低いです。これは、特に空中へ舞い上がるために、希釈されていくということがあります。

このアスファルトで子どもが転んだ場合、理論的には、その子供のたとえば膝と、微量の放射性物質を含んだ埃との接触はあり得ます。ただ、接触面が非常に狭いので、放射性物質量は全く取るに足らないもので、いかなるリスクもありません。

一方で、通常通り傷口の洗浄を行えば、これらの埃をより有効に取り払うことができます。

Q. 屋外でボール遊びをすることで危険はありますか。

A. 戸外でのボール遊びの場合、汚染された埃が空中へ舞い上がるために、放射性物質が移動するということがあります。私の考えでは、ボールというよりも子どもの動きによって、より多くの埃が空中へ浮遊すると思われます。

衛生上の影響から言うと、リスクは、どういうタイプの地面かということと、その地面が最初にどれくらいの汚染を受けたかということに関係してきます。埃は、地面がむき出しで乾燥している場合のみ、かなりの量が舞い上がります。空中に舞い上がることにより、放射性物質は地上から空気中に移り、線量は非常に希釈されます。空中に大量に浮遊する状況では(たとえば、乾燥した農地でトラクターを使用する場合)、地表では1Bqの線量が、空中では100万分の1に減ります。ボールの一部分に関しては、この値はさらに100分の1になります。

さらに、外部被ばくに比べて、汚染埃の吸入は、考慮の必要のない被ばく経路です。ですので、運動場の線量μSv/hが微量でしたら、埃を吸い込むことによる危険というのはほとんど皆無といえます。

5.環境

Q. ある時点から東京には放射性物質はないといわれていますが、これはどうとらえればいいでしょうか。

A. 確かに新たに放射線が蓄積することは起こっていません。しかしながら、放射線は残っています。ヨウ素に関して言えば、半減期が短いために現在では、もはや測定不能です。逆に、セシウム134と137は東京でもまだ測定されています(それぞれ半減期が2年と30年)。東側では、若干のストロンチウムも検出されました。

Q. なぜセシウムの検出状況は、日によって違うのでしょうか。

A. 事故後の非常時には、セシウムは直接蓄積しました。しかし、現在では、雨水の流れ、雪解けなどといった自然現象に伴い、蓄積物は移動しています。雪解けに伴って、川での放射線量がピークに達し、通常値以上の放射性物質が検出された鮭もいくつかでました。

水道水についても、放射性物質ピークが周期的にめぐってくるのが観測されています。このピークは、水処理場のフィルターに放射性粒子がたまり、そして放流されたことによります。

Q. ある一定量の汚染要素が地上に降った場合、そこの収穫物は何10年にもわたり汚染されます。セシウムは”増殖”しないので、土中のセシウム全体量は収穫期ごとに減るのでしょうか、それとも雨水が流れることにより、減少するのでしょうか。

A. 農地について言うと、新たに放射性物質が移動して来ない(大気による蓄積や水流等)のであれば、放射性物質核種の濃度は自然と減少していきます。これは放射性物質半減期(セシウム134で2年、セシウム137で30年)によるということもありますし、植物採取(当初の汚染濃度からすると、一般に効果は弱いですが)によるもの、雨によって地中に潜っていくこと、そして農業によるものでもあります。耕作というのは、耕された土の層では放射性物質が希釈されますし、肥料をまくことにより、耕作地を豊かにしながら、地中にセシウムと競合する要素を混じりこませることができます。このことから、当初放射性物質を受けた土地の収穫物に比べ、その後に続く収穫物のほうが、明らかに汚染度が低くなっていくでしょう。ですので、今後数カ月、数年の間で、植物由来の食物の汚染は減少していく傾向にあります。当初の放射線物質の堆積と関連して、農作物中に放射性物質が濃縮してしまうというケースもあります。現在、土壌のBq/m2と農作物のBq/kgの関係というのは、相対的に言って複雑です。いずれにせよ、放射性物質の堆積量が安定しているならば、今後続く収穫物の根からの転移というのは時間の経過とともに減少する傾向にあります。

Q. 地下水の汚染のリスクというのはありますか?

A. 地下水源は非常に深いところにあり、短期的には汚染のリスクはありません。土壌がフィルターの役割をして、放射線核種を持続的にひきとめておき、その間にも放射線量は減少していきます。数年単位で、水の質が保たれているか監視する体制が必要です。ただし、海への放出は問題ある汚染源です。

Q. 放射線測定器を使っていて、場所によって線量の高いところがあることに気がつきました。東京で避けたほうが良い地域はありますか。

A. 不均質性があることは確かです。都市ではよくみられる現象です(例えば、車の排気物による都市公害などは広く研究されているケースです)。また、転移(雨、流水)、放射線のたまりやすさ(泥の生成)の仕組みなども関係します。面積からすると、このような地域はもともと限られています(下水口、歩道等)し、被ばくという意味でも少量です。

Q. 水遊びについてはどのようなリスクがありますか。

A. 経口摂と比較すると、水遊びは主な被ばく経路とは言えません。また、海や川にたまっている放射性粒子は、拡散されます。ですから放射性物質レベルは、迅速に落ちていくでしょう。ただ、湖や池などにたまっている水は、放射性粒子を捕え、底に蓄積していくリスクがあります。

6.その他

Q. 事故後の被ばく量の指標値に関して、IRSNの果たしている役割とは何でしょうか。

A.  フランスにおいては、事故後の状況管理を準備する作業において、行政当局、特にフランス原子力安全当局(ASN)のもとで技術サポートをしています。このような住民保護のための作業中に出される提案(これは現在進行中のプロジェクトで、フランスの規制ではまだ認可されておりませんが)は、放射線防護の国際的決定機関、特にICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に基づいており、IRSN独自のものではありません。フランスにおいては、事故後状況という分野での見解策定には、透明性が求められ、原子力開発者、省庁、IRSN、ASNだけでなく他の人々にも開かれています。この作業を指揮監督するために委員会が設けられ、市民団体(ACROなど)のメンバーが在籍しており、進行中の研究について監査権を持っています。この作業に参加することで、そこで作成されるものに完全に同意しているというわけではありませんし、ACROがいくつかの点について、同意しかねるということもあり得るわけです。

※訳注:ACRO = Association pour le Contrôle de la Radioactivité de l’Ouest = 西フランスにおける放射線監視のための協会。独立系研究所。

Q. 放射性物質測定結果は信頼できるものですか。

A. 日本では、IRSNはフランス大使館(訳注:東京都港区南麻布)の屋根でのみ測定をしています。ですので、そのほかの測定はすべて現地の機関に任せられています。しかし、測定は簡単に実施できるので、データが広範囲に偽造されれば、恐らくすぐにわかってしまうでしょう。

Q. 放射線測定をするのにお勧めの機器はありますか。

A. ありません。しかし、こういった機器は高価であり、一般的には個人というよりも自治体が購入するものである点にご留意ください。

Q. アルファ線はガンマ線よりもより危険ですが、シーベルトとかベクレルということだけが話題に上がっています。これらの測定結果は本当に信頼できるものなのでしょうか。

A. シーベルトというのは生物に対しての影響を指し、異なった影響、異なった放射タイプ(アルファ、ベータ、ガンマ、X)を統合しています。製品販売に関する規格は放射タイプで、つまり放射線の危険度の違いで、区分けしています。

Q. なぜフランスと日本で、放射性物質基準値が違うのでしょうか。

A. チェルノブイリ原発事故後以降、違いが生じました。事故により、基準に対してより安全性が求められるようになり、フランスでは年間5mSvから1mSvになったのです。

欧州での食品販売基準は、EUの加盟国でチェルノブイリから遠方で生活しており、経口摂取でのみ被ばくの可能性のある消費者を保護するために、制定されました。日本の場合、経口摂取且つ他の経路でも被ばくのある可能性のある地域の住民を保護するという目的のため、基準は厳しくなっています。

Q. ”自然放射性物質”というのはどういうことなのでしょうか。

A. 自然放射性物質というのは、人間の活動とは別個に、環境中にある自然界の放射性物質のことです。地中環境からきているテルル放射(土や岩に含まれるカリウム、ウラン、トリウム)と、空や宇宙から来る宇宙放射線に区別されます。

Q. 自然放射性物質と事故から来る放射性物質は、比較可能でしょうか。

A. 外部被ばくに関しては、この二つは同じです。しかし経口摂取や、放射性粒子の吸入による内部被ばくについては違います。

Q. 事故直後の時期で、自宅待機、というのは根拠あることだったのでしょうか。

A. 福島周辺地域に、放射性物質が通過していったときについて言えば、完全に正当な判断だったと言えるでしょう。しかし、東京ではその必要はなかったといえます。

更に医療に関する情報を希望される方のためにIRSNのサイト上で連絡窓口を設けています。寄せられた質問はIRSNの医師に送られます。

またACROのホームページでは、定期的に測定結果が掲載されています。
http://acro.eu.org


 ※ このレポートの翻訳はTwitterでの呼びかけに応えて頂いた読者の方によって行われ、当ブログ運営者が校正を行ったものです(全ての文責は当ブログ運営者にあります)。ご協力に改めて感謝いたします。また、他の読者の方からも広くご協力を受け付けています。ご興味のある方はこちらの記事をお読みください。

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仏CRIIRADレポート「大量の、長期的かつ広範囲な汚染」7月7日付全訳


CRIIRAD (放射能 に関する調査および情報提供の独立委員会)
福島第一原発事故が日本にもたらした影響について
大量の、長期的かつ広範囲な汚染

原文:http://www.criirad.org/actualites/dossier2011/japon_bis/pdf/11_07_07_cp_fukushima.pdf

2011/7/7 発表
於 フランス ヴァランス

CRIIRADの研究室は2011年5月24日から6月3日まで日本へ派遣団を送った(*1)。この文書は、最初の分析結果で確認できたことのまとめである。地上における放射性セシウムの堆積は非常に多量であった。この堆積物は現在も将来も、長年にわたってガンマ線を流し続け、非常に広範囲にわたって、住民が被ばくする。防護の手立てもない数十万人の住民が、外部被ばくにより、年間1mSvの制限を大きく上回る放射線量にさらされている。これに加え、内部被ばく(とりわけ汚染食物の摂取による)や、何よりも3月21日以降に受けた被ばく量が加わる。後者については、ほとんど防護手段がなかったため、最初の一週間の被ばく量が極度に高いものであったと思われる。

*1: 調査の第一報は、福島(5月30日)と東京(5月31日及び6月1日)で開かれた記者会見で発表され、CRIIRADのサイトにある報告書(英語)でも公表されている。http://criirad.org/actualites/dossier2011/japon_bis/en_angkais/criirad11-47ejapan.pdf

  1. 60km圏外の深刻な汚染:福島市の例

許容レベル以上の外部被ばく

福島第一原発から60-65kmにある福島市でCRIIRADが行った計測や、土壌分析の結果、放射性セシウム134、137の降下物は、森合小学校の芝生で数十万Bq/m2から49Bq/m2、渡利地区で70Bq/m2以上であった。

原子核崩壊の際、セシウム原子は非常に透過性の強いガンマを放射する。この放射線は空中を60m以上にわたって飛ぶのであるが、この性質を利用して、アメリカはヘリ探査機を使って降下マップを作成した。この放射線は住居の壁や窓も透過し、家にいる住民も被ばくする。

2011年5月下旬、CRIIRADが福島市の屋外、地上1mで測定した線量は、通常値を10倍以上、さらに20倍以上も上回る典型的な数値であった(時間当たり1から2μSv以上)。建物の上の階でも線量は検出可能である。ある建物の4階(訳注:日本で言うと5階)で計測を行ったところ、高い線量が測定され、窓に近づくほど(閉めてあっても)高くなっていた。渡利地区の個人宅でCRIIRADが計測した結果、子供部屋の畳の上で通常の3倍以上の線量(毎時0.38μSv)、リビングでは1mの高さで6倍以上(毎時0.6μSv)であった。家の前では、庭で毎時2.2μSv、近所の学校の芝生で毎時2.9μSvであった(地上1m)。

この線量はとても緩慢にしか下がっていかない。主な原因として、セシウム137と134の半減期が長いということが挙げられる(それぞれ30年と2年)。つまり、セシウム137の放射能は、30年後に1/2になるということである。今後12カ月間、セシウム134の放射能は30%セシウム1373%のみの減少と予想できる。空間線量の減少は、数十%にとどまる。

何の手だても講じられない場合、福島市は今後12カ月で数ミリシーベルトの外部被ばくを受ける可能性がある。そして、CIPR(国際放射線防護委員会)が発がんリスクの観点から設けている許容値というのが年間1ミリシーベルトであり、この線量を浴びた10万人のうち5人が死に至るとされる。

ところが日本政府は、住民を長期避難させる基準として、20ミリシーベルトの制限を設けた。これは、発がんリスクの点では、許容値を20倍上回るものである。福島市の住民はすでに、かなり被ばくをしている分、事態はさらに深刻である。同時に、汚染食物摂取による内部被ばくや、汚染された地上から出る埃の吸い込みによる危険性も考慮にいれる必要がある。

一例として、CRIIRADが福島市の森合小学校のブランコ下の土を測定したところ、セシウム134、137による汚染が37Bq/kgであった。この土壌はもはや放射性廃棄物であり、早急に相応の場所に保管されるべきである。

住民はすでにかなりの被ばくを受けている

20115月下旬にCRIIRADが福島市内で採取した土に含まれるヨウ素131による残留汚染から、当初のヨウ素131の降下は数百万Bq/m2であったと算定される。

ヨウ素131の半減期は8日、つまりその放射能は降下時には600倍以上であった。このことから、特に2011年3月15日の、放出された放射性物質が到達したときの、空気中の汚染がかなりのものであったことが証明される。

また、その後も、セシウム136、テルル129、テルル132、ヨウ素132、ヨウ素133等々のような、そのほかの放射性物質の広範な崩壊もおこった。クセノン133やクリプトン85のような放射性ガスもこれに含まれるが、これらは地中には蓄積しなかった。

以上から、この街の住民は、最初に汚染空気の吸い込み、そして特に、放射性物質の堆積が原因とする汚染食物摂取によって、かなりの内部被ばくをすでに受けたことになる。実際、日本政府は、3月21日および3月23日になって、ようやく、福島県における食物摂取制限を発布した(食物の種類による)。住民は、一週間以上、なんの制限や情報もないまま、高汚染の食物を摂取していたことになる。このため、住人達は、数十ミリシーベルトの線量にさらされ、甲状腺は、1シーベルト以上の量を受けた可能性もある。

参考までに、当初のヨウ素131によるホウレンソウ汚染量は、原発から100km南では、低年齢児が200グラムの摂取をしたとすれば、年間1ミリシーベルトの年間許容量を超えてしまい、原発北西40kmでは、植物の汚染があまりにも高いため、5グラムの野菜を摂取するだけで、年間上限値に達してしまうほどであった。

これら住民が、すでに受けた被ばく量について信頼できる数値を得ることが不可欠であり、あらゆる手段を講じて、今後の被ばく量をさげていくことが急務である。

2.広範囲に広がる降下物地域

放射性物質の降下は非常に広範囲にわたり、立ち入り禁止の20km圏外はもちろんのこと、福島県をまたいで広がった。汚染空気団は、気象条件に左右されながら、数百kmにわたって移動し、降水(雨、雪)によって、放射性物質を含んだ粒子が地面に降下した。セシウム134,137を含んだ堆積物は、長期間の汚染を引き起こす。

このことは、採取された土壌や、また、CRIIRADが2011年5月24日から6月3日にかけて行った線量計測(地上1m)(*2) によって、裏付けられている。実際の測定は次の通り:

宮城県丸森で毎時0.47μSv。原発から約60km北。計算によると自然放射線量(*3)は毎時0,1μSv。セシウム134、137降下物は、95 000Bq/m2以上(*4)。

茨城県日立市付近で毎時0,33μSv。原発から南へ約88km。自然放射線量は毎時0,07μSv。セシウム降下物は、50 000Bq/m2以上。5月25日時点でもまだヨウ素131が検出された。

茨城県石岡で毎時0,28μSv。原発から、南南西へ約160km。自然放射線量は毎時0,06μSv。セシウム降下物は、48 000Bq/m2。

つまり、茨城県においても宮城県においても、人工放射線量が自然放射線量を4倍以上上回る地域が存在するということである。1日の50%を屋外で過ごす人にとっては、今後12カ月にわたって、放射線を余計に浴びるということであり、屋外から建物内に入り込んでくる放射線による外部被ばくや、汚染食物摂取による内部被ばく、浮遊している放射性粒子の吸い込みなどを除外しても、年間上限値1ミリシーベルトを超える可能性がある。

この結果は、フランス原子力保安局 (ASN) が2011年6月28日に公式発表した「敷地外では、環境中の放射線量は下がり続けている。6月7日の福島では、線量は毎時1,6μSv。そのほか45都道府県の線量は、毎時0,1μSv以下である」という情報と矛盾する。

・東京都では、残留放射線による外部被ばくのために、無視できない線量に達する可能性がある。例えば、CRIIRADは、6月初旬には東京の和田堀公園(原発から約235km)で、毎時0.14μSvを測定した。この公園では、自然放射線は毎時0,06μSvで、セシウム降下物は14 000Bq/m2である。地域全体のデータが必要とされる。

CRIIRADが、日本国民は全国的な放射性降下物、残留汚染の詳細で充分正確なマップを要求するべきだと考えているのはこのためである。正確なマップとは、セシウム降下物を1,000Bq/m2から記載しているものであり、2011年5月6日発行のマップのように、300,000Bq/m2以上からの記載ではない。

*2: クリスチャン・クルボン、ブルノ・シャレロン(CRIIRADラボ)、イワタ・ワタル(NPO法人 47プロジェクト)が、ベルトール社製の型比例計数管LB123を使って測定。

*3: 東京を含めて広範囲に汚染が計測可能値であるため、汚染がない場合の自然放射線量を確定するのは難しい。土壌分析により、ガンマ線を放出する自然放射線核種の量の計測が可能になり、CRIIRADで自然放射線の理論値(テルル組成物や宇宙線)を再計算した。

*4: 手を入れていない平地で標本した人参地層(訳注:2011.08.02訂正)サンプルの0-5cm層で計測したセシウム137,134濃度から算出した降下物量。この条件では、2011年3月に生成した堆積物量が正確に保存されていると思われる。 5-10cm層と2mm以上の部分の分析はまだ完了していないため、表面の放射線の活動値はデフォルトの暫定的推定である。


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