300km/hという超高速域で戦うレーシングドライバーにとって、「目は命」だ。どんなトレーニングで視る力を鍛えているのだろうか。それはきっと、老化による目の衰えを感じる中高年ドライバーにも参考になるはずだ。
「視る力」は維持できるクルマの周囲を見渡し、信号と標識、歩行者や対向車を確認したり、先行車との距離を取ったりと視覚から得られる情報に基づいて頭の中で予測と判断を行い、操舵やブレーキといった運転操作につなげる。ADAS(先進運転支援システム)のカメラやレーダーの性能が向上しても、運転における視る力はとても重要だ。
動体視力、ピント調節機能、周辺視パフォーマンスなど、視る力を鍛えることは安全運転につながる。特に中高年ドライバーは加齢とともに実感する視る力の衰え……老眼にはあらがえないが、目のコンディションを把握し、適切なトレーニングを行うことで現状を維持したり、パフォーマンスを上げることは可能だ。
視る力はアスリートにとっても欠かせない。スーパーGT・GT300で300km/hに迫る超高速域で熱いバトルを繰り広げるレーシングドライバー、井口卓人選手はビジョントレーニングを積極的に取り入れている。それを支えるのが1995年に誕生した日本のアイウエアブランド、999.9(フォーナインズ)。
同社では井口選手をはじめ、さまざまな分野で活躍するアスリートに向けて「フォーナインズ スピリットサポート」という活動を行っていて、高機能で高品質、美しいフォルムを表現したメガネフレーム、サングラスの提供を通じてサポートしている。
このプログラムの一環で始まったフォーナインズ ビジョンラボ。同社が積み上げてきた知見を生かし、サポート選手のパフォーマンスを向上させるビジョントレーニングを行う。
フォーナインズ ビジョンラボとは?純金のインゴットの最高純度「999.9」に由来し、最高純度の品質を追求し続けるアイウエアブランド、『フォーナインズ』。モータースポーツ、ゴルフ、サッカー、ボクシング、陸上競技など各分野で活躍するアスリートの視環境や競技に懸ける思いをサポートする取り組み「フォーナインズ スピリットサポート」を行っている。その一環で2017年に開設。
視環境のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるアイウエアブランドとして積み上げてきた経験を生かして、サポート選手の視環境の測定を行い、実戦でのパフォーマンス向上につなげるためのビジョントレーニングを銀座本店の施設で実施。視環境の状況を多角的に把握して、個々の選手に合わせたトレーニングメニューを提案する。
「視る力」の最大化を目指すビジョントレーニング教える人フォーナインズ ビジョントレーナー河合央泰さんHiroyasu Kawai
●井口卓人選手のトレーニングを長年担当し、弱点や能力を高めたい部分を熟知する。コンディションなどを見極めながら確実に視る力を引き出す受ける人レーシングドライバー井口卓人選手Takuto Iguchi
●スーパーGT・GT300クラス、GR86/BRZカップのプロフェッショナルシリーズ、スーパー耐久と各カテゴリーで八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍まずは目の現状を測定トレーニングの前に利き目ともう片方の目、両目の視力をチェック。写真は偏光メガネを着用して行う立体視測定の様子。両目で縦棒を見ると左の▲側がもっとも浮き上がって見えて、半時計回りの順で遠ざかって見える。
両目で見たものを脳内で融像し、立体感や距離感を得る両眼視機能。両側からスライドシートを引いていくと3D的に見える。動いているものと止まっているものの距離感を把握するのに役立つ。
耳たぶにセンサーを装着してHRV(心拍変動)を計測中。交感神経や副交感神経と関連するHRVをモニタリングし、データの変化を見ながらコンディションを診断することで効果的なトレーニングに役立てる。
●レーシングドライバー、プロゴルファー、プロボクサー、スキージャンプ選手、陸上選手などさまざまなアスリートが利用している
脳の機能とのバランスが重要「トレーニング内容は競技に求められる身体機能と視覚機能を意識しながら組み立てています」とトレーナーの河合さん。多くの競技に共通するのが「周辺視を広げたい」という要望。モータースポーツの場合は自車のまわりを走るマシンの動きや距離感の把握に欠かせないが、まわりがよく見える=情報量の増加に比例して脳の負担が増え、ストレスや疲れの原因になるので見え方と脳の機能とのバランスを取りながら行う。
トレーニング前に利き目とその強さ、両眼の見え方などを確認し、どこを矯正したいのかなどのカウンセリングを行いながら内容を決める。
井口選手いわく、ビジョントレーニングを実施してからしばらく間隔を空けると元の見え方(利き目は右で、左の見え方が弱い。周辺の視野が狭くなる)に戻ってしまうという。
とはいえ、さすがはシリーズチャンピオンに輝いた超一流のGTドライバー。軽いウォーミングアップ後に動体視力や目と手の協調性、瞬間視などの項目をチェックするスープリュームビジョンに挑むと高スコアを連発。反応スピードや認知・判断といった出力機能、平衡感覚を養い、視環境を万全に整えてレースに臨む。
視覚機能と脳を鍛える!視覚機能トレーニング視野角を最大限に使うように設計された幅広いボードと、不規則に配置されたボタンで構成された視機能トレーニングマシンのスープリュームビジョン。目から脳に伝えられた情報を基に、指先や手のひらの感覚でボタンを正確に強くタッチして目と手の協調性を養うほか、眼球運動や周辺視、動体視力、瞬間視、記憶力、集中力、深視力などをトレーニングできる。各項目のスコアのほか、タッチする際の体や頭の動きも見ながら評価する。
リズムに合わせて画面に表示された色付き文字を読み上げて、反応速度を高めるトレーニング。リズムがアップテンポになると読み間違いが増える。足元が凸凹した不安定な場所で、見え方に問題のある側に重心をかけてバランスを保ちながら行う。
数字と文字が並ぶ大小のチャートを使った両眼視機能トレーニング。手に持った小さい文字のチャートと壁に貼った大きな文字のチャートを交互に読み上げ、遠近のピント調節機能と合点の速さを高める。
自宅でもできる簡単トレーニングスマホを長時間見続けていると起こりやすい疲れ目や肩凝り。原因は画面を凝視していると頭と首が前傾して猫背になるから。回転イスに座り1点を見つめて座面を回し、周囲の風景が流れて見える状態にすると前のめりの姿勢が矯正され、周辺視も広がる。
バランス機能トレーニング平衡感覚を養うトレーニング。目を閉じたり、足元が不安定なパネル上で片足立ちしたりしながらバランスを保つ。これを左右で行い、バランスの悪い側を重点的に矯正していく。
眼と手、足の協調性を高めるトレーニングに使うのは小さなボール。お手玉の要領で空中に投げて、キャッチしながら障害物を避けて歩く。バランス感覚や動体視力を効果的に養う。
手に持った指標を顔から数十センチ離して、指標を見続けたり、上下、斜め、グルっと回したりして目だけで追い続ける。止まっているもの、動くものへの眼球追従性を高める。
点灯したボタンに手をかざすとセンサーが反応し消灯するトレーニング機器。ランダムに繰り返される点灯→消灯に素早く対応し、視覚から動作に移るまでの反応速度を高める。
ブロックストリングで成果をCHECK!両眼のバランスを手軽に整えられるグッズがブロックストリング。ひもに付いたビーズを見つめることで、遠近のピント調節や眼球運動のトレーニング、見え方のチェックなどができる。
2021年にはスーパーGT・GT300クラスでシリーズチャンピオン獲得!「ウォー、よく見える」とトレーニングを終え歓喜の声を上げた井口選手。ラボの開設以来通い続け、レースの直前にトレーニングを行い視機能を高める。「周辺視を広げて脳を鍛えると、とっさの際の危険回避に役立ちます。遠近感をつかみやすく、狙いどおりの走行ラインに寄せやすくなります」と自身の体験を語った。
●写真左が井口選手、右がチームメイトの山内英輝選手
完全予約制のプライベートサロンも用意
フォーナインズ 銀座本店所在地:東京都中央区銀座4-3-6 TEL:03-3535-4949
営業時間:11:00~20:00 定休日:不定休
1階は豊富な知識と技術を持つスタッフによるキメ細かなメンテナンスや調整を行う専用スペース、2階はフィッティングスペース、3階にフォーナインズ ビジョンラボを併設。
〈文=湯目由明 写真=長谷川拓司〉
■問い合わせ先
フォーナインズ
https://www.fournines.co.jp/