「雷の季節の終わりに」恒川光太郎

雷の季節の終わりに

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恒川 光太郎
角川書店
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いやあ、もうね、圧倒的な世界観ですよ。言葉はそんなに多くないのに、どうしてこんなに引き込まれるんだろう。不思議。

「穏（おん）」という隔絶された街と、その外の世界（下界）とのつながりを描いた作品。

下界は所謂現代の日本で、その世界から隠れるようにして「穏」は存在している。

導入は「穏」で生きる少年、賢也の視点から。以後、賢也を取り巻く何人かの人々の視点から、その不思議な世界の全貌が紡ぎ出されていくんですよ。

恒川さんはこの世に存在しないものを、この世の難しくない言葉で、読み手にすっと想像させる力がハンパないと思います。

 

なんとなくだけど、「穏」は大人になるにつれてなくなってしまうイノセンスを表しているのかなあなんて思った。

懐かしさもあり、残酷さもあり。

 

賢也と旅をともにする少女、穂高が魅力的。欲を言えば、もう少し穂高を掘り下げて欲しかったかも。

いや、でも、穂高はどろどろしたところがない真っ白な存在だなあと思えるからこのくらいでちょうどいいのかな。それこそ穂高はイノセンスの象徴かもしれない。

 

とはいえ、私は「穏」と下界、どちらか選べと言われたら、迷わず下界を選ぶかも。

てことは、自分がこの混沌とした下界に普段はぶつくさ文句を垂れて生きながらも、逃れられない魅力を感じているのかもな、とも思う。

 

そんな風に自分を顧みることもできる、良作。