“ようやく”航空ビッグバン?

本格的なローコストキャリア(格安航空会社、LCC)の日本への参入が始まりました。

ニュースで羽田とマレーシアを 5000円で結ぶエアアジアのキャンペーン価格を聞いて、驚かれた方も多いでしょう。

台湾と関空の間も 1万円を切り始めたし、ANAまでもが LCCに資本参加すると発表。

2010年は日本におけるLCC元年、となりそうです。


10年前まで、世界の全人口 60億人のうち、飛行機に乗って海外旅行をするのはせいぜい 6億人程度でした。

世界人口の 9割は、これまでは一生、飛行機での海外旅行をすることなく人生を過ごしていたのです。(“飛行機に乗って”と書いたのは、電車や車、徒歩で地続きの隣国に行く人はたくさんいるからです。)

その 6億人とはアメリカ人、日本人、西欧諸国の人と、ごく一部のお金持ちの人達(アラブ人、中国人、インド人のお金持ちや東欧やアフリカの特権階級の人など)です。

世界の“海外旅行市場”は、世界人口のトップ 10%だけを相手に設計、運営されていたのです。


これからは違います。中国やインドの人の半分が飛行機に乗れば、それだけで 20億人が飛行機で他国に行くことになります。

従来の世界市場の3倍規模の市場が、いきなりアジア地域だけで“新設”されるのです。それは今までとは全く違う“飛行機による海外旅行市場”です。

金融行政と同じように、日本の航空行政の規制緩和は世界から大きく立ち後れています。アメリカや欧州では 20年前から起こり始めたことが、確実に日本でも起るでしょう。

これは日本人としては諸手をあげて賛成すべき事です。だって、金融業界の場合は日本でしか通用しなかった金融機関の数が非常に多く(潰れたり合併したりの)影響も大きかったし、決済機能という社会インフラをもっている企業を潰すのはそれなりに慎重さを求められる話でした。

でも航空行政の場合は、日本には 2社しか会社はありません。しかも日本は道路や鉄道網も発達しています。

たとえ日本の飛行機会社がやっていけなくなったとしても、むしろ規制緩和によって消費者が得られるメリットの方が社会全体としては圧倒的に大きいです。

ちきりんはもはや、JALや ANAが将来どうなるかなどということには関心さえ持てません。

むしろワクワクするのは、数千円でアジアの各都市に行くことが出来る新しい海外旅行時代の到来だし、それにより海外からやってくる多くの“今までなら日本には来られなかった訪日旅行客達に影響される日本の姿”を考えることです。


今アジアではチケットを巧く買えば、数千円どころか千円前後で飛行機に乗って他国に行くことができます。

またどの国にも千円以内で泊まれる宿泊施設や、数百円で食事が出来る屋台があります。

飛行機さえ安くなれば、飛行機 5000円、ホテル 3泊 3000円、食事等経費 1日 1000円で、1万1千円で 3日間の海外旅行ができるようになります。

1週間で 2カ国回っても 3万円程度です。

これなら経済的に“今までなら海外旅行なんてまずできなかった人”でも海外旅行ができるようになります。

また、2ヶ月に一回は週末をアジアですごすというような、国内旅行より海外旅行の回数の方が多い人もでてくるでしょう。

むしろその場合コスト阻害要因になるのは「日本はパスポート取得費用が高くて海外に行けない」とか、「羽田や関空までの交通費が高すぎて海外にいけない」という点だと思います。

しかし、羽田が国際空港化し 24時間化まで検討しはじめた今、これまでは農家保護だの騒音だのと時代錯誤な主張で補助金狙いの運営をしていた成田空港が、いきなり発着時間の延長やカジノ併設案まで検討を始めました。

“マーケットメカニズム“の力はかくもすばらしいのです。それにより空港の競争が促されれば、消費者の空港へのアクセスも急速に整備されるでしょう。

羽田と成田が競い合ってどんどん便利になれば、さすがの関空も「やべっ」と思うはずです。

地方空港もどこかで「補助金頼みはもう無理だ」と諦めて、潰れるところと、なりふりを構わず頑張り始めるところに分かれるでしょう。

いったん空港間の競争が始まれば、空の旅は一気にその様相を変化させる可能性があります。

20年もたてば、「海外旅行は誰でもできるけど、日本国内の旅行は金持ちしかできない」という時代になるかもしれません。

実際には新幹線を除く国内旅行も安くなりますので、将来は海外旅行と国内旅行の価格差はほぼ意識されなくなるでしょう。


★★★


国交省は“管轄産業を国際的に勝てない産業に育てる”というミッションを掲げている役所です。(ちなみに農水省のミッションも同じです。)

このミッションは着実に成果をあげており、おかげで韓国の仁川空港は無事にアジアのハブ空港になることができました。

この国交省による“国際競争力のない産業を育てるという目標”は、航空関連だけではなく、空港バスやタクシー、鉄道などの国内交通や、旅館等の宿泊施設産業まで広範囲に適用されているため、海外からの格安旅行客が日本に来てくれて、日本で消費をしてくれる時代の到来にはさらに時間がかかるかもしれません。

それでも少子化と若者の年収低下で売上減少に悩む多くの国内産業が、海外からの旅行客を歓待するためにあの手この手の努力を始めるでしょう。

民間の“生きる力”が、役所の後ろ向きの努力を克服するのは時間の問題だと思います。


20年前、現金を自分の口座から引き出すためには駅前の銀行の ATMに行く必要があり、その ATMは休日には当然のように休んでいました。

平日でさえ夕方6時には使えなくなりました。だからいつも休日前の夕方には、ATMに長い行列があったのです。また振込みに至っては、午後3時に閉まる銀行の窓口に行く必要がありました。

もちろんネット銀行もコンビニ銀行も存在せず、かわりに 13行もの“都銀”が存在していました。

それらから内定を勝ち得た学生は、就職活動市場における紛れもない勝ち組であり、まさか自分が部長になる40歳の時に、その銀行が存在していないなどとは想像もしていませんでした。

1990年の金融ビッグバンから今年で 20年です。変わるスピードが先進国の中で際だって遅い日本でさえ20年でここまで変わります。

さすがの日本も過去よりはこれからのほうが変化のスピードも早いでしょう。

航空ビッグバンが起ったらその10年後、20年後にどんな世界が現れるのか、楽しみで楽しみで眠れなくなっちゃうくらいです。


あー楽しみ!



そんじゃーね。 


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