Culture Vulture

ライター・近藤正高のブログ

今春、東京を離れます

 これからお知らせする件については、昨年末以来、どのタイミングで公表するかちょっと考えあぐねておりました。
 が、今月7日配信のソフトバンクのメルマガ「週刊ビジスタニュース」にて、「年末に起きたあるできごとをきっかけに、今年は生活する環境も仕事をする環境も大きく変わりそうです。これについてくわしくは、このメルマガが配信されるころには、ブログででもお伝えできるかと思います」と書いたことですし、遅ればせながら手短にご報告させていただきます。
 実は、僕の母親が昨年12月中旬より右足骨折のため入院中です。昨年末早めに帰省し、年明け後もしばらく(10日まで)実家に滞在していたのもひとえにそうした事情がありました。帰省中は毎日見舞いに行っていたのですが、僕ら家族が驚くほど回復は早く、ひとまず安堵しているところです。ただ、リハビリの必要もあり、完治にはもうしばらく時間がかかるものと予想されます。
 こうした事態を受け、僕なりに考えた結果、今春……まだ具体的な月日は決めていませんが、3月下旬〜4月上旬あたりを目処に東京の家を引き払い、愛知にある実家に戻る方向で考えています。とはいえ、今後もライターとしての活動を続けてゆくことに変わりはありません。
 つきましては、この場を通じて関係各位には以上の旨ご理解いただくとともに、これまでと変わらずお付き合いくださいますようお願い申し上げるしだいです。
 以下は余談です。
 実は、これまで二度ほど本気で帰郷を考え、両親にもいったんは告げたことがあります。
 一度目はちょうど20歳のときのこと。1997年の年明け早々、当時勤めていた出版社の上司から、その年3月いっぱいをもっていったん会社をやめて学校にでも入ったらどうかという話を切り出されたのでした。いまだから話せますが、ちょうどそれから一週間も経たずして郷里での成人式に出席し、同級生たちから仕事のことなどあれこれ聞かれたものの、もうすぐ会社をやめるのだとも言えず、ひたすらごまかしたことが思い出されます。それでも知人のライター氏を通じて、編集者を何人か紹介してもらい、退社後はフリーランスへと転身することができたのでした。
 二度目はつい最近、2006年のことです。仕事が行き詰まり、ほとほとやる気を失っていた時期で、ついには親に年明けには実家に戻って別の仕事を探すと告げたのでした。しかし、年も押し迫った頃、ちょうど大晦日コミックマーケットに参加する前夜か早朝に、ソフトバンク クリエイティブの編集者氏からメールマガジンの原稿依頼の連絡を受けて、ひょっとしたらライターとしてもう少し続けられるかもしれない……と思い直し、前言をあっさり撤回、東京に残ることに決めたのです。まあ、これをきっかけにやがて昨年の初の著書の刊行へとつながっていくのですから、このときの選択はまちがってはいなかったと、いまにしてつくづく思います。また、20歳のときもそうでしたが、方向を見失っていた自分に声をかけてくれた人がいたことに、あらためて感謝しなければなりません。
 ところで今回が先の二例と決定的に異なるのは、郷里に戻っても現在の仕事は続けてゆこうと考えていることです。
 この背景にはまず第一に、通信技術の発達があります。現に、先の帰省中は、ミニノートパソコンとデータ通信カードを用いて(ちなみに僕の実家の固定電話はいまだに黒電話です)、東京にいる編集者と何度か原稿やメールのやりとりを行なったのですが、とくに支障はなく、よい予行演習となりました。ま、実家周辺には書店がほとんどないので、仕事で必要な本を手に入れるにはちょっと手間ひまがかかりそうですけれども。それもネット書店の利用などである程度はクリアできるかと思われます。
 いまひとつ、昨年、著書を一冊出していたおかげで、今回の一件に際しても非常に前向きに考えられることができた、というのは確実にいえます。と同時に、本を出したことが、家族をはじめ周囲への説得にあたってよい材料にもなっている(あるいはなるもの)と思われます。少なくとも、これまで僕の仕事に対して十分に理解してはいなかったはずの父親に、著書はかなりの効果があったような気がしてなりません。おかげさまで父とは、先の帰省中も近所の家具屋へ一緒に出かけ、仕事用の机はどういうものがよいのか物色してきました。
 ……とまあ、ちょっとご報告のつもりが、つい長々と、それも大仰に自分語りをしてしまいました。ここで僕が伝えておきたかったのは何より、私的な事情で東京を離れるけれども、これまでどおり、いえ、これまでにも増して近藤は仕事を請ける気構えでいるということです。どうかそのことを心の片隅にでも留め置いていただければ幸いです。反対に、こちらから企画を持ち込ませていただくこともたびたびあるでしょうが(まあ、近所に書店もレンタルビデオもない田舎に戻るともなれば、こちらから常にアクションを起こさないことには忘れ去られてしまうでしょうからね)、そのときは何卒よしなにお願いいたします。
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 そんなわけで、いいかげん東京の部屋の整理に取りかからねばならんわけですが、膨大に溜め込んだ本の山を前に呆然としております。徐々に実家に送れればいいのですが、実家は実家で、僕が仕事場として使うはずの部屋が現在物置と化しており、まともなスペースが家のどこにもなくていますぐにはちょっと無理のようです。むぅ、どうしたものか……。