Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私はアレで会社を辞めました。

先ほど、長年勤めた会社を辞めてきた。計画性も展望もなく、完全に勢いで辞めた。20年にわたる会社員生活に一旦グッドバイ。志半ばで投げ出してしまうかたちになってしまい500人の部下には申し訳ない気持ち…はほとんどなく、というかあらゆる感情よりも清々とした気分が勝っている状態だ。《42歳で統括部長という事業のトップ、オンリーワンのナンバーワンまで登り詰めたのに勿体無い》《定年までタラタラやればいいではないか》という考え方もあるし、それが利口なやり方だし、じっさい昨日までの僕もそう思っていたけれども、突如、蘇生した僕のロックスピリットがそれをヨシとしなかった。勿体ない、というが、そもそも同族経営でのトップなどナンバーワンでもオンリーワンでもない、ただの尻拭い役にすぎない。安心していただきたいのは、仕事をボイコットするようなよろしくないカタチの退職ではなく、お互い存分に話し合ったうえでの怨恨退職であるということ。辞めたのは勢いだけれど理由らしきものはある。僕は会社に勤めているかぎり、ある程度の不条理や苦行を受けるのは避けられないと考えている。そのスタンスを人は社畜と呼ぶのかもしれない。現職になって以来、僕は、ボスが最終的な責任だけは取ってくれる人だと信じて、会社のためだと割り切って好きだった仕事を自分の手でリストラして切り捨ててきた。「今は小さな仕事だけど皆で大きく育てよう」と言ったその舌で「この事業は会社に貢献していないので今月いっぱいで終了」と非情通告をしてきた。一部からは死神と揶揄され、おそらく嫌われているだろうし、ごく一部からは激しく憎まれてもいる。でもそれが僕の仕事。極論いえばボスは仕事なんてしなくてもいい。下々の立場などわからなくてもいい。最終的な責任だけ取ってくれればそれでいいのだ。ところが今の立場になり、話す機会が増えたおかげでそのメッキは完全に剥がれてしまった。ボスは無責任かつその責任のすべてを僕に押し付ける人でなし。目には目を。歯には歯を。無責任には無責任を。今日、打ち合わせの終盤に「じゃあ次の打ち合わせは…」とボスが手帳に目を落とした、まさにその瞬間に、自分を偽るのはヤメにしよう、と思って即座に「次はありません。私が辞めるからです。学生時代からの夢であるロックバンドでメジャーデビューを目指します」と切り出していた。「冗談はやめろ」「冗談ではありません。たった今決めました。辞めます」「次が決まっているのか」今決めたのだから次などあるわけない。ボケてるのだろうか?「決まってません」「おかしいだろ」「何もおかしくありません。とにかく、今度会うときは客なのでよろしくお願いします」「ふざけるな」その後は営業マン出身者同士らしく、売り言葉に買い言葉、悪口と罵声の応酬であった。会社を離れてしまえば一人の年寄りにすぎないので容赦なく応戦しておいた。いろいろお世話をしてきたので特に感謝することも懐かしむべき思い出もない。こうして僕はめでたく怨恨退職することになった。今度会うときは客だ!

 

勢いで辞めてしまったので次の仕事もこの先の展望も何も決まっていない。決まっているのは諸々の支払いとローン、そして近日中に会社に行かなくてよくなること。それだけ。もちろん誰にも相談していない。おかげさまで、最近、妻との関係は比較的安定している。落ち着いた会話。完全分担制の家事。連絡事項は専らLINE。そう。LINE。僕らはお互いLINEを使っていながらフレンドになっていなかったが、ついに一昨日からフレンド関係になっている。すぐにLINE交換するバカ&ビッチにはこの進歩はわかるまい。人類にとっては小さな一歩でも、僕には大きな一歩なのだ。それに加えて、妻からは絶大な信頼を勝ち得ており「大きなことだけ事前に相談していただければ、小さいことは事後に報告してくだされば結構です」と言われている。プレステ4を相談なしで買ったときはさすがにブチキレてしまったが、たかが会社を辞めるくらいプレステに比べれば小さなこと。2年前の夏。海の家の店長で40連勤したとき「死なないでください。キミが倒れてしまったら私の生活が困ってしまいます」と言ってくれていたし問題ないだろう。オンリーワンでもナンバーワンでもなかったけれど、会社を自分の意思でヤメられる僕はSMAPの誰よりもずっと自由で、その自由さは何物にも替えがたい大事な宝物なのだ。


なお、この文章は自由を勝ち取ったこの手により近所の居酒屋で書かれたものだ。なぜ新しい門出の晩に居酒屋のような騒々しい場所にいるのかというと、現時点で妻から「会社辞めてやったZE!」(既読)「今度会うときは客だ!」(既読)「退職金はありません」(既読)「賞与も支給されません」(既読)という華麗かつ恐ろしい既読スルーをキメられており、ヘビに睨まれたカエルのごとく身動きがとれずにいるからなのである。(所要時間20分)