Genpatsu https://genpatsu.wordpress.com 福島原発事故に関する海外メディア報道 Sun, 15 Jan 2012 04:36:19 +0000 ja hourly 1 http://wordpress.com/ https://secure.gravatar.com/blavatar/19b1733ddb480b341d0e1a2d19f61d91bedbe3d293de040126f54ed1385603cd?s=96&d=https%3A%2F%2Fs0.wp.com%2Fi%2Fbuttonw-com.png Genpatsu https://genpatsu.wordpress.com 「福島・ブラックボックス」、The Economist誌2012.1.07付記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2012/01/15/fukushima-blackbox/ https://genpatsu.wordpress.com/2012/01/15/fukushima-blackbox/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Sun, 15 Jan 2012 04:36:19 +0000 <![CDATA[英メディア]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[計画]]> <![CDATA[調査委員会]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[報告書]]> <![CDATA[情報]]> <![CDATA[政府]]> <![CDATA[政治]]> <![CDATA[東電]]> <![CDATA[事故]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=514 <![CDATA[原題:The Fukushima black box 出典:http://www … 続きを読む ]]> <![CDATA[

原題:The Fukushima black box
出典:http://www.economist.com/node/21542437

Fukushima Black Box

浪江町の町から福島県の沿岸の丘の上まで伸びる道には息を呑むような静けさがある。険しい渓谷を河川沿いに続く狭い道にはカエデがちりばめられている。その風景がどれだけ美しいとしても、その近隣の原子力発電所で起こったメルトダウンが起こった時に8,000人の住民が逃げるための避難路としては最悪だ。

2011年3月11日の地震と津波の翌日、浪江町の住民は、相対的に安全だと思われた津島の離れた村に向かうためにそのつづら折りの道に沿って3時間以上かけて30キロもの行程を移動した。彼らはその時、福島第一原発のゲートから車でわずか10分の距離にしかない浪江町の街よりも遥かに酷い、最悪な放射線のホットスポットの原因となった放射性物質の見えない霧の中に突っ込んでいっていたということを知らなかった。政府の怠慢のせいで、八月のニューヨーク・タイムズのレポートが公開されるまでは、避難者の多くは彼らがそのような危険にさらされていたことを知らなかった。

福島県原子力災害に関して政府が「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員」に委託し、12月下旬に公開された最初のレポート(http://icanps.go.jp/post-1.html)は、「怠慢」に基調を置いている。それは中間評価(完全なレポートは、夏に予定されている)でしかないが、それは既に500ページの長さに渡って数百のインタビューによって構成されている。一般の読者にとっては、技術的な詳細や個人的なエピソードが不足しているせいで非常に読みづらいだろう。しかし日本の(これまで公開されてきた文書の)基準からしてみても、このレポートは興味深い内容だ。レポートは政府や原子力発電所のオペレータである東京電力(TEPCO)のどちらも擁護していない。時として、ほとんどマンガのような無能さを暴いている。こうしたことが今後の教訓になると、不安な国民が安心するのに十分であるかどうかはまた別の問題だ。

1979年のスリーマイルアイランドの災害以来、複雑なシステムが複雑な理由で失敗するということは自明のこととなった。それは基本的に福島にも当てはまることだったが、福島の場合では馬鹿みたいに初歩的な失敗が頻発した。地球上で最も地震が発生する列島では、東京電力とその規制当局は、地震と津波の発生時には事故の管理計画を持っていなかった。彼らは原発が地震や津波に対して耐性を持っているということと、事故が起こったとしても原発の内側の要因に起因するだろうと想定していた。東京電力は原発事故発生時に、原発からわずか5キロの場所に現地外(オフサイト)の緊急対策本部を設けていたが、それは放射線への耐性を持っておらず、結果的に機能しない施設だった。第一原発の現場では、作業員たちは非常用復水器と呼ばれる緊急用冷却システムについての知識が足らず、津波の後にも作動していると誤認していた。彼らを監督する立場の職員は同じ過ちを犯し、その結果、過熱した原子燃料棒を冷却するための他の方法が展開される前に、六時間という貴重な時間が失われた。これは一つの原因でしかないが、この原発が3月12日に爆発した最初の原子炉となった。

政府は、同じ程度に無知だった。菅直人総理(当時)は、官邸の5階に危機対策本部を持っていた。しかし、様々な省庁から集まった緊急対応のスタッフたちは地下に追いやられ、携帯電話が地下では機能しない等の問題のせいでミスコミュニケーションが多発した。放射性物質の分散を推定する重要なデータは総理のオフィスには届かなかったため、浪江町の避難者たちにはどこに逃げれば良いのかというアドバイスは届けられなかった。このせいで彼らは放射性の霧に向かって運転していたのだ。レポートはまた、政府が多くの場合、デマや、曖昧だったり古い情報を提供していた責任について言及している。最大の失敗はおそらく、責任を持つ主体の誰も―東電もその規制機関である政府も―自分たちの鼻先より向こう側にある情報を探ろうとしなかったことだろう。誰も「想定範囲外」を想定する努力を行わなかったようである。

アメリカでは、9月11日の同時多発テロや、ディープ・ウォーター・ホライゾンの原油流出に関するものに関する公式の報告書は、大衆にも評価された書籍として出版されている。しかしこの福島のレポートは一般人が読めるものではない。

朝日新聞の元編集者である船橋洋一が率いる民間の財団(訳者注:福島原発事故独立検証委員会)は、部分的に東京電力の内部告発者の証言に基づいた独自の調査を進めている(告発の一つは、船橋氏によると、津波がやってくる前の段階で原子炉は地震によって損傷を受けていたという。当局はこの主張を常に否定してきた)。この調査は少なくとも文学的な価値を持っているといえる。著名な著者でもある船橋氏は、第二次世界大戦における日本国の失敗と今回の福島の災害に複数の共通点を見出している。それは、英雄的な前線部隊と無関心な上司の構図であったり、意思決定者があまりに頻繁に変更されることだったり、縦割りの組織構造による狭い思考、そして事態が一度に悪化するかもしれないという想像の欠如、などである。

場当たり的に構築される複雑なシステム

今のところの問題は、この中間報告書が、それに値する注目を得られていないということだ。これまでのところ、それは日本のマスコミではなく、原子力エンジニアが集まる「Physics Forum」(http://www.physicsforums.com/showthread.php?t=480200&page=759)と呼ばれる専門的なウェブサイトで多くの関心を呼ぶに止まっているようだ。野田佳彦が率いる政府はこのレポートを改革へ向けた結集の呼びかけのために使っていない。レポートの提案の一つである独立した新たな規制機関はもうすぐ設立される。新しい安全基準や拡大した避難計画などのその他の提案を実現するにはまだ数ヶ月かかるだろう。

このようなレポートは結局、信頼を醸成するための実践なのだ。レポートが失敗を公開することにより、そうした失敗が繰り返されることを防ぐために役立つ。福島第一原発に関しては、まだ多くの懸念が残っている。

先の12月16日に原発が「冷温停止」の状態に達したことを政府が宣言したものの、多くの冷却システムは場当たり的に構築されており、おそらくは耐震性も不十分なままだ。1月1日に発生した地震は一時的に、高レベルな放射性の使用済み燃料棒を含むプールの水位を急落させた。

一方、日本全体で、54基の原子炉中48は安全性の懸念から停止状態のままだ。権力を持つ誰かがこのレポートをきっかけに行動を呼びかけるまで、その調査結果が糾弾するどうしようもない愚劣さは、日本の国民がまだとてつもない恐怖にかられるべき理由が存在していることを示している。

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https://genpatsu.wordpress.com/2012/01/15/fukushima-blackbox/feed/ 2 genpatsu Fukushima Black Box
「日本政府は原発運営企業を臨時的に国有化すべきである」、英エコノミスト11/5日付け記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/11/22/economist-nationalize-tepco/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/11/22/economist-nationalize-tepco/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Tue, 22 Nov 2011 03:12:52 +0000 <![CDATA[英メディア]]> <![CDATA[メディア]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[隠蔽]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[原子力産業]]> <![CDATA[国有化]]> <![CDATA[政策]]> <![CDATA[政府]]> <![CDATA[東電]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=509 <![CDATA[日本の原子力の難問題 640億ドル=5兆円の問題 福島原発が収束したら、政府は原 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

日本の原子力の難問題
640億ドル=5兆円の問題
福島原発が収束したら、政府は原発運営企業を臨時的に国有化すべきである

TEPCO (AP)

出典:http://www.economist.com/node/21536600

「これは人類とテクノロジーの戦争だ。戦っている間に破産問題を話し合うべきではない。」と、3月11日の津波の後で福島第一原子力発電所の原子炉3基がメルトダウンした東京電力に対する、政府の第一次支援金5兆円(640億ドル)の発行を調整する担当官は述べた。

この支援には二つの正当な目的がある。まず、発電所から半径20km(12.5マイル)以内の住居を捨てて避難せざるを得なかった8万9千人に対する保証金を支払う補助となる。実際、中間地帯では農場の家畜と野生化した家禽が通りを歩き回っている(記事参照)。これは、また福島原発の完全停止のデッドラインである年末を前に、東電が債務超過で混乱に陥るのを防ぐ。

責任を曖昧にしてはならない

しかし目的は、より堅固で安全なエネルギー産業を打ち立てることであるべきだ。東電がまだ民間企業であり続けることが、その実行の深刻な障害となっている。政府は東電を国有化するために速やかに行動すべきで、臨時の国有化により、古い管理体制の一新とその監査が行える。その後に、徹底的に再構築された公益事業として、再度民間企業に戻すべきである。東電が国有化されるべき3つの理由がある。

第一に、国有化は企業の責任を問うための基礎となる。破壊的な地震と津波を予測できず、震災後の惨憺たる対応しか出来なかった東電は、その管理組織が殆ど以前と変わらず、株主と債権者は蚊帳の外のままである。東電に金を注ぎ込む事が、日本がこの核問題で混乱する理由となった原子力産業と政治的監督者たちの一種の共謀関係を暗示する。5兆円の資金は東電の手に渡るが、東電にはその金額を貸借対照表にローンとして記載する法的な義務もなく、また、どうして返済するかを述べる義務もない。現在のところ、株主でも債権者でもなく、納税者が全てのリスクを抱えることになる。

第二に、国有化を行うことで東電の財務的な再構築が安全だと確認することができる。東電は今後10年で2兆5千万億円のコストを削減すると合意したが、これにより安全面が犠牲になる可能性がある。既に、原発の作業者が穴の開いた長靴で放射性物質で汚染された汚水の中を歩いているという報告が上がっている。短期的には、運営者と監査機関の必要な区分けを再設定して東電を再度民間化する前に、政府が日々の作業の責任を負う主体となった方が、より安定した移行を行えるだろう。

第三に、国有化が行われれば、国家がこれ以上原子力産業に特別な支持を与えないという表明になる。介入が失敗すれば、いかに東電が、日本の他のエネルギー企業と同様に、政府を脅迫し続けているかということが強調されてしまう。言いなりのままに情報を伝えるメディアとサービスを水増し価格で売りつける巨大な企業にも後押しされて、原子力発電施設は巨大な政治力を帯びている。政府が東電の統制に失敗すれば、原子力エネルギーを巡る他の政策に対しても国民の信頼を失うことになるだろう。野田佳彦首相の約束した、現在殆どが停止している日本の54基の原子炉が安全に再運転できることを確認するための「ストレステスト」の実施についても同様である。

福島では汚染地区の広大な表土を除染する作業費も含めて、今後とも大量の資金が必要となるだろう。政府が東電の国有化に躊躇し続けるほど、コストは累積し政治的行動の勢いが弱まるだろう。福島の災害によって何万もの人が家を、職を、そして子供の健康に対する自信を失った。彼らの苦しみを無に帰しては成らない。


 ※ この記事の翻訳はTwitterでの呼びかけに応えて頂いた読者の方によって行われ、当ブログ運営者が校正を行ったものです(全ての文責は当ブログ運営者にあります)。ご協力に改めて感謝いたします。また、他の読者の方からも広くご協力を受け付けています。ご興味のある方はこちらの記事をお読みください。

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/11/22/economist-nationalize-tepco/feed/ 0 genpatsu TEPCO (AP)
「福島の惨事:未だ何も終わってはいない」英ガーディアン9.9付記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/10/07/guardian-aftermath/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/10/07/guardian-aftermath/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Fri, 07 Oct 2011 05:09:49 +0000 <![CDATA[英メディア]]> <![CDATA[ガイダンス]]> <![CDATA[チェルノブイリ]]> <![CDATA[ヒマワリ]]> <![CDATA[マスメディア]]> <![CDATA[モニタリング]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[避難]]> <![CDATA[被曝]]> <![CDATA[食品]]> <![CDATA[IAEA]]> <![CDATA[WHO]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[妊婦]]> <![CDATA[差別]]> <![CDATA[復興]]> <![CDATA[放射線]]> <![CDATA[政治]]> <![CDATA[東電]]> <![CDATA[東日本大震災]]> <![CDATA[永田町]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=499 <![CDATA[ジョナサン・ワッツ記者 ガーディアン紙のアジア環境担当記者を務める。 出典:ht … 続きを読む ]]> <![CDATA[

ジョナサン・ワッツ記者
ガーディアン紙のアジア環境担当記者を務める。

出典:http://www.guardian.co.uk/world/2011/sep/09/fukushima-japan-nuclear-disaster-aftermath

福島の惨事:未だ何も終わってはいない

福島第一原子力発電所で数回メルトダウンが起こってから6ヶ月。町並みは修復されたかもしれないが心理的ダメージは傷跡を残している。

Jeremie Souteyrat

西片風ちゃん(8歳)と兄の海人君(12歳)、学校の校庭で。二人は、この学校から4月1日に50kmはなれた米沢に転校した。母親の西片加奈子さんは福島の子供を守る親の会のメンバー。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

昔なじみの友人から送られてきたEメールによって、(放射能を除去するために用意された)福島のヒマワリ畑の事を知った。レイコさんから連絡が来たのは2003年に私がガーディアン紙の東京の派遣記者だったとき以来だ。それ以前は、雑誌の編集者である彼女は日本社会のトレンドについて鋭いコメントをする貴重な情報源だった。レイコさんは4月に今までの沈黙を破って連絡してきた。最初は嬉しかったが、話を聞くにつれて心配が募った。

レイコさんのメールは伝統的な日本スタイルである時候の挨拶と今感じていることで始まっていた。それは典型的な饒舌さに溢れていたが、語調がいままでになく暗いものだった。「東京は春の盛りで桜の花が咲いています。私の家の小さな庭もチューリップ、バラ、イチゴの花が咲き新しい季節の訪れを教えてくれています。でも、なぜかそれらの花を見ると悲しくなります。今年の花は去年とは違うことを知っているからです。花は放射能に汚染されているのです。」

レイコさんは先月起こった福島の原子力の事故で全てが変わってしまった、と続けていた。毎日の生活がSF小説のようになってしまった。レイコさんは、いつもマスクをして黒い雨にぬれないように傘を持ち歩いていた。皆の話題は原子力発電所の状態についてばかりだった。以前はスーパーに行けば新鮮な食材を買い求めていたのに、今は既に調理されたもの(古いほど安全なので)を探している。また、自分の息子が心配であること、政府に対する怒り、メディアが繰り返し発信してきた「安全である」と言う発言に対する根源的な不信を述べていた。「偽の情報を聞かされています、偽の情報をです」と繰り返しました。「私たちの問題は私たちの社会に根ざしています。私たちはそれと戦わなければなりません。そしてそれは原子炉に反対する闘い同様に困難なことに思えます。」

レイコさんは私に、日本に戻って記事を書くようにと熱心に説いた。その後の5ヶ月間、筆者はその努力を続けてきた。福島の汚染された町々、岩手の荒廃した沿岸地域を車で回り、東京に避難した人達の話を聞き、いままでにないほど記事を書くことの責任を強く感じるようなった。レイコさんや他の日本の友達たちは記事が書かれることだけでなく、第三者の目による、皆の心に重くのしかかっている問題、「日本はまだ安全な国なのか?」という問題に対する判断をも求めているようだった。

3月11日に日本を襲ったマグニチュード9の地震は世界で記録された最大級地震の5つに入るといわれている。海岸線が1m低くなり日本はアメリカに2m近づいた。地震に続いて押し寄せた、最高で40mに達した津波がほとんどの破壊の原因となった。この2つの大天災は2万人の死者と行方不明者をもたらし、12万5千戸の家を破壊した。そして2つの災害は福島第一原子力発電所の3基の原子炉のメルトダウンという第三の災害を引き起こした。チェルノブイリ以降、最大量の放射性物質が放出され、あまりの事態に、今上天皇(明仁)がテレビで人々にメッセージを出すほどだった。殆ど古風と言っても良い天皇のメッセージは、広島と長崎に原爆が投下されたあと、1945年8月に今上天皇の父親である昭和天皇(裕仁)が国民に祖国再建を呼びかけた歴史的なスピーチ(玉音放送)と比較されたほどだ。6ヶ月が経過し、緊急事態は終結した。しかし、別の惨事が明確になってきたのだ。疑念と絶望という心理的な危機が過去に起こった何よりも社会的不安定をもたらすかもしれない。

瓦礫は道路から除去され、再建が計画され、避難者は避難所から引っ越し始めている。しかし何百万人もの人達が(3月までは)異常とされていた放射線レベルに適応しなければならない。これは一度だけの臨時措置ではなく「普通」という意味を変える毎日の生活の改変だ。しかし、どのように適応するかということを決定するのは困難である。低レベル放射線はDNAを破壊する目に見えない脅威であり、何年も何十年も影響が表面化しない。大多数の人達は一生の間、全く影響を受けないかもしれないが、一部の人達は癌になる。誰がいつ影響を受けるかわからないのは、深い部分で不安を掻き立てる。

もちろん、同様の事態は過去にもあった。WHO(世界保健機構)は、1986年のチェルノブイリの原子炉爆発から20年後に、事故による最も大きな一般大衆への健康への影響は心理的苦悩であると述べている。「影響を受けた地域の人々は健康と生活状態に対する自己評価が極端に否定的で、自分の人生がコントロールできないと強く感じています。この否定的な受け止め方と共に見られるのが、放射線にさらされたことによる健康への悪影響を誇張する感覚です。」ロシアの医師達は生存者は「情報に毒されている」と言ってきた。しかし日本においては人々は「不確かさ」に汚染されていると言うほうが正確だろう。

私が福島に入った初日の朝、マグニチュード6の地震で起こされた。3月から頻発して東日本を震わせているいる大きな余震の一つだった。しかし、それは一番気になることではない。日本の人達は物理的な不安定さに慣れている。ここは、結局のところ、世界中で最も地震の多い国なのだ。何世紀にもわたり日本の文化には「無常」、つまり非永続性の精神が根づいている。これは日本民族の独自性であり、これまでは彼らが困難に対峙した際の回復力ともなっていた。

しかし今回の震災は違う。長い間、安全、清潔、そして生(なま)の料理が有名だった国の何百万人もの人が、小規模かもしれないが持続する健康のリスクの増加、そして自分の家、庭、街路、学校の長期的な汚染を受け入れるよう要請されている。そして、食料は調理済みのパックされたもの、それも福島から遠ければ遠いほど安全とみなされている。

他の国々では、人々は放射線源からの距離をもっと遠くしたいと思うかもしれないが、それは人口密度が高く雇用が固定している島国では困難だ。それにもかかわらず何千人もの人達が移住したが、しかし震災地の殆どの人々は留まり適応しなければならない。それも科学者や政治家から明確なガイダンスがあれば少しは容易になるだろうが、しかし、この点においても現代の日本は特に脆弱なようだ。最近、日本の首相は5年間で7回変わった。学者達とマスメディアは原子力産業界の強力な影響力によって腐敗している。その結果、体制に順応することで有名な国民が、突然、何に順応すればよいのか確信が持てなくなった。

マスヤマ・ユキコさん(29歳)東京の新住居29階のアパートにて。ユキコさんは原子力発電所から25kmの南相馬市(福島県)の自宅から5月に避難しました。東京の公共住宅で夫と子供二人と共に避難民として暮らし始めました。妊娠中で11月に出産予定です。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

マスヤマ・ユキコさん(29歳)東京の新住居29階のアパートにて。ユキコさんは原子力発電所から25kmの南相馬市(福島県)の自宅から5月に避難した。東京の公共住宅で夫と子供二人と共に避難民として暮らし始めた。妊娠中で11月に出産予定。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

「食べて安全なものは何なのか、どこなら安全に暮らせるのか、政府がはっきり言わないので、個々人が決断することを余儀なくされています。日本人はそういうことが不得意です」と、臨床心理学で著名な高橋智氏は述べている。彼は、福島のメルトダウンの精神面への影響は、身体的な直接の影響より大きいだろうと予想している。

「地震とは異なり、メルトダウンの被害者たちは不眠、震え、フラッシュバックといったPTSDの症状に見舞われません」と高橋氏は言う。そのかわり、放射線は 「低速で、じわじわと、目に見えない圧力を作り出し」、それが長引く欝を引き起こす可能性があるという。「死にたいと言う人もいます。飲酒量が増える人もいます。多くの人が何もやる気がしないと訴えます。」

マスヤマ・ユキコさんは、自分とこれから生まれる子供のために生死をわける決定をせざるを得なかったため、上記の症状の多くを訴えている。3月9日に、3人目の子供の妊娠が判明した。2日後に福島第一原子力発電所(自宅から25キロ)がメルトダウンした。それ以来、惨事の起こったエリアから必死に逃げたこと、そしてお腹の中で育っている胎児に対する放射線の影響に対する心配が募ってきていることによって、彼女の生活は無茶苦茶にされてしまった。

彼女はクリニックで健診を受けるたびに、超音波エコーで胎児に異常が見つかるのではないかという不安でいっぱいになり、胎児の手足の指を何度も何度も数えてしまうという。医師たちは心配ありません、大丈夫ですと言うが、11月に出産を迎えるまでは、あるいは何年もたたなければ、確実なことは彼らにもわからない。彼女は不安があまりに大きくなり、中絶と自殺をも考えたほどだという。

「震災後の最初の2ヶ月は生き延びることだけに集中していました。」29歳の幸子さんは東京のレストランで私に語ってくれた。「でも、考える時間ができると、ひどく落ち込んでしまいました。心配で食べ物がのどを通らなくなりました。死にたいとすら思いました。」彼女には、東京で心から話し合える人がいない。地元の友達は日本各地の避難所に散り散りになってしまった。夫の家族は、政府も電力会社も安全だと言っているのだから、福島に戻ってほしいと言っている。しかし事故後にあまりに多くの情報を隠蔽し続けた政府や東電を彼女はもう信用していない。

「チェルノブイリのドキュメンタリーを見ました。とても恐ろしく思いましたが、子供を生むことにしました。」とユキコさんは言った。「私には子供が3人います。2人は既に生まれ、1人は未だおなかの中です。息子と娘が被曝したからといって殺すことはしないのに、おなかの中にいる子供を殺せますか?」

元の生活に戻りたくても、自宅のある南相馬は除染作業の真っ最中で、道は清掃され、全ての物の表面にはスプレーが撒かれている。帰る代わりに、彼女は東京に留まるこ とを決意した。孤独ではあるけれど、安全に思えるからだ。それは悩んだ末の決定だった。「好んで東京にいるわけではないけれども、選ばなければならない。私たち日本人は誰かに従いたがる傾向があるけれど、今回は、そうすればいいとは思えなかったのです。」

幸子さんは本当に避難する必要があったのだろうか?今、福島を訪れると、災害やトラウマがあったようには見えないだろう。都市部では、通りはスーツ姿のサラリーマンやOLで 賑わっている。田園部では、田んぼで稲がたわわに実っている。遠景に山々が連なる中、抜けるような青空のもと、新幹線が矢のように通り過ぎていく様子は、まさに絵葉書の中の日本そのものだ。

しかし、良く見れば、多くの家族が放射線量をチェックするためにガイガーカウンターか線量計を所有していることに気づくだろう。レンタルDVDのチェーン店は、最新のハリウッドのヒット作と一緒にガイガーカウンターを貸し出し始めた。放射線量を下げるため、何百もの学校の校庭にブルドーザーが入り、表土を50センチ削り取っている。地域新聞やテレビのニュースでは、細かく分けた区域ごとに、毎日の放射線量を報道している。

禅宗の住職、阿部光裕(こうゆう)さんは寺の後ろの山に、人々の庭の汚染された土を廃棄させています。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

禅宗の住職、阿部光裕(こうゆう)さんは寺の後ろの山に、人々の庭の汚染された土を廃棄させている。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

この6ヶ月間、ほぼ毎日、人々が心配になるニュースがひとつ、またひとつと続いた。7人の母乳からセシウムが検出され、市内でストロンチウムが検出され、ある検査によると福島の子供達の45%が甲状腺被爆している。絶望した農家の人達や孤独に苛まれた被災者が自殺し、汚染された牛肉が市場に出回っている、というニュースが流れ、秋に収穫される米は廃棄せざるを得ないかもしれない、という警告が出ている。

福島県南部の郡山市のビッグパレット(会議施設だが避難所になっていた)の殆どの被災者は仮設住宅に移動した。小数の残っている被災者は、親切なボランティアと世界的に有名な建築家、坂茂のデザインした段ボールとカーテンの仕切りの恩恵を十分に享受している。しかし、施設内の廊下に取り付けられた電光掲示板に示される放射線量の数値は、0.1マイクロシーベルト(放射線の量的単位であるベクレルは人体に対する影響の指標であるシーベルトに変換されている)を示している。これが平常に戻るだろうかという問いに、ボランティアの寺島道夫さんは嘆息で答えた。「平常といっても、もう以前とは意味が違います。原発事故は、当初恐れられていたような破局はもたらさなかったし、多くのことが改善されつつあります。それでも、以前と同じになることは、もう絶対にないでしょう。」

しかし、除染を行うことによって皆の気持ちを引き立てようと言う動きもある。福島では土壌に浸透したセシウムを吸収するためにヒマワリの種が2000万個配られた。背の高い黄色い花が庭や農場や道端に色を添えている。景色は明るくなるが、花びらや茎は放射性物質を濃縮するため管理された環境で焼却または廃棄しなければならない。

このヒマワリは福島市の郊外の襌寺の住職で、「放射能と戦う」ことを使命としている阿部光裕さんの考案だ。近隣の人達の庭の汚染された土を寺の裏山で引き受けて廃棄し、それをゼオライトで覆って埋めている。また、森の木の葉を高圧スプレーで洗浄して秋の落ち葉が少しでも害が少ないようにしようと計画している。

彼が最も心配なのは一緒に活動している人々の精神的な健康問題だ。「情報量は多くても不確かすぎます。これでは誰も安心できません。政治家、官僚、学者たちは何一つ合意できません。どうやって皆に安心するように言えますか?ポジティブな活動が必要ですが、誰も何を信じればよいかわかりません。」

この地域は農家の人が多く、彼らは汚染された土壌に絶望している。「若い人達は引越していきます。過去6ヶ月で自殺率は増加しています。もっと、この傾向は大きくなるでしょう。希望が見つからなければ生きる理由を失ってしまいます。」

これらに加えて信頼が失われたのも大きい問題だ。大臣たちはパニックを防ぐために生死にかかわる情報を隠蔽していたことを認めた。政府のスポークスマンは最初はメルトダウンを否定し、原発で起こった問題は人体に「ただちに健康に影響はない」と言っていた。安全委員会は、国際原子力関連事故レベルの4に匹敵するに過ぎないと発表した。これがチェルノブイリと同レベルの最高レベル7に引き上げられたのは1ヶ月経ってからだった。原子炉に何が起こったか、完全と呼ぶには程遠い情報しか未だに公開されていないのだ。

地震の次の日、原子炉1号機の建物が爆発した。2日後には第3号機の建物の屋根が吹き飛んだ。その次の朝、原子炉2号機と4号機の爆発が起こった。爆発により放射線が煙の柱となって舞い上がったが、政府は事故の規模も放射能がどのように沿岸部に広がり、福島市、郡山市、そして東京に降り積もったのかについても情報を隠蔽した。

放射能施設関係者や救急隊員にも何も知らされなかった。筆者は、除去作業員にインタビューするために、発電所の南の沿岸町、いわき市に車を走らせた。地震の後、T 氏は福島第一発電所から避難し、約2週間後に戻り、放射能封鎖活動に加わった。

「何も情報はもらえませんでした。」と、匿名を希望するTさんは言う。「誰もメルトダウンの事は口にしませんでした。危機的な事故に際しての訓練も指導も受けませんでした。でも、みんな、事態が非常に深刻なのは知っていました。自分も、これが最後の仕事になるかも知れないと思いました。馬鹿げて聞こえるかもしれませんが、家族と国のために全てを捧げた神風特攻隊のように感じました。」

Tさんは3月以来、50ミリシーベルト被爆した。政府の以前のガイドラインによると、これは1年間の許容被爆量にあたる。

これはTさんにだけ起こったことではない。東京電力の資料によると410名が惨事以来50ミリシーベルトを超えて被爆している。この他に250ミリを超えた人が6人いる。しかし、緊急事態であるということで、 3月に政府は今までの放射能産業従事者の被爆上限100ミリシーベルトを250ミリシーベルトに引き上げ、この被曝量はから合法化されている。

「突然、かつ、劇的に限度が引き上げられ、何が危険で何が安全なのか全くわからなくなりました。」とT氏は続ける。「混乱しました。今まで政府が厳密すぎたのか、それとも、規制が突然ゆるくなったのか?何を信じれば良いかわからなくなりました。」

いたるところで同じ言葉を聞いた。3月以降、政府は食料、放射能業務従事者、学校の校庭、海への放射性物質排水の目標値を緩めた。1年前に危険であると考えられたものが今では安全で合法的なのだ。福島県の200万人近い住民が、政府が一般住民に対して決めた1年の安全放射量ターゲットである1ミリシーベルトを超える地域に住んでいる。原子炉から240kmはなれた東京の下町でさえ、放射能レベルが上がり、職場であれば「放射性障害」の警告を受けるレベルに近づいた。

WHOによると世界中の人口が自然に被爆している平均量は2.4ミリシーベルト/年だ。胸部レントゲンでは1回で0.1ミリシーベルト、6時間の大西洋横断フライトで0.5ミリシーベルト、体全体のCTスキャンで12ミリシーベルト被爆する。しかし、これらの場合、放射線量は前もって予測可能であり外部被爆なので比較的、対応が容易だ。福島で降り注いだ放射性物質は遥かに厄介で、体内に入りこみ、内部から被曝することによってより健康を害しやすいのだ。tyっっs

スーパーでは、放射能レベルが安全であると表示している。多くの人が輸入食品のほうが安全とみなしている。写真:ジェレミー・スーテイラト (Jeremie Souteyrat)

スーパーでは、放射能レベルが安全であると表示している。多くの人が輸入食品のほうが安全とみなしている。写真:ジェレミー・スーテイラト (Jeremie Souteyrat)

爆発後、放射性核種は花火の後の燃えカスのように、風向きと物質の重量に従って拡散された。それぞれの物質は身体に異なる影響を及ぼす。まず、最も早く広がるのはガスのように軽いヨウ素131で、甲状腺に蓄積される傾向がある。これはいち早く東京でさえ検出された。次に来るのがセシウム134と137で、膀胱と肝臓に影響を及ぼし、半減期は約30年だ。これは福島県と宮城県、千葉市、東京の一部の土壌、水、木々を汚染し、最大の問題となっている。ストロンチウムは骨に蓄積されて白血病の原因となる傾向があり、それほど広い範囲ではないが、それでも福島市を含む64箇所で検出されている。最も重い放射性核種はプルトニウムで半減期は何万年にも及ぶ。発電所の周辺で少量検出され、深刻に汚染された1万トン以上の廃液に混じって太平洋に廃棄された可能性がある。

発電所から排出された放射能の量は膨大だ。事故発生時で77万テラベクレル、そして、技術者が破壊され汚染された施設を囲おうと苦労している間も毎日何十億ベクレルもの放射能が放出されている。殆どはヨウ素で、半減期は8日間だ。これは自然崩壊し、セシウムその他の放射性核種は希釈され散逸した。しかし大部分は土壌にしみこみ、森の木の葉を汚染し、食物連鎖を通じて家畜、魚、野菜、そして人間に広がる。詳細が明らかになるにつれて、福島の住人は何が体内に取り込まれたのか判明しようとしている。最も危険だった3月15日にどこにいたか、何時間程度外にいたか、雪が降っていたか、何を着ていたか、といったことから計算しようとしている。それから、その後何を食べて飲んだか、それが安全な供給源だったかといったことを考えている。

このことに対して個人が出来ることは僅かしかない。政府が約束した体全体のスキャンは時間がかかる。全ての食べ物の放射線レベルを検査するのは殆ど不可能だ。しかし、何とか助けの手を差し伸べようとしている団体がある。ジャーナリストの広河隆一さんが設置した福島の市民食品放射能検査所は無料で食品を検査している。これはゆっくりとしたプロセスだ。それぞれの食品は皮をむいて、つぶされ、または濾してから袋につめ、LB200ベクレルモニターに20分かけられる。

サクマ・アキコさんは自分の菜園のジャガイモを試験するために車を2時間走らせてやってくる。「恐ろしいです。毎日放射能の事を考えています。」そう言いながら毎日の被爆量を克明に記録したノートを見せてくれた。3月15日の爆発以来、線量は100マイクロシーベルト/時を超えた。これはX線一回分に相当する。彼女は頭痛と鼻血に悩まされていると言う。「東京に逃げたいけれど仕事がないし。チェルノブイリの人達がどうして逃げなかったかこれまで分からなかったけれど、今は自分が同じ状況にいます。」

一方では、運命とあきらめている人達を見つけるのは難しくない。何人かは放射能より、ストレスと激変のほうがリスクが大きいと述べている。意見の食い違いは家族、世代、そして共同体の分割をもたらした。「留まるべきか、避難すべきか?」という問いが無数の人々に重くのしかかっている。それ故に、東北地方のホテルは観光客を呼ぶのに苦慮している。東京訪問を延期した外国の高官が多いのも同様の理由による。これはDNAが影響を受けやすい人々、母親と小さな子供たちにとって、特に切迫した問題だ。

その1人が東京に避難している妊婦のイシモリ・マリさんだ。生まれてくる子供の健康に対する考慮と福島県の夫の実家から戻って来るようにとのプレッシャーの間に立って困っている。そこは保守的な田舎だが、今は多くの主婦たちが夫たちと議論していると言う。

イシモリさんは発電所の事故を聞いてすぐに避難した。「私は主人を愛しています。でも、絶対に福島には戻りません。」と、コーヒーを飲みながら語ってくれた。「自分の子供に普通の子供時代を過ごさせてやりたいから。福島にいたら、土や葉に触るのも、川に入るのもダメと言わなければならないでしょう。子供には、自分が育ったように、そんな事を心配せず育ってほしいのです。難しいです。もう、主人と一緒に暮らせるかどうかわかりません。」

イシモリさんは放射能を恐れる大きな理由がある。彼女は世界で最初に放射能爆弾の標的となった広島で育ったのだ。子供時代には祖母と曾祖母からアメリカの爆撃と、それに続く死の灰の恐ろしさを何度も聞いてきた。放射能爆弾の生存者である「被爆者」が偏見に苦しむのも見てきた。時には被爆者の子供たちまで遺伝子に汚染が蓄積されているかのように取り扱われてきた。差別に関する多くの記録が残っている。就職を拒否された人もいたし、奇形の子供が生まれるかもしれないという、医学的に証明されていない理由で結婚を拒否された人もいる。しかし、被爆者は貴重な生き残りであり、放射能の本当のリスクについての知識をもつ存在として尊重もされている。彼らは今回の惨事の後、政府の「直ちには健康に害がない」という耳に優しいだけの不明瞭な発表にもかかわらず、大きな危機感を持つよう警告した最初の人達でもある。

来月に出産を控えている石森さんは今、孤立しています。魚も卵も食べず、公式な安全宣言を信じていない。「政府の言うことは何も信じていません。東京電力と政府は、あまりにも多くの嘘をついてきました。」

心配と疑いの裏には、健康に対するリスクの明確なガイダンスの欠如がある。しかし、誰一人、完全に安全な放射能レベルを設定できる人はいないのも事実だ。日本赤十字社長崎原爆病院の院長、朝長万左男氏は放射能の影響を40年間研究してきた。朝長院長は広島と長崎の原爆の生き残りの人達を基準とし、放射能の被爆量が100ミリシーベルト上がる毎に癌になる確率が増える傾向があると証明した。放射線の低いレベルでは同様のパターンが見られると思われるが、変化はあまりにも小規模で正確に計測できないという。

「5ミリシーベルトなら、または、10ミリシーベルトなら非常に安全だと証明できるデータはありません。はっきりとした証拠はないのです。」と、朝長院長は言う。「原爆により、被爆者は短時間に膨大な量の放射線を全身に浴びました。福島の住民は少量の放射線を毎日浴びています。これは、とても重要な違いです。」

チェルノブイリとは、もっと類似した比較ができる。事故は旧ソ連邦で起こり、瓦礫を撤去した人達134名が急性の放射能障害にかかった。その内の28人が1年以内に死亡した。何百万人もが低放射線で被爆し、ベラルーシと北ヨーロッパの広範囲が汚染された。事故後20年目の追跡調査によると、WHOは事故により重度に被曝した62万6千人のうち癌で4,000人が死亡した(普通より4%高い)と結論付けた。低線量被爆者の癌による致死率は約0.6%上昇すると見積もられている。同機関はまた、ロシアの調査によると心臓病、白内障が増える危険性も示唆されているが、出生率、流産、先天的欠損症に対する影響があるという証拠は見つかっていないという。

福島ではチェルノブイリの10分の1の放射線量が漏れ、ミルクによる汚染を防ぐための処置が大規模に取られた。日本は(何千人と言うよりは)何百人もの人々が癌になる可能性に対して備えたと言えるし、また出産の問題も思うほど大きくはない可能性がある。

このことはマスヤマさんやイシモリさんのような妊娠中の母親達を安心させるはずだ。しかし、日本の他の母親たち同様、二人は公式な安全発言に対し懐疑的である。3万人から90万人も癌患者数が増加したと言う、別機関のチェルノブイリの研究結果を知っているのだ。また、日本の人口密度はベラルーシの10倍であると言うことも知っている。政治家が放射能の分布予測を隠蔽したのは経済的影響を住民の生命より重視したからだと疑っている。立ち入り禁止区域外で最悪の許容限度の200倍を記録した浪江では、地元住民は「殺人行為」だと表現した。また、原子力産業、特に東京電力の影響も広く知られてきている。東電は国内最大の(マスメディアの)スポンサー、選挙資金提供者、そして理系大卒者の雇用者なのだ。

東京電力の曖昧さと政府の遅い対応を見て、意気消沈する人が出る一方、急進的になる人も現れた。

フォトジャーナリストの広河隆一氏はチェルノブイリを報道し、また、爆発の後で福島原子力発電所近辺の放射能を独自に測定した、最初のリポーターの1人だ。彼は原子力産業は再び隠蔽工作をしていると信じている。なぜなら、惨事の健康に関する影響を調査している専門家たちは長年、エネルギー関連企業で音頭をとって来た人達だからだという。

「彼らは、最初に、チェルノブイリの事故は健康に影響を与えない、と言った人達です。」と、広河氏は東京のオフィスで私に語ってくれた。「彼らは住民をモルモットのように扱います。情報は収集するけれど個人に提供しません。調査結果も教えず、治療もしません。」

この脅威に立ち向かうために広河氏は、350万円(2万8千ポンド)の全身モニタリング機器を含む先進的な測定機器を購入するために寄付金を募った。これらの機器は市民センター等で誰でも自由に使うことができる。「政府の健康調査は安心できません。」と広河氏は言う。「だから、この機器を住民に提供したのです。政府は放射能の影響を受けた人数を出来るだけ低く抑えたいのです。情報を持って戦わなければなりません。そうすれば、人々はリスクをより正確に理解し、必要な医療が受けられるようになります。」

権威について再考するためのこの新しい機会を、産業界と政界を良い方向へシフトするチャンスと捉える人達もいる。飯田哲也氏は元原子力エンジニアだったが、太陽熱、風力、地熱エネルギーへのシフトを10年以上推奨してきた。彼の環境エネルギー政策研究所は3月11日までは重要視されていなかったが、メルトダウンが起きて以来、飯田氏による原子力の段階的廃止への呼びかけが注意を集めている。ある世論調査によると国民の70%がこの考えを支持していることを示唆している。

飯田氏は、今、ソフトバンクの創始者であり、国内で最も尊敬されている実業家である孫正義氏とクリーン・エネルギーのための基金を集めている。今週、二人は自然エネルギー財団を設立するが、孫氏はこの財団に10億円を投資すると約束した。ビジネスマン、政治家、そして著名人たちも以前より原子力発電に批判的な態度を示している。原子力発電を批判することはかつてはキャリア上の自殺行為だったが、今や国のトップニュースの番組は電力会社をスポンサーから外している。

日本の政治の心臓部である東京の永田町にも変化が見られる。チェルノブイリの後、ソ連の機構は5年以内に崩壊した。主要政党は同様の運命を避けるために、どのような変更が必要かを見積もっている。管直人前首相は日本の原子力利用の終結を呼びかけ、その後すぐに地位を失った。後継者の野田佳彦現首相は、もっと注意深く、変化の勢いを緩めることを提案している。資金の大部分を原子力産業から得ている自由民主党ですら、国内の原子力エネルギー依存を低減すると約束している。しかし、誰が実行するにせよ、まず、民衆の信頼を再獲得しなければならない。

筆者は、震災地の再建の命を受けた政治家、平野達男復興相に会い、信頼を再獲得するには何をすべきか質問した。

「今までは震災で直接被害を受けた人達の支援をし続けました。」と、平野氏は言う。「しかし、同様に、初めて放射能の中で生きようとする人達も支援しなければなりません。」政府は今後10年間の再建に23兆円(1810億ポンド)を取り付けた。しかし、放射能の除去費用の計算が残っている。それは復興の全体像が未だ不明であることが原因の一つだ。

民衆の不安を軽減するために、被災地出身の平野氏は、政府は原子炉の冷却システムを破壊したのが地震なのか津波なのか明確にし、他の残る謎も明白にすべきだと言う。政府は20km圏内立ち入り禁止区域内の放射能の詳細な研究、福島県民の健康診断の長期プログラムを開始し、放射能の決定的な基準量を設定する専門家の委員会を設置しました。食品安全委員会は最近、自然界に存在する放射線と医療用放射線を除く、日本国民の一生の被爆量の新基準として100ミリシーベルトという値を提案した。

タカノ・マサミさんの母親は450km離れた滋賀県に息子が避難するのを見送った。「僕は逃げます。」と、マサミさんは言った。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

タカノ・マサミさんの母親は450km離れた滋賀県に息子が避難するのを見送った。「僕は逃げます。」と、マサミさんは言った。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)

平野氏は、究極的には、最も古いものから始めて、日本の54基の原子炉を段階的に廃炉にする活動を含む、エネルギー産業界の再構築を見たいと希望している。原子力産業界は当然戦いを挑むだろうが、平野氏は有権者は変化を要求するだろうと予想している。「次回の選挙では、個人の恩恵のために原子力の推進を指示する政治家は落選するでしょう。」

しかし、日本に脱原発、除染、そして自信を回復するだけのダイナミズムがあるのだろうか?日本は、かつて、素晴らしい回復を見せた。しかし、今は人口の減少と高齢化、経済不況、腐敗した政治機構を抱えている。新スタートは困難なものとなるだろうが、一部ではもうその動きが始まっている。

福島での滞在の最後の日、筆者は霧雨が降る朝5時に起き、30年住んだ自宅と調理師の職を捨てたタカノ・マサミさんと会った。

滋賀県まで車で10時間かかるので早く出発したいと言うことだった。滋賀県は日本の西側にある山の多い県で、そこでマサミさんは放射能から逃れて新しい人生を始めたいと望んでいる。母親の忍び泣きを聞きながらマサミさんはホンダのシビックに洋服の箱、仕事を探すために使う麺を打つ道具、そして車中で聞くレディー・ガガのCDを数枚積み込んだ。

友達には既に別れを告げた。「正直に言いましたよ。放射能が怖いから逃げる、って。違う意見の人もいます。良くわかります。引っ越すのは大変です、ここに生まれてから住んでいたんだし。でも、ここは安全ではないのです。」

一方、政府は避難者に家に戻るように呼びかけている。当局は、当該地域が安全であると主張している。放射能レベルは過去2ヶ月で毎時1.2マイクロシーベルトから0.7マイクロシーベルトに下がった。しかし、まだ食品の安全性の問題が残っているのでタカノさんは危険を犯したくないのだ。「引越しはストレスが大きいだろうけれど、マスクをする必要もなくなるし、毎日もっと放射能を浴びることによる心配をしなくてすみます。」

タカノさんは最後のコーヒーを飲みながら朝のテレビニュースを見た。トップニュースでは原子力発電所内の放射能レベルは未だに10シーベルトという致死量のレベルであることを報じていた。これに次いで九州電力のやらせメールに関する報道を流していた。

「完全に安全な所はありません。」とタカノさんは言う。「日本は狭いのに原子炉が多すぎます。引っ越す先にも原子力発電所があります。地元の人達に、どんなリスクがあるか語りたいと思っています。」と、続た。「もう私の内臓は被爆しています。何年も影響を受けることでしょう。引っ越したからと言って心配がなくなるわけではありません。」

出発する時間になった。マサミさんは車に乗り込み、母親と隣のお年寄りのサトウさんが見送る。車は地震で亀裂が入った狭い道をゆっくりと進む。車が見えなくなると、お母さんは目を赤くして言葉も無く、サトウさんも何と言ってよいかわからないようでした。

「行ってしまった。」とお母さんは言い、花壇のことに話題を変えました。「このヒマワリを見てください。セシウムを吸収してもらおうと植えたんです。こんなに大きくなるなんて夢見たい。」

この記事を発表する前に草稿を(冒頭で紹介した友人の)レイコさんに送った。返事は丁寧だったが、彼女は落胆したように感じた。「たぶん、あなたに答えは見つけられるでしょう。でもそれはたぶん期待しすぎなのかも知れません。そうだったとしたら、忘れてください。私は他の日本人より意見をはっきり言いますけれど、途方にくれています。この国で生活するには普通に戻らなければ、今までにしていたように振舞わなければなりません。働かなければならないし、食べなければならないのです。5ヶ月間もがき続けて、もう心配するのに疲れました。現実と向き合うことをあきらめる方が楽です。一番つらいのは一秒一秒が答えのない葛藤の連続だということです。」

筆者も本当に胸が痛むが、残念ながら明確な答えで安心させることは出来ない。原子力の惨事は恐ろしいものだったが、想像していたほどではなかった。1年前に誰かが私に原子炉3基が同時にメルトダウンすると言っていたら、それは世界の終わりだと思っただろう。でも、今の日本は想像していたような終末の様相を呈していない。その代わり、ゆるやかな崩壊が起こっている。福島を3回訪問して1年前より放射能に対する恐怖は小さくなったが、日本に対する心配は大きくなっている。


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/10/07/guardian-aftermath/feed/ 5 genpatsu Jonathan Watts 西片風ちゃん(8歳)と兄の海人君(12歳)、学校の校庭で。二人は、この学校から4月1日に50kmはなれた米沢に転校した。母親の西片加奈子さんは福島の子供を守る親の会のメンバー。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat) マスヤマ・ユキコさん(29歳)東京の新住居29階のアパートにて。ユキコさんは原子力発電所から25kmの南相馬市(福島県)の自宅から5月に避難しました。東京の公共住宅で夫と子供二人と共に避難民として暮らし始めました。妊娠中で11月に出産予定です。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat) 禅宗の住職、阿部光裕(こうゆう)さんは寺の後ろの山に、人々の庭の汚染された土を廃棄させています。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat) スーパーでは、放射能レベルが安全であると表示している。多くの人が輸入食品のほうが安全とみなしている。写真:ジェレミー・スーテイラト (Jeremie Souteyrat) タカノ・マサミさんの母親は450km離れた滋賀県に息子が避難するのを見送った。「僕は逃げます。」と、マサミさんは言った。写真:ジェレミー・スーテイラト( Jeremie Souteyrat)
「さようなら原発(ただし今すぐに、とは言わないが) 」英エコノミスト9/24記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/10/04/sayonara-genpatsu-economist/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/10/04/sayonara-genpatsu-economist/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Tue, 04 Oct 2011 09:13:46 +0000 <![CDATA[英メディア]]> <![CDATA[9月19日]]> <![CDATA[デモ]]> <![CDATA[ドイツ]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[原水禁]]> <![CDATA[反核]]> <![CDATA[市民抗議]]> <![CDATA[東京]]> <![CDATA[東京電力]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=489 <![CDATA[異例の礼儀正しさで行われた市民抗議デモ 出典:http://www.econom … 続きを読む ]]> <![CDATA[

異例の礼儀正しさで行われた市民抗議デモ

出典:http://www.economist.com/node/21530147

2011.9.19

1960年以来、集団的な抗議行動がほとんど起きていなかった日本において、9月19日に東京で行われ、予想外に大規模になった反原発集会は洗練されたものだった。6万人もの人々が集まったのは祝日の都内の中心部。デモ行進の際には、交通の妨げにならないよう慎重に設定されたA、B、Cという3つのコースがまるでランチのメニューの様に用意されていた。ミュージシャンたちは演奏で、犬を連れた飼い主たちは飼い犬に着せたベストで、それぞれに反核を訴えた。わずかに脅威の兆候を感じさせたのは、大勢の参加者たちが着用していたフェイス・マスクくらいであった。しかしそれはインフルエンザ予防のためのマスクであり、アラブ諸国で目にするようなマスクとは異質のものである。

福島第一原子力発電所は地震と津波の起きた3月11日以来不安定な状態が続いており、その放射性降下物のせいで福島県民のうち8万6千人の人々は帰宅の見通しがいまだにたっていない。したがって今回のデモが荒れたものになったとしても至極納得のいくことだった。しかしそうならなかったことは、原子力、そして抗議行動全般に対して日本人が取る興味深い姿勢について多くを物語っている[あまり表現できない10/04 19:22訂正]。主催者によれば、やはり日本人は一般的に攻撃的であるよりも穏健であることを好むそうである。

そのためデモ参加者たちが要求するのは原子力の即時中止ではないのだと、このデモを企画した反核組織、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)の藤本泰成・事務局長は語った(原水禁では即時中止を支持している)。しかし急な操業停止を行うと電力不足と生活の混乱を招くことになるだろうと、藤本氏は認めている。今回のデモで要求されていたのは原子力の新設中止と、縮小に向けた計画への同意であった。藤本氏による原発廃止のシナリオに従えば、既存の原発の最後の一基を閉鎖出来るのが2049年だそうである。

さらに今回の集会は、原子力の危機的状況が政治的に隠蔽されている(と藤本氏は考えている)ことに対してのものであったとして、反政府的なものではなかったことを藤本氏は強調した。野田佳彦新総理大臣が今週ウォール・ストリート・ジャーナル誌のインタビューに、原子力を利用せずに来年の夏をやり過ごすこと、そして原子力の即時縮小は「絶対に実行不可能だ」と答えているにもかかわらず、藤本氏は野田首相を問題視していない。

日本人の抗議の仕方は、3.11の東日本大震災後に藤本氏がドイツで参加したような、より敵意に満ちた反核集会とは趣の異なるものだという。「日本人は調和を大切にするので、あらゆる意見を踏まえた上で初めて意見を表明する傾向がある」と藤本氏は語る。ケンブリッジ大学の玉本偉助教によれば、抗議集会が盛んに行われていたのは敗戦の年、1945年にアメリカの進駐軍が労働組合と左翼政党を推進した(訳注:ただしGHQは1949年には赤狩りを開始。Wikipedia「連合国軍占領下の日本」を参照)後が最後だったそうである。1960年代に保守派が再び影響力を取り戻して労働組合を抑えこみ、左翼グループが内部対立を始めるとデモは急速に衰退した。それ以来、影響力のある抗議活動を組織できるグループは現れなかったと玉本氏は指摘する。

原水禁そのものも困難に直面している。同組織は主要な労働組合のいくつかより資金援助を受けており、その運営本部は労働組合のビル内に置かれている。しかし、それらの労働組合の多くは原子力推進派なのである。というのも福島の原子力発電所を運営する東京電力は大規模雇用主であり、原子力発電所を建設する日立や東芝といった複合企業もまた同様に大規模雇用主であるためだ。日本人が穏健を信条とするのも不思議ではない。


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/10/04/sayonara-genpatsu-economist/feed/ 2 genpatsu 2011.9.19
「福島では沈黙と嘘が住民を圧殺している」、Rue89 9/2付け記事記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/09/13/rue89-lepage/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/09/13/rue89-lepage/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Tue, 13 Sep 2011 13:32:20 +0000 <![CDATA[仏メディア]]> <![CDATA[フランス]]> <![CDATA[ヨーロッパ]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[隠蔽]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[政策]]> <![CDATA[東電]]> <![CDATA[汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=478 <![CDATA[出典:http://www.rue89.com/corinne-lepage/2 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

出典:http://www.rue89.com/corinne-lepage/2011/09/02/de-retour-de-fukushima-ou-le-silence-et-les-mensonges-tuent-220331

福島の事故がニュースの一面から消えてすでに数週間が経ちます。大方の人にとっては、すでに終わったことですし、東電や汚染水処理に携わるアレバ社は、当然状況をコントロールしているということになっています。

避難が必要な人はすでに避難しており、放射線量も下がってきている。フランスからみた日本は、原発再稼働の用意が整ったように見えますそのうえ、メディアはフランスの原子力圧力団体から情報を入手しては定期的に、ここそこの原発が再稼働すると報道しています。

こうしたことは、深刻かつ悲劇的な、偽りなのです。

数百万m3の汚染水

まず申したいことは、環境省政務官、環境省副大臣、福島県副知事とお会いしましたが、日本政府は、事故は進行中であり、何も解決していないという認識を持っています。これは貴重な情報です。

日本政府は、3つの原子炉の炉心が溶解し、容器を貫いたことを認めていますが、現在何が起きているのか、特に、核燃料含有物質が貫通したのかどうか、は把握していません。貫通した場合、地下水が取り返しのつかない汚染にさらされることは言うまでもありません。

水処理についてですが、グリーンピースでは、まだ着手したばかりだという見解を持っています。もちろんだれも触れたくない問題ではありますが、日本政府も放射性汚泥の堆積や数百万m3の汚染水についても、認識はしています。

空港でとめられている線量計

二つ目、これも重要なことですが、福島県で暮らす家族の人たちは文字通り、非常に悲劇的な状況にあります。数百の家族と連携している団体があり、断固たる決意を固めた女性たちが音頭を取っているのですが、その団体とほぼ2時間話してきました。

彼女たちのことはよく理解できます。彼女らに降りかかったことは、私たちがチェルノブイリ事故で体験したことに非常に近いですし、いろいろなことの進行の仕方を見ていると、過去の体験を思い出します。

地震と津波が一度に襲ってきたために、状況が相当混乱していたことはわかりますが、気象庁が、福島原発事故の時に風向きの地図を提供できなかったというのも、おかしな話です。住民は、風がどこから吹いてくるのか知るすべが全くありませんでした。

いかなる情報も提供されず、ヨウ素安定剤も配布されませんでした。彼らは、一か月以上たって初めて、汚染レベルについての公の情報を入手できたのです。現在、東京の空港では、4万個の線量計が政府の指示によりとめられています。(訳注:福島の)家族は、自分たちの生活している場所の放射線レベルがどれくらいかわからないままでいます。

子どもを心配するママたち

食品についてですが、測定はされていますが、結果が出てくるのは、食品が市場に出て消費された後です。母親にとって一番大事なのは、もちろん子どもたちのことです。

すべてのIAEA加盟国同様、日本でも一般人の年間放射線許容量は1ミリシーベルト、放射線従事者で20ミリシーベルトです。現在、この人たちが住んでいる福島県の地域では、5ミリシーベルトを完全に超えていて、20ミリシーベルトに達するところもあります。

こうした母親たちは、自分たちや、子どもたちが1ミリシーベルト環境で暮らす権利を主張しています。問題は、彼女らの問いかけに、はい、と言えるだけの手段がどこにもないことです。

もっと広範囲な避難が必要です

2つの解決策が考えられます。除染または、話題にされることの多い避難、です。幾つかの校庭が除染対象になったようです。除染は表土を50-60cm取り除くのですが、いったいそれがどこに保管されるのかはわかりません。

除染によって、汚染レベルをさげることができます。これは局地的には可能ですし、結果検証もしたほうがいいでしょう。しかし、明らかに、県レベルでは不可能です。

したがって、検討の必要なのは2つ目の解決策ということになります。当然、希望者が出ていくことができるようにする、ということです。しかし、出ていくことができるようにするためには、他のところで生活していけるようにしなければならないということです。

悲劇的なことですが、日本政府はある一定の範囲内でできることをしている、というのが現実です。しかし、情報が抑えられているために、一般の人が実際の状況を知る術がないのです。

補償なしの農家

意思決定の改善が必要な個所では、農業もご多分にもれず、政府の機能不全の犠牲者です。

福島県は、福島県産の農作物をアピールし、風評被害を訴えています。私も、立派な桃の入ったかごをいただきました。しかし、当然ながら、この地域の生産物のほとんどは、摂取すべきではないというのが現実です。しかしそのためには、農家が補償を受けて生活していかなければなりません。しかし、実際にはそうはなっていません。

日本はこうした非情な状況に置かれているわけですが、これは工業化されたこの国全体に当てはまることです。同じリスクがおそらく同じ結果を生む。だからこそ、日本が沈黙におおわれているのです。

連携ネットワークを立ち上げる医師たち

医師たちはもはや発言の権利もなく、発言しようとしなくなっています。小児科のネットワークがたちあがったり、特に農村部で医師たちが段取りをつけて、住民がより自己防護し、医療体制が整うようにしている、と聞いています。

しかし、こういったことはすべて市民レベル、草の根、内密といってもいいような動きです。明らかに、原子力当局は、この事故の疫学的影響の詳細で正確なデータを取らないことに決めたのです。

私たちは皆、この沈黙の壁に立ち向かわねばならないと思います。なぜなら、これは子どもに関わる問題であり、福島の子どもがフッセンハイムや、ビジェイ、ブライエの子どもにもなりうるのです。話し合い、行動し、現場で大きな苦難と戦っている団体を助けていくのが私たちの責任なのです。

ほら、日本は脱原発します

反面、日本政府はおそらく自分たちの限界を知りつつも公にはできないのでしょうが、脱原発という本物の決断をしたように見受けられます。

実際、この情報は用心深くフランスでは隠されていますが―理由は各々がお分かりでしょう―、福島の事故以降、日本は電力を28%、東京地域では40%近く削減しました。57基ある原子炉のうち、今日稼働しているのは14基のみです。

数々の対策がこの大がかりな節電を可能にしました。例えば、日中は役所の照明を消す、クーラーをつけない(数日前には京都で38度であったにもかかわらずです)、東京で夜間の大広告を消す、産業では生産システムを再編して、輪番制で稼働して、大きな成果をあげました。

ですから、ヨーロッパで2020年までに20%の電力削減ができるかどうかという問いには、私たちの友人である日本人から多くのことを学べます。新首相も、選挙戦でこのことを明言しています。日本はもはや新規の原発を建設しないということを表明しており、これはつまり脱原発の動きに他なりません。

それでは「いつからか?」ということですが、もちろん、実施されるストレステストや現在メンテナンスで2012年3月まで稼働していない原発を再稼働するかどうか、ということにかかっているでしょう。

筆者:コリーヌ・ルパージュ
1995-1997環境大臣.現在は弁護士、Cap21CRII-GENの理事長、そして2009年より欧州議会の議員を務めています。


 ※ この記事の翻訳はTwitterでの呼びかけに応えて頂いた読者の方によって、元々はFacebook上のオープン・グループ「NO More Nuclear Power」のために行われ、当ブログへの転載を許可して頂き、当ブログ運営者が校正を行ったものです(全ての文責は当ブログ運営者にあります)。ご協力に改めて感謝いたします。また、他の読者の方からも広くご協力を受け付けています。ご興味のある方はこちらの記事をお読みください。

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IRSN「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響・改訂版」2011年 7月11日付け全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/09/13/irsn-report-20110711/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/09/13/irsn-report-20110711/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Tue, 13 Sep 2011 03:09:26 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[ヨウ素]]> <![CDATA[レポート]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[食物汚染]]> <![CDATA[食品]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[堆積物]]> <![CDATA[東電]]> <![CDATA[海洋汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=457 <![CDATA[「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」についての現状 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響についての現状認識の総括

2011711
出典:http://www.irsn.fr/FR/Actualites_presse/Actualites/Documents/IRSN-NI-Impact_accident_Fukushima_sur_milieu_marin_11072011.pdf 

この報告は、513に「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」改訂版を発表した以降IRSNが得たたな情報について、紹介、コメントするものである。

福島第一原発事故後、おびただしい放射能汚染が海洋環境を襲った。原発から汚染水が直接放出され、4月8日まで続いたことが主な原因である。また、それより影響は少ないが、3月12日から22日までの間に大気中へ放出された放射性核種の一部が海に降下したことも原因として挙げられる。原発の近辺において、3月末から4月初旬の海水の汚染濃度は、セシウム134とセシウム137で1リッター当たり数万ベクレル(Bq/L)となり、ヨウ素131では十万Bq/Lを超えた。ヨウ素131は半減期が8日であるのために急速に減少し、5月末には検出限界値以下となった。この地域では、セシウム濃度は4月11日から減少しはじめ、4月末には100Bq/L、6月には数十Bq/Lとなった。海水に溶けた放射線核種は海の流れにのって、徐々に濃度を下げながら、太平洋の広い範囲で広がり続けている。放射性セシウムは北太平洋において、数年にわたり検出され続けるであろうが、その濃度はかなり低いものとなるであろう(海水に常時存在する自然放射性核種であるカリウム40の濃度の5000分の1)。

放射性核種は、海中を漂う粒子に固着して沈降し、海底表層に堆積して海底を汚染する。この海底汚染は特に原発の沿岸部において顕著であり、4月末に検出された後、5月と6月にも検出された。

原発周辺沿岸域の海水汚染は明白であり、汚染された土壌から流出する表面水(陸水)によって海に放射性物質が流入し続けるため、汚染はしばらく続くであろう。

海水の放射能汚染により、そこに生育する植物や動物も汚染される。福島第一原発南側の沿岸で4月末まで獲れたコウナゴから検出された放射性核種の濃度は1キログラム当たり数百から数千ベクレルであり、最大許容濃度の25倍に達するまでになっていた。福島県で採取されたそのほかの魚介類でも、1キログラム当たり数十から数百ベクレルの著しい汚染が検出され続けており、海水による分散によって海水中の放射性核種の濃度は減少するとはいえ、引き続き監視が必要である。

1. 海洋における放射能汚染の起源

1.1. 原発周辺で321日以降観測された高濃度放射能汚染

福島第一原発周辺の海域では、3月21日以降、数日にわたって、放射能による著しい汚染が観測された。

海水中で検出された主な放射性核種は下の通りである。

検出された主な放射線核種

放射線核種                                   半減期

ヨウ素131(131I)                       8日
セシウム137(137Cs)                     30.15年
セシウム134(134Cs)                         2.1年
セシウム136(136Cs)                       13.1日
テルル132/ヨウ素132(132Te-132I)     78時間

その他の人工放射性核種も時折検出されたが、そのほとんどは半減期の短いもので、濃度も低かった。

その後、海洋での監視の対象となった主な放射性核種は、ヨウ素131(131I)とセシウム137(137Cs)である。ヨウ素131は事故発生時には主要核種であったが、半減期が短いため、その後の数週間で急速に減少し、5月下旬以降には不検出に至った。

放射能汚染には3つの源がある。原発からの放射性物質を含む液体の流出、大気へ放出された放射性物質の海面への沈着、そして汚染された土壌から溶出した放射性物質の移動である。海洋に流れ込んだ放射性物質の量は近似的にしかわかっていないが、時間とともに試料数が増えており、そのデータを解析することで、徐々に推定量の確度が増している(後出の2.2参照)

1.2.事故のあった原子炉への直接放出

福島第一原子力発電所のすぐそばで測定された海水中の高濃度は、放射性物質を含む液体が漏出した結果であり、この液体は複数の源から漏出したと考えられる。これには、損傷した原子炉を冷却するために用いられた水の一部が、大気放出によって高濃度汚染された資材と接触した後に海に流れ出たものが含まれている。その他には、2号機と3号機の原子炉建屋から漏出した水がある。特に、2号原子炉のタービン建屋に隣接した排水溝の割れ目が、高濃度汚染水の海洋への直接の漏出を引き起こした。東電はケイ酸ナトリウムを注入して割れ目をふさぐことにより、現地時間4月6日6時頃、この漏れを止めた。

他方、4月4日から10日にかけ、東電は“低レベル汚染水”を海に意図的に放流した。これはタンクに貯蔵されていた10,000トンの廃液である。

4月10日以降も、海への直接排出はあったかもしれないが、敷地近くでの計測では、濃度が下がっており、それ以前の排出よりも明らかに少ないものであったことをうかがわせる(後出2.1参照)。

下の表1に、東電が6月に発表した、海洋への直接放出の算定量を示す。

1 東電発表 事故原子炉近海への直接放出算定量 (原子力安全に関するIAEA閣僚会議に日本政府が提出したリポート  東京電力福島原子力発電所事故、20116月)

この推定によると、主な放出は4月1日から6日の間にあり、総量は4.7×1015 Bq(4.7 ペタベクレル、1ペタベクレルは千兆ベクレル)とされる。

1.3.海への大気からの沈着

主に3月12日から22日にかけて、福島第一原発の原子炉建屋の爆発とベント(圧力開放)により大気中に放射性物質が放出され、特に海上方面へ向けて拡散していった。この大気プリューム(訳注:プリュームとは、煙突から立ち上る煙のような広がる流体中の一群の塊)に含まれる放射性核種の一部は海面に落下し、表層水の汚染は原子力発電所から数10 km にまで拡散した(図1)。海上での測定値からIRSNが計算した大気由来の負荷量はセシウム137で6,4×1014Bq(0.64ペタベクレル)であるが、これは暫定値であり、現在もIRSNで調査中である。このうち95%は雨によるものである。

1 323大気から海に沈着したセシウム137推定結果IRSNの大気中の拡散予測をにし算出。

1.4.汚染された土壌から溶出した放射汚染物質の移動

福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の一部は、大気中を分散する間に、雨水とともに地上に落下し、さらに、地表を流れて海洋へ移動した可能性がある。この放射性物質を含む雨水によって汚染された陸域の面積は数千平方キロメートルとなる可能性がある。現時点で利用可能な測定結果からは、これらの拡散による加入経路と他の放射能汚染経路を区別することはできない。この加入経路の区別は、おそらく、事故の数ヶ月後に、原発からの直接放出と大気からの降下による沿岸域の放射能汚染濃度が十分に減少した後に可能となるであろう。

2. 放射性汚染物質の海洋における分散

2.1.海洋汚染の時間経過

海水中の人工放射性核種の中でも最も量が多かったヨウ素131は、半減期が8日と短いために急激に減少した。事故のあった原発周辺でのヨウ素131の濃度は、5月末には検出限界値以下になっている(図2)。それ以降には、セシウム137及びセシウム134が、原発事故で海洋に広がった放射能汚染の主な核種となっている。

現在、原発近隣における海水中のセシウム137の濃度は、4月初旬の1000分の一になっており、その値は3 Bq/L付近で安定している。これは今でも汚染は続いているが、4月上旬よりも低いことを示している。この放射能汚染には、以下に示す複数の源があると考えられる。

  • 原発に残留している汚染水の漏出の継続
  • 汚染された土壌から溶出した放射汚染物質の雨水による移動
  • 海底堆積物に付着したセシウムの部分的な溶出

しかし、未だに、それぞれの源の割合を決めることはできていない。

2 放出地点からの距離が500m以下の測点におけるヨウ素131及びセシウム137の濃度の時間変化

図3から6に、海水中のセシウム137の空間分布を示す。これは、研究対象となる海域で、4月20日から27日、4月28日から5月18日、5月19日から6月7日、6月8日から25日の4つの連続した期間中に計測された濃度データを解析し、その各々の期間別に算出した平均値から作成したものである。これらの期間の各々は、対象となる各海域で、データ数に大きな差がなく、数も十分に多くて、偏りのない解析結果を得ることができるように選定された。これらの図から、汚染の広がりが原発周辺にとどまっており、その濃度が時間の経過とともに急激に減少していくことを見て取ることができる。なお、これらの図で色付けされている部分は、検出限界値(約5Bq/L)以上の値が検出された海域である。

2.2. 海洋におけるセシウム137の影響評価

IRSNでは、連続した各期間別に作成した海水面におけるセシウム137濃度の分布図をもとに、明らかに高濃度な海域(図3から6の色付き部分)における海中のセシウム137総量の時間変化の算定を試みた。この算出では、海面で測定された濃度を海面下にも拡張した。その拡張には、文科省が入手した塩分及び温度の鉛直分布の観測結果を基に計算した混合層厚を用いた。

このようにして算出した総量の時間変化を図7に示す(黒い点はそれぞれの期間の中日に当たる)。この図は濃度が指数関数的に減少し、11日間で半減する(点線部)ことを示している(図7)。この図は、平均して、対象となる海域の海水の半分が11日ごとに汚染されていない水と交換していると考えても良いことを示している。

7 4月上旬放出後の、異なった期間における海水のセシウム137の推定総量
(訳注:IRSN原文では対数尺度と線形尺度のグラフが左右逆になっていたため訂正した)

定常的な希釈が確認されたことにより、

  • 新たな著しい汚染水の流入(原発からの残留汚染水の漏水、汚染した土壌から溶出した放射汚染物質の雨水による移動、海底堆積物に付着したセシウムの部分的な溶出)がないと仮定すると、向こう数カ月の海水の濃度の時間変化を予測することができる。
  • この定常的な希釈を拡張して適用することにより、汚染水の大量放出が停止したとされる2011年4月8日時点での量を推測できる。

その結果、4月8日には、対象海域には9 × 1015 Bq(9ペタベクレル)のセシウム137があったことが推定された。4月8日以前にこの海域から流出した汚染物質量を計算に入れていないので、この値は実際の放出量を下回っている可能性がある。東電が示したセシウム137の放出量(4.7ペタベクレル。1.2を参照)は、わずかにこの算定値を下回っている(訳注:原文の1ペタベクレルは誤り)。混合層厚の推定値の不正確さのため、この推定値の推定誤差は50%であると言えよう。IRSNが算出した海へ放出されたセシウムの量は、原発から直接放出した137汚染水と大気から海面への沈着した量の和に相当する。このうち大気からの沈着量は全体量の10 % 以下とIRSNでは見積もっている(1.3参照)。

また、

  • 原発周辺海域で測定された濃度は放出量と比例している。
  • 3月23日から4月8日までに測定された濃度は、直接放出の主要な部分に相当している。
  • 3月23日から4月8日までは、水が入れ替わることによる放射性物質の減少を考慮しない(実際、測定濃度が変動しているため、この減少を算定するのは難しい)。

とすると、4月8日のセシウム137量が9 × 1015 Bq(9ペタベクレル)であるという算定結果と、3月23日から4月8日までに原発周辺で測定されたセシウム137の平均濃度が14 × 103 Bq/L(訳注:原文の1013は誤り)であるという結果から1つの関係式を経験的に求めることができる。このようにして得られた一日当たりの放出量は、海水1Bq/L当たり、4 × 1010 Bqとなる(訳注:(900/14)×1010/(16日)=4×1010)。原発の排水口近くで測定された一時的な高濃度にこれを応用することにより、観測期間中に、毎日放出されていたセシウム量を、目安としてではあるが、見積もることができる(図8)。

8 福島第一原発の5号機と6号機の口の30mで測定した海水のセシウム137濃度と日々の放出量の推定値の時間変化

3. 堆積物中の放射核種

水に溶けた放射性核種の粒子の一部は、周辺の水の運動の度合いに依存しながら、海中懸濁物に吸着される。放射性核種が吸着した懸濁物は最終的には、海底に沈殿し、海底表層堆積物の汚染を招く。

4月下旬から行われている採取によって、福島第一原発沖合の海底堆積物の汚染の測定結果が得られている。福島第一原発の北と南の、それぞれ30km以上離れた測点(図9のS1、A、10、S4地点)で採取された表層堆積物のサンプルには、非常に高い濃度レベルのセシウム137が検出され、海水のデータから得られた予測と一致していた。

5月と6月については、5月9日から14日まで、5月23日から27日までと、6月6日から10日までで3回の採取が、女川から銚子にかけての異なる地点でおこなわれた。コアリング(訳注:堆積物試料を採取する方法の一つで、細長い丸棒状の試料(コア)を得る方法)によって採取した海底堆積物の上部5cmの部分を分析した。おそらく、このために、放射性物質の含有量が比較的低く計測されたと思われる。実際、汚染が海底堆積物の上層5cmまで広がるとは考えにくいからである。IRSNでは、堆積物の粒度についての情報を持っていないため、結果を比較するのは難しい。

この要因を除外すれば、一回目の調査で最も高い数値だったのが、排水口より北に位置する仙台湾口地点ということになる。しかし、度重なる採取活動を通して、南と北の地点では、これとは反対の傾向がみられた。実際、福島第一原発の北でのレベルは減少傾向にあるのに対し、南では増加傾向がみられる。堆積物から水中で何が起こったのかを推定することはできるが、B1、C1、D1地点で観察された濃度減少と水中の濃度減少とを直接結び付けることはできない。これらの地点で観察された変動は、(訳注:汚染物質が)水中に再懸濁したとか、または単に局地的に堆積物の汚染が大きく変動したということが原因かもしれない。

南では、濃度の局地的変動が原因である可能性もあるが、海底の上方の水塊では汚染が遅れて始まっており、このために、堆積物の汚染も増加したのかもしれない。確かに、4月と5月には、放射性物質は北側の仙台湾口のほうへ流されたが、5月下旬から6月初旬には、南へ南へと流されていた(SIROCCOのシュミレーションを参考。http://sirocco.omp.obs-mip.fr/outils/Symphonie/Produits/Japan/SymphoniePreviJapan.htm

全体としては、堆積物中の汚染レベルは、それほど高くはない。D1地点、深さ126mの場所での測定によれば、5月初旬にはセシウム137の濃度は、最も高いもので320 Bq/kgであった。

採取された堆積物全体では、濃度比(134Cs/137Cs)は、0,6と1の間で変動しており、これら二つの核種の濃度比について現在知られていること(訳注:セシウム134の半減期がセシウム137の半減期より短いため、同時に生成した直後には約1であるが、時間の経過とともに小さくなる)と一致する。

今後数週間で、堆積物に関してのデータ数は増えるであろう。おそらく、そのデータが、原発事故による放出物の拡散についての理解の大きな助けとなるであろう。

9 2011429日から610日にかけて、女川から銚子沿岸区域の様々な地点で測定された、海底表層堆積物における137Csの濃度(Bq/kg、文科省、東電のデータ) 採取全体では、134Cs/137Cs濃度比0.6から1の間変動している。

4. 生物中の放射性核種

4.1.海や河採取された魚測定結果

3月末から、主に福島第一原発の南の複数の場所(図10)で、魚介類(主として魚類)の採取がおこなわれた。

10 魚介類の採取地点図

図11に、データが比較的定期的にとられた生物種の測定結果を示す。この図には、海のみで生息する魚介類の他に、海水と淡水の双方で生息する二種類の魚類(淡水と海水の間を行き来する生物)についてのデータも示している。これらのデータは5月以降に測定されたものであり、ピンク色で示してある。


11 魚介類中の137Csと134Csの合計濃度(Bq/kg)の時系列。ピンク色の印は、主に河採取された淡水海水の双方で生息する魚類

4.2.海の魚で検出された放射能濃度

魚介類の中でも、一般的に最も汚染レベルが高いのはコウナゴである。福島県、茨城県で測定されたすべてのコウナゴ試料で、セシウム137と134が検出された。しかし、沖合で採取された2つの試料では、セシウムは検出されなかった。日本では、イカナゴまたはコウナゴ(Ammodytes personatus)は、1月から4月にかけて、深海にいる(海水中に生息している)仔魚や稚魚の時期に水揚げされ、消費される。成魚は、5月から12月まで海底堆積物の中で生息し、漁獲されることはない。このため4月下旬以降には、この魚類に関するデータはほとんど得られないであろう。

図11には、イカナゴのほかに、定期的に採取されている生物種についても、2種のセシウム同位体の合計濃度の時間変化が示されている。特に、オヒョウはこれらの試料の中でも代表的な魚種である。最高値が検出されたものはすべて、福島県で測定されたものである。魚類のほかにも、やはり福島県で採取されたウニやアサリの試料でも高いレベルが測定されており、この傾向はしばらく続いている。

たまたま採取されたいくつかの試料についても同じく高い数値(最大許容濃度を超える)が検出されている。これには、図11には示されていないが、福島県産の、小魚や地中海ムール貝(Mytilus galloprovincialis)、ワカメ(Undaria pinnatifida)、カサゴ目またはタラ目の魚類などが該当する。

4.3.淡水で採取された海水・淡水の双方に生息する放射能濃度

鮎(Plecoglossus altivelis)のように海水と淡水の間を行き来する種Markや、サケ、特にマス(Onchorynchus masou)といった淡水に回帰する種である、海水・淡水の双方に生息する魚類についてのデータも入ってきている。明白な結果の出たサンプルはすべて、福島県の河川で採取されたものであり、この地域の高レベル汚染と直接関係するものである。

4.4.予測される時間変化

一般的に、魚類は、その地域のセシウム汚染の中・長期的な指標として最も適している。実際、セシウムは魚類において高い濃縮係数を示し、その魚種の占める栄養段階(訳注:生態系を餌-捕食関係で表した食物網(食物連鎖)の中で、どれぐらい上位に位置するかの基準。捕食者は餌よりも栄養段階が1段階上位とする)が上位に行くにしたがい、濃度が上昇する傾向にある。したがって、短期的に、栄養段階の下位にある生物に高濃度汚染が検出された場合には、長期的には、食物網の様々な部分への伝達が進むにつれ、栄養段階の上位にある捕食動物がより高い汚染を受けることになる。

1 海水と淡水の間を行き来するが、繁殖が目的ではない生物。

2 海水中で生息しており、淡水で繁殖する生物


 ※ このレポートの翻訳はTwitterでの呼びかけに応えて頂いた読者の方によって行われ、また海洋学の専門家にご助言を得て、当ブログ運営者が校正を行ったものです(全ての文責は当ブログ運営者にあります)。ご協力に改めて感謝いたします。また、他の読者の方からも広くご協力を受け付けています。ご興味のある方はこちらの記事をお読みください。




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IRSN「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響・改訂版」2011年 5月13日付け、日本海洋学会訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/26/irsn-report-marin-05-13/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/26/irsn-report-marin-05-13/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Fri, 26 Aug 2011 01:53:03 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[レポート]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[改訂]]> <![CDATA[海洋汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=449 <![CDATA[日本海洋学会によってIRSN海洋汚染報告改訂版の全訳が行われました。4月4日版の … 続きを読む ]]> <![CDATA[

日本海洋学会によってIRSN海洋汚染報告改訂版の全訳が行われました。4月4日版の改訂版となります。

当ブログは仏原語との照合と校正を行い協力いたしました。全訳および解説のPDFは下記からダウンロードできます。

IRSN海洋汚染報告改訂版の全訳

IRSN海洋汚染報告改訂版の解説

当ブログは今後とも日本海洋学会と協力し、市民生活に有益な情報公開に努めていきます。

以下解説文を掲出します:

IRSN 報告 「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」 改訂版(5 月 13 日付け)全訳の公開について

2011年8月23日 日本海洋学会震災対応WG

概要 本資料は、フランス放射線防護原子力安全研究所 (Institute de Radioprotection et de Sûreté Nucléaire、IRSN)が 2011 年 5 月 13 日付で公開した“Update : Impact on marine environment of radioactive releases resulting from the Fukushima-Daiichi nuclear accident”を日本語に翻訳したものである。英語版は、以下の URL で 5 月 20 日に公開され ている。

http://www.irsn.fr/EN/news/Pages/201103_seism-in-japan.aspx

なお、4 月 4 日付で公開された“Impact on marine environment of radioactive releases resulting from the Fukushima-Daiichi nuclear accident”の和訳は匿名翻訳ボランティア グループによって行われ、7 月 3 日に「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放 出の海洋への影響」4 月 4 日付 IRSN レポート全訳 ) として、公開されている。

https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/03/irsn-rapport-avril/

5 月 13 日付改訂版の内容は、4 月 4 日付報告と同じく、海洋における放射性物質の広が り方についての一般向け解説であり、本WGの活動の趣旨と重なる部分も大きい。そこで、 本WGでは、その一般向け広報活動の一環として、和文翻訳を行ない、解説記事を付けて 一般に紹介することとした。

英文からの和訳作業は、日本海洋学会震災対応WGの呼びかけに応えた日本海洋学会会 員有志によって行われ、震災対応WG担当者が校正した。なお、仏文を基にした校正は、 匿名翻訳ボランティアグループの協力を得て行なわれた。監修は、著作権を保有するIR SNより翻訳および図表使用の許可を受けた震災対応WGが行なった。

5 月 13 日付改訂版の全訳(pdf)は以下のURLで公開されている。 http://www.kaiyo-gakkai.jp/sinsai/IRSN_report_j_20110513.pdf

解説・補足説明 IRSN 報告 5 月 13 日付改訂版の和訳を公表するに当たり、文中で使われている用語の中

で日常的な用法と微妙に異なる語句の解説と、IRSN 報告の内容についての補足説明を以下 に述べる。

解説(海の流れと海流)

「海の流れ(海水流動)」とは一般的な海水の移動の総称である。海水流動のなかで、世 界各地の表層を水平方向に流れている流れで、特に、いつもほぼ同じ経路を通って、ほぼ 同じ向きに流れている成分のことを「海流」と呼ぶ。日本近海では、黒潮、親潮、黒潮続 流、対馬暖流などがこれに該当する。

他方、1 日に 2 回繰り返す干潮と満潮に伴って生じている海水流動を「潮汐流」と呼ぶ。 海水流動には、「海流」、「潮汐流」のほかに、海面の風で引き起こされる「吹送流」、河口 域などでの密度の違いによって生じる「密度流」、風波や潮汐流などの種々の要因で発生す る「乱流」、「渦流」などの各種変動成分が含まれている。

解説(分散と拡散)

海水中の物質は海水とともに移動する。この移動過程の中で、平均的な流れによって運 ばれて広がる過程を「移流」と呼ぶ。これに対し、乱流や渦流のような変動成分によって 周囲の水と混合することによって広がる過程を「拡散」と呼ぶ。平均的な流れがない場合 でも、海中の物質は高濃度域から低濃度域に向かって「拡散」によって徐々に広がる。

海水中の物質は、実際には、周囲の海水と混合しながら平均的な流れによって運ばれる。 このように、「移流」と「拡散」の双方によって物質が海中に広がる過程を「分散」と呼ぶ。 なお、高濃度の海水が周囲の低濃度の海水と混合して濃度が低くなることを希釈という。

補足説明(生物への影響)

セシウム137は半減期が約30年と長いので,環境中に長期間残留し食物連鎖を通して多 様な海洋生物に蓄積することが予想される。海水-魚介類間の濃縮係数は数十倍から百倍 程度と見られている。PCBs(注:ピーシービー)等と比べるとセシウムの濃縮は 2~3 桁 ほど低い。しかし,海洋へ大量の高濃度汚染水が放出されたことにより、海域によっては 海水中や海底土中の放射性セシウム濃度が比較的高い状態が続き、その影響が生体に及ぶ 可能性もある。海水および多様な生物種(プランクトンから海鳥・海棲哺乳動物まで)に ついて長期モニタリングを実施し,汚染の実態と動向を理解する必要がある。

補足説明(福島原子力発電所の沖合沿岸域の流れ)

IRSN 報告では「沿岸域では、流れは潮汐、風、そして太平洋海洋循環によって生成され ている」と述べている。しかし、福島原子力発電所沖の沿岸近くの流れは、基本的には、 地元では真潮と呼ばれている南へ向いている流れである(北流は逆潮とよばれている)。も っと沿岸近くでは海浜流が重要になる。なお、分散シミュレーションにおける問題点、課 題につては、以下の資料を参照されたい。

日本海洋学会震災対応WGモデリング・サブグループからの提案

http://www.kaiyo-gakkai.jp/sinsai/2011/05/post-6.html

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/26/irsn-report-marin-05-13/feed/ 0 genpatsu
IRSN医療班への質問と回答 https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/24/irsn-mail-answer/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/24/irsn-mail-answer/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Wed, 24 Aug 2011 13:39:59 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[被曝]]> <![CDATA[食品]]> <![CDATA[質問]]> <![CDATA[ICRP]]> <![CDATA[医療]]> <![CDATA[回答]]> <![CDATA[暫定基準値]]> <![CDATA[欧州委員会]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=442 <![CDATA[先のIRSNのQ&A集のコメントとTwitterのDMで読者から頂いた二 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

先のIRSNのQ&A集のコメントとTwitterのDMで読者から頂いた二つの質問を統合してIRSN医療班に送信したところ、下記の回答が得られましたのでご報告します。

読者の方からの質問:
(2つの質問は別の方々によるものです)

①東京での被曝に関して
私は2歳の娘の親ですが、震災前も震災後も東京に住んでいます。色々な情報が飛び交っていて、政府の被曝に関する暫定基準値が信用に足るのか、独立系メディアやブログに書いてあるようにはなから信用できないものなのか分からずにいます。

特に子供の被曝について神経質になっており、外で遊ばせないようにしていますが、ストレスが溜まってしまっているようで親としても心苦しいです。この点に関してIRSNや国際的な観点からのご意見をお願い致します。

②食品に関して
>日本政府は、国民全体を保護し、また場合によっては特殊な値もカバーするような総合的な値
とありますが、日本の放射性物質に対する「暫定基準値」は驚くほど高いもので、外国からも多数の批判が寄せられていると聞いております。
(中略)
私は子どもを持つ親ですが、チェルノブイリでの健康被害の例や食品の国際基準に照らしてもこれは子どもに適切な値とは思えません。
何を根拠に「子どもの食事を親の食事と別にする必要はありません」とお考えなのでしょうか。お聞かせ願いたいと存じます。

IRSN医療班の回答(日本語訳):

こんにちは、

独立系報道関係者や研究者の方たちによる日本の暫定基準値の批判は放射性物質放出の被害を直接被っている地域、特に福島原発の100km範囲内に居住されている方たちを問題にしています。また、そうした批判は特に20mSv/年の年間許容値に基づく住民の避難措置の決定に疑問を投げかけています。まず、日本で採用された食物に関する基準値はICRP(訳注:国際放射線防護委員会)の災害時用の基準に準拠しており、また日本政府はICRPが推奨する中でも最も低い被曝量の数値である20mSvを採用したということを知ってください。ICRPは住民が超えてはならない被曝量として100mSv/年を規定していることを考慮すれば、日本政府の基準はその5倍厳しい数字となっています。他方で、東京都では年間許容被曝量は1mSv/年であり、これはICRPと欧州委員会の勧告する値となっています。東京の住民は子供も含めてこの限界値より非常に低い被曝しか受けていません。なんおで東京に住んでいらっしゃるあなたもお子さんも心配をする必要はありません。

食料製品の流通を規制するために日本政府によって決定された、各製品が許容される最大放射性物質量は欧州委員会の基準と同等、もしくはより厳しい数値となっています。
例えば:
・ヨウ素:牛乳と水に対しては、日本では300 Bq/Lであるのに対してヨーロッパでは500 Bq/L。野菜については
・セシウム(訳注:134+137):野菜に対しては500 Bq/Kgであるのに対して、ヨーロッパでは1,250 Bq/Kg。牛乳と水に対しては日本では200Bq/Lであるのに対して、ヨーロッパでは1,000Bq/Lとなっています。

敬具
IRSN医療班

仏原文:

Bonjour,

Les normes japonaises qui font l’objet de critiques de la part de journalistes indépendants concernent les populations vivant sur les territoires directement impactés par les rejets radioactifs, notamment dans un rayon d’environ 100 km autour de Fukushima. Les critiques portent notamment sur les critères de décision sur lesquels sont fondés les mesures d’évacuation des populations (20 mSv par an). Sachez tout d’abord que ces normes sont conformes à ce qui est recommandé par la Commission Internationale de Protection Radiologique (CIPR) en situation accidentelle et que les Japonais ont choisi la limite d’exposition la plus basse recommandée par la CIPR qui retient comme critère de ne pas exposer les populations à des doses supérieures à 100 mSv (soit jusqu’à 5 fois plus par rapport aux décisions des autorités japonaises). D’autre part, ces normes ne concernent pas la ville de Tokyo pour laquelle la limite d’exposition annuelle du public est de 1 mSv par an, soit conforme à ce qui est recommandé par la CIPR et la Commission Européenne. Les doses reçues par la population vivant à Tokyo sont très en deçà de cette limite, y compris pour les enfants.D’autre part, ces normes ne concernent pas la ville de Tokyo pour laquelle la limite d’exposition annuelle du public est de 1 mSv par an, soit conforme à ce qui est recommandé par la CIPR et la Commission Européenne. Les doses reçues par la population vivant à Tokyo sont très en deçà de cette limite, y compris pour les enfants.Vous n’avez donc pas d’inquiétude à vous faire pour vous et votre fille qui vivez à Tokyo.

Les niveaux maximaux admissibles retenus (en termes de contamination par des produits radioactifs) par les autorités japonaises pour autoriser la commercialisation des denrées alimentaires sont égaux, voire plus contraignants pour certains, que ceux retenus par la Communauté Européenne.
A titre d’exemple :
Iodes : 300 Bq/l pour le lait et l’eau au Japon contre 500 en Europe ; valeur de 2000 Bq/kg pour les légumes identique au Japon et en Europe,
Césiums : 500 Bq/kg pour les légumes au Japon contre 1250 Bq/kg en Europe ; valeur de 200 Bq/l pour le lait et l’eau au Japon contre 1000 en Europe.

Cordialement,
Cellule médicale IRSN

CTC Santé <[email protected]>

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/24/irsn-mail-answer/feed/ 0 genpatsu
Q&A集:IRSNによる在日フランス大使館でのセミナー 2011.7.7 https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/21/irsn-qa/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/21/irsn-qa/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Sun, 21 Aug 2011 07:11:50 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[フランス]]> <![CDATA[リスク]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[食物]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[子供]]> <![CDATA[放射性物質]]> <![CDATA[汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=436 <![CDATA[原文:http://afe-asie-nord.info/docs/CR_IRS … 続きを読む ]]> <![CDATA[

原文:http://afe-asie-nord.info/docs/CR_IRSN_juillet_2011.pdf

7月7日(木)に、在日フランス大使館により、『福島原発事故:現状と、環境及び住民に対する影響』と題された講演会、3つのセッションが開催され、総参加数は200名を超えた。
進行は、IRSNのオリヴィエ・イナール、ブルーノ・セサック。
本文書は、在日フランス大使館及びIRSNの協力のもとに作成された、3つのセッションの報告書である。

Q&Aまとめ

  1. 福島原発の状況
  2. 食物汚染
  3. 健康
  4. 子どもに関しての特殊リスク
  5. 環境
  6. その他

質疑応答

1.福島原発の状況

Q. 今後大きな地震がない限り、放射性物質の放出はもはやないと考えていいのでしょうか?

A. 敷地内で、風によって粒子が吹き上げられ、わずかに放射性物質が放出されることはあり得ます。再飛散は些細な規模に止まりますが、存在はします。しかし、飛散防止ゲルが散布されたことにより、粒子は地上にとめおかれ、再飛散の可能性は少なくなっています。加えて、汚染を、放射性物質ではなく質量としてとらえるならば、汚染は大変低いのです。例えば、チェルノブイリ事故によるヨウ素131の放出は、数百グラムにしかならないと考えられています。

Q. 原子炉の底にあるコリウム(訳注:メルトダウンによる原子炉内融解物)はどのような形態なのでしょうか。

A. かなりの確率で、コリウムは原子炉容器の底に移動したと思われます。その一部が容器外に流出した可能性もあります。しかし、現段階では、コリウムの形態が重要なのではありません。いずれにせよ、これらの容器近くの現場に入るには、かなりの長い間待たなければいけないでしょう。例えば、アメリカ合衆国のスリーマイル島事故では、約10年後にようやく立ち入りができたのです。

Q. 原子炉や使用済み核燃料プールに関して、未だどのようなリスクが存在するのでしょうか。

A. 3つの原子炉の燃料棒は溶解しました。使用済み燃料プールも未だ潜在的危険をはらんでいます。特にプールから水が流れ出した場合がそうです。その場合、放射性物質が環境に大量放出されると考えられます。

このようなシナリオを避けるために、支柱によるプール補強がなされました。以上から言って、使用済み燃料棒の撤去は優先課題です。

Q. 2号機の爆発は他とは違ったものだったのでしょうか。

A. 現在判明している限りでは、これも同じく水素爆発のようです。おそらく原子炉建屋の中で爆発が起こった場所が、1号機や3号機とは違ったところだったので、結果も違ったものになったのでしょう。

Q. 溶けた燃料を取り出す方法はあるのでしょうか。

A. スリーマイル島の事故では、燃料の一部が溶けたのが確認されたことで、溶解した燃料を取り出す方法が開発されました。取り出す技術は存在していますし、応用されることでしょうが、恐らく時間がかかるでしょう。

Q. 私たちの状況は、未だ事故後(ポストアクシデント)状況なのでしょうか。

A. 私たちは依然として事故後と呼べる時期にどっぷりとつかっています。詳しく言うならば、緊急段階(3月に放射性物質が大気中に放出された時期)と、今後数十年の“長期的”段階の間の過渡期にいるのです。この過渡期に、国土や住民の監視措置の実施、関連した事項の決定などがなされるでしょう。

2.食物汚染

Q. 加工食品で例えばパンですと、粉は輸入品ですが、製造工程で水、バター、牛乳などが加わります。製造者は、製品に害がないことを保証しているのでしょうか。

A. 製品の無害性については、実際には全く何とも言えません。現在、生鮮品で、販売・消費が禁止されるようなレベル以上にあるものは、非常に少ないと考えられます。このような条件からいって、これら“基本的”原材料から作られた加工品は、消費することに特に支障はありません。例えば、チーズの製造では、牛乳に比べて、放射性物質レベルが“低く”なります。これは周知の現象で、製造工程によるものです。

Q. 粉、砂糖、コーヒー、お茶、カカオ、またはマスタードのような輸入品、ケチャップ、パスタ、トマト缶などのような保存食品は、放射性物質の放出時に影響のあるところに保管されていた場合、汚染されることはあるのでしょうか。

A. 密閉された状態の食品(缶詰、超高温殺菌牛乳パック、PVCやガラス瓶)についてはリスクは皆無です。包装が汚染されることはあるかも知れませんが、中身はされません。実際、包装についた放射性物質は、中身を“変える”ことはできませんし、外側の包装と中身の間を汚染が移転するということは、無視して問題ありません。

Q. 食肉汚染の由来は何でしょうか。

A. 汚染されたわら(特に福島県において、事故時に外に置いてあった稲わら)が動物の飼料となり、汚染肉の原因となりました。

Q. 土壌では、高い放射性物質がまだ検出されているのでしょうか。

A. 現在、汚染は定着しており、かなりの程度はもはや移動はしません。純粋に原子力学の観点から言うと、ヨウ素(131)は、半減期(8日)のため、もはやほぼ測定不可です。反対に、環境中では、セシウム(134、137)や半減期の長い放射性物質は、未だかなり検出されています。われわれの知る限り、それらの健康に関する影響についての議論はまだされていません。論争の主な焦点は、微量の放射性物質についてです。医学的に言って、低線量被ばくによる明確な結果は得られていないので、この領域でははっきりとした回答がないのです。環境からの攻撃(化学的なもの、バクテリア、ウイルス、放射性物質など)に対して、全員が平等ということはないのです。同じ攻撃に対して、ある人は病気になり、ある人はなりません。各々が放射線防護やそれぞれの線量に気をつけなければならないということはありますが、技術的な観点からすると、リスク的には100mSv以下の量(の被曝)に対しては特定の指示はありません。

当初の放射性物質の堆積物に関連して、農業において植物中に放射性物質が濃縮されるケースはありえます。土壌のBq/m2と農産物のBq/kgの関係は、相対的に複雑です。いずれにせよ、堆積物による収穫物の根からの吸い上げは、時間とともに減少する傾向にあります。

Q. 最も汚染されている食品は何ですか。

A. 水や、現時点では米は大丈夫です。水道水も心配せずに飲むことができます(ただし福島周辺は例外)。リスクとしては、海産物、キノコがあり、これらの食品では、放射性物質が濃縮される傾向があります。

Q. 福島産の食品は避けるべきですか。

A. 一般的にいって、幅広く食品や原産地を選ぶことが大切です。そうすることによって、万一汚染されているかもしれない一定地域の食品を恒常的に摂取することを避けられるのです。食肉に関しては、汚染されたわらを摂取することにより肉が汚染されます。これら家畜が放射性物質を含んでいないわらを摂取することにより、自然に除染がなされます。

Q. 土壌の汚染を考慮して、ニンジンやその他根菜のような野菜は食べることができるのでしょうか。

A. 野菜の場合、放射性物質濃度の顕著な減少が確認されています。野菜に対する直接汚染の最初の段階は終了したのです(大気中への放出がもはやないのですから)。現在確認される第二段階として、根を介した汚染があります(土中から水を介して根に移転します)。この移転メカニズムは、当然直接汚染よりも影響は低いですし、大部分の農作物の汚染の減少の説明ともなります。

将来的には、土壌をカリウムを含んだ肥料で飽和させるという技術が考えられます。これは、チェルノブイリ事故の後にテストされたものです。実際、カリウムはセシウムの競合相手なのです。土をカリウムで満たすことにより、セシウムが今後実る植物に定着する能力を減少させられます。

Q. お米は危ないですか。

A. 5000Bq/m2(セシウム)以上の汚染がある土壌では、作付けが禁止されました(試験用の数区画を除いては)。しかしながら、放射性物質の転移という、フランスでもこの種の作物に関してはよくわかっていない現象を理解するためにも、米はあらゆる成長段階で調査されています。

Q. なぜ静岡の緑茶に放射性物質が存在するのでしょうか。

A. 茶葉についての研究は不足していますが、ある仮説が挙げられます。植物の組成自体をみると、沢山の葉があることにより、大気との接触面積が大きくなります。このため、植物が放射性粒子を最大限とらえてしまうのです。それに加え、製造過程で水分を蒸発させて茶葉を乾燥させることにより、放射性物質が濃縮されます。

このことを踏まえて、静岡産の汚染茶をIRSNでテストしたところ、1mSv摂取するのに、このお茶を3~4000リットル飲まなければならないという結果が出ました。

Q. 基準値を4倍超える魚を一尾食べるということは、基準値にある魚を4尾食べることと同じですか。

A. 被ばくの観点で言うと、確かにそうです。

Q. 食物の放射性物質基準は何を意味するのでしょうか。

A. 国際的には、一年間に摂取する食物の10%が基準値に達しているならば、一年後の最終的被ばく量は1mSv である、ということで基準が制定されています。

Q. 日本の食品検査は信用に足りますか。

A. リスクというのは、福島産の身元不明な食物や、より一般的に言えば、許可されている基準値以上の放射性物質汚染のレベルにある食物を食べることです。しかしこれは現段階では稀なことであり、人体の健康への深刻な危険は確認されていません。

フランスの、独立系放射性物質検査ラボACRO(*)は、日本産の食品を採取して測定を行いました。さらにIRSNでサンプルの一部を測定しました。結果は、日本の諸機関の測定結果と変わりないものでした。ですから、汚染管理の広範囲な不正行為というのは考えにくいと思いますが、エラーというのは可能性としてはあります。

(*)ACRO:Association pour le Controle de la Radioactivite de l’Ouest 西側放射性物質監視団体 http://acro.eu.org

Q. 一回で、健康に害のある量を摂取することはあり得ますか。

A. 現時点ではありません。現在測定されている汚染値は、通常の2~5倍です。このレベルに汚染された食物を、恒常的に大量に摂取しないと、健康に影響が出てくるまでにはなりません。

Q. 子どもの食事に関して特に用心するべき点はなんでしょう。

A. この領域においては、子どもたち親たちよりも放射性物質への感受性が高いということはあります。しかし、食物の販売・消費を取り巻く衛生的基準は、放射性物質による害という点では、もっとも厳しい状況を考慮して制定されたものです。このことにより、日本政府は、国民全体を保護し、また場合によっては特殊な値もカバーするような総合的な値を定めました。特に、飲料水がそうでした。水は、ミルクで育てている場合、乳児の栄養摂取において、重要な要素です。

感受性は、核種によっても違います。ヨウ素に対しては感受性は高いですが、セシウムに対しては低いです。

日本で続けて基準値越えの食物が発見されていることに関しては、食物の生産地の幅を広げること、そしてそれらが検査済みであると確認すること、という我々の勧告を改めて提唱します。この条件下では、放射線防護の点からのみいうと、子どもの食事を親の食事と別にする必要はありません。

3.健康

Q. 人間への影響から言って、mSv に対し、どのようなことが分かっているのでしょうか。

A. すべての人は一年に2~10mSvの放射を受けています。自然放射線や、いくつかの医療検査、原子力施設の日常稼働から非常にわずか(フランスでは1%弱)に受けます。しかし、これらの線量にはかなり差があり、居住地により大きく左右されます。フランスの首都圏でも、被ばく量の大きな差異があります。低線量被ばくの影響は、今日でもまだ研究途上です。住民の保護基準を定義づけるために、ある仮説(化学的には実証されていませんが、念のため適用されています)が立てられました。それは、それぞれの線量の相当の影響の確率があるということです。この確率は、1mSv近辺の量では非常に弱いものです。

Q. ヨウ素やセシウムを摂取することの危険性はどのようなものですか。

A. ヨウ素は主に甲状腺にたまります。また、同量では、ヨウ素のほうがセシウムよりも危険です。

セシウムは筋肉にたまりやすいものです。セシウムの健康への影響について、チェルノブイリ事故後、ベラルーシで行われた調査では、心血管や白内障を引き起こすことがありうる、としています。しかしこの調査は、厳密な科学的プロトコルを踏んでいないという点で、議論がなされています。現在、新しい研究(IRSNのEPICEプログラム)が、この件に関し、東欧で進行中です。こちらのリンクで、研究についての概要が見られます。

http://www.irsn.fr/FR/Larecherche/publications-documentation/aktis-lettre-dossiers-thematiques/envirhom/epice/Pages/epice2.aspx

※訳注:EPICE=Evaluation des Pathologies Induites par une contamination au CEsium 137=「セシウム137被曝による疾病の評価」

Q. 東京の放射線量は低いですが、粒子の吸入は依然として危険ではありませんか。

A. 粒子が着地すると、そこに吸着し、はがれにくくなるという傾向があります。ですから放射性物質を吸い込む可能性は、事故後大幅に減っています。潜在的リスクの順番としては、まず、いくつかの地域に存在する放射性堆積物による直接被ばくが挙げられます。次に汚染食物摂取、最後に空気中の放射性粒子の吸入があります。

Q. 壊死を引き起こすくらいの被ばく量はおおよそどのくらいなのでしょうか。

A. 器官にもよりますが、おおよそ数シーベルト、つまり1000mSv以上の被ばくレベルになります。

Q.  どのような過程を経て、ガンと低線量被ばくが関連付けられるのでしょうか。

A. いくつかのガン(たとえば前立腺ガン)は放射線被ばくでは引き起こされないということはわかっています。逆に、甲状腺がんは、被ばくに深く関係するものです。他のガンのタイプについては、原因が様々なために、関連付けはずっと難しいです。

4.子どもに関する特定のリスク

Q. 砂場で遊ばせることに、リスクはありますか。

A. IRSNでは、屋外活動後に手洗いを推奨していますが、それは放射性物質の皮膚への影響を避けるためではなく(確かに皮膚経由の被ばくもあり、我々の関心の中でもマイナーなケースなのですが)、意図せずに、手から口へ汚染が入り込むのを防ぐためなのです。

砂場で遊ぶ子供の場合も同様に、もっとも重要なのは、この汚染摂取です。

子どもにとっての汚染リスクは、セシウムやそのほかの核種を含んだ砂を繰り返し口に入れてしまうことです。東京の現在の汚染レベルでは、大量の砂を摂取しないと、健康への顕著な影響は出ません。セシウム134と137が混じった100Bq/kgの汚染砂を300kg以上摂取すると、1mSvの被ばくになります。

Q. 自転車で転んだ場合、気をつけるべき点は何でしょうか。

A. 現時点では、日本の道路に降下した放射性物質は、アスファルトにしっかりとくっついています。しかし、埃による一定の汚染も続いています。この埃に含まれる放射性物質レベルは、地上よりも低いです。これは、特に空中へ舞い上がるために、希釈されていくということがあります。

このアスファルトで子どもが転んだ場合、理論的には、その子供のたとえば膝と、微量の放射性物質を含んだ埃との接触はあり得ます。ただ、接触面が非常に狭いので、放射性物質量は全く取るに足らないもので、いかなるリスクもありません。

一方で、通常通り傷口の洗浄を行えば、これらの埃をより有効に取り払うことができます。

Q. 屋外でボール遊びをすることで危険はありますか。

A. 戸外でのボール遊びの場合、汚染された埃が空中へ舞い上がるために、放射性物質が移動するということがあります。私の考えでは、ボールというよりも子どもの動きによって、より多くの埃が空中へ浮遊すると思われます。

衛生上の影響から言うと、リスクは、どういうタイプの地面かということと、その地面が最初にどれくらいの汚染を受けたかということに関係してきます。埃は、地面がむき出しで乾燥している場合のみ、かなりの量が舞い上がります。空中に舞い上がることにより、放射性物質は地上から空気中に移り、線量は非常に希釈されます。空中に大量に浮遊する状況では(たとえば、乾燥した農地でトラクターを使用する場合)、地表では1Bqの線量が、空中では100万分の1に減ります。ボールの一部分に関しては、この値はさらに100分の1になります。

さらに、外部被ばくに比べて、汚染埃の吸入は、考慮の必要のない被ばく経路です。ですので、運動場の線量μSv/hが微量でしたら、埃を吸い込むことによる危険というのはほとんど皆無といえます。

5.環境

Q. ある時点から東京には放射性物質はないといわれていますが、これはどうとらえればいいでしょうか。

A. 確かに新たに放射線が蓄積することは起こっていません。しかしながら、放射線は残っています。ヨウ素に関して言えば、半減期が短いために現在では、もはや測定不能です。逆に、セシウム134と137は東京でもまだ測定されています(それぞれ半減期が2年と30年)。東側では、若干のストロンチウムも検出されました。

Q. なぜセシウムの検出状況は、日によって違うのでしょうか。

A. 事故後の非常時には、セシウムは直接蓄積しました。しかし、現在では、雨水の流れ、雪解けなどといった自然現象に伴い、蓄積物は移動しています。雪解けに伴って、川での放射線量がピークに達し、通常値以上の放射性物質が検出された鮭もいくつかでました。

水道水についても、放射性物質ピークが周期的にめぐってくるのが観測されています。このピークは、水処理場のフィルターに放射性粒子がたまり、そして放流されたことによります。

Q. ある一定量の汚染要素が地上に降った場合、そこの収穫物は何10年にもわたり汚染されます。セシウムは”増殖”しないので、土中のセシウム全体量は収穫期ごとに減るのでしょうか、それとも雨水が流れることにより、減少するのでしょうか。

A. 農地について言うと、新たに放射性物質が移動して来ない(大気による蓄積や水流等)のであれば、放射性物質核種の濃度は自然と減少していきます。これは放射性物質半減期(セシウム134で2年、セシウム137で30年)によるということもありますし、植物採取(当初の汚染濃度からすると、一般に効果は弱いですが)によるもの、雨によって地中に潜っていくこと、そして農業によるものでもあります。耕作というのは、耕された土の層では放射性物質が希釈されますし、肥料をまくことにより、耕作地を豊かにしながら、地中にセシウムと競合する要素を混じりこませることができます。このことから、当初放射性物質を受けた土地の収穫物に比べ、その後に続く収穫物のほうが、明らかに汚染度が低くなっていくでしょう。ですので、今後数カ月、数年の間で、植物由来の食物の汚染は減少していく傾向にあります。当初の放射線物質の堆積と関連して、農作物中に放射性物質が濃縮してしまうというケースもあります。現在、土壌のBq/m2と農作物のBq/kgの関係というのは、相対的に言って複雑です。いずれにせよ、放射性物質の堆積量が安定しているならば、今後続く収穫物の根からの転移というのは時間の経過とともに減少する傾向にあります。

Q. 地下水の汚染のリスクというのはありますか?

A. 地下水源は非常に深いところにあり、短期的には汚染のリスクはありません。土壌がフィルターの役割をして、放射線核種を持続的にひきとめておき、その間にも放射線量は減少していきます。数年単位で、水の質が保たれているか監視する体制が必要です。ただし、海への放出は問題ある汚染源です。

Q. 放射線測定器を使っていて、場所によって線量の高いところがあることに気がつきました。東京で避けたほうが良い地域はありますか。

A. 不均質性があることは確かです。都市ではよくみられる現象です(例えば、車の排気物による都市公害などは広く研究されているケースです)。また、転移(雨、流水)、放射線のたまりやすさ(泥の生成)の仕組みなども関係します。面積からすると、このような地域はもともと限られています(下水口、歩道等)し、被ばくという意味でも少量です。

Q. 水遊びについてはどのようなリスクがありますか。

A. 経口摂と比較すると、水遊びは主な被ばく経路とは言えません。また、海や川にたまっている放射性粒子は、拡散されます。ですから放射性物質レベルは、迅速に落ちていくでしょう。ただ、湖や池などにたまっている水は、放射性粒子を捕え、底に蓄積していくリスクがあります。

6.その他

Q. 事故後の被ばく量の指標値に関して、IRSNの果たしている役割とは何でしょうか。

A.  フランスにおいては、事故後の状況管理を準備する作業において、行政当局、特にフランス原子力安全当局(ASN)のもとで技術サポートをしています。このような住民保護のための作業中に出される提案(これは現在進行中のプロジェクトで、フランスの規制ではまだ認可されておりませんが)は、放射線防護の国際的決定機関、特にICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に基づいており、IRSN独自のものではありません。フランスにおいては、事故後状況という分野での見解策定には、透明性が求められ、原子力開発者、省庁、IRSN、ASNだけでなく他の人々にも開かれています。この作業を指揮監督するために委員会が設けられ、市民団体(ACROなど)のメンバーが在籍しており、進行中の研究について監査権を持っています。この作業に参加することで、そこで作成されるものに完全に同意しているというわけではありませんし、ACROがいくつかの点について、同意しかねるということもあり得るわけです。

※訳注:ACRO = Association pour le Contrôle de la Radioactivité de l’Ouest = 西フランスにおける放射線監視のための協会。独立系研究所。

Q. 放射性物質測定結果は信頼できるものですか。

A. 日本では、IRSNはフランス大使館(訳注:東京都港区南麻布)の屋根でのみ測定をしています。ですので、そのほかの測定はすべて現地の機関に任せられています。しかし、測定は簡単に実施できるので、データが広範囲に偽造されれば、恐らくすぐにわかってしまうでしょう。

Q. 放射線測定をするのにお勧めの機器はありますか。

A. ありません。しかし、こういった機器は高価であり、一般的には個人というよりも自治体が購入するものである点にご留意ください。

Q. アルファ線はガンマ線よりもより危険ですが、シーベルトとかベクレルということだけが話題に上がっています。これらの測定結果は本当に信頼できるものなのでしょうか。

A. シーベルトというのは生物に対しての影響を指し、異なった影響、異なった放射タイプ(アルファ、ベータ、ガンマ、X)を統合しています。製品販売に関する規格は放射タイプで、つまり放射線の危険度の違いで、区分けしています。

Q. なぜフランスと日本で、放射性物質基準値が違うのでしょうか。

A. チェルノブイリ原発事故後以降、違いが生じました。事故により、基準に対してより安全性が求められるようになり、フランスでは年間5mSvから1mSvになったのです。

欧州での食品販売基準は、EUの加盟国でチェルノブイリから遠方で生活しており、経口摂取でのみ被ばくの可能性のある消費者を保護するために、制定されました。日本の場合、経口摂取且つ他の経路でも被ばくのある可能性のある地域の住民を保護するという目的のため、基準は厳しくなっています。

Q. ”自然放射性物質”というのはどういうことなのでしょうか。

A. 自然放射性物質というのは、人間の活動とは別個に、環境中にある自然界の放射性物質のことです。地中環境からきているテルル放射(土や岩に含まれるカリウム、ウラン、トリウム)と、空や宇宙から来る宇宙放射線に区別されます。

Q. 自然放射性物質と事故から来る放射性物質は、比較可能でしょうか。

A. 外部被ばくに関しては、この二つは同じです。しかし経口摂取や、放射性粒子の吸入による内部被ばくについては違います。

Q. 事故直後の時期で、自宅待機、というのは根拠あることだったのでしょうか。

A. 福島周辺地域に、放射性物質が通過していったときについて言えば、完全に正当な判断だったと言えるでしょう。しかし、東京ではその必要はなかったといえます。

更に医療に関する情報を希望される方のためにIRSNのサイト上で連絡窓口を設けています。寄せられた質問はIRSNの医師に送られます。

またACROのホームページでは、定期的に測定結果が掲載されています。
http://acro.eu.org


 ※ このレポートの翻訳はTwitterでの呼びかけに応えて頂いた読者の方によって行われ、当ブログ運営者が校正を行ったものです(全ての文責は当ブログ運営者にあります)。ご協力に改めて感謝いたします。また、他の読者の方からも広くご協力を受け付けています。ご興味のある方はこちらの記事をお読みください。

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/08/21/irsn-qa/feed/ 2 genpatsu
仏CRIIRADレポート「大量の、長期的かつ広範囲な汚染」7月7日付全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/21/criirad-7-7/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/21/criirad-7-7/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Thu, 21 Jul 2011 05:30:31 +0000 <![CDATA[CRIIRAD]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[ヨウ素]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[食物汚染]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[土壌]]> <![CDATA[汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=427 <![CDATA[CRIIRAD (放射能 に関する調査および情報提供の独立委員会) 福島第一原発 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

CRIIRAD (放射能 に関する調査および情報提供の独立委員会)
福島第一原発事故が日本にもたらした影響について
大量の、長期的かつ広範囲な汚染

原文:http://www.criirad.org/actualites/dossier2011/japon_bis/pdf/11_07_07_cp_fukushima.pdf

2011/7/7 発表
於 フランス ヴァランス

CRIIRADの研究室は2011年5月24日から6月3日まで日本へ派遣団を送った(*1)。この文書は、最初の分析結果で確認できたことのまとめである。地上における放射性セシウムの堆積は非常に多量であった。この堆積物は現在も将来も、長年にわたってガンマ線を流し続け、非常に広範囲にわたって、住民が被ばくする。防護の手立てもない数十万人の住民が、外部被ばくにより、年間1mSvの制限を大きく上回る放射線量にさらされている。これに加え、内部被ばく(とりわけ汚染食物の摂取による)や、何よりも3月21日以降に受けた被ばく量が加わる。後者については、ほとんど防護手段がなかったため、最初の一週間の被ばく量が極度に高いものであったと思われる。

*1: 調査の第一報は、福島(5月30日)と東京(5月31日及び6月1日)で開かれた記者会見で発表され、CRIIRADのサイトにある報告書(英語)でも公表されている。http://criirad.org/actualites/dossier2011/japon_bis/en_angkais/criirad11-47ejapan.pdf

  1. 60km圏外の深刻な汚染:福島市の例

許容レベル以上の外部被ばく

福島第一原発から60-65kmにある福島市でCRIIRADが行った計測や、土壌分析の結果、放射性セシウム134、137の降下物は、森合小学校の芝生で数十万Bq/m2から49Bq/m2、渡利地区で70Bq/m2以上であった。

原子核崩壊の際、セシウム原子は非常に透過性の強いガンマを放射する。この放射線は空中を60m以上にわたって飛ぶのであるが、この性質を利用して、アメリカはヘリ探査機を使って降下マップを作成した。この放射線は住居の壁や窓も透過し、家にいる住民も被ばくする。

2011年5月下旬、CRIIRADが福島市の屋外、地上1mで測定した線量は、通常値を10倍以上、さらに20倍以上も上回る典型的な数値であった(時間当たり1から2μSv以上)。建物の上の階でも線量は検出可能である。ある建物の4階(訳注:日本で言うと5階)で計測を行ったところ、高い線量が測定され、窓に近づくほど(閉めてあっても)高くなっていた。渡利地区の個人宅でCRIIRADが計測した結果、子供部屋の畳の上で通常の3倍以上の線量(毎時0.38μSv)、リビングでは1mの高さで6倍以上(毎時0.6μSv)であった。家の前では、庭で毎時2.2μSv、近所の学校の芝生で毎時2.9μSvであった(地上1m)。

この線量はとても緩慢にしか下がっていかない。主な原因として、セシウム137と134の半減期が長いということが挙げられる(それぞれ30年と2年)。つまり、セシウム137の放射能は、30年後に1/2になるということである。今後12カ月間、セシウム134の放射能は30%セシウム1373%のみの減少と予想できる。空間線量の減少は、数十%にとどまる。

何の手だても講じられない場合、福島市は今後12カ月で数ミリシーベルトの外部被ばくを受ける可能性がある。そして、CIPR(国際放射線防護委員会)が発がんリスクの観点から設けている許容値というのが年間1ミリシーベルトであり、この線量を浴びた10万人のうち5人が死に至るとされる。

ところが日本政府は、住民を長期避難させる基準として、20ミリシーベルトの制限を設けた。これは、発がんリスクの点では、許容値を20倍上回るものである。福島市の住民はすでに、かなり被ばくをしている分、事態はさらに深刻である。同時に、汚染食物摂取による内部被ばくや、汚染された地上から出る埃の吸い込みによる危険性も考慮にいれる必要がある。

一例として、CRIIRADが福島市の森合小学校のブランコ下の土を測定したところ、セシウム134、137による汚染が37Bq/kgであった。この土壌はもはや放射性廃棄物であり、早急に相応の場所に保管されるべきである。

住民はすでにかなりの被ばくを受けている

20115月下旬にCRIIRADが福島市内で採取した土に含まれるヨウ素131による残留汚染から、当初のヨウ素131の降下は数百万Bq/m2であったと算定される。

ヨウ素131の半減期は8日、つまりその放射能は降下時には600倍以上であった。このことから、特に2011年3月15日の、放出された放射性物質が到達したときの、空気中の汚染がかなりのものであったことが証明される。

また、その後も、セシウム136、テルル129、テルル132、ヨウ素132、ヨウ素133等々のような、そのほかの放射性物質の広範な崩壊もおこった。クセノン133やクリプトン85のような放射性ガスもこれに含まれるが、これらは地中には蓄積しなかった。

以上から、この街の住民は、最初に汚染空気の吸い込み、そして特に、放射性物質の堆積が原因とする汚染食物摂取によって、かなりの内部被ばくをすでに受けたことになる。実際、日本政府は、3月21日および3月23日になって、ようやく、福島県における食物摂取制限を発布した(食物の種類による)。住民は、一週間以上、なんの制限や情報もないまま、高汚染の食物を摂取していたことになる。このため、住人達は、数十ミリシーベルトの線量にさらされ、甲状腺は、1シーベルト以上の量を受けた可能性もある。

参考までに、当初のヨウ素131によるホウレンソウ汚染量は、原発から100km南では、低年齢児が200グラムの摂取をしたとすれば、年間1ミリシーベルトの年間許容量を超えてしまい、原発北西40kmでは、植物の汚染があまりにも高いため、5グラムの野菜を摂取するだけで、年間上限値に達してしまうほどであった。

これら住民が、すでに受けた被ばく量について信頼できる数値を得ることが不可欠であり、あらゆる手段を講じて、今後の被ばく量をさげていくことが急務である。

2.広範囲に広がる降下物地域

放射性物質の降下は非常に広範囲にわたり、立ち入り禁止の20km圏外はもちろんのこと、福島県をまたいで広がった。汚染空気団は、気象条件に左右されながら、数百kmにわたって移動し、降水(雨、雪)によって、放射性物質を含んだ粒子が地面に降下した。セシウム134,137を含んだ堆積物は、長期間の汚染を引き起こす。

このことは、採取された土壌や、また、CRIIRADが2011年5月24日から6月3日にかけて行った線量計測(地上1m)(*2) によって、裏付けられている。実際の測定は次の通り:

宮城県丸森で毎時0.47μSv。原発から約60km北。計算によると自然放射線量(*3)は毎時0,1μSv。セシウム134、137降下物は、95 000Bq/m2以上(*4)。

茨城県日立市付近で毎時0,33μSv。原発から南へ約88km。自然放射線量は毎時0,07μSv。セシウム降下物は、50 000Bq/m2以上。5月25日時点でもまだヨウ素131が検出された。

茨城県石岡で毎時0,28μSv。原発から、南南西へ約160km。自然放射線量は毎時0,06μSv。セシウム降下物は、48 000Bq/m2。

つまり、茨城県においても宮城県においても、人工放射線量が自然放射線量を4倍以上上回る地域が存在するということである。1日の50%を屋外で過ごす人にとっては、今後12カ月にわたって、放射線を余計に浴びるということであり、屋外から建物内に入り込んでくる放射線による外部被ばくや、汚染食物摂取による内部被ばく、浮遊している放射性粒子の吸い込みなどを除外しても、年間上限値1ミリシーベルトを超える可能性がある。

この結果は、フランス原子力保安局 (ASN) が2011年6月28日に公式発表した「敷地外では、環境中の放射線量は下がり続けている。6月7日の福島では、線量は毎時1,6μSv。そのほか45都道府県の線量は、毎時0,1μSv以下である」という情報と矛盾する。

・東京都では、残留放射線による外部被ばくのために、無視できない線量に達する可能性がある。例えば、CRIIRADは、6月初旬には東京の和田堀公園(原発から約235km)で、毎時0.14μSvを測定した。この公園では、自然放射線は毎時0,06μSvで、セシウム降下物は14 000Bq/m2である。地域全体のデータが必要とされる。

CRIIRADが、日本国民は全国的な放射性降下物、残留汚染の詳細で充分正確なマップを要求するべきだと考えているのはこのためである。正確なマップとは、セシウム降下物を1,000Bq/m2から記載しているものであり、2011年5月6日発行のマップのように、300,000Bq/m2以上からの記載ではない。

*2: クリスチャン・クルボン、ブルノ・シャレロン(CRIIRADラボ)、イワタ・ワタル(NPO法人 47プロジェクト)が、ベルトール社製の型比例計数管LB123を使って測定。

*3: 東京を含めて広範囲に汚染が計測可能値であるため、汚染がない場合の自然放射線量を確定するのは難しい。土壌分析により、ガンマ線を放出する自然放射線核種の量の計測が可能になり、CRIIRADで自然放射線の理論値(テルル組成物や宇宙線)を再計算した。

*4: 手を入れていない平地で標本した人参地層(訳注:2011.08.02訂正)サンプルの0-5cm層で計測したセシウム137,134濃度から算出した降下物量。この条件では、2011年3月に生成した堆積物量が正確に保存されていると思われる。 5-10cm層と2mm以上の部分の分析はまだ完了していないため、表面の放射線の活動値はデフォルトの暫定的推定である。


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/21/criirad-7-7/feed/ 0 genpatsu CRIIRAD
“原子力発電よ、さようなら”, シュピーゲル・オンライン6月30日記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/17/spiegel-byebye-nuclear/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/17/spiegel-byebye-nuclear/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Sun, 17 Jul 2011 00:00:13 +0000 <![CDATA[独メディア]]> <![CDATA[ドイツ]]> <![CDATA[送電網]]> <![CDATA[連邦議会]]> <![CDATA[脱原発]]> <![CDATA[訴訟]]> <![CDATA[再生可能エネルギー]]> <![CDATA[助成金]]> <![CDATA[原子力エネルギー法]]> <![CDATA[家屋改築]]> <![CDATA[州政府]]> <![CDATA[待機予備力]]> <![CDATA[排出権取引]]> <![CDATA[段階的廃止]]> <![CDATA[洋上風力発電]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=422 <![CDATA[出典:http://www.spiegel.de/politik/deutsch … 続きを読む ]]> <![CDATA[
2011年5月、数万人の市民が反原子力を訴えてベルリンの6月17日通りを行進する。

2011年5月、数万人の市民が反原子力を訴えてベルリンの6月17日通りを行進する。

出典:http://www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,771403,00.html

2011年6月30日7時12分

10年間に渡る戦いの終焉―原子力発電よ、さようなら

大きな議論の的であった政治問題が終焉を迎えようとしている。ドイツ連邦議会(Bundestag)は、組織化された最初の原発反対運動から30年が経った今、脱原発を決定しようとしている。しかし、新たな問題も起こっている。

連邦議会の歴史的な時間―木曜、午前9時、議員達はドイツにおける原発の段階的な廃止について話し合う予定だ。その後、キリスト教民主同盟(CDU)、自由民主党(FDP)、ドイツ社会民主党(SPD)、緑の党で、めったに見られることのない各党の間での協調によって、ドイツ原発の運命を決定づけようとしている。

これは欧州でも他に類を見ない第一歩であり、30年以上続いたドイツでの原発反対運動の終わりを告げるものである。福島の大震災後、アンゲル・メルケル首相は、去年秋に彼女自身の連立政党が推し進めた、原子力発電所の稼動延長許可を取り消すことを決めた。

原子力エネルギー法(Atomgesetz)の改革案とともに、2022年までに核エネルギーの完全撤廃を法律で制定される。同時に送電網と再生可能エネルギーが拡大され、大幅な省エネルギーが実行される。

しかし段階的廃止の計画はエネルギー政策変更計画のほんの一部に過ぎない。

原子力発電の段階的廃止:2022年12月31日にドイツの最後の原子力発電所が送電網から外される。現在、オフラインとなっている8つの原発(訳注:福島での震災後すぐに、メルケル首相がシャットダウンするよう指示したもの)は、もう再稼動することはない。残りの9つの原発は2015年、2017年、2019年(各年に1ヶ所づつ)、2021年(3ヶ所)そして2022年(3ヶ所)までにオフラインとなる。

・さらに政府は、古い原子力発電所の1つを2013年の春まで待機状態にする(「待機予備力(cold-reserve)」)。しかし、今後2年間は、冬季にエネルギー不足が起こった場合には、主に従来の発電所を使用して埋め合わせをするであろう。連邦ネットワーク庁(Federal Network Agency)が不足分をどのように補うかを決定する。

再生可能エネルギーの拡大:長期的にはドイツのほぼ全ての電気が、太陽熱、風力、バイオマス、水力のような再生可能エネルギー源からのものとなるだろう。2020年までに(再生可能エネルギーの)割合は現在の17%から、その倍の35%まで増加し、その後、さらに増やす予定だ。これを実現するために、ドイツ政府は洋上風力発電 (wind  park) に大きく頼る計画であり、より重点的に補助金が出されるだろう。

・水力エネルギーや、地熱から電気を作る地熱エネルギーがより高い報酬率によってより多くの利益を生む。(訳注:ドイツでは、再生可能エネルギー発電所を建設すると送電網に送り出した電気のキロワット数に応じて助成金を受ける。そのため、作り出したエネルギーの市場価格よりも多く支払われることになる。)連邦環境省(Bundesumweltministerium)は、グリーンエネルギーへの補助金の捻出のために電力価格の上昇を予想しているが、価格は2030年までに大幅に下落することが予想される。

エネルギー産業に関する規定:計画された改革案には、送電網運用者の拡充計画を強化する条項も含む。消費者は電力供給者を変えようとする時、より多くの権利を持つようになる。また、エネルギーの生産と配給を切り離すことに関する条項も法律に含まれる。

何千kmもの送電網を新設:消費者に、より良いエネルギー配給を行うために、ドイツで高圧送電網が迅速に拡張される予定だ。送電線は全部で174万kmの長さになる。そのうち、エネルギーハイウェイ(Stromautobahnen)と呼ばれる高圧線が34,570kmを占める。ドイツエネルギー庁の試算によると、2020年までに3600kmが新設されなければならない。連邦送電網庁(Federal Grid Agency)が中心となり、この計画手順を進める。州にもこの件についての発言権を持たせる。

家屋改築の奨励:1995年までに建設された建物の改築に対する税制優遇措置が計画されている。計画された助成金の額は年間、税金収益からの約15億ユーロとなり、そのうち9億ユーロを州と市町村が負担しなければならない。

特殊ファンドエネルギー・気候ファンド(Energy- and Climate fund)」:原子力発電への承認がされなくなり、エネルギー供給者からのエネルギー・気候ファンドへの支払いが減少するだろう。そのため、2012年から、排出権取引からの全ての収入がこのファンドに支払われる。このファンドは、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率を助成するのに使われる。しかし、このプログラムの具体的な内容については、後で、連邦予算についての協議がされる時に決定する。2013年から、エネルギーを大量に使用する産業は年間5億ユーロまで助成される可能性がある。

都市や市町村での気候保護:建築法規、計画法が簡素化される。将来的に、風力タービンやその他の発電所の地域指定がより簡単になる。さらに、建物にまたはその近くに太陽熱プラントを設置するのがより簡単になる。

洋上風力エネルギーの拡充:洋上風力エネルギーの拡充を加速するため、その承認を得るためのプロセスが簡素化される。政府は2030年までに、洋上風力発電パークから25,000メガワットを得る計画である。

自由民主党とキリスト教民主同盟(訳注:現政権を形成する政党)に加え、ドイツ社会民主党も原子力エネルギーの廃止を支持している。緑の党(訳注:環境保護を目的とした政党)も、先週末の特別党大会(special party conference)の際、賛成票を投じた。両党はエネルギー政策の転換に関する法律に対して、批判を表明した。彼らは新しい法律のいくつかに反対する意向だ。特に、自由民主党とキリスト教民主同盟の、再生可能エネルギーを2020年までに35%まで増やすという目標は低すぎると考え、45%にするよう要求している。

州側との問題

連邦議会の決定を受けて、連邦参議院(Bundesrat)は来週後半の7月8日に決定を下す予定だ。連邦参議院の同意は、ほとんどの新たな法律に必要ではないが、それでも調停委員会(Vermittlungsausschuss)を呼ぶことにより、立法手続きに遅れが生ずる可能性がある。家屋の改築への税による補助金に関する法律が、唯一の連邦参議院の同意を必要とする法律である。

すでに送電網拡張の計画は州の影響によって変更された。州政府は計画プロセスにおける参加権(Mitspracherecht)を要求したが、自由民主党とキリスト教民主同盟は、その州政府の懸念に対応した。自由民主党とキリスト教民主同盟の両党はもともと、連邦ネットワーク庁に、ドイツ全国の計画立案検証プロセスおよび計画立案承認を一方的に担当させる計画だったが、現在、それぞれの事例に対して、連邦参議院の承認を必要とする法規命令(Rechtsverordnung)を発行する。

発声投票の直前に、自由民主党とキリスト教民主同盟は陸上の風力エネルギーへの助成金に関する変更を無理に推し進めようとしたが、これは州を落胆させるものであった。9.02セント/kWhの報酬を、以前の計画では年間1%のみ下げる予定であったが、現在は1.5%下げる計画をしている。州はこれに対して反対を唱えた。また、改革プロジェクトに対する減税についても議論が起こっている。Berliner Zeitung紙の報告によると、予想されている15億ユーロの税金の損失を国が全て負担するように、という州側の要求を政府は拒絶した。

訴訟の波が襲いかかろうとしている

そのため、連邦参議院は、計画された全ての改革に承認をすることはなく、調停委員会を招集する可能性がある。しかし、連邦参議院はエネルギー政策の全般的な変更に大きく反対することはないであろう。

政策と発電会社の間の軋轢が、今後数年間、裁判所を忙しくしそうである。RWEとエーオン(訳注:ドイツの2大エネルギー会社)は先週、燃料棒税に対して、告訴した。三番目に影響力のある会社であるEnBWもまた、今のところ目立った動きはないが、今後、告訴する可能性がある。その決定は7月に下されるであろう。これらの会社はこの課税が不法であると考える。また、発電所の閉鎖による損害として、何十億ユーロもの請求をしている。

訳注:この記事に関連するスライドショー。1970年代から現在に至るまでのドイツでの原発反対運動の歴史的な写真を掲載。

ドイツ原発反対運動の歴史スライドショー:http://www.spiegel.de/fotostrecke/fotostrecke-69815.html

ゴルレーベンの核燃料再処理工場の建設予定地での反核村と警察との対立 (1980年6月4日付け記録写真)

ゴルレーベンの核燃料再処理工場の建設予定地での反核村と警察との対立 (1980年6月4日付け記録写真)


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IRSN報告書(5月25日付)「福島第一原発事故による日本国内の陸地環境の放射能汚染について」 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/13/irsn-mai-25/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/13/irsn-mai-25/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Wed, 13 Jul 2011 05:20:52 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[ヨウ素]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[食物汚染]]> <![CDATA[飲料水汚染]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[地表汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=399 <![CDATA[福島第一原発事故による日本国内の陸地環境の放射能汚染についての入手可能な情報の総 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

福島第一原発事故による日本国内の陸地環境の放射能汚染についての入手可能な情報の総括
2011年5月25日

原文:
http://www.irsn.fr/FR/Actualites_presse/Actualites/Documents/IRSN-NI_Fukushima-Consequences_environnement_Japon-25052011.pdf

IRSNでは、福島第一原発事故後、陸地環境の汚染に関係するデータを、定期的に収集、分析している。この総括は、最近入手した情報をまとめており、IRSN発行4月12日付情報ノートを更新するものである。海洋汚染についでは、2011年5月13日付の特定情報ノートに記載されている。

1.放射性物質の堆積についての認識

5月初旬、米国エネルギー省(US-DOEアメリカ合衆国エネルギー省 /NNSA国家核安全保障局)と日本の文部科学省は、共同で福島第一原発周辺の放射性セシウムの堆積マップ(面積に対してのセシウム134と137の活動を一平方メートル当たりベクレルBq/m2で表したもの)を発表した(図1)。これは、航空会社から得た放射線測定(飛行時間490時間)、地表測定、特にガンマ線の分光測定(136測定地点)の結果をもとにして作成されたものである。IRSNは、これらの調査結果の詳細は入手していない。

この地図によると、重要な放射性物質の堆積は、福島第一原発の北西、縦方向50km、横方向20kmの大きさの地域にある。この地域においては、セシウムの2つの放射性アイソトープの活動(総量において、Cs134,Cs137 の量はほぼ等しい)が、1平方メートル当たり60万ベクレル/平方メートル(Bq/m2)を超えており、最も強い放射性降下物を受けたこの地域の中心部では、3百万から3千万Bq/m2に達するとされる。これら、最も高い値(セシウム137、セシウム134が3百万Bq/m2以上)の堆積に、一部的にでも関係している自治体(町村)は次の通りである。

  • 双葉、大熊町、オビオカ(訳注:富岡の間違いか?)。3町とも町全体が原発から20km圏内
  • 浪江。かなりの部分が20km圏内
  • 飯舘、葛尾、南相馬、川俣(川俣はごく一部)。すべて原発から20km圏外

飯舘村のいくつかの地点で採取された土サンプルが測定されたが(広島大学、ACRO)その結果は、セシウムが80万から4百万Bq/m2で、DOE/NNSAおよび文科省共同作成の地図と一致している。

福島県の多数の地点で計測された空間線量が時間の経過に伴い、減少している点の説明としては、これらの多量の堆積は、福島第一原発から2011年3月15日、大体13時から23時の間の、放射性物質の放出によってできたのではないかと、IRSNでは考えている。これらの放出物は、北西に向かって拡散し、そこに雨と雪が、特に飯舘村に大量に降った(図2と3)。雨と雪によって、大気中の放射性粒子が洗い流され、堆積物となった。それはウェットなもので、放射性物質放出の時の乾燥した堆積物よりも、ずっと濃いものである(IRSNの2011年4月12日付情報ノート参照)。このウエットな堆積物は、一部、土壌にしみこみ、濃い汚染が残存している。このため、3月16日以降この地域で観測された空間線量が、大きな上昇を示したのである(図4参照)

原発80km周辺セシウム134+セシウム137蓄積図1-原発周辺80km圏内のセシウム134,137の累積堆積マップ

出典:www.mext.go.jp/english および http://blog.energy.gov/content/situation-japan

3月15,16日の福島での雨雪前線の展開図2-福島周辺地方における2011年3月15-16日の雨および雪前線の移り変わり

2011年3月15日から16日にかけての夜間の積算降雨量(左)と積算降雪量(右)の算定(フランス気象庁による、中央ヨーロッパの中期天気予想(CEPMMT)モデル出典のデータ)図3-2011年3月15日から16日にかけての夜間の積算降雨量(左)と積算降雪量(右)の算定(フランス気象庁による、中央ヨーロッパの中期天気予想(CEPMMT)モデル出典のデータ)

2.大気汚染と空間ガンマ放射

3月12日以降の放出物の大気中の拡散や、大気中の放射性物質粒子が地上に降下することによる堆積物の生成を検討するに当たり、IRSNが手にしているおもな資料は、日本国内の空間ガンマ放射の測定結果である。実際、大気の放射能汚染を直接計測した結果というものはほぼなく、主なものとしては、福島第一原発の南南西250kmにある、東京都新宿のエアゾール採取地点が挙げられる。

この結果から、最も大きな放出は3月12日から22日の間に起こり、首都圏を含む放射性物質放出の影響を受けた地域に、堆積したものと解釈できる。この時期、空気中のガンマ線(線量表記は、一時間当たりマイクロシーベルト μSv/h)測定点の大多数では、短期間(およそ数時間)でのピークが連続し、大気中放射のノイズフロアが高くなっていることを示している。これは、放射性堆積物が降り積もったためである(詳しくは、IRSNの4月12日付情報ノート参照)。

3月22日以降、現在でも、大気中への放出は続いていると思われるが、かなり低いレベルであるといえる(図4)。空気中のガンマ放射のピークはごく稀に観測されるのみで、空気中放射線の背景雑音も減少傾向にある。これは、短期で消滅する放射線核種(ヨウ素131、テルル132、ヨウ素132等)による放射線減少に対して、それを底上げするほどの放射線は3月末以降の放射性物質の降下物にはなかったことを示している。

福島県の複数自治体で計測された空間線量の推移図4-福島県の複数自治体で計測された空間線量の推移。空間放射量のレベルの違い(飯舘村と南会津ではほぼ100)は、放射性堆積物の量による。短期崩壊する放射性核種が時間と共に消滅するために、この計測期間中でも全体的に減少傾向にある。原発に北にある南相馬市では、線量の最初のピークはすでに3月12日に観測されているが、これは、一号機の最初の放出と符合している。この放出は、北へ広がった後、太平洋に出、日本の国土にはほとんど広がらなかった。

東京では、在日フランス大使館にIRSNが設置したTELERAY測定器を使って、3月18日以降空間線量を計測しているが、3月22日以降、継続して線量は下がり続け、0.08μSv/時以下と、相対的に低い線量になっている。4月‐5月には、揺幅の低いピークが何回か観測されたが、これは東京の空気の放射能汚染のわずかな変動と合致している(5月前半2週間では、空気中の放射性セシウム濃度は1mBq/m3(ミリベクレル/立方メートル)から数mBq/m3(ミリベクレル/立方メートル)以下の間で変動している)。

在日フランス大使館にIRSNが設置したTELERAY計測機による空間線量の推移(1ナノシーベルト/時間=0.001μSv/h)図5-在日フランス大使館にIRSNが設置したTELERAY計測機による空間線量の推移(1ナノシーベルト/時間=0.001μSv/h)

以上の事柄から、福島第一原発から放射性物質の放出は続いているが、重要視すべき量ではないとIRSNでは考えている。汚染食物摂取による内部被ばくの危険以外にも、外部被ばくの主なものとして、3月に生成された放射性堆積物によるものがある(下の§1参照)。4月12日付の情報ノートで、IRSNは、福島第一原発の北西、最も多量の放射性堆積物がある地域に1年間在住した場合の被ばく量の一回目の予想を出した。DOE/NNSAと文科省が4月から5月初旬に発表した放射性堆積物の新たなマップと空間線量は、中期的にこれらの地域に滞在した場合に、起こりうる被ばく量が相当のものであることを裏付けている(詳細は、5月23日付のIRSN情報ノート参照)。

3.農作物汚染の状況

3.1. 最も多量の放射性堆積物を受けた地域

原発から20km圏外では、農作物の検査が定期的に行われ、厚生労働省が結果を発表している。

全地域的にセシウム134とセシウム137が100万Bq/m2を超える地域(飯舘村、葛尾村、浪江町、浪江町は一部が20km圏外)において、農作物の検査結果の数が非常に少ない。日本全体では約3400の採取数に対し、この地域では33のみである。当初の1か月(3月中旬から4月中旬まで)は特にデータが不足している。最初の採取が、キノコは4月8日、肉は4月28日、ほうれん草は全く結果がない。山間部、山林部、つまり相対的に農業地帯ではないということが、これらのデータ不足の説明となりうる。

これらの地域では、「雑草」の検査結果は数多くある。その結果を発表している文科省によると、放射性物質効果によるこれらの植物の汚染は、葉物野菜のそれに近いと思われる。

図6と7は、これら3自治体で測定されたサンプル全体におけるヨウ素131および放射性セシウム(セシウム134、137)による汚染状況を示している。それによると、3月の「雑草」中のヨウ素、放射性セシウムによる汚染度は高い(数百万Bq/kg)ということである。セシウムによる汚染は4月中旬になっても同程度で、植物が成長するに従って徐々に低下し、5月中旬には1万Bq/kgにまで下がった。ヨウ素131による汚染は、放射線の減少により、早いうちから低下し、5月初旬で1000Bq/kg以下になっている。

この地域で測定された食物汚染は、キノコを除いて、概して低いようである。その要因として、検査対象となった植物の形(ブロッコリは、とりわけ濡れた状態では、大気中の残骸物を吸収しにくい)や、家畜のえさ(健全な飼い葉)によってはその産物(牛乳や肉)がほとんど汚染されない、ということが考えられる。

最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるヨウ素131(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移

最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるセシウム134+137(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移
図6+7-
最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるヨウ素131および放射性セシウム(Cs134+Cs137)(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移。出典:日本の各省庁(雑草については文科省、その他については厚生労働省)。規定により、「不検出」は1Bq/Kgで表される。

3.2.監視体制の取られている県に関して

・野菜および植物性食物

日本の摂取制限値は、ヨウ素131が2000Bq/kg、セシウムがBq/kgだが、監視体制の取られている複数の県由来の野菜のほとんどにおいて、ヨウ素131およびセシウムによる汚染は現在この値を下回っている。例えば、3月18日に茨城県ひたちなか市、茨城県高萩市で採取されたホウレンソウのセシウム濃度は15020から54000Bq/kgであったのに対して、5月20日採取のものは、ヨウ素131もセシウムも不検出であった。図8の2つの表は、3月18日から5月19日の間に野菜で検出されたヨウ素131とセシウム濃度の推移を表している。任意の日に検査対象となった野菜の産地や種類によって、濃度の高低差に開きがあるが、ヨウ素131の濃度は明らかに減少傾向である。ヨウ素131は2カ月で1/1000に減少する。セシウム濃度はそれほど明確な減少ではないが、5月に行われた検査の直近の結果では、概して数十から数百Bq/kgを下回っている。

最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるセシウム134+137(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移

3月18日から5月19日までに日本の野菜で検出されたヨウ素131および放射性セシウム(Cs134,Cs137)濃度の推移図8-3月18日から5月19日までに日本の野菜で検出されたヨウ素131および放射性セシウム(Cs134,Cs137)濃度の推移。出典:日本省庁(厚生労働省)

しかし、3月の放射性物質の降下が原因で(図9参照)、未だ汚染度の高い植物性食品がいくつかある。それは、

  • たけのこ:5月に福島県内で採取されたサンプルには、セシウム(CS134, Cs137)が数百から数千Bq/kg(原発の北、南相馬市のサンプルで3100Bq/kgを5/19計測)が見つかったが、ヨウ素131は不検出。
  • 茶葉:福島第一原発から300km近く離れた県を含めて複数の件で採取された生葉から、数百Bq/kg~場合によっては数千Bq/kgを超すセシウム汚染が検出された(例としては、東京の南に位置する神奈川県足柄市の5/12採取された葉から、3000Bq/kg)。ヨウ素131は、痕跡が検出されたことを除けば、これらのサンプルではほぼ皆無であった。
  • キノコ:福島県で5月に採取されたキノコ(しいたけ)の測定によると、セシウム(Cs134、Cs137) 濃度は、数百から1000Bq/kgを超えており(県北の相馬市の5/19測定のサンプルでは、1660Bq/kg)、ヨウ素131については5/10以降は不検出である。

キノコ、生茶葉、たけのこで測定された放射性セシウム(Cs134, Cs137) 濃度図9-キノコ、生茶葉、たけのこで測定された放射性セシウム(Cs134, Cs137) 濃度。出典:日本省庁(厚生労働省)

これらの食品については、日本の定めるセシウムの摂取制限値(500Bq/kg)を上回るものがあり、引き続き定期的な監視が必要とされる。これら生産物におけるセシウム汚染がかなりまだ残留していることについては、福島原発から未だ放射性物質放出が続いていることが原因なのではなく、3月の放射性物質降下があったが、これらの植物の放射線感受性がきわめて強いという生理的特徴のためである。

・食肉と牛乳 (訳者注意:以下の食肉に関するデータは5月25日時点公開のもの

一般的に、放射性物質の降下にさらされた複数の県由来の牛乳と肉の濃度レベルは相対的に低いものである。

福島県では、牛肉および豚肉の検査が数回行われ、ヨウ素131は不検出であった。南相馬市(5/9)と浪江町(5/12)の豚肉では、セシウムが生肉kgあたり52から260Bq。浪江町(5/10)と川俣町(5/11)の牛肉からは、より高い値が検出されたが、摂取制限値内であった(生肉kgあたり223から395Bq)。5月16日と20日の間、福島県内で採取された豚肉中のセシウム濃度は、生肉kgあたり3,4~270Bqであった 。

5月初旬から、生乳および乳製品ではヨウ素131もセシウムも不検出である。ただし、例外として、宮城県内(登米、大崎)に5/10採取されたもので、セシウム濃度が4および12Bq/L、飯舘村で5/17採取されたものでセシウム濃度が5bq/Lが挙げられる。

4.水面および飲料水の汚染状況

4.1 水面

文科省では、福島第一原発から36km北西にある飯舘村の池の水面を定期検査して、結果を公表している。3/18から5/1までの結果の経緯は図10に示されている。

水の表面で測定したセシウム134、セシウム137、ヨウ素131濃度の推移(飯舘村の池‐出典:文科省)図10-水の表面で測定したセシウム134、セシウム137、ヨウ素131濃度の推移(飯舘村の池‐出典:文科省)

この結果から、放射性物質減少によるヨウ素131の消滅の傾向が読みとれるが、セシウムについてはより不規則で、全体としては減少しつつあるが、とりわけ5月初旬におけるような濃度の上昇がみられる。雨天時の放射性堆積物が洗い流されることによる汚染が、この上昇の原因であるとみられる。

4.2飲料水

5月初旬以降、飲料水のヨウ素131およびセシウムに関しての検査結果は、概ね検査の検出限界値を下回っている。今月(訳注:5月)始め、茨城県、栃木県、東京都で採取された水道水の一部から検出されたが、その値は0,1から0,4Bq/Lであった。更に最近では、5/20に埼玉の飲料水で、0,44Bq/Lのセシウム濃度が検出された。いずれにせよ、日本が定める摂取制限値であるヨウ素131が300Bq/L、放射性セシウム200Bq/Lを大きく下回る微量なものである。


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/13/irsn-mai-25/feed/ 0 genpatsu 原発80km周辺セシウム134+セシウム137蓄積 3月15,16日の福島での雨雪前線の展開 2011年3月15日から16日にかけての夜間の積算降雨量(左)と積算降雪量(右)の算定(フランス気象庁による、中央ヨーロッパの中期天気予想(CEPMMT)モデル出典のデータ) 福島県の複数自治体で計測された空間線量の推移 在日フランス大使館にIRSNが設置したTELERAY計測機による空間線量の推移(1ナノシーベルト/時間=0.001μSv/h) 最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるヨウ素131(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移 最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるセシウム134+137(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移 最も多くの放射性堆積物を受けた3市町村(飯舘村、葛尾村、浪江町)で3月20日以降採取された食品および野生植物におけるセシウム134+137(生でBq/kg、牛乳はBq/L)濃度の推移 3月18日から5月19日までに日本の野菜で検出されたヨウ素131および放射性セシウム(Cs134,Cs137)濃度の推移 キノコ、生茶葉、たけのこで測定された放射性セシウム(Cs134, Cs137) 濃度 水の表面で測定したセシウム134、セシウム137、ヨウ素131濃度の推移(飯舘村の池‐出典:文科省)
Fairewindsガンダーセン博士「体外では検出不可能なホットパーティクルについて」 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/13/hotparticles-gundersen/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/13/hotparticles-gundersen/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Tue, 12 Jul 2011 23:00:14 +0000 <![CDATA[米企業]]> <![CDATA[動画レポート]]> <![CDATA[ウラン]]> <![CDATA[エアフィルター]]> <![CDATA[ガンマ線]]> <![CDATA[キセノン]]> <![CDATA[クリプトン]]> <![CDATA[コバルト60]]> <![CDATA[シアトル]]> <![CDATA[ストロンチウム]]> <![CDATA[スリーマイル]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[チェルノブイリ]]> <![CDATA[プルトニウム]]> <![CDATA[ホットパーティクル]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[原発]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=395 <![CDATA[出典:Hot Particles From Japan to Seattle V … 続きを読む ]]> <![CDATA[

出典:Hot Particles From Japan to Seattle Virtually Undetectable when Inhaled or Swallowed

・「ホットパーティクル」関連情報:
– 米Wikipedia: hot particle
– 京都大学 原子炉実験所  小出 裕章氏: “プルトニウムという放射能とその被曝の特徴 ” (PDF)
– 文部科学省原子力教育支援情報提供サイト 「あとみん」”プルトニウムってなんだろう


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/13/hotparticles-gundersen/feed/ 0 genpatsu
IRSN調査報告会 @ 在東京フランス大使館(7月7日):報告内容&質疑応答 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/10/isrn-conference-french-embassy/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/10/isrn-conference-french-embassy/#comments <![CDATA[Translator]]> Sun, 10 Jul 2011 12:29:36 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[ヨウ素]]> <![CDATA[レポート]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[DOE]]> <![CDATA[食物]]> <![CDATA[評価]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[地表環境]]> <![CDATA[汚染]]> <![CDATA[海洋環境]]> <![CDATA[作業計画]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=354 <![CDATA[7月7日に、フランス大使館でISRNの報告会がありました。1ヶ月ほど日本に滞在し … 続きを読む ]]> <![CDATA[

7月7日に、フランス大使館でISRNの報告会がありました。1ヶ月ほど日本に滞在して、福島第一原発を始め、各地で調査した結果の報告でした。

壇上には、環境汚染専門のスタッフと、食物汚染専門のスタッフ2名が登場し、それぞれの専門分野に関する調査結果の発表を行いました。

1時間あまりの報告会は、前半で調査結果の説明、後半で来場者の質問に答えるという2部構成でした。

以下は、その報告会に出席した翻訳チームのメンバーが、発言内容を日本語に訳しながら取ったメモを、後から整形したものです。

福島第一原発の現状と、調査結果のレポート

環境への影響に関して

現状、3基の原子炉がメルトダウンおよびメルトスルーを起こし、核燃料が原子炉を貫通して建物下部まで落ちてしまっている状態と思われる。中に入ることができないため直接確認はできていないが、その可能性は極めて高い。

溶けた核燃料の固まりは水の中に沈んだ状態のため、放射性物質が空気中に飛散するといった環境への影響はあまり無いが、修復作業は極めて困難。

放射性物質の飛散を防ぐため、発電施設全体をカバーする構造を建設中。これにより、環境汚染を抑え、施設で作業を行う作業員の安全を守ることができる。

4号機は特に被害が大きく、今後の被害の悪化を抑えるために様々な修復をしている。特に問題となる使用済み燃料プールは、柱を補強するなどの工事がなされている。

施設全体で汚染水の量がすでに限界を超えている。しかし、それでも燃料を冷やすために毎時数トンの放水を続ける必要がある。汚染水は、1日にオリンピックプール1つ分ほどのペースで増えている。

原子炉の方は「すでに最悪の状況を迎えているため」、これ以上悪化することはできない。今、抑える必要があるのは燃料プールの方。何としてもこちらの状況が悪化しないようにしなければならない。

今後の展望の目安としては、状況の安定にあと数ヶ月かかると思われる。

燃料プールに残っている燃料を取り出し、安全な場所に移し終わるのには数年かかる。

周辺の環境が元に戻るためには数十年単位かかる。

今回の事故が環境にもたらした影響は、実は事故直後、数時間の間の影響が殆ど。放出された放射性物質の殆どはそのタイミングで放出されたもの。そして、その時に放出された物質が、3月15〜16日に降った雨と混じって降り注いだことで、地面が汚染された。

事故直後、アメリカのエネルギー庁が飛行機で放射線を調査した。

その際に調査されたのは主にセシウムの流出で、その汚染レベルはチェルノブイリと同等、地域によってはそれ以上の数値の箇所もあった。しかし、汚染区域の広さ自体は、チェルノブイリの10%ほど。

日本、アメリカ、フランス三国の間で、今回の事故が環境に及ぼす影響に対する解釈は概ね同じ。検出された数値に多少のズレはあるが、どういった対策が必要かという考えも、変わらない。

東京での被曝については、事故当日は空気が乾燥していたため、あまり影響はなかった。

しかし、3月20日頃、3日ほど雨が続いて放射線量が事故前の倍に。

具体的な数値としては、0.08マイクロシーベルト毎時前後。

参考までに、パリは自然放射だけで0.06 – 0.12 マイクロシーベルト毎時。

フランス Haute-Savoie地方では、平均で 0.21マイクロシーベルト毎時、最大で0.35マイクロシーベルト毎時に達することも。

東京の放射線量が、普段の倍まで高くなった日があるとは言え、その程度。世界には、さらに高い地域がある。

(上記図に関しては濃度が反映されていないように見えるのでIRSNに問い合わせ中)

食べ物への影響に関して

3月16日に日本政府は食べ物の安全基準を策定

EUは、日本から輸入する食べ物の規制値を、日本が新たに策定した値に合わせた。

世界には複数の基準値があって、それぞれ完全には一致していないが、特に問題となるほどの差は無い。いずれの場合も、基準策定の考え方は「子供の安全を守るために必要な基準」というポリシー。

今回の福島の事故により放出された放射性物質は複数種類あるが、半減期が8日のヨウ素に関しては、すでにその量が十分減っているので、その対策はもう考慮していない。

日本においては、観測の細かなルール決めは自治体が行っている。基準をオーバーした場合の対策も、自治体が責任を持って対応することになっている。

食べ物の汚染状況に関しても、環境汚染の調査と同様、IRSNでも独自に観測して、状況の推移を観測している。

牛乳、肉は、5月頭から、汚染レベルが検出不能なレベルにさがっている。

ほうれん草についても、放射性物質が検出されることがあるものの、基準値を下回っている。

きのこ、竹の子、茶葉については、基準値を超える値が検出されることがある。

きのこは、汚染物質を蓄積しやすい性質がある。

茶葉は、乾燥させる工程で汚染物質が付着・濃縮するため、放射線の値が高くなる。

汚染された海水は海流に乗って南下するが、東京湾近辺で「黒潮」によって流れが変えられ、東に向かっていく。東京より南まで汚染物質が流されることはまず無い。

海産物の中では、貝や甲殻類が基準値を超えることがある。

鮭や鮎など川魚からも検出されているが、これらは海で過ごすタイミングで、海底に蓄積された放射物質を吸収しているのではないかと考えられる。

質疑応答

Q. 今、東京で検出されてる放射線は何が原因ですか?

A. 今、検出されている放射線の原因となっているのはほぼセシウムで、半減期は2年。また、ストロンチウムの検出量が予想より少ないが、その原因ははっきり判明していない。

Q. 実際には放射線が検出されているのに、「検出されない」と公表されることがあるのはなぜか?

A. 公表されている数値は、「新たに増えた放射線の量」。なので、状況に変化が無い場合には、「新たな汚染は検出されていない」と発表される。

Q. 日本の政府の発表は信頼できるのか?

A. 日本政府の発表は透明性は少ないが、特に疑ってはいない。公表される値も、大まかなこちらの予想と大きく外れてはいない。ISRNで独自に行っている調査結果ともズレは無い。日本がもし嘘の発表をしたら、原子力安全保障の国際的なメカニズムの崩壊を招くことになり、日本政府がそんなリスクを取ることはできない。

Q. CTBTOの数値は公表されないのか?

A. CTBTOが行っているのは、地球上で大気内核実験が行われていないかをチェックするための調査で、その性質上、その調査結果は法律で機密扱いになっている。フランスではCEAの管轄下にあり、IRSNでも確認はできていない。ただし、法律上機密扱いにしなければいけなくなっているだけの話で、法整備に時間がかかっているが、あえて隠そうとしているわけではない。

Q. 子供に食べさせない方が良いもの、対策はあるか?

A. 特に問題となるものはない。しかし、潜在リスクを減らすために、できるだけ食べ物のバリエーションを増やした方がより安心。あえて言うなら、甲殻類やキノコなどは、放射性物質が濃縮する性質があるものなので、注意。チーズは、製造工程で濃縮された成分が取り除かれているので、牛乳より安全かもしれない。

Q. 根菜類は大丈夫か?

A. 放射性物質は、地表に落ち、土を通して野菜に取り込まれるというプロセスの間に薄まるため、根菜は特に問題無い。現時点では、ほぼ検出不能な値しか検出されない。また、チェルノブイリでは、野菜がセシウムを吸収するのを防ぐために、セシウムと形状の似たカリウムを大量に撒いて野菜に吸収させるといった対策を取った。恐らく、日本でも同じような対策が取られると思われる。

Q. 雪解けのタイミングで汚染が広がる可能性は?

A. 確かに川への影響がある可能性はある。川魚から検出されているのはそれが原因かもしれない。

Q. フランスで汚染された茶葉が見つかったがどう思うか?

A. 茶葉は、お茶を乾かす時に、屋外で広げて乾燥させるという工程がある。このタイミングで放射性物質が付着し、さらに乾燥を通じて濃縮したと思われる。そのため、グラムあたりの放射線量が高くなる。しかし、IRSNでその値を調べたが、4000リットル飲まないと1ミリシーベルトいかない程度だった。

Q. 基準値を決める際の根拠は?

A. 一日に食べる食べ物の10%が汚染されていると仮定して、1年の被曝量が1ミリシーベルトを越さないような値を算出する。

Q. 福島産の野菜は大丈夫?

A. 市場に出ている段階で基準値をクリアしているということなので、消費者が買える状態にあるなら、それは大丈夫だと考えている。

Q. 炉心溶融物(コリウム)はどういう状態にある?

A. 現状では確かなことは言い難い。分かっているのは、溶ける時に形が歪んでしまっているためて、きちんと冷やせていないということ。ただし、効率は良くないが、塊全体としての温度は下がっている。スリーマイル島の事故の際は、炉心溶融物の確認のために内部に戻れたのは事故から10年後。日本で何年かかるかはまだ分からないが、同じくらいかかるだろう。

Q. 水道水の安全性はどうなのか?なぜ時々しか検出されないのか?

A. 水の汚染は、水源が直接汚染されるケースと、川・用水路周辺の土から少しずつ漏れ出して汚染されるケースの2種類がある。

水源の直接的な汚染は、事故の最初期の段階がピークで、今は周辺に蓄積された放射性物質が少しずつ溶け込む形で汚染されていると考えられる。また、水道の濾過装置に放射性物質が蓄積するため、一時的に数値が高まる可能性もある。

Q. 燃料プールの崩壊のリスクは?

A. 原子炉はもうこれ以上悪化のしようがないレベル。燃料プールの方は、これ以上の悪化を防ぐために、補強工事が進んでいる。

もし、プール内の燃料が一気に反応した場合、周囲1キロ近辺は人が近づくことすらできなくなる可能性があったが、今は事故直後に比べだいぶ安定している。しかし、問題の根本的な解決には、貯蔵されている燃料を取り出す必要があり、それには1年以上かかる可能性もある。

Q. 各地でホットスポットが見付かっているが、子供が近付かない方がいい場所などはあるか?

A. 排水溝など水の通り道は、放射性物質が蓄積しやすいので注意した方がいいかもしれない。とはいえ、近づくのが危険なほどのレベルではなく、「1年間ずっとそこにいたら影響が出るかもしれない」程度なので、絶対に近づかない方が良い場所というのは特に無い。

Q. 食べ物の基準は、一つのサンプルで集荷した自治体全体の数値とみなしているが、濃度の違いがあるだろうから、そのやり方で本当にわかるのか?

そのやり方には透明性がかけているという点は否めない。

Q. お風呂は避けるべき?

特に問題はない。また、湖は放射性物質が蓄積しやすいので、機会があっても泳ぐのは避けた方が良い。

以上です。

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/10/isrn-conference-french-embassy/feed/ 3 atranslater Situation-7-juillet-2011.001 Situation-7-juillet-2011.002 Situation-7-juillet-2011.003 Situation-7-juillet-2011.004 Situation-7-juillet-2011.005 Situation-7-juillet-2011.006 Situation-7-juillet-2011.008 Situation-7-juillet-2011.007 Situation-7-juillet-2011.009 Situation-7-juillet-2011.010 Situation-7-juillet-2011.011 Situation-7-juillet-2011.012 Situation-7-juillet-2011.014 Situation-7-juillet-2011.015 Situation-7-juillet-2011.016
グリーンピース活動家インタビュー動画、ロシア・トゥデイ7月3日付 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/10/greenpeace-rt/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/10/greenpeace-rt/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Sun, 10 Jul 2011 12:00:28 +0000 <![CDATA[露メディア]]> <![CDATA[動画レポート]]> <![CDATA[グリーンピース]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[食物汚染]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[放射線汚染]]> <![CDATA[政府]]> <![CDATA[汚染測定]]> <![CDATA[海洋汚染]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=358 <![CDATA[出典:Russia Today, Daily life in Fukushima … 続きを読む ]]> <![CDATA[

出典:Russia Today, Daily life in Fukushima: ‘It was like visiting another universe’
http://www.youtube.com/watch?v=aY5cvod4Tiw


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/10/greenpeace-rt/feed/ 0 genpatsu
「福島原子力発電所事故第六報」在日フランス人向けIRSN作成文書6月8日付全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/06/irsn-bulletin-6/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/06/irsn-bulletin-6/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Wed, 06 Jul 2011 12:00:43 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[フランス]]> <![CDATA[環境汚染]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[食物]]> <![CDATA[勧告]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[幼児]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=329 <![CDATA[福島原子力発電所事故 第六報 2011年6月8日 原題: Accident de … 続きを読む ]]> <![CDATA[

福島原子力発電所事故
第六報 2011年6月8日

原題: Accident de Fukushima-Dai-Ichi
Bulletin d’information no.6 du 8 juin 2011

出典:
http://www.irsn.fr/FR/Actualites_presse/Actualites/Documents/IRSN_Residents-Japon_Bulletin6_08062011.pdf

この報告書は、IRSNが特別に日本在住のフランス人に向けて作成したものである。報告書は、IRSNのサイト(www.irsn.fr)で発行されている、テーマ別の最近の文書をもとにして作成されている。

  • 海洋への影響についての情報文書(2011年5月13日)
  • 地域レベルでの被爆および環境における影響についての文書およびレポート(2011年5月23日)
  • 福島第一原発事故による日本の陸地環境中の放射線汚染についての、入手可能な情報総括(2011年5月25日)
  • 2011年5月31日付け、福島第一原発施設の現状

福島第一原発に大きな変化や環境に影響をもたらすような事象がない限り、この報告書はアップデートしないものとする。

福島第一原発の事故による放射線放出により、おもに福島県、栃木県、茨城県、宮城県において、陸地・海洋の一部において放射線汚染が引き起こされた。この報告書に記載されている情報、勧告の目的は、未だ続く環境中汚染を可能な限り避ける一助となることである。

福島第一原発による、空気中への放射性物質の放出はおそらく続いているが、住民の相当な被ばくにはつながる量ではない。3月12日から23日にかけて、大気中に放出された放射性物質が拡散した後、短期的な被ばくのおもなリスクは、大気中の放射性物質の降下および海洋への直接放出により汚染された食物によるものである。陸地において、この放射線汚染の影響を最もうける食品としては、葉物野菜(茶葉も同様)、野菜由来のあらゆる食物、牧草や汚染された飼い葉を摂取する動物由来の乳である。現在、これらの食品の放射線汚染は、大体において減少している(特にヨウ素131によるもの)が、引き続き監視が必要である。海洋においては、放射線汚染が拡散することにより、それにさらされる動植物類が汚染される。福島第一原発の南にある漁港に水揚げされた魚のうち、数種(コウナゴ)において出荷許容量最大の25倍に当たる高濃度放射線核種が検出された。

一方、原発周辺20kmの緊急避難地域以外においても、福島県のいくつかの地域では、高い放射線が検出され、長期滞在の場合には、かなりの外部被ばくの可能性がある。

当然ながら、以下に挙げる勧告は、日本政府発布の指示実行の妨げになるものではない。これらの指示は、定期的に改訂され、日本厚生労働省のサイトにて入手可能である。

http://www.mhlw.go.jp/english/topics/2011/eq/index.html

1. 日本当局が施行した出荷規制についてのIRSNによる追跡調査

日本政府はおもな農作物の市場への出荷を制限したが、下の地図は、当時の制限の移り変わりを示したものである。(同じ色で示されている地域は、記載されている食物の出荷制限が同時期に行われていたことを示す。緑色の地域は、出荷制限が全く出なかった地域である)

おもな食物の、市場への出荷制限の移り変わり:牛乳、ほうれん草おもな食物の、市場への出荷制限の移り変わり:かぶ、キャベツおもな食物の、市場への出荷制限の移り変わり:ブロッコリー、カリフラワー、キノコ

おもな食物の、市場への出荷制限の移り変わり

2. 在日フランス人のための、食生活についての勧告

日本産の食物の検査結果では、食物汚染は明らかに減少し、出荷制限値を上回ることも減っては来ているが、福島第一原発事故の放射性物質降下に大きな影響を受けた県で生産された食物に関しては、要注意であると、IRSNはみている。

IRSNの勧告は以下の通り:

  • 生鮮物、特に葉物(ほうれん草、ハナワサキ、カキナ、小松菜、レタス、キク、キャベツ、白キャベツ、白菜、セロリ、ブロッコリ、パセリ)、キノコ、魚(特にコウナゴ)について、3月11日以降出荷基準値を超えた県(福島、栃木、茨城、宮城、群馬、埼玉、東京、神奈川、千葉)産のものは、現行の規制内であることを確認すること。
  • 生鮮物の産地不明、放射線情報がない場合、可能な限り、それら葉物、キノコ、魚の長期摂取を避けること。
  • これらの県産の生のタケノコ、シダ類(コゴミ)の摂取を避けること。
  • 産地不明、放射線情報がない場合、事故後に採取された茶葉を避けること。
  • 産地不明、放射線情報がない場合、福島県、宮城県で採れた牛乳を長期にわたって子どもに与えないこと。

食品監視の対象県

食品監視の対象県

調理用、加熱用に水道水を利用、摂取することについては、いかなる規制も検討対象ではない。

事故時に密閉状態で容器に保存されていた食品(缶詰、乾物、超高温殺菌乳、容器入りミネラルウオーター)は、問題なく消費できる。

例え許容値を若干上回っている食物をたまたま摂取した場合でも、健康に対する大きなリスクはないという点に留意すること。

3.放射性物質の堆積の影響を最も受けている地域へ向かう、または居住するフランス人へ向けた勧告

宮城、茨城、栃木そしてとりわけ福島の4県は、福島第一原発の事故による放射性物質の降下により、程度の差はあれ、相当の影響を受けたとIRSNでは見積もっている。これら4県は、下の地図に赤で示されている。

レジャー、観光目的での移動は控えるべき地域(赤)

レジャー、観光目的での移動は控えるべき地域(赤)

一般的に言って、IRSNでは、仕事や重要な個人的理由のために、宮城県、茨城県、栃木県に向かうことに、もはや支障はないとみているが、以下に述べる、これらの県在住のフランス人向けの勧告を実践するという条件つきである。だが、放射性物質の堆積による外部被ばく量が潜在的に低いとしても、無用に被ばく量を上げないためにも、レジャーや観光で、これらの3県への移動は控えるよう、IRSNは勧告している。

福島県の北半分、とりわけ原発から40km以内にある県の北西1/4地域には、相当量の放射性物質の堆積(放射性セシウム60万bq/m2以上)があるため、向かわないように強い勧告を出し続けている。この堆積量は、1年間に10mSvを超す外部被ばくを引き起こす可能性がある。これらの地域に、どうしても向かわなければならない場合、最低限の時間のみ滞在すること、この後に挙げる勧告を厳密に守ること、地域に向かうのは大人に限定することが望ましい。

いずれの場合でも、日本政府が住民の退去要請を出した地域については、その指示に従うことが不可欠である。これらの地域とは、地図にある通り、福島原発周辺20km圏および葛尾村、浪江町、飯舘村、川俣町、南相馬市を指す。

日本政府が、緊急避難(20km圏内)または計画的避難を決定した地域 (赤)

日本政府が、緊急避難(20km圏内)または計画的避難を決定した地域 (赤)

宮城県、福島県、茨城県、栃木県在住のフランス人については、日本政府の出す指示に従うことが適切である。いずれの場合でも、IRSNは次のことを勧告する:

  • 乳児、小さい子どもの食事の支度には、ボトル詰めされたミネラルウオーターを用いること。
  • 家庭菜園や親せきの家で採れた食物の摂取は、最大限避けること。
  • 果物、野菜は良く洗うこと。

IRSNは、建物内への汚染の持ち込みを抑えるために、家庭での衛生管理も奨励する。

  • 雨の時は、靴は外に置いておくこと。
  • 床は、ぬれた布で定期的に拭くこと。
  • 家具、ラグ、絨毯に定期的に掃除機をかけること(掃除機のごみ袋を定期的に変えること)。

容器入り液体せっけんで定期的に手を洗い、手から口へ意図せぬ汚染リスクを減らすことも望ましい。また、外遊びで、何度も地面や砂が小さい子どもの口に入らないようにすることも重要である。


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「福島三号機燃料プールで燃料束の上部を発見」アーニー・ガンダーセン博士7月1日付動画レポート日本語訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/06/gundersen-7-1/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/06/gundersen-7-1/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Wed, 06 Jul 2011 00:00:36 +0000 <![CDATA[米企業]]> <![CDATA[動画レポート]]> <![CDATA[ガンダーセン]]> <![CDATA[フェアウィンズ]]> <![CDATA[レポート]]> <![CDATA[燃料棒束]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[動画]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[事故]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=339 <![CDATA[出典:Fairewinds http://www.fairewinds.com/ … 続きを読む ]]> <![CDATA[

出典:Fairewinds
http://www.fairewinds.com/content/new-analysis-unit-3-fuel-pool-video-reveals-top-fuel-bundle 

訳注:アーニー・ガンダーセン博士(米Wikipediaより)
アーノルド・「アーニー」・ガンダーセンはエネルギーコンサルティング企業フェアウィンズ・アソシエイツ(Farewinds Associates) のチーフ・エンジニアであり、前職では原子力企業の経営陣を務め、当時より第三世代原子炉であるウェスティングハウス AP1000原発の安全性について疑問を投げかけていた。ガンダーセンはまたヴァーモント・ヤンキー原子炉についても運用上の懸念を表明してきた。同氏はスリーマイル島事故の調査において鑑定人を務めている。


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/06/gundersen-7-1/feed/ 0 genpatsu
「安全神話は日本に核危機をもたらしている」、NYT紙6月24日付記事全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/05/safe-myth-nyt/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/05/safe-myth-nyt/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Tue, 05 Jul 2011 12:00:31 +0000 <![CDATA[米メディア]]> <![CDATA[キャンペーン]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[経産省]]> <![CDATA[PR館]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[安全神話]]> <![CDATA[広報]]> <![CDATA[志賀]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=322 <![CDATA[出典:http://www.nytimes.com/2011/06/25/wor … 続きを読む ]]> <![CDATA[

日本の志賀の原発PR施設では「不思議の国のアリス」のキャラクターによる展示が原発を宣伝している。

出典:http://www.nytimes.com/2011/06/25/world/asia/25myth.html?scp=1&sq=safety%20myth&st=cse

安全神話は日本に核危機をもたらしている
大西 哲光 記者
日本、志賀発

日本海に面したある原発の近くで、大きな広報施設で行われている一連の展示は、「不思議の国のアリス」の童話をテーマに、このエネルギー源のいいところを強調している。その最初の展示室では、白いウサギは:「アリス、大変だ、大変だ、エネルギーが無くなって行く…」と叫んでいる。

そこへ、ドードー鳥のロボットがアリスと見物客に向かって、原子力という名の「エース」が存在し、それはクリーンで、安全で、しかも、ウランとプルトニウムさえ再処理すれば、再利用も可能であると力説している。そこで、アリスはこう言っている:「わあ、そんなことができるの?資源のない日本には最適じゃない?」

過去数十年間、日本の原子力関係産業は大きなリソースを割いて、国民に原子力の安全と必要性をアピールしてきた。原発運行者は大規模で、幻想に満ちた広報施設を建て、観光スポットにしてきた。官僚たちは、原子力の安全性を宣伝する目的のみで設立された沢山の組織を通じて、緻密な宣伝キャンペーンを張ってきた。政治家たちは原子力に好意的な政府認定の教科書の採択を働きかけてきた。

その結果、日本の原発は絶対安全だという「安全神話」が幅広く定着してしまった。欧米諸国がそのエネルギーから距離をとるようになってきても、日本だけはわき目をふらずに原子力を推進してきた。

この堅い信仰があったからこそ、唯一の原爆被害国であるにも関わらず、日本人にはスリーマイル島の事故やチェルノブイリ事故にほとんど無関心でいられる程、原子力に対する許容度が高いのである。福島原発事故の後でさえ、原子力に対する反発は欧米の方が日本より遥かに強かったのである。

福島原発事故の原因追及を続けながらも、日本人の一部は国民心理を深く掘り下げ、今では不合理だと広く思われているこのような信仰を受け入れる国民的傾向を検証し始めている。このような、日本の原発は絶対安全だという広い信仰のために、原発運営業者も原子力規制関係部署も、必要な安全対策や緊急事態用ロボットのような先進技術の導入を疎かにしてきたと専門家と政府関係者が一様に認めている。

「日本には、安全神話というものがあり、日本の原子力発電技術に対する不合理なほどの過信があったのは事実です」と、原子力産業を監督する立場にいる海江田経済産業相はウィーンでのIAEA会議後の記者会見でこう言っている。同大臣は「そのため原子力産業の安全に対する考え方は甘かった」という。

日本政府は過去にも、とりわけ第二次世界大戦中、宣伝と教育の手段を集中させて、このような国民的信仰を作ってきた経緯があった。原子力の振興は戦後日本の経済成長とエネルギー自給の需要から来ている。しかし、慎重に築き上げられてきた原子力安全への信仰が3月11日の災害以来の三ヶ月で崩れ始めた今、日本人たちは「福島」のことで原子力体制を批判し始めている。普通は政治的に無関心のこの国で、何万人もの人々が定期的に反原子力の抗議集会を開いている。若者たちはソーシャルメディアを使ってデモを組織し、喧伝しているが、それらは大手新聞やテレビ局には実質的に無視されている。

「ずっとウソだった」という歌は今や抗議運動のテーマソングになり、インターネット上で日本人たちの怒りの媒体となっている。その作者はシンガーソングライターの斉藤和義で、昨年、資生堂のCMのために作った「ずっと好きだった」という歌の歌詞を変えたものである。斉藤氏が歌うこの歌はこっそりユーチューブにアップロードされ、口コミで広がっている。

その歌詞は「この国を歩けば原発が54基。教科書もCMも言ってたよ。安全です。ずっとうそだったんだぜ。やっぱバレてしまったな。ほんとウソだったんだぜ。原子力は安全です。」とある。

不意をつかれた

福島第一原発の冷却系統が巨大津波にノックアウトされてから数日の間、首相官邸と東電は、恐ろしいメルトダウンを防ぐため、原子炉建屋内に海水を注入すべきかどうか、そしてどうやるのかについて、散々激論を戦わせた。放射線レベルが高すぎて作業員が原子炉に近づけなかった状況で、日本当局はもたついた。暴動鎮圧に使われる警察の放水車で原子炉建屋内に放水したり、自衛隊のヘリで空中から散水し、その水が強風にあおられて的をはずしたりもした。菅首相の側近である松本健一氏によると、これらはあくまでも懸念を強めた日本国民とアメリカ政府を安心させるための「パフォーマンスであり、サーカスの一種」だったという。

ここで明らかになったのは、日本は核危機に対処する基本的ハードウェアに欠けていることであり、初期の抵抗の後、ようやく海外に救援を求めざるを得なくなったことである。技術立国が自慢のこの国の誇りにとって最悪の時は3月31日に、一号機に90トンの水を注入するために、日本の原子力技術輸出相手国である中国から提供された203フィートもある放水ポンプを使わざるを得なかった時である。それよりもっと不思議なのはある特殊技術の欠如であった:緊急作業用ロボットである。

何しろ、日本はなんと言ってもロボット工学に関しては世界のリーダーであり、世界最大の機械労働力を誇っている。その人間型ロボットは両足で歩き、走り、そして歌ったり、ダンスをしたり、ヴァイオリンさえも弾ける。しかし、肝心な「福島」に必要な緊急作業用ロボットは一体どこにあるだろう。

その答えは、原発の運行業者も規制する政府機関も、事故は絶対にありえないと信じ込んで、彼らの目には不要な技術の導入を頑なに拒んできたのである。元東大学長で、エンジニアでもある77歳の吉川弘之氏によると、「原発運営業者は、ロボットは事故を前提としたものなので、必要ではないし、導入するとかえって恐怖を引き起こすから、導入できないと言っていた」。

ロボット工学が専門でもある吉川氏は、スリーマイル島の事故の前から、他の研究者たちとともに原子力事故に対応する緊急作業ロボットを開発し、「MOOTY」という試作品まで作った。彼らのロボットは高放射能にも耐え、瓦礫のなかでも走行できるものであった。

しかし、これらのロボットは生産段階には至らず、そのため、福島原発事故の後、日本はアメリカのマサチューセッツにある「iRobot」社のロボットの緊急輸入に頼らざるを得なかったが、同社はむしろ自動掃除機で名を上げた会社である(訳注:ルンバのこと)。去る金曜日(訳注:6月17日)、東電は原子力事故に対応すべく改造された日本製ロボットを初めて投入したが、すぐ故障して撤収された。

吉川氏によると、ロボットを拒否したことは、保守管理の改善や最新技術への投資に対するこの業界全般の怠慢の一部に過ぎないという。いまは科学技術振興機構の研究開発戦略センター長を務める吉川氏はいう:「だから安全神話とは単なる空っぽなスローガンではなく、新技術導入による進歩を拒絶する固定観念の問題なのです。」

新時代へ

日本人を原子力支持へ駆り立てる試みは原子力時代の黎明期に遡ることができると専門家たちは言っている。 1945年8月、のちに戦後日本で最も強力的総理大臣となる中曽根康弘海軍士官は西日本にいた。 氏は1960年代にこう書いている:「広島から上るキノコ雲を見た。その時、次の時代は原子力の時代だと悟った。」

中曽根氏のような多くの日本人にとり、原子力は至高の目標となり、資源の欠乏で大戦と敗戦に行き当たった日本がエネルギー自立を達成する手段であった。そして、中曽根氏が首相だった1970年代に日本が秘密裏に研究を進めたように、原子力を制御することで核兵器を開発する可能性も孕んでいた。

この原子力と核兵器とのリンクの可能性およびアメリカとの関連があったからこそ左派の政治家、学者とインテリ層が激しい原子力反対の急先鋒となったのである。その対策として、原子力賛成派はその絶対的安全性を強調して来ており、両派ともそれぞれ極論に走り、その対立は今日まで続いた。

東電と経産省を頂点とする原子力推進派は、原子力安全を強調する広告や教育プログラムに数百万ドルを注ぎ込んできた。同省の原子力発電立地対策・広報室長の杉本孝信氏によると、今年だけでもこれらのプログラムに1200万ドル(訳注:約10〜12億円)もの予算が計上されている。同省が今まで原発の安全性しか強調して来なかったことについて、杉本氏は「遺憾」の意を表した。

政府と電力会社はこの安全のメッセージを広める多くの組織の設立を進めてきた。その中でも最も古株の「日本原子力文化振興財団」はその資金の40%を原子力行政担当の二つの省に仰ぎ、60%を電力会社に頼っている。原子力振興関係資料を発行するほか、同財団は中学、高校や大学に専門講師を無料で派遣している。

同財団の常勤専務理事、関西電力出身の横手光洋氏、67才、も、専門家たちは今まで原発は絶対に安全だというメッセージを伝えてきたことを認め、同財団がこの安全神話に加担したことを「遺憾」に思うと言った。

反射的に政府を信用する国民性で知られるこの国で、このような原発の安全性に対する保証は、最も危険に晒されている人々さえも安堵させるのに充分であった。原発建設が進行している北日本の大間という漁港では、原発計画が検討されていた1980年代にはチェルノブイリの事故は地元の人々にはまったく影響を与えていなかった。大間の漁業組合員の高橋マサル氏、67才、はこういっている:「政府が言うことを信用する他に何ができるというのです? 私たちは絶対に安全だと言われていたのです。」

広報キャンペーンの嵐

チェルノブイリ事故の後、原子力関係者は日本国民が安全を信じ続けることに腐心した。

電力会社は各原発に付属する「PR館」と呼ばれる広報施設を建てたり、改装したりした。このような施設を調査した天理大学の民族学者の住原則也によると、チェルノブイリの前では、これらのビルは単に「技術問題に興味を持つ成人男性たち」にアピールすることを目的にしていた。そこでは、作業服に身を包んだ男性のガイドが見学者を案内していた。しかしチェルノブイリの後では、これらの施設は、原発と放射能にもっとも懸念を抱くと見られる若い母親たちを対象にした緻密なテーマパークに改造されたと住原氏は指摘する。参観者を安心させるために、わざわざ子供を生む年齢の女性をガイドに雇うほどの念の入りようであった。

同じく北日本にある東通では、全国でも最も新しい「PR館」は小人が住む森トントゥーをテーマとしている。このビルを東電とともに運営している東北電力の及川ヨシキ氏によると、同ビルでは子供たちやその親向けにアニメキャラクター中心のイベントも開催している。

ここ志賀では、アリスが原子力の素晴らしさを発見している「PR館」に昨年の一年間に十万人が訪れた。芋虫がアリスに放射能を説明し、チェシャ猫は彼女にエネルギー源について教えている。ウサギの穴へ落ちる代わりに、アリスはキャンデイを食べて小さくなり、近くにある志賀原発の1:25縮尺の模型に入ってゆく。

同ビルのガイドを務める本田アスカさん、27才、によると、福島原発事故以来、見学者はしきりに原子力の安全性に質問するようになった。その多くは妊娠中の若い女性たちであった。しかし、本田さんのような若い女性ガイドたちがいることで大分安心させる効果があったようである。

一方、原子力体制派は、政府公認の教科書が原子力安全に疑いを持たせうるような情報は十分に強調しないように仕向けた。国会では、このようなキャンペーンは元東電副社長で1998年に国会議員に当選した加納時男氏が推し進めた。この記事のための取材を辞退した加納氏は、議員を引退した昨年から東電に顧問として復帰している。

2004年に、加納氏とその他の原子力推進派の影響で、文部省は認可する前の教科書の手直しを命じた。ある中学社会学科の教科書では、ヨーロッパで高まっていた反原発運動への言及が削除され、別の教科書では、チェルノブイリの言及は脚注に移動させられた。

この結果、世論調査では、 福島事故の後でも最も原子力を支持しているのは若い日本人たちであることが分かっている。

日本の原子力史について本を著し、福島事故を調査するために首相が設立した東京電力福島第一原子力発電所の事故調査・検証委員会のメンバーでもある吉岡斉教授によると、「原子力体制派は自らの安全神話を信じ込むようになり、自らの網に絡まれてしまったのだ」という。吉岡教授によると、このために、まさに津波に襲われて発生した福島原発の全電源喪失という事態に対する緊急対策を東電は取れなかったのである。 また、この原子力体制派の安全神話そのものから、日本の原発の安全対策の最も大きな穴を見ることができるという人もいる。 世界にツナミという国際語を与えたこの国においては、福島第一でも他の原発においても、巨大津波への対策があまり取られていない。ドードー鳥も芋虫もアリスに津波については教えていないのである。

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/05/safe-myth-nyt/feed/ 5 genpatsu PR館
「福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響」4月4日付IRSNレポート全訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/03/irsn-rapport-avril/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/03/irsn-rapport-avril/#comments <![CDATA[genpatsu]]> Sun, 03 Jul 2011 12:00:45 +0000 <![CDATA[IRSN]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[プルーム]]> <![CDATA[ヨウ素]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[野菜]]> <![CDATA[食物]]> <![CDATA[動物]]> <![CDATA[原発]]> <![CDATA[堆積物]]> <![CDATA[汚染]]> <![CDATA[汚染水]]> <![CDATA[沈殿]]> <![CDATA[海洋]]> <![CDATA[海流]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=296 <![CDATA[IRSNレポート:福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

IRSNレポート:福島第一原子力発電所での事故による放射性物質放出の海洋への影響
2011年4月4日

数日来、福島第一原子力発電所近辺における海水に対する措置は、同発電所での事故の際に放出された様々な放射性物質による海中の強い汚染を明らかにしている。一般的に、海洋での放射能汚染は、一部は発電所からの直接の汚染水の流出によるものと、そして大気への放出に続いて雨によって洗い流され地面に積もった放射能汚染物の河川を通しての移動、そして最後に事故の起こっていた長い期間に、気流によって海側に向けられていた放射性プルーム(訳者注:気体状の放射性物質が大気とともに雲のように流れる「放射性雲」)中の一部の放射性核種の海洋への降下によるものである。これらの放射性物質の一部は水溶性であり、それらは海流によって移動するであろうし、とても広範囲に海洋の水塊の中で分散するだろう。そのほかのものについては、水中で太平洋の海底に比較的容易に沈殿した後、沈殿性の汚染を引き起こす強固な粒子となって固定化する傾向にある。半減期が短い放射性物質、ヨウ素131 (131I)のようなものは数カ月の間に検出されなくなるだろう。(ヨウ素131の放射能は10半減期すなわち80日ごとに1/1000ずつ減少している。)その他のもの、ルテニウム106(106Ru)やセシウム134(134Cs)は数年にわたり海洋環境にとどまり続けるだろう。セシウム137(137Cs)は半減期が長く(30)、おそらく堆積物の中にセシウムが存在するであろう日本の沿岸地帯で長期間の注意深いフォローアップが行われることが正当化されるだろう。現時点では認められていないが、もしプルトニウムが海への流出したものの中にあったら、それについても同様である。

これらの放射性核種の残留とそれらの異なる濃度に応じて、野菜や動物が著しいレベルで汚染させる可能性があり、最も影響を受けている日本の沿岸部からの海産物に対して一連の放射線医学的な監視を行うことを正当化している。

1 放射性物質の半減期とは、放射性核種の放射能が半分になるまでの期間である。

1.海洋での汚染源

数日来、放射性汚染は福島第一原子力発電所の近隣や比較的離れた地域の海洋中で観測されている。海水で定期的に測定された主要な放射性物資は、ヨウ素(T=8日間)、セシウム137(T=30年間)、セシウム134(T=2.1年間)、セシウム136(T=13.1日間)、テルリウム132、ヨウ素132(T=78時間)(T=半減期)。その他のものもまた弱い汚染だが、次のように測定された:テリウム129m、テリウム129(T=33.6日間)、バリウム140/ランタン140(12.7日間)、ルテニウム105(T=4.4時間)、ルテニウム106(T=368日間)、モリブデン99/テクネチウム99m(T=65.9時間)、コバルト58(T=70.9日間)。

この放射能汚染には、考えられる3つの汚染源がある。事故の起きた発電所からの放射能汚染水、海表面への大気中降下物、汚染された土壌の除染による放射能汚染の移動。

1.1.事故の起きた原子炉付近での海洋へ直接的な汚染水流出

福島第一原子力発電所の近辺の海水中で測定され上昇した放射線濃度は、原子力発電所からの汚染水の漏洩源が一つあるいはいくつか存在することを示している。おそらく事故の起きた原子炉を冷却するために使われた水が問題であり、その一部は大気中に放出された際に形成された放射性物質によって汚染された表面に流れた。また、事故の起きた原子炉の中に存在している水(とりわけその低部を損傷している2号機)の一部が海のほうへの流れによって、囲いの外側へ流れた可能性がある。現在、海への液体流入の深刻さおよび期間も数量化することはできない。この液体流出の影響は、3月21日以来原子力発電所の近辺では観測されていた(137Cs で1484 Bq/L、131Iで 5066 Bq/L)。それから海水中での濃度は、3月25日から28日の間に増加した(137Cs で12,000 Bq/L、131Iで74,000Bq/Lまで)。新たな増加は、3月29日と30日の間に観測された(137Cs で47,000 Bq/L、131Iで180,000Bq/Lまで)。比較として、福島の事故の前には、日本の沿岸の海水中におけるセシウム137の濃度は数ミリベクレル/L(1~3mBq/L)で、ヨウ素131は検出されていなかった。

この沿岸の放射能汚染は、3月28日からとりわけ3月29日に岩沢(事故のあった発電所の南に約20キロメートル)でおよそ10倍のヨウ素131とセシウム137による汚染の増加とともに、3月25日から28日の間、南のほうに広がった。これらの濃度はおそらくこの場所で上昇し続けるだろう。

この海岸に沿った汚染の連鎖は、海岸に平行した往復流を引き起こしている潮の大部分に起因している。この汚染はおそらく福島第一原子力発電所の北にもまた広がっている。

1.2 海表面への大気中降下物

3月12日以来、福島第一発電所の爆発と原子炉格納容器の減圧によって引き起こされた大気への放出が海の上にばらまかれた。放射性プルームに含まれた放射性核種の一部は海上表面に再び降下し、数十キロメートルの河川の表面の水の汚染を急速に引き起こしている。これらの放射性降下物は現在のところ続いているが、事故当初の数日間より深刻でなくなってきている。

沖合い30kmのところで測定された濃度はおそらくこれらの沈殿物の結果である。それらは、セシウム137で2~27Bq/L、ヨウ素131で3~57Bq/Lになっている。

3月25日の測定は、これらの濃度の減少を示しているように見える。より深い水と混ざった(希釈の効果)結果にせよ、水流による表面の水の入れ替えによるものにせよ。最初の仮説のほうがよりありえる仮説である。

1.3 汚染土壌の洗浄による放射能汚染の移動

福島第一発電所からの放出における大気中散乱の際に陸上に積もった放射性堆積物は、部分的には雨水によって除去され、またこうして直接的な海への流れによって、あるいは海に合流している水の流れを経由して移動する可能性がある。汚染されて排水された地表はこうして数千キロ平方メートルに相当している可能性がある。稼働している測定ではこの拡散された量と他の放射能汚染源からの放射性核種とを区別することはできていない。

2.放射能汚染の海洋での拡散

2.1日本の海岸沖での海底地形図と海流

福島の発電所は本州の東海岸に位置し、東京から北西200kmにある。海岸は南北にわたっていて、太平洋に面している。深さは海岸から200mから50kmに達し、沖に向かって不規則に深くなっている。それは100km向こうでは、5000m以上と急激に深くなっている(図1)。

図1 日本の地形図と東沿岸沖での東海岸沖での測深図2 太平洋北西部における表面の流れ(http://www.hycom.org/)

図1 日本の地形図と東沿岸沖での東海岸沖での測深

現実的に、放射線汚染の影響を受けている地帯では、海流は潮や風、太平洋の一般的な循環によって生成されている。短期的には、潮の効果は重要である。潮は、北のほうや南のほうの海岸に沿った周期的な動きにより、およそ毎秒1mの速度と12時間の周期で、水全体を置き換えている。風は表面の水の流れに影響を及ぼしている。

より大規模で一般的な循環は、日本海岸沿いにある南からの黒潮海流とそれほど重要ではない北からの親潮海流の相互作用の結果である(図2と3)。黒潮海流の激しさと規模は湾流にも匹敵しうるものである。福島第一発電所近くの沿岸水はこれら二つの海流がぶつかり合う地帯にあり、弱くて不安定な旋回流を引き起こしている。中期的に放射能汚染の分散にとって決定的な役割を果たすのはこれらの海流である。

図3 太平洋北西部における表面の流れの観測、黒潮(赤線)は南西から東に流れている。

図2 太平洋北西部における表面の流れ(http://www.hycom.org/)

図3 太平洋北西部における表面の流れの観測、黒潮(赤線)は南西から東に流れている。

(http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2011cal/cu0/qboc2011060cu0.html)

2.2 中期的あるいは短期的な分散(数日単位)

ヨウ素131とセシウム137の濃度は、海で測定された放射性核種の全体の濃度を示している。図4~13の表はこれら二つの放射性核種の海水中で行われた測定の結果を示している。

海岸沖での海の顕著な深さと弱い海流は、水塊の層を引き起こしている。海岸近くの深さ20~50mの表面層はその深さの層全体で放射性核種を混合するであろう。この層は、沖のほうで100のメートルの深さに達している可能性があり(出典:公共利益団体メルカトル)、混ざり合うことを制限している濃度の勾配により、より深い層と分離されている。溶け込んだ放射性核種の拡散は第一に表面層で起きている。放射性粒子は堆積して底のほうで海外に広められるであろう。

図4 3月21日に測定された濃度

図4 3月21日に測定された濃度

図5 3月22日に測定された濃度

図5 3月22日に測定された濃度

図6 3月23日に測定された濃度

図6 3月23日に測定された濃度

図7 3月24日に測定された濃度

図7 3月24日に測定された濃度

図8 3月25日に測定された濃度

図8 3月25日に測定された濃度

図9 3月26日に測定された濃度

図9 3月26日に測定された濃度

図10 3月27に測定された濃度

図10 3月27に測定された濃度

図11 3月28日に測定された濃度

図11 3月28日に測定された濃度

図12 3月29日に測定された濃度

図12 3月29日に測定された濃度

図13 3月30日に測定された濃度

図13 3月30日に測定された濃度

この放射能汚染の海への拡散のシミュレーションは、3月14日から4月5日までの期間でSIROCCOのグループによって作成された。それは、放射性核種の分散による短期的に影響を受ける地帯を示している。これらの濃度は参考までに示されていて(図14、15)、というのは事実、福島第一発電所による放出された排水量についても、大量の海上への放射性降下物についても利用できるデータがない。しかしながら、これらのシミュレーションはその分散に応じて、放射能汚染の希釈の効果を推定している。

図14 4月4日時点での海への汚染水拡散のシュミレーション

図14 4月4日時点での海への汚染水拡散のシュミレーション

図15 4月4日時点での海への大気中降下物の拡散のシミュレーション

図15 4月4日時点での海への大気中降下物の拡散のシミュレーション

2.3 中期での拡散(数週間、数か月単位)

福島の東に位置する旋回構造は不安定である。それらは北緯35度30分と38度30分の間の水面をかき回している(図15)。この緯度の間に位置する沿岸部の全体あるいは一部が放射能汚染の拡散によって影響を受けるのは必至である。長期での水表面の変動は東京の緯度は超えないが南のほうまで行くだろう。その時黒潮は太平洋の中央まで放射性プルームを運ぶだろう。放射能汚染のこの変動のシミュレーションは公共利益団体メルカトルによって作成された(図16)。このシミュレーションにより、福島第一発電所付近の海水に溶け込んだ放射性核種はこの図に赤で示されている線に従って90日間流れ込むであろう。シミュレーションは、沿岸流が汚染された水を黒潮(太白線)まで運ぶことを示しており、この海流の北で拡散される。

図16 放射能汚染の漂流のシミュレーション(公共利益団体 メルカトル)

図16 放射能汚染の漂流のシミュレーション(公共利益団体 メルカトル)

海への異なる放出源がもっと見積もれれば、海上拡散のシミュレーションは中期的な放射性核種の濃度の広がりの見積もりを改善できるに違いない。

2.4 長期的で大規模な放射能汚染の生成

表面の水の滞留時間

半減期が短い放射性核種(数十日以下)はもはや数ヵ月後には発見はされず、従って長期で影響を与えることはないだろう。その他のもの、ルテニウム106、セシウム134のようなものは、数年間、海中で存在し続け、放射能の自然減少によって消滅するであろう。太平洋の水面でのセシウム137の滞留時間は、地域に依って11年から30年と様々である(平均的な緯度の地帯では10年間、赤道地帯では30年間)。プルトニウムの同位体に関しては、海への放出物の中に存在していると仮定すると、これらの期間は5~17年間である(最も短い期間は平均的な緯度で計測されている)。これらの滞留時間は水中を漂う粒子それぞれの放射性核種の類似性に依っている。それらは大西洋海底に放射性核種を運びこみ、堆積する可能性がある。

移動時間

北西大西洋と赤道の間の移動時間は、約10-15年と見積もられている。北大西洋の海水の一部は、インドネシアの海を経由してインド洋に向かい、それから大西洋の南に移動する。これらの移動時間は、約30-40年間と見なされている。

現在まで、科学は赤道の海流システムにより形成された重要なバリアのおかげで、北太平洋と南太平洋の間で交流はなかったと見なしていた。タスマニア海でのセシウム137(北半球での大気中の核降下)の軌跡の測定では、このバリアは完全には防水になっていず、交流は北-南間、太平洋の西の一部で起こることが可能だったということを示している。

  1. 生物への放射能汚染の影響

短期的には、福島第一原子力発電所近くの沿岸領域の海洋の栄養の連鎖の環全体は、海水の放射能汚染によって影響を受ける恐れがある。さしあたり、この影響の重要性を数量化するのは難しく、以下のものによってとても変化しやすい可能性がある。

– 発電所からの放射性汚染水の大きさと継続

– 海上への大気降下物

– 汚染土壌を排水する水路測定網による放射性核種の量

– 沿岸での水流の入れ替えなど

原子力発電所近くの沿岸に位置する養殖場(海藻、軟体動物、魚)に特別な注意を向けなければならない。たとえこれらの施設が3月11日の津波によって甚大な害を被ったとしても。

ヨウ素は、日本で重要な産業の対象となっている褐色の海藻類にとって、強い類似性がある。従って、放射性ヨウ素とりわけヨウ素131によるこのタイプの海藻を汚染するリスクが存在する。しかしながら、この放射性物質半減期の短さによって、このリスクは数カ月間しか意味はないだろう。

より長期的には、執拗な放射能汚染により影響を受けるかもしれないのは、汚染された盆地斜面の洗浄による放射性物質の移動によって影響を受ける沿岸部である。汚染された堆積物の現象は、等しく水や生物においていくつかの放射性核種の著しい濃度のレベルを維持することに貢献するかもしれない。

生物体内での蓄積現象は水中で測定された濃度より高い濃度、放射性核種や影響を受けやすい種によって濃度因数は10から数1000になるかもしれない(生物種と海中の単位質量当りの濃度の関係)。堆積物の容量はそれぞれの生物種の代謝に依存する。例として、セシウムでは、濃縮因数は軟体動物や海藻では50、魚では400と様々である。ヨウ素では、魚では15、海藻で10,000となっている。

これらの蓄積現象は、地理学的な地帯での放射線医学的な監視プログラムの実施を正当化しうるものである。その広範さは、直接的にあるいは間接的に人間の食物連鎖に入り込んでいる野菜や動物を含む予測的な性格を持った地図作製法の研究によって明確になるに違いないだろう。


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https://genpatsu.wordpress.com/2011/07/03/irsn-rapport-avril/feed/ 2 genpatsu 図1 日本の地形図と東沿岸沖での東海岸沖での測深 図2 太平洋北西部における表面の流れ(http://www.hycom.org/) 図3 太平洋北西部における表面の流れの観測、黒潮(赤線)は南西から東に流れている。 図4 3月21日に測定された濃度 図5 3月22日に測定された濃度 図6 3月23日に測定された濃度 図7 3月24日に測定された濃度 図8 3月25日に測定された濃度 図9 3月26日に測定された濃度 図10 3月27に測定された濃度 図11 3月28日に測定された濃度 図12 3月29日に測定された濃度 図13 3月30日に測定された濃度 図14 4月4日時点での海への汚染水拡散のシュミレーション 図15 4月4日時点での海への大気中降下物の拡散のシミュレーション 図16 放射能汚染の漂流のシミュレーション(公共利益団体 メルカトル)
「福島・汚染水処理施設のバグ?」、仏Rue89誌記事訳 https://genpatsu.wordpress.com/2011/06/22/bug-fukushima/ https://genpatsu.wordpress.com/2011/06/22/bug-fukushima/#respond <![CDATA[genpatsu]]> Wed, 22 Jun 2011 13:03:08 +0000 <![CDATA[仏メディア]]> <![CDATA[アレバ]]> <![CDATA[コリウム]]> <![CDATA[ストロンチウム]]> <![CDATA[セシウム]]> <![CDATA[福島]]> <![CDATA[除染]]> <![CDATA[共沈]]> <![CDATA[汚染水]]> http://genpatsu.wordpress.com/?p=289 <![CDATA[出典:http://www.rue89.com/planete89/2011/0 … 続きを読む ]]> <![CDATA[

出典:http://www.rue89.com/planete89/2011/06/18/nucleaire-cest-quoi-ce-nouveau-bug-a-fukushima-209898

アレバ汚染水除去プラント

アレバ汚染水除去プラント (c) AREVA/VEOLIA WATER

福島・汚染水処理施設のバグ?

ソフィ・ヴェルネー・カヤ記者
2011.6.18 17:46

(訳注:この記事は18日当時の状況についての説明記事であり、22日現在は同施設の試験運転は再開している)

福島原発事故から3ヶ月経った先の土曜日には除染作業の段階に入るはずだった。しかし、想定外の高い放射線量が検出されたせいで、作業はストップされた。

たったの5時間で、蓄積された放射線量は4 mSvに達した。これは現場にいた業者の計算では一ヶ月で達することになっていた値である。東電はこの予想外の事件の原因調査のため、作業を中止すると発表した。

3月11日の地震と津波のあと、冷却系統の故障で、あらゆる手を尽くして原子炉を冷やすことが最優先課題であった。水を確保するため、ヘリ、消防ホース、そして終いには海水導入まで試みられた。

合計で、約10万トンの放射性汚染水がまだ格納容器に入っているようである。作業員が作業に戻るためにはこれをどうにかして処理しなければならない。欧州議会議員であり、CIIRAD(放射能に関する独立研究情報委員会)の創始者でもあるミシェル・リバシ氏は日本から戻った後に、今後の作業の状況を説明してくれた。

「この放射性汚染水の処理は大きな問題であり、それができない限り、その水の一部は太平洋に流され続けるでしょう。そして、この汚染水が存在するせいで炉心に近づくことができなくなっています。したがって、溶けた燃料がどんな状態にあるか、コリウムがどこまで広がっているも分からないのです。」

アレバは除染作業を始められない

四月のはじめ、東電はフランスの大手原子力メーカーのアレバを始めとする専門企業にこの放射性汚染水の除染をおこなうプラントの組み立てを要請した。アレバのスポークスマンによると、これらの企業の作戦計画はおおよそ下記の通りである。

  • 先ずは油除去である。水は現場にあった様々な液体と混ざっており、油っぽくなっている。東芝はこの放射性水の分離を行った。
  • 次に予備除染:アメリカの会社Kurionは、セシウムの一部を吸収することで、水を予備除染することになっていたが、それを行う塔の調整が上手く行かず、これだけの度合いの放射能を捌ききれなかった。
  • アレバとVEOLIA WATER(フランスの水処理企業)は共沈という作業を行うはずであった。これは試薬を注入して残りのセシウムとストロンチウムを捕捉することである。放射性粒子はこれで汚泥に固まり、廃棄物として処分される。
  • 日立は回収された海水の除塩を行い、この水がその後、循環回路で冷却系統に再利用できるようになる。

この除染プラントはすべての希望を集めていた。アレバの説明では、これで水の放射線量は一千から一万倍薄まるはずであった(あくまでも理論上ではあるが)。いまでは、Kurion社がこの特殊な放射能環境に適する部品を見つけてくるまでは、プラント全体は停止したままである。それとともに、事故処理の再開も不可能となっている。

 

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https://genpatsu.wordpress.com/2011/06/22/bug-fukushima/feed/ 0 genpatsu アレバ汚染水除去プラント