ガイド付き一人旅の勧め

ラオス旅行記、昨日までの二日分は“ぱーそなるブログ”に書いたのですが、今日はこちらに書いておきます。
→ ラオス一日目の日記
→ ラオス二日目の日記


会話文なので読みやすいとは思いますが、めちゃくちゃ長いです。
以下、すべて私とガイドのTさんの会話です。



ちきりんQ 「ラオスに兵役はあるの?」
ガイドTさん 「昔は 15歳になったら一年の兵役があって、僕も小さいころはそう言われてました。でも自分が 15歳になった時には、兵役はなくなってました」
ちきりん 「なぜ?」
Tさん 「政府が、15歳の子供は兵役ではなく、学校に行かせた方がいいと判断したからです」
ちきりん 「政府エライね。今は完全になくなったの?」
Tさん 「田舎の方で、学校にもいかず、仕事もしていない人は兵役に行きます」
ちきりん 「なにそれ? ニートは兵役?」
Tさん 「行きたくなかったら、勉強すればいいんです。それか働けば良い。何もしない人は兵役です」
ちきりん 「!」
(※ これに限らず、ガイドさんの説明が正確かどうか、私には保証できません。彼はガイドの資格は持っていますが、歴史学者でも社会学者でもありません)



ちきりん 「ラオスは仏教が盛んだけど、子供のお坊さんまでいるのはなぜ? 希望してなるものなの?」
Tさん 「男子は全員、一時期はお坊さんになる必要があります」
ちきりん 「そーなんだ! 兵役はないけど、お坊さん役があるのね。どれくらい? 一年くらい?」
Tさん 「最低 3ヶ月です。僕は 5ヶ月やりました」
ちきりん 「大変?」
Tさん 「最初は大変です。お坊さんは、朝から正午までしか噛むものは食べられません。正午を過ぎたら飲み物だけです」
ちきりん 「やせそう・・・」
Tさん 「自分の体や命は自分のためではないのです」
ちきりん 「はぁ・・」
Tさん 「お坊さんは、ホテルに泊まったりレストランでご飯を食べることも禁じられています。お寺に寝て、お寺で食べます」
ちきりん 「そうですかー」



ちきりん 「タイやベトナム、ミャンマーとラオスの言葉は似てる?」
Tさん 「タイ語はよく似てるので、意思疎通できます。ベトナムやミャンマーの言葉は全く違いますが、文法が似ているので、数ヶ月勉強すれば話せるようになります」
(※ガイドさんは外国語習得がかなり得意な人だと思います)

ちきりん 「メコン河の向こう岸がもうタイなんでしょ? タイとラオスは仲がいい?」
Tさん「昔なんどもタイに攻められたので、年配の人はタイのことがとても嫌いです。

それに、昔タイの人は、ラオス人を見下していました。ラオス人はタイ人より劣っていると考え、バカにしていたのです」
ちきりん 「隣国とそういう関係ってのは、よくある話なのかー。でも今は違うんですか?」
Tさん 「今の若い人は個別に判断します。特に、教育レベルの高いタイの人は、今はもうラオス人を見下したりしません。

タイの田舎の人は今でも、「オレはタイの人間だから、オレのほうがお前よりエライ」という態度を示します。
が、そういうことを言うのはタイの田舎者だからだと、ラオスの若い人は理解しています」



ちきりん 「ラオスってものすごい数の仏像があるけど、盗まれたり、お金持ちが買い集めたりしないの?」
Tさん 「ラオスの人は信心深いので、仏像を盗むことはありませんが、外国の泥棒が来る時はあります」
ちきりん 「お金持ちが自分の家に飾ったりしないの?」
Tさん 「ラオスでは、仏像を個人の家に置くと、その家に不幸が起こると言われています。息子が死んだり、災害が起こったりすると信じられているんです。

だから、お金持ちの人でも、仏像を手に入れたらすぐに近くのお寺に寄進し、そこで皆と一緒に拝むのです」
ちきりん 「うはー」
Tさん 「なんですか?」
ちきりん 「すばらしいインセンティブシステムだなと思って・・・法律で仏像の私有を禁じるより、よほど賢いです!」



<メコン河に沈む夕日。向こう岸はタイ>


ちきりん 「ラオスは 40以上の少数民族がいて、全部あわせると人口の 4割を超えますよね? 独立運動とか内乱とか、起こらないんですか?」
Tさん 「そこは政府がものすごく気を遣っています」
ちきりん 「たとえば?」
Tさん 「日本政府が毎年 20人くらい奨学金で日本に留学させてくれるんですが、ラオスはその多くを少数民族の子供から選んでいます」
ちきりん 「なるほど!」
Tさん 「20人くらいの留学生のうち、5人は本当にアタマのいい子供達ですが、10人は、少数民族の部族長の息子や娘です」
ちきりん 「へー!」
Tさん 「そうすれば、部族長がラオス政府に逆らわなくなります。

子供がたくさんいる部族長も多いのですが、この子は日本、あの子はオーストラリア、そして末っ子はフランスへと、あちこちに留学させてもらってます」
ちきりん 「部族長さえ押さえておけば、少数民族の反乱が起こらないからだね!」
Tさん 「そうです。少数民族にとって部族長は神ですから」
ちきりん 「でも、少数民族の子供って義務教育の学校に通ってなかったりもするでしょ? そんなんで留学してついて行けるの?」
Tさん 「日本を含め海外の政府はラオス政府に、コネや賄賂で留学生を選ばず、能力のある子供を送れと文句を言っています。でも、ラオス政府は無視しています」
ちきりん 「日本政府から見れば、ラオスの国作りのためなんだから優秀な子を送ればいいのに、と思うんだろうけど、

ラオス政府にしてみれば、少数民族の部族長の子供を留学させることこそが、国の安定につながる施策だってわけね・・。

ところで、さっき 20人の奨学生のうち 5人はアタマの良い子、10人は部族長の子供って言ったじゃん。じゃあ、残りの 5人は?」
Tさん 「お金を払った人の子供です」
ちきりん 「・・・・」



ちきりん 「ラオスには世界遺産がいくつあるんですか?」
Tさん 「ふたつだけです。でも他にいくつも候補や調査対象になってるのがあります」
ちきりん 「だよね。調査すればいくらでも増えそう」
Tさん 「でも、たとえばこの仏舎利も、昔、ヨーロッパから調査団が来て、これは世界遺産に登録できそうだと言い出したんです。

ラオス政府はすごく喜んで、さっそくあちこちのペンキを塗り直したり、壊れた部分を直したりしました。

そしたらその後、ヨーロッパ人が戻ってきて、悲しそうな顔で言いました。「こんなふうに手をいれてしまったら、もう世界遺産には登録できない」って・・・」

ちきりん 「そうか、世界遺産は古いまま残ってるからこそ登録してもらえるんだもんね」
Tさん 「ラオス政府はそれを知らなかったんです。だからすごくがっかりしました」
ちきりん 「かわいそう・・・」



ちきりん 「ラオスは社会主義国だよね? Tさんが生まれた時も既に?」
Tさん 「ぼくが生まれる前すこし前に社会主義になりました。でもラオスは、政治は社会主義だけど、経済は資本主義です」
ちきりん 「そーなの? たとえば?」
Tさん 「たとえば、中国やベトナムでは土地は国有ですが、ラオスでは土地は私有なので、土地を売って大金持ちになる人がたくさんいます」
ちきりん 「へー!」
Tさん 「衛星放送で海外のテレビを見ることを禁じる社会主義の国が多いですが、ラオスではパラボラを設置するのは自由です。

それに、海外にいくのもお金さえあればラオス側には制限がありません。海外に行きにくいのは、相手の国が規制してる場合だけです」

ちきりん 「たしかに社会主義なのに海外渡航が自由って珍しいね。一番、行きにくい国はどこ?」
Tさん 「アメリカと日本は、ビザを取るのがとても難しいです。お金があっても、亡命してその国に住みついてしまうことを怖れているのだと思います」
ちきりん 「たしかにそれは日本も怖れてそうです」



市場のスマホ売り場で
ちきりん 「中古だけど、いろいろありますね。一番人気は?」
Tさん 「前はソニー製が人気でしたけど、今、ソニー製のスマホは中国が作った偽物が多すぎて買えません。なので、韓国のサムソン製を使います」
ちきりん 「サムソンの偽物はないの?」
Tさん 「最近少し出始めたらしいですが、まだ少ないです」
ちきりん 「ソニーには偽物があるけど、サムソンには偽物が無い。ブランドとしてまだまだそれだけの格の差があるってことね?」
Tさん 「はい。だから iPhone も偽物ばっかり。特に中国製のスマホは、壊れるだけじゃなく爆発するから怖いです」
ちきりん 「スマホ以外でも中国の商品が増えてる?」
Tさん 「中国製の洋服を僕もいくつか買いましたが、何回か洗濯するとボロボロになるので、もう買いません」
ちきりん 「そうなんだ。どこの製品がいいの?」
Tさん 「洋服なら、タイ製品の品質がいいです」
ちきりん 「なるほど」
Tさん 「でも、僕は中国製が悪いと言ってるわけじゃないんです」
ちきりん 「どういうこと?」
Tさん 「日本で売ってる中国製品は問題がありません。アメリカで売ってる中国製品にも問題はない。

でも、ラオスで売ってる中国製品はダメです。理由は、ラオスには輸入品の品質をチェックできる人がいないからです。

だから僕がダメだと言っているのは中国製品ではなく“ラオスの中国製品”のことなんです」

ちきりん 「あたし、そのことについて、この前ブログを書いたところです!」



食肉や野菜など食品市場で、
ちきりん 「新鮮ですねー」
Tさん 「ラオスの人は、野菜と肉はスーパーでは無く市場で買うほうが美味しいと思っています。

特に肉は、市場では、その日に殺してさばいた肉しか売っていません。スーパーだと、殺した翌日とか、そのまた翌日とかの肉ですから」
ちきりん 「数日なら問題ないのでは?」
Tさん 「ラオスの人は、腐らないよう何か薬品を使ってると疑っているんです」
ちきりん 「へー。でもスーパーの方が清潔でしょ?」
Tさん 「そうですね。だから、ハエが怖いか、防腐剤が怖いかという問題です。

ハエがイヤな人はスーパーで買うし、防腐剤が嫌な人は市場で買います。

ハエが止まった肉でも洗って焼けば問題ないですが、防腐剤は染み込んでいます」



市場の金のアクセサリー売り場で
ちきりん 「金のアクセサリーのお店、多いですね。貯金代わりに買う人が多いんですか?」
Tさん 「昔はみな銀行を信じていなかったので、お金がたまると金のアクセサリーを買っていました」
ちきりん 「なぜ銀行が信じられなかったの?」
Tさん 「社会主義だからです」
ちきりん 「ほー!」
Tさん 「昔は村長が各家を回って、強制的に貯金を集めていきました。でも、その貯金は自由におろせなかった」
ちきりん 「それはひどい」
Tさん 「だから、村長が来る前にお金を金の指輪に変えてしまうんです」
ちきりん 「今は変わってきたんですか?」
Tさん 「昨日話したように、10年くらい前に私立の銀行ができて、口座を開くと抽選で家や車をくれるようになったので、みんな銀行口座を開くようになりました」
ちきりん 「社会主義の国なのに、国立銀行は信じられないけど民間銀行なら信じられるんですね!?」



パリの凱旋門ふうの建物に上りながら、
ちきりん 「これ、フランスの協力で建てられたんですか?」
Tさん 「デザインはパリの凱旋門に模してますが、フランスは無関係です。建設費はアメリカから補助されてて、少数民族はそれに怒っています」
ちきりん 「なんで?」
Tさん 「ベトナム戦争の時、アメリカは少数民族の若者を集めて兵隊にし、ホーチミン軍に負けそうになると放置して彼らを見捨てました。

たくさんの若者が亡くなったので、少数民族はアメリカが嫌いです」
ちきりん 「国民全体としてもアメリカが嫌い?」
Tさん 「それはないです。だから政府も、少数民族をなだめるのに気を使っています」



凱旋門の上から
ちきりん 「あのカラフルな建物はなに?」
Tさん 「植民地時代にフランスが作った高校です。ラオスで一番の高校で、特別な人しか入れません」
ちきりん 「特別な人ってどんな人?」
Tさん 「エライ人の子供であっても、あの高校にいくにはお金とコネが必要です」
ちきりん 「エライ人の子供じゃない場合は?」
Tさん 「その場合は、まず頭が良いことが前提です。そしてお金とコネも必要です」
ちきりん 「つまり。エライ人の子ならコネとお金、普通の人の子ならアタマ、コネ、お金の3つが必要だってこと?」
Tさん 「そうです」



マイクを通して、何かを叫んでいる車を見ながら、
ちきりん 「あれはなに?」
Tさん 「お寺が改修費や新しい仏像を作るための募金を呼びかけています」
ちきりん 「ラオスの人は信心深いから、お金が集まりそう」
Tさん 「そうです。それで中国やベトナムから、お寺のフリをして募金を集める車がやってきます」
ちきりん 「それってもしかして寺寺詐欺?」
Tさん 「だから今は、お坊さんとして寄付を請うには、パスポートや身分証明書を示してからでないとできません」
ちきりん 「そーかー。どこの国にも詐欺はいるのね」
Tさん 「いえ、彼らはラオスの詐欺ではありません。自分の国にはそんな風習もないのに、ラオスに来て寺の募金活動の真似をするんです」
ちきりん 「ひどいね。そういえば、ラオスのお寺、金色のが多いけど、あれは全部、ほんものの金?」
Tさん 「昔はそうだったし、今も、寄付でできている部分はそうです」
ちきりん 「寄付でできてる部分以外ってなに?」
Tさん 「政府が改修を行う時は、金箔ではなく、黄色のペンキを塗るだけです」
ちきりん 「そうなんだ」
Tさん 「社会主義にとって宗教は好ましくありません。

でも、ラオスでは仏教を利用した方がみんなを治めやすいと政府も気付いています。

だからペンキでもいいから寺を改修するのです」
↓


ほんとにいろいろ勉強になりました。

下記の本にも書きましたが、こうやってひとり旅で自分専用のガイドさんを雇うのは、その国のことをいろいろ知りたい人にはうってつけの方法だと思います。

学生時代から数十年に渡ってあちこち旅行をしながら、見たり聞いたり考えたことをまとめた“ちきりん”旅行記。関心のある方はぜひどうぞ。
↓

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