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観察の樹×藤森泰司 Kino Stool 前編
 ライター渡部のほうです。

 先日告知だけ http://blog.excite.co.jp/dezagen/27999894/ になってしまった、観察の樹企画・製造、藤森泰司デザインの高齢者向けスツール「Kino Stool」のご紹介。
 今回は少し長めなので前後編に分けてます。

 観察の樹 http://www.kansatsunoki.com
 藤森泰司アトリエ http://www.taiji-fujimori.com

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(展示風景 写真提供 観察の樹)

・台湾の玄関とは?

 Kino Stool は台湾と日本向けに主に玄関で使う事を考えた木製スツール。靴を履く、脱ぐ、買い物帰りに一息付く、そんな時にスツールがあると便利なもの。

 藤森氏が「ゆりかごのような形」という、座面から両脇のアームに掛けて1枚の合板で包みこむような作りになっているのが特徴的だ。脚とアームは無垢の木で、ゆりかご状のシェルを支えている。落ち着いた印象ながらやさしさと力強さを兼ねている。

 台湾の家は道路に面したドアを開けるとすぐ玄関兼居間のような広い場所になっていることが多い。集合住宅では踊り場のドアがバルコニーのように外に面した廊下に続いていることもある。田舎では庭の軒下がそのまま玄関として使われているというところも少なくない。
 玄関スペースに置かれているものも様々だ。家族全員の日用品の間にペットの犬や猫がゴロゴロ寝ていたりもする。また床素材もコンクリート、大理石、テラゾー、タイルなど様々で、雨の日やモップで水拭き掃除をした後などは滑りやすい。

 まとめて言えば台湾の玄関スペースには障害物が多く、よろけたり転んだりする要素が多い。足腰が弱くなればなおのこと危険度は増す。そんな時にスツールは「便利」以上に、「安全対策」の意味も持つ重要なものだ。

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(台湾、集合住宅の玄関周り 写真提供 藤森泰司氏)

・「握り心地というのは、柔らかにすることだけではない」

 Kino Stool の企画が始まったのは2014年末。完成までに3年、と時間を掛けて作られた。日台の医療、福祉関係のコンサルタントやデザインを手がけている観察の樹がコンセプトを作り、2015年3月に藤森氏にデザインを依頼した。

 開発コンセプトは「安全快適な玄関空間〜玄関を危険な場所にしないための家具」。さらに細かな提案は以下のようなものだった。

・靴を履く時、脱ぐ時に便利な肘置きがついたスツール
・肘置きは、立ち上がりやすく滑りにくい形状
・台所や洗濯スペースなどでも使えるコンパクトな寸法
・使用していない時でも、そこにあるだけで玄関に表情を添えるデザイン
・座る方向を選ばないシンメトリーなデザイン

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(展示風景から 写真提供 観察の樹)

 写真からうかがえるゆりかごのような形状の特徴以外に、実際に使ってみると細かい所にも配慮が行き届いている事が分かる。

 サイズは幅564×奥行370×高580(座面高407) mm。おおよそではあるが小学校中学年用の椅子くらいだ。学校用椅子の平均的な重さは約4kg、 Kino Stool も同じくらいだが実際に持ってみるとさらにそれよりも軽く感じる。
「前後で線対称なのでアームを持って持ち上げやすいんだと思います。それが実際の重量よりも軽く感じる要因かもしれません」と藤森氏は説明する。

 スツールを持つ、座ったり立ったりする時に体を支える掴み手としてのアームの部分は、特にこだわった点だという。

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(写真提供 観察の樹)

「アームに関してはスタイロフォームで何度も原寸模型をつくって検討しました。通常の椅子ではアーム断面が手触りのよい柔らかな円形状のものが多いのですが、
握り心地というのは、柔らかにすることだけではない、むしろ、今回はしっかり握れるグリップ感があったほうがいいと思ったので、下部の角の面取りを平らに取っています。上面は平らで下面のみに面取りがあることで、人の目線としては気付かず違和感がありません。触れると分かるデザインです」(藤森氏)

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(台北での展示にて。パーツを分解したもの。左側の2本がアームを裏返した状態。角をもたせて面取りしている。撮影渡部千春)

 製造までに時間を掛けたのはデザイン面だけではない。台湾で工場探しにも時間を掛けた。
 試作をつくり修正していっても、精度が上がらなかったり、工場が火事でなくなってしまったり(!)、座面を留めるパーツが見つからない、シート部分のクッションの厚みが定まらないなど、最後まで気が抜けなかったようだ。
 日本でも小ロット生産可能で、なおかつ精度の高いところを探すのは難しい。ましてや台湾でとなると、それまで付き合いのなかった海外の会社に心を開き、共同作業をする信頼関係まで持って行くのには時間が掛かる。観察の樹の代表である黒坂昌彦氏と庄司佳代氏が、まめに足を運び家族ぐるみで付き合いをしながらコツコツと積み上げていった成果だ。

・グラフィックは分かりやすく

 前回、告知の際には触れなかったが、Kino Stool のロゴ、今回の展示用ポスター、DM、リーフレットのデザインなどグラフィック周りは「TAKAIYAMA inc.」が手がけている。

 TAKAIYAMA inc. http://takaiyama.jp

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(展示に際して作られたポスター2種)

 「福祉、高齢者向けの製品ということを考え、ポスターはプロダクトをメインにすっきりと分かりやすく、また全体的にエッジが利いた印象ではなく、誰が見ても自然に入っていけるようなシンプルなグラフィックにしました」と TAKAIYAMA inc.の山野英之氏は説明する。
 オレンジ、黒、グレー、白と、使用する色を限定し、グラフィックの主役となるプロダクトのシルエットを際立たせている。背景色で大きく色面を取ったオレンジとグレーは暖かみのある色として選んだ。

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 Kino Stool の Kino の部分は単独ロゴとして成り立つよう、少し表情を着けている。
「K と n はそれぞれアーチ部分に少し角度をもたせて、踏ん張って安心感のある形に。人に寄り添った印象が出せたら、と思いました」(山野氏)

 (後編へ続く)

by dezagen | 2018-01-26 19:23 | プロダクト・パッケージ
『これ、誰がデザインしたの? 続(2)』
渡部千春著、デザインの現場編集部編
美術出版社刊
04年以降の連載記事をまとめた2冊目の書籍。連載で紹介したアイテムのほか、名作ロゴやパッケージ、デザインケータイなどを紹介。
 
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