収穫を始めるタイミング

事業戦略のひとつに「いつ、収穫を始めるか」というコンセプトがあります。ありていに言えば、「いつマネタイズを始めるか」ということで、「いつ、投資を回収し始めるか」、「いつ、仕込から販売に転じるか」などと言ってもいいでしょう。


たとえばグーグルが「グーグルマップに課金する」と言い出すタイミングをいつにするか、という話ですね。Gmailだって今は無料で使えますけど、どこかの段階で「月100円課金ね」と言われても、大半の人は「げっ、年間1200円かよっ!」と驚きながらも払い続けるでしょ。

でもこのタイミングが早すぎると、みんな他の無料メールサービスに移ってしまいます。最初は延々と種をまいて育てて・・・だんだん育ってきたのを見ながら、どの段階まで待ってから刈取りを始めるか、収穫を始めるか、というのは、すごく重要な判断なわけです。


最初は無料で会員を集め、途中から課金を始めるのは、ウエブサービスではおなじみのやり方ですが、この概念は、ウエブサービス以外にも同じように適用できます。

たとえば、20年間、新聞記者として働いてからフリーのジャーナリストになる人と、1年間、商社マンとして働いて(内定を取るのが難しい商社に就職したという実績を持って)「学生向けの就活アドバイザー」になる人は、刈取り時期が大きく異なります。

前者は20年間、種蒔いて、畑を耕して、花や実を育ててきて、相当遅くなってからの収穫開始、後者は「売れる実」がひとつ付いた段階で、すぐに収穫に乗り出す感じ。


ブログやツイッターも同じですね。一定数の読者やフォロアーがついた段階で、メルマガやフォーラムに移動し、コンテンツ課金を始めてもいいし、一方、延々と種だけ蒔いて「収穫をできるだけ遅らせる」のもひとつの方法。

ちなみにキャバクラの女の子に投資して、「いつ収穫しよう?」とか(妄想気味に)考えてるのは全然違う話。あれは一生、収穫できないゲームです。


収穫時期を大きく遅らせると、収穫に入ってからはすごく楽ができます。売り物はしっかり熟れているし、顧客もきちんと惹きつけ、誰も逃げなくなってから収穫を始めるわけだから儲かるし、蓄積も多いので左手で仕事ができる。売る物もたくさんあるので、ワンパターンにならずに次々と多彩な商品を提供できます。

ところがこの戦略には落とし穴もあって、「できるだけ大きく育ててから収穫しよう」と思ってたのに、いつの間にか世の中の流れが変わって、自分が育ててたものの価値がなくなってしまうこともあります。悲惨なパターンですね。

だから適当なところで収穫に移ったほうがいい。(収穫したいなら、ですが)


一方、早すぎる収穫をすると、すぐに売るものがなくなっちゃう。最初の果実を嬉々として売っていて、自分の畑にナンも無くなってることを忘れていると痛い目に遭います。「数年だけの人」とか「ワンパターンの人」になっちゃうのは、ほぼこのパターン。

というわけで、何をするにしろ「いつ収穫する?」ってことは、意識的に決めることが大事。



もうひとつ大事なのは、市場の需要の読み間違いをしないこと。周りから商品を「売ってくれ、売ってくれ」と言われると、「そんなにニーズがあるなら!」とすぐに収穫に入りたくなりますが、そう言ってきている人が、最終的な消費者ではなくて仲介業者だという場合もあるからです。

その場合、いくら「売ってくれ」という声が大きくても(多くても)、それは消費者のニーズが大きいわけではなく、「その仲介業者の棚に売り物が足りないから」です。

そんな時に収穫を始めたら、消費者からはアレレな反応しか返ってこなかったりします。また、早すぎる収穫は、畑を痛めてしまうこともあります。


というわけで、「収穫タイミングについて大事なこと」は次のふたつ。
(1) 「収穫を始めるタイミング」は大事なんで、適当に収穫を始めず、ちゃんと意識的にタイミングを決定すること
(2) 収穫すべきかどうかは、消費者の声で決めること。仲買業者の声じゃなくてね。



以上です。


そんじゃーねー。



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