【特別企画】
【アストロシティミニ全タイトルレビュー】「アラビアンファイト」
次世代のベルトスクロールアクションに挑戦した意欲作!!
2020年12月11日 00:00
アストロシティミニの収録タイトルの中には、アーケードの稼働のみでこれまで1度も移植されたことのない幻のタイトルも収録されている。その内の1タイトルが1991年に稼働した「アラビアンファイト」である。
タイトルからもわかると思うが、本作はアラビアンナイトの世界観をモチーフにしたベルトルクロールアクションゲーム。80年代後期~90年代初期にかけてアーケードシーンの中心にあったジャンルだ。
ベルトスクロールアクションのファンとしてもちろん「アラビアンファイト」の存在自体は知っており、1度でいいからプレイしたいと思っていたが、現実的に考えて移植などはされないだろうと諦めていたタイトルだった。それだけにアストロシティミニに収録されるのを知ったときは心が躍った。
プレーヤーは4人の戦士から1人を選択し、迫りくる敵を倒しながら、魔王サザビスに連れ去られたルラーナ姫を救い出すのがこのゲームの目的だ。ステージ全般通してアラビア感全開の作風で、絨毯に乗って進むステージなどもあって本作独自のカラーが色濃く出ている。
使用するボタンは攻撃とジャンプの2つのみで、それらの組み合わせで投げ、ジャンプ攻撃、必殺技などのアクションを繰り出すことができる。簡単操作で敵の群れを蹴散らせるのが痛快だ。
ゲーム性自体は至ってオーソドックスなベルトスクロールアクションだが、本作の特筆すべき点は“演出などの見せ方の斬新さ”に尽きる。
このゲームでは拡大縮小機能を余すことなく利用しており、キャラクターが手前側に来ると大きく拡大表示され、逆に奥側へ移動するとどんどんキャラクターが縮小されていく。この手法により、これまでのベルトスクロールアクションのように”奥行きがあっても平面的に見える”というものではなく、リアルな奥行き表現を実現しているのだ。
意欲的な新しい手法はこれだけではなく、ゲーム中にアニメカットインを盛り込んでいるのも驚きのポイントだ。
先の奥行の表現もそうだが、本作は4:3の限りある画面スペースの中でいかに広い空間・世界観を作り出せるかに注力している。敵の出現演出にも力を入れており、画面手前に背を向けた敵キャラクターのアニメカットが差し込まれ、そのまま中央に向かって飛び込んでステージにフェードインしてくるのだ。画面外にも世界の広がりを感じさせる表現は、他のメーカーでは考えつかない発想力である。
魔法を繰り出す際には主人公たちのアニメーションもカットインする。画面手前に飛んできてカッコ良く魔法を放ち、撃ったらそそくさとジャンプで中央に帰っていく姿は慌ただしくも見ていて面白い。ちなみに敵にやられたシーンに入るアニメーションもやたらと力が入っている。
映像面では見ていてとてもワクワクさせられる「アラビアンファイト」。ゲーム自体はというと、全体的に1ステージがとても短い構成になっていて非情にテンポの良い作りになっている、しかしその反面、息つく間がなくボス戦の連続になるのでかなり難易度が高く、連コインは必至である。
問題点もあり、プレイしていて気になったのは拡大縮小の絡みなのかわからないが、攻撃が敵に当たってる位置にも関わらずヒットしなかったり、逆に明らかに当たらない位置で敵の攻撃を食らったりと、攻撃の当たり判定がかなり怪しいバランスになっている。
さらに、本作では画面のスクロールがプレーヤーキャラが中心ではなく、敵を中心にスクロールしていく。なので、敵が端に移動してしまうとアイテムを取り逃してしまうこともしばしば。
新しい要素がこれでもかと盛り込まれ、ベルトスクロールアクションの進化を垣間見えたが、90年代中期にはベルトスクロールアクションというゲームジャンルが下火になってしまい、これらのシステムが後の作品に活かされることがなかったのは残念でならない。
ゲームとしては粗削りな部分も多いが、意欲に満ちたこの作品に触れられて筆者的にはとても満足である。大げさに聞こえるかもしれないが、この時代に基板を購入する以外で「アラビアンファイト」が遊べるのは正直奇跡と言っても過言ではない。本作目的だけでアストロシティミニを購入する価値はある。
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