多くの方が二刀流を誤解しているのですが、
他国の二刀流は置いておくとして日本古来の二刀流は「刀をそれぞれ一本の腕で振る」ということはありません。
まったく腕で振らないとは言い切れませんが「腕で振る」という動作を必要最低限まで省略するという技術がその基礎基本です。
そういう意味では現代剣道でよく見られる二刀流は日本の長い歴史のなかの二刀流としては実は唯一無二の正道ではありません。
「刀をそれぞれ一本の腕で振る」というのはいくつかある選択肢のうち、最も使われていなかった選択肢の一つということです。
これは言葉で説明するのは大変困難であり、本当は実地で見るしか無いと思います。
ですが、なるべく理解していただけるよう説明を試みたいと思います。
一つの例、単純すぎるモデルとしてですが、あなたがまだ小学生ぐらいの頃、掃除の時間にほうき等を手のひらの上に立てて遊んだ経験はありませんか?
ゆらゆらと前後左右に倒れそうになるほうきを上手くバランスをとって直立させる遊びです。
このとき、腕を動かすだけでバランスをとるより、むしろ体ごと移動させてバランスをとることが多かったこととおもいます。
ほうきはごく軽いものですので実感は湧きにくいですが日本刀ほどの質量のバランスをとるために体を移動させようとするとそれだけで相当な移動速度が勝手に生まれることに驚くでしょう。
またもう一つの例にフェンシングがあります。
フェンシングでは片手で突くことが基本になりますがこのとき、腕の曲げ伸ばしだけで突きを行うことはほぼ皆無といってよく、
体ごと移動させることで強力で速い突きを繰り出します。
二刀流(といいますか日本剣術の片手打ち全般)はこの理論を突きだけでなく斬りにも拡大させたものです。
相手の体に対して剣が直角になれば突きですし、平行になれば斬りや打撃になるというわけです。
もちろんその分突きだけの技術よりさらに両者の距離を詰める技術とスピードは高いものが要求され習得は困難を極めます。
二刀流に腰に構えた大刀を踏み込みながら真っ直ぐ突き出すという形がありますが、これを「腕の力で」突き出しながらやろうものならばヘロヘロとした情け無い突きしか出せず、
剣先を簡単に払い飛ばされてしまうものです。
ところがこれを腕の動きを緩慢に体の捌きを連動させて突きを繰り出すと信じられないほど重く真っ直ぐな一撃となり、「今から突きます」と宣言して突きを出されても重くて打ち払うことが出来ません。
片手突きでありながら両手で打ち払えないという逆転現象が起こります。
「二刀流で剣を振る」とは実は腕の力で振っているのではなくそのほとんどの運動エネルギーはこのような体の移動が生んでいます。
刃筋がちゃんと立ってさえいれば腕の力で振り回し、思い切りぶち当てなくても肌に触るだけで斬れます。
こう言うと体裁きで斬る方法では刃がなければろくな威力が無い様に思われるかもしれませんがこの方法でももちろん相当な打撃力を生み出せます。
二刀流においてはこのように腕をある程度静止、もしくは緩慢に動かす間に、体ごと大きく移動するという方法によって剣を走らせます。
体や足が止まった状態で腕だけが無理な速度で運動をするという状況をなるべく避けるための方法を伝えています。
腕の動きは緩慢でいいのですから腕力も必要ありません。一刀を両手で振るのと同じ程度あれば充分です。
とはいえこれらの理論は当然二刀流だけでなく一刀を持っている者でも「知っている者は」使うことが出来るものです。
きちんとした先生についている修行者ならば一刀二刀に関わりなく体の移動に剣を乗せることが出来ますし、相手がそのような動きをしても驚きません。
したがって二刀流が格段に有利ということにはなりません。
しかし、二刀流に対して誤解のある現代においては「二刀流はこういった動きをするものだ」という認識が薄いため、初めて見る動きに面食らうことになるでしょう。