北欧神話とは、キリスト教化以前のゲルマン人が持っていた神話(ゲルマン神話)のうち、フィンランドを除く北欧諸国、すなわちノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フェロー諸島およびアイスランドに伝わっていた神話。
北欧の地において、キリスト教化を受ける以前に存在していた神話・信仰・宗教を総称して北欧神話と呼ぶ。
ドイツやイギリスなど他のゲルマン神話の多くは、早くからのキリスト教化の中で文書化されることなく消滅していき、民話などにその残滓を残すばかりとなってしまった。しかし北欧においては、キリスト教化を受けながらも、9~12世紀に口承の詩という形で神話が保存されていた。これが13世紀に詩集・サガ集として書き起こされ、現在まで伝わる北欧神話の基礎となったのである。一部の神話には、それ以外に伝承として現在まで残ったものもある。
現在伝わる多くの北欧神話は、キリスト教化後も口承で伝えられたこれらの詩を13世紀のアイスランドの学者スノッリ・ストゥルルソンが書き起こした『ヘイムスクリングラ』などの詩集・サガ集などをもとにしている。
その基本とされるのが、スノッリの書いた詩学入門書『スノッリのエッダ(散文のエッダ、新エッダ)』と、1643年にアイスランド南部のスカールホルトで発見された集成写本『詩のエッダ(古エッダ)』のふたつ。『詩のエッダ』はその記述の中に『散文のエッダ』と共通するものが多く見られたことから、当時はスノッリの『散文のエッダ』のもととなった本と考えられたが、現在では『散文のエッダ』より50年ほど遅い1270年ごろから編纂が始まったものとみられている。
スノッリ自身は熱心なキリスト教徒であったため、スノッリの『散文のエッダ』を読む際にはキリスト教の影響を念頭におく必要がある。
このほかにも石碑の碑文や教会史・旅行記などの一部に北欧神話に関する記述が見られるものもある。
11世紀に書かれたブレーメンのアダムによる著作『ハンブルク教会史』も北欧神話の一端を伝える資料の一つである。
この書、および、スノッリ・ストゥルルソンによって書かれた『ヘイムスクリングラ』では、現在のスウェーデンのガムラ・ウプサラに北欧神話の神々を祭る「ウプサラの神殿」があったとされている。
神殿には王座に座る3柱の特別な神の像を崇拝していたとされる。アダムが「最も偉大である」と言及するのがトールで、中央の王座に座っており主神の座にいた。オーディンとフレイが彼の両側の王座に座っているとしている。
13世紀の資料ではオーディンが主神となっているのに対して、11世紀の『ハンブルグ教会史』ではトールがオーディンを差し置いて中央に位置しているのが興味深い。
北欧神話の世界観は、北欧の過酷な自然を反映してのことか、これでもかというくらい厳しく、また勇猛で劇的である。そのすべてを書き記すと膨大な量になるため、ここではその一部を紹介する。
まず神々は「アース神族(Ás, Áss)」「ヴァン神族(Vanr)」「霜の巨人族ヨトゥン(jǫtunn)」の3種に分けられる。野蛮で好戦的なアース神族と、文化的に優れたヴァン神族は当初対立していたが後に和解し、二つの神族は一まとめにアース神族と呼ばれることになる。
アース神族・ヴァン神族と霜の巨人族ヨトゥンは常に対立している(但し二者間に交流は頻繁に存在し、時には結婚すらした)。巨人族はアース・ヴァンの両神族より古い種族で、数のうえでも多数を誇る。そもそも両神族自体いわば巨人族の亜種として生まれたものである。神族と巨人族は長い緊張状態の末に後述の最終戦争ラグナロクで闘い、共倒れすることになる。
北欧神話の神々は時として非常に人間くさい面を覗かせる。これはギリシャ・ローマ神話や日本神話の神々にもいえることではあるが、神々は誘惑に負けたり、そのしっぺ返しを食らったり、その事態を何とかしようとして更なるドツボに嵌まっていったりする。
北欧神話の世界は、下記の9つの世界が世界樹ユグドラシルによって繋がった構造をしている。またユグドラシルは3つの魔法の泉、ミーミルの泉、ウルズの泉、フヴェルゲルミルに根を張りそこから水を汲み上げている。ユグドラシルの一番下では、「嘲笑する虐殺者」と呼ばれる黒竜ニーズヘッグがユグドラシルの3番目の根を齧っている。
9つの世界は3つの層に分かれており、第1層と第2層を虹の橋ビフレストがつないでいる。
世界にははじめ、炎の世界ムスペルヘイムと氷の世界ニヴルヘイムしか存在せず、その間にはギンヌンガガプ(ギンヌンガの淵)と呼ばれる巨大な裂け目が横たわっていた。あるときギンヌンガガプでムスペルヘイムの熱気がニヴルヘイムの寒気と衝突し、始祖の巨人ユミルと氷の雌牛アウズンブラが創り出された。ユミルの足からは息子が、脇からは1組の男女が生まれ、それらはヨトゥンをはじめとする巨人族となった。
ユミルははじめ眠っていたがやがて起き出し、雌牛の乳を飲み始めた。その雌牛は岩塩を嘗め始め、その岩塩から3日のときをかけてブーリという最初の神が現れた。ブーリは巨人族との間にボルという子をもうけ、さらにボルも巨人族の娘ベストラを娶って3柱の息子を得た。これがオーディンとヴィリ、ヴェーの3柱の神々である。
3柱の神々は乱暴な巨人族と対立し、その王となっていたユミルを殺害する。ユミルの血は世界中にあふれ、ベルゲルミルとその妻以外のすべての巨人を溺死させた。3柱の神々はユミルの身体から大地を、血から海・川・湖を、骨と歯から岩石と山を、頭蓋骨から天空を、脳から雲を、髪の毛から草花を創り出した。
更にオーディン達は2本の木の幹を人間に変え、生命・精神・視角・聴覚・話す能力を与えた。そして地上に彼らのための国「ミズガルズ」を作り、ユミルの睫毛からその防壁を創った。
北欧神話には世界の終末に関することが巫女の予言という形で書き記されている。それが「ラグナロク(Ragnarøk)」である。これは本来「神々の運命(Ragna røk)」を意味するが、スノッリのエッダの影響により日本では「神々の黄昏(Ragnarøkkr)」といわれることが多い。
あるときフィンブルヴェト(フィンブルの冬、大いなる冬)と呼ばれる厳しい冬が訪れる。夏が来ることなく3度の冬が続くこの現象によって人心は荒廃し、戦乱が頻発し、生物は死に絶える。
そして光の神バルドルの死をきっかけとして、神族と巨人族の間に最終戦争が巻き起こる。この戦争で主神オーディンをはじめ殆どの神と巨人が死に絶え、世界は海中に没する。闘いが終わったあとに大地は再生され、わずかに生き残った神々らが新たな世界を治めることになる。
ニコニコ大百科に記事のあるものは太字で表示。ロキなど複数の分類にまたがりうるものはうち一つにのみ記載してある。カタカナ表記は一例で、英語読みを元にした場合など資料によっては異なる表記がみられる。
リヒャルト・ワーグナーの『ニーベルングの指環』は北欧神話をモチーフとし、J・R・R・トールキンの『指輪物語』も同様に大きな影響を受けている。このため、これら作品、特に『指輪物語』に影響を受けた近代のファンタジー作品群には、北欧神話由来の登場人物や怪物、アイテムなどが多数登場する。
日本の漫画・アニメ・ゲームなどにおいても北欧神話は人気が高い。世界観をベースにしたものから、ただアイテムやモンスターの名前に北欧神話由来のものを使っただけのものまで、相当数が存在する。特に「ユグドラシル」や「ラグナロク」などは数多くの作品で使われ、それらから北欧神話を知る者も少なくない(俗にいうポロロッカ)。
以下には、北欧神話を題材・モチーフにした作品などをいくつか挙げる(ニコニコ大百科に記事のあるもの)。
掲示板
174 ななしのよっしん
2024/03/24(日) 22:37:07 ID: 11k3Xa2QD+
天国(ヴァルハラ)の解像度は高くて、地獄にあたる場所の様子はよく分らない(ヘルヘイム?無い?)のってなんか珍しいな
ヘルと一緒にいる事自体が不名誉・責め苦みたいな感じかな
175 ななしのよっしん
2024/05/12(日) 20:01:33 ID: nv9bc2n6nj
古エッダの邦訳の解説によると、元来は全ての死者がヘルヘイムに送られるという考えがまずあって、後々に戦死者はヴァルハラへ行けるという神話が加わったとされてた
悪人がヘルヘイムへ行くんじゃなくて戦死者が特別扱いみたい
北欧神話とは言うけどオーディンとヴァルハラへの信仰はライン川流域から北欧に広まったとか
176 ななしのよっしん
2024/06/05(水) 08:41:50 ID: iu2u0o1NNW
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最終更新:2024/12/22(日) 13:00
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