藪の中(やぶのなか)とは、芥川龍之介の短編小説である。1922年(大正11年)発表。
山科の藪の中で、ひとりの男の刺殺体が発見される。その事件を巡って、検非違使が集めた関係者の証言が語られるのだが、捕らえられた多襄丸という盗人、清水寺で懺悔する男の妻、そして巫女の口を借りて語る男の死霊、三者の証言がそれぞれ、「多襄丸による他殺」「妻による心中未遂」「男の自殺」と食い違い、真相は明らかにされない、という形式の短編。
「真相は藪の中」という言葉の語源にもなった、芥川龍之介の代表作のひとつ。下敷きとなっているのは『今昔物語集』に収められている「具妻行丹波国男 於大江山被縛語」の説話。また作品の構成に『悪魔の辞典』で有名なアンブローズ・ビアスの短編「月明かりの道」の影響が指摘されている。
中村光夫と福田恆存による論争をきっかけとして、これまでに多数の謎解きが試みられているが、結論は今のところはっきりしていない(後述)。
著作権が切れているので、青空文庫でも読むことが出来る。
木樵り
最初の証言者で、男の死体の発見者。現場の状況について検非違使に説明する。
旅法師
殺害直前の男の目撃者。男が女を連れて歩いていたことを証言する。
放免
多襄丸を捕らえた人物。旅法師の目撃証言と多襄丸の所持品の一致から、犯人は多襄丸であろうと進言する。
媼
男の妻である真砂の母。男とその妻の身元について証言する。
多襄丸
洛中に名高い盗人。粟田口で落馬して呻いていたところを放免に捕らえられ、取り調べを受ける。
「女を自分のものにしようと、儲け話で誘い出し、男を縛って女を強姦した。その後女に『このままでは生きていかれぬから、どちらかひとり死んでくれ』と言われ、女を手に入れるために男を解放し決闘し、男を殺したが女には逃げられた」という証言をする。
ちなみに「多襄丸」という盗人は同じ芥川の中編『偸盗』にも登場している。
真砂
被害者である金沢武弘の妻。清水寺に保護されており、懺悔という形で事件を語る。
「多襄丸に強姦された後、それを見ていた夫の眼が自分を蔑んでいるのに絶望し、心中を企てて夫を殺害した。しかし自分は死にきれず、こうしておめおめと生きながらえている」という証言をする。
金沢武弘
事件の被害者で、若狭の国府の侍であり、真砂の夫。死霊となり、巫女の口を借りて事件を語る。
「多襄丸は強姦したあと、妻を連れて行こうと口説き始めた。妻はそれに靡いたばかりか、『夫を殺してくれ』と多襄丸に頼んだ。しかし多襄丸もこれには色を失い、妻を蹴倒し『あの女を殺すか』と自分に問うた。しかし妻は藪の奥へ逃げ出し、多襄丸は自分の持ち物を盗んで去っていった。残された自分は妻の落とした小刀で自殺したが、小刀は誰かが持ち去って行った」という証言をする。
検非違使
事件を調べている人物だが、作中に直接は姿を現さず、常に聞き手に回っている。
謎の焦点は「多襄丸、真砂、武弘の三人のうち、誰が真実を語っているのか」、「三人とも嘘をついているなら誰の証言が最も真実に近いのか」である。三人の証言はそれぞれ現場の状況との矛盾を指摘することが可能であり、またひとりが犯人だとすれば、残るふたりが何故「自分が殺した」と証言するのか、という謎が残る。
この作品の真相については、まず「真実は不可知であり、それを探ることに意味は無い」とする派(福田恆存、海老名井英次、志村有弘など)と、「芥川は真相を用意していたはずであり、真実は解き明かせる」とする派に別れる。
「真相は存在する」派においても、多襄丸犯人説(中村光夫、佐々木雅發、恩田陸など)、真砂犯人説(大里恭三郎、高宮壇など)、武弘の自殺説(大岡昇平、久保田芳太郎、熊倉千之、上野正彦など)に別れ、統一見解は出ていない。
変わり種の説としては、現役国語教師のホームページ(鬼火)において、「「藪の中」殺人事件公判記録
」と題して、裁判形式で真相を探ろうとするものがある。また同サイトには管理人の担当した生徒による推理も掲載されており、いずれも上記の三種の説とは異なる結論を導き出しているため、併せて参照されたい。
1950年、黒澤明によって『羅生門』のタイトルで映画化され、ヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞したことで黒澤明の名を世界的に高める作品となった。主演は三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬など。芥川の「羅生門」からも一部の要素が取り入れられているが、原作はあくまで「藪の中」である。
ストーリーは細かい現場の状況の差異などを除けば概ね原作に沿っているが、映画では最後に杣売り(原作での木樵り)が全てを目撃していたとして、事件の真相が語られるという形式になっている。
他にも「藪の中」を原作とする映画は国内・海外にいくつかあるが、一番有名なのはやはり『羅生門』である。また多襄丸を主役としたオリジナルストーリーの映画『TAJOMARU』が2009年に制作された。
掲示板
48 ななしのよっしん
2021/12/12(日) 13:39:41 ID: EQkwNf5HQY
>>46
これは推理小説じゃないぞ
映画だと杣売りが真相を話す形式だけど、面白いのはその杣売りですら自分にとって後ろめたいある事を隠そうとして話さなかったんだよな(聞き手からそれを指摘される)
49 ななしのよっしん
2022/02/14(月) 16:43:22 ID: rNdzDpBP1g
盗賊の話でうわあ…ってなったけど、妻の話で!?ってなって夫の話で何だこれwwwってなった
思うに大正辺りに流行ってた私小説というか暴露小説への当てこすりのように感じる、絶望的な暴露話でも、視点を変えてみればただただ醜いだけの話でしたよ、みたいな
50 ななしのよっしん
2023/05/19(金) 19:59:58 ID: EJaRslLTZk
霊媒師の婆さんが面白いよなあ
現代的に考えたらありえん
芥川の時代でも地方なら残ってるかも知らんが東京ならありえん扱いだろうし
かと言って作中の時代は真面目に信じられてるだろう
更には小説だからそういう設定があるでもいい
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最終更新:2025/06/10(火) 18:00
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