数多くのオーバードライブ系ブティックペダルが世を席巻するようになりずいぶん経ちますが、ここ数年「トランスペアレント系」と呼ばれるオーバードライブが人気を博してきています。その名の通り”透明感”を感じる歪みという意味合いですが、具体的に言い表すとすれば「アンプとギター本来の音を変えてしまうことのない、味付けの少ないピュアなオーバードライブ」といったところでしょうか。
昨今、原音をあまり変化させないクリーンブースターなどの機種が市場に溢れてきていますが、そのような「原音を崩さない」というスタンスのエフェクターは、ますます増えるばかりです。現代で好まれるのは、80年代ごろに多かった、中域や高域にクセのあるいわゆるエフェクターっぽい音ではなく、アンプそのものにより近く、低域から高域までしっかりと再現できるレンジの広さを持ち、ピッキングのタッチやギター側ボリュームの変化などに敏感に反応できるナチュラルな音色。
トランスペアレント系オーバードライブではどの製品でも一貫して、アンプ感を損なわない、というところが大きく取り上げられますが、まさにこのような潮流の中で生まれてきた歪みペダル達と言えます。また、その多くがゲインを下げるとクリーンブースターのようにも使うことが出来、様々な用途に使える取り回しの良さを備えているのも人気の一因でしょう。
2013年頃から評判が高くなったエフェクターがあります。Paul Cohcrane(ポール・コクレーン)の「Timmy Overdrive」です。Timmyは先んじてアメリカ本国で大流行し、その後日本に少しずつ上陸してきました。コクレーン氏はもともとアンプのデザイナーであり、エフェクターを作る際、自分の作ったアンプの良さを最大限発揮できるように作り上げたのでしょう。
このエフェクターはTrebleとBassの回路がパッシブタイプとなっています。すなわちカットは出来てもブーストは出来ない仕様になっており、さらにこの2バンドEQを配置する場所をGainの後段にして、ナチュラルな変化になるよう作られています。モードを選択するディップスイッチが付いており、音に掛かるコンプレッションを3段階で制御できるのも特徴です。
このTimmy Overdriveは、極めて原音に忠実でレスポンスが非常に良いオーバードライブとして評判を呼び、じわじわと日本でも売れ続け、いつの間にか定番オーバードライブの仲間入りを果たしてしまいました。それまで、これほど原音に忠実なエフェクターが滅多に無かったという証明でもあるでしょう。このエフェクターが現在トランスペアレント系と言われるもののはしりとされています。
上での説明の通り、レスポンスが良く過度な味付けが無い、というものが当てはまります。Timmyがそうであるように、高域と低域のレンジが広いという定義もできるでしょう。定義自体は曖昧なものなので、ゲイン幅に関してはほとんど歪まないものから、よく歪むものまで様々。性質上、アンプをプッシュするためのブースターとして使われることが多い分野ではありますが、ある程度のゲイン幅のあるモデルであれば、メインの歪みとして単体でガンガン使うことも出来ます。
また、前述の通り、単体でクリーンブースターのように使用できるものが少なくないので、非常に幅広い用途をこなせる万能選手でもあります。
トランスペアレント系オーバードライブと言われているエフェクターをいくつか紹介していきます。現行品として手に入りにくいモデルもいくつか存在します。
Timmyの産みの親ポール・コクレーン氏とのコラボレーションによって誕生した、「Timmy」の後継機種。MXRのミニサイズの筐体に Timmy Overdrive のコントロールとサウンドをそのまま詰め込んでおり、オリジナル同様のサウンドが得られるだけでなく、コストパフォーマンスに優れ、エフェクターボードにも収まりやすいサイズになっています。Timmyのサウンドを求めている人はもちろん、トランスペアレントな歪みの入門機としても最適な一台です。
マイケル・ランドゥの使用で一気に知名度を上げ、爆発的な人気を獲得した和製ハンドメイドエフェクター。60年代のFender Blackfaceの音を目標として制作されています。ゲイン幅は最大でそれなりのオーバードライブトーンが得られますので、ハードロックまでは無理としても、フュージョン系の演奏程度なら十分に対応できます。艶やかでクセの無いドライブサウンドは、さすがに凄腕スタジオミュージシャンに認められるだけのクオリティを持ち、設計者の思惑通り、真空管アンプとの組み合わせでは絶品のトーンをたたき出してくれます。
反面、JC-120のようなトランジスタアンプとの相性はそれほど良くないので、トランジスタを使う前提ならば他の選択肢が無難かもしれません。
フィンランドの人気ブランドMad Professorの送るトランスペアレント系オーバードライブ。GainとVolumeにTreble/BassというTimmyと同様の4ツマミ仕様で、トランスペアレント系の中では幅広いレンジでゲインが変えられるのが特徴です。ゼロでクリーンブーストになり、そこから上げていくと、かなりしっかりしたオーバードライブサウンドまで歪んでいきます。コンプ感はやや強めで、ゲインを上げていくと中域が若干強調されるような印象もありますが、あくまでも透明感のあるサウンドです。
Mad Profsessor「Royal Blue Overdrive」
アメリカの人気ブランドJHS Pedalsのオーバードライブ。Volume、Drive、Toneという3つのつまみに加えて、ハイカットのスイッチが付いています。ピッキングの強弱に極めて敏感に反応してくれるところは特筆すべき点で、ゲイン幅が狭いぶん透き通った音が特徴であり、クリーンブースターとしても非常に優秀。トーンは上げてもキンキンせず、ジャキットした成分だけが強調されてきます。ハイカットは劇的な効果は得られませんが、耳に痛い成分だけを溶かすような効果が得られます。電池駆動出来ないのが玉に瑕。
ちなみに、OASISの名盤と同じ名前ですが、単なる「朝顔」という意味以上ではないようです。
惜しまれつつ生産が終了した同社製のトランスペアレント系ペダル、「Mayflower」のサウンドを継承した、同じくトランスペアレント系のオーバードライブ・ペダルです。基本的な操作系統はゲイン、ボリューム、高/低音域をカットする2バンドEQと、Mayflowerからの変更はありませんが、サウンドのキャラクターを変化させる2ポジション・トグル・スイッチが追加されています。
上のポジションでは強いコンプ感とブルージーな歪みを持ちつつも、音が潰れず透明感が特徴的なMayflower譲りのサウンドが得られます。下のポジションでは、上のポジションとは対照的な明るくオーガニックでハリのあるサウンドを得ることができます。1台に2種類の高品位なトランスペアレント系の歪みを搭載した、シチュエーションに合わせたサウンドのスイッチングも簡単にできる便利な1台です。
エレクトロ・ハーモニクス社の公式の説明によると、リッチな倍音成分とレンジの広さを備えるオーバードライブ。その説明どおり、非常に煌びやかな倍音と、ピッキングのダイナミクスまで綺麗に再現するレスポンスの良さを備えています。恐らくTimmyを意識したのは間違いないと思われますが、普通のトランスペアレント系とは違い非常に広いゲイン幅を持つので、前段にかますクリーンブーストから単体でのハードなドライブサウンドまで、ガンガン使っていける懐の広いオーバードライブと言えます。
ブティック系ペダルが群雄割拠する中で、1万円代前半の価格は非常に魅力的です。(なおJHS Pedalsにも同名のエフェクターがありますが、関連性は無い模様)。
ブティック系ペダル・ブランドの先駆けとなったANALOG.MANとMXRの共同開発によって誕生したオーバードライブ・ペダルです。TSよりオープンな響きを目指して設計されたANALOG.MANの名機「King of Tone」をベースとしており、手元のニュアンスやギター、アンプのキャラクターを活かす素直なトーンが持ち味の一台です。歪みのキャラクターを決定するクリッピングの方式を選択するトグル・スイッチも搭載されており、1台で3段階の歪み量を切り替えられるため、シチュエーションや求める音色に合わせて柔軟に音作りができるのも嬉しいポイントです。メインの歪みにも、ブースターにも最適です。
往年の名機を手頃な価格で再現するWarm Audioからリリースされたトランスペアレント系のペダルです。近年ではラック系の機材だけでなくギター向けペダルの製造にも力を入れており、本機はトランスペアレント系ペダルの草分け的存在であるHermida AudioのZendriveをモデルとしています。ルックスやコントロール、そして何よりサウンドについてもまさに瓜二つで、ダンブルを感じさせる独特なロー・ミッドなど、非常によく再現されています。価格については実売2万円強(2024年5月時点)となっており、高値で取引されているオリジナルに対して手に入れやすいのは大きな魅力です。
トランスペアレント系ペダルをいくつか紹介していきましたが、色々な機種を見てみるとわかるように、音色的には、「クセがなくアンプとギターの良い部分を崩さない」という原則は守りながらも、その中でモード切替やゲイン幅、変化させられるEQの帯域など、各社それぞれの個性を競っているような印象です。人によって欲しい音は千差万別。自分に合ったものを探してみるのも面白いのではないでしょうか。
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