高島屋がオンライン販売したクリスマスケーキが崩壊した状態で届いていた事件が大きなニュースになっている。原因は特定されていないが、製造、冷凍保管、配達の工程のどこかに問題があったのは間違いない。僕が働く食品会社でも同様の冷凍クリスマスケーキを販売しているので他人事とは思えない。おかげさまで今年のクリスマスケーキについて苦情は受けていない。だが、現場と事業を知らない会社上層部が騒ぎはじめたので、クリスマスケーキ事業とお節事業の立ち上げメンバーだった僕は、その対応に苦慮している。通常の業務に支障が出始めている。
①事件発覚と世の中の反応を受けて篇。世間の猛烈な反応をニュースで知った会社上層部がビビッて「ウチは大丈夫なのか」「同様の事案が起きたら誰の責任にすればいいのか」「なんでクリスマスケーキなんて売ったんだ。足を引っ張るな」と騒ぎ始めた。冷凍クリスマスケーキ事業が開始以来堅調に伸びているのを受けて「これを事業の柱にしていこう」と盛り上がってたのは先月の話である。「事業の柱」から「足を引っ張るな」へのメガシンカに驚くばかりである。
事態の沈静化をはかるために、事業の全体像を知っている僕が「安心してください。クリスマスケーキへの苦情はゼロです。当社の品質管理体制は万全です。高島屋さんほどの取扱量や事業展開エリアの広さがないので、品質管理の目も隅々まで行き届いております」と説明すると、「品質管理なんかに気をとらわれすぎているから、取り扱い量が伸びないんだ!」とブチ切れていた。問題そこなのか。品質管理が何よりも大事と言っていたのに…。キャパオーバーにならないよう事業を伸ばしていくという方針があったのに…。
②冷凍クリスマスケーキの製法を知って篇。高島屋のニュースで冷凍クリスマスケーキの製法を知った会社上層部。数か月前に作ってコチコチに冷凍する製法に驚きを隠せず「他社は何か月も前もケーキをつくって冷凍庫に入れているみたいだぞ。ウチはその点で競合に対して優位に立てる」と騒ぎはじめた。金融機関から出向して何年事業を観てきたのだろうか。生ケーキと冷凍ケーキの違いがわかっていない。
納品ギリギリまで現場スタッフが不眠不休でイチゴをトッピングしているものだと思っていたらしい。それ労基法違反な。僕が「冷凍ケーキの製法はウチも競合他社とほぼ同じですよ」と現実を伝えると「えー何週間も凍らせたら、いちごがコチコチになっちゃうぞ」と現実逃避しておりました。ストリベリー・フィールズ・フォーエバー。
③金融マンとしての嗅覚がビジネスを加速させる篇。クリスマスケーキ商戦の次に御節料理商戦が来るという誰もが知っている事象に、自分たちだけが気が付いたような感じで胸を張る会社上層部。高島屋がクリスマスケーキ問題でブランドイメージを損なっているという誰でも気が付く事象に自分たちだけが気が付いたような感じで「高島屋は終わった。彼らのブランドが失墜した今こそ、顧客を奪い取る千載一隅のチャンス」と騒ぎ始めた。
現実を分からせるために、すでに予約商戦は最終盤ですでに決着はついていること、高島屋レベルのECサイトを作るためにはマネーと時間が必要であること、追加製造のためには年末の時期にスタッフ確保と材料確保が不可欠だがもう間に合わないこと、適当な理由をあげて説いたら「君のマイナス志向が会社の成長の邪魔なのだ」と言われた。辞めたろか?と思いつつ追い討ちで「おせち事業は手間がかかるを理由に事業縮小を決めたのは皆さんですよ?」と告げたら、「そんなことはない」と忘れているので、僕のやるべきことは、クリスマスケーキ騒動の収束ではなく、彼らに認知症の検査を受けさせることなのではないかと思いました。
④現場視察をするつもり篇。高島屋の冷凍ケーキ問題を受けて会社上層部が実際の保管状況を確認したいといいはじめた。元銀行マンが倉庫をみて何がわかるのかおもろいので「いいですね」と同意したのが間違いだった。倉庫とはオンラインで繋がっているので本社で状況はモニタリングできるようになっている。(少し画像は粗いけれども)映像も観られる。現場スタッフに依頼すれば画質の高い画像も入手できる。
「皆さんが倉庫に行って出来ることないですよ。たとえば良い冷凍保管と悪い冷凍保管をどう識別するのですか?」と良心から諫めた。ところが会社上層部は「モニターに映っている数字をチェックするのが仕事ではない」と謎の現場主義を持ち出して「営業部長は現場を知らない」と僕を愚弄しはじめたのでもう知らない。
⑤現場視察に向かった篇 高島屋のクリスマスケーキ問題で当社の冷凍倉庫での保管状況に不安を覚えた会社上層部。行っても無駄という意見に対して、現場第一主義を持ち出して車2台で出撃。現場の責任者からは「何もわかっていない奴らを寄越すな」と言われていたのに止めることが出来ずに無念の極みだった。
彼らの視察後、外部へのポーズのために的外れな業務改善指導を全社に出して現場に混乱を招くことを覚悟した。「年明けはその対応か…」と絶望しているところに現場から「偉い人たちは外から冷凍倉庫をすこし眺めて帰っていきましたよ。あの人たち何しに来たんですか?」という報告が届いて安堵した。視察=見ること。間違いはなし。ゼロ災でいこうヨシ!
⑥社長への報告篇 意気揚々を現場視察から帰ってきた上層部。現地滞在10分。片道30分程度の道のりでなぜ午前中に出かけて帰社が16時。永遠にとけない謎だ。上層部は社長に冷凍倉庫の抜き打ち現場視察の報告をしていた。社長から、年末の忙しい時期に現場に負荷をかけないでください、本社でも倉庫の状況は確認できるでしょう、会社規定で食品を扱う倉庫に入るためには定期的な細菌検査を受けることを義務付けてますが皆さんは検査受けてませんよね、だいたい冷凍倉庫に行ったことがない人が視察に行って何がわかるんです?と矢継ぎ早に詰問されていた。
その後、上層部から「なぜ事前に止めてくれなかったんだ」と詰められるまでが僕の仕事。「あなたがたの現場第一主義ってクソみたいですね」と言いたいのを何とかこらえた。一連の当社会社上層部の動きで心身が消耗したのも全部高島屋さんのせいなので損害賠償したいくらいである。ゼロ災でヨシ!(所要時間45分)